最終章 : 銀河アイドルコンサート
■オープニング
オリオン・ドーム。
銀河最大の多目的施設、その収容人数は十万人。
今夜、そのすべての席が埋まり、さらに外の広場や衛星都市のモニター前にも数千万のファンが詰めかけていた。
熱狂は空気を震わせ、ドームの外壁を透過して夜空に響き渡る。
これほど多くの視線が同じ場所に注がれるのは、戦場か奇跡の瞬間か――そして今日は、その“はず”だった。
「銀河の皆さま!ようこそ、ミャウコ・スーパーギャラクティック・ライブへ!」
司会の声が響いた瞬間、ドーム全体が揺れた。
銀河TVネットワークの全回線をジャックした特別中継。数十億の視聴者が、一斉に息をのむ。
だが、その裏で別の波が静かにうねっていた。
暗躍するのは「ドウトク秩序連合」――銀河全域で倫理教育や青少年保護を掲げる非営利団体。
表向きは学校への教材寄贈や公共マナー啓発キャンペーンなどクリーンな活動を行い、政治家や大企業からの支援も多い。
だが、その内側には“文化の純化”を掲げる過激な思想が潜み、目的のためなら違法行為も辞さない影の組織でもあった。
今回の作戦は、表に出ない幹部会で決定されたものだ。
1. 偽映像で勇者を陥れる。
これは会場の通信回線を乗っ取り、「勇者と魔王が密かに接触している」ことを示唆する映像を中継に割り込ませる。
――その映像は本物か、巧妙な偽造かは当事者以外に分からない。
2. 魔獣を放ち混乱を演出。
観客席を恐怖と混乱に引き起こす。
さらに、その混乱を制御できない様子を世界に晒し、勇者一行の危機管理能力の欠如を印象付け、社会的に抹殺する。
3. 混乱に乗じて、ミャウコの能力を解析し、その力を奪取する。
今夜、その計画が動き出した。
舞台裏の搬入口から、作業員に偽装した特殊部隊が静かに侵入する。
その様子を、遠隔監視で遠く離れた部屋から見下ろす影が一つ。
クロウ――巨大企業の裏の顔を持つ男。
彼はこの襲撃の首謀者ではない。
しかし、彼のビジネスグループの末端に位置する小規模企業が、ドウトク秩序連合のスポンサー企業として公式に献金していた。
表向きは単なる支援活動に見えるが、その裏で情報や利害が交錯していることを疑わせるには十分だった。
理由は単純だ。ミャウコという猫耳の少女を「観察」するため。
「……焦る必要はない。種はもう蒔いた」
クロウはワインを傾け、ステージの映像を愉しむように微笑んだ。
これはあくまで序章。狙うは彼女の秘めた未知の力――。
ステージ中央、暗闇を切り裂くようにピンクのライトが走る。
長い脚、しなやかな腰、そして完璧に計算されたセクシーな立ち姿。
元・勇者にして、今や銀河一のカリスマアイドル、ミャウコがそこにいた。
B98、W58、H88――数値にすればただの記号だが、実物はすべてを凌駕する。
指先の動き一つで、観客は歓声をあげ、カメラは狂ったようにズームインする。
背後から、ルシア、サラ、レイラ、セラフィナ、ナディアの五人が登場。
それぞれの衣装は個性を極限まで引き出したデザインであった。
ルシアは漆黒のマイクロビキニに悪魔の羽根を背負い、舞台中央から観客を見下ろすようにで静かに立っていた。腰のわずかな傾き、視線の角度、指先の動き──そのすべてが計算され尽くした誘惑。自信に満ち溢れた立ち方は、まるで観客一人ひとりを跪かせる女王のようで、スーパーモデルすら霞むほどの圧倒的存在感で現れた。
次に現れたのはサラ。深みのある褐色の肌が、リズムに合わせてしなやかに波打ち、浮かんだ汗が宝石のような光を散らす。真紅のビキニとエメラルドグリーンのパレオが、左右に腰を振って歩くたびに艶やかに翻り、その動きが彼女のしなやかな筋肉と曲線美をより鮮烈に際立たせていた。大自然に育まれた身体は、野性的でありながらも観る者を虜にするほど官能的だった。
ステージに現れたレイラはスポットライトの光を受け褐色の腹部が、しなやかな筋肉とともにブラトップの下から覗く。豊満なバストは布地からこぼれそうなほどの存在感を放ち、視線を釘付けにする。デニムの膝丈スカートは動くたびに腰のラインを際立たせ、黒いロングブーツがその長く引き締まった脚をより妖艶に縁取っていた。
セラフィナがステージ上に歩いてくる。彼女の透き通るように白いドレスは、舞うたびに生地の間から深いスリットが覗き、黒のビキニが艶やかに浮かび上がる。白と黒、その鮮烈なコントラストはまるで光と影の戯れ。清らかさの奥に潜む挑発的な色気が、彼女の微笑みとともに観客の理性を削り取っていく。
最後に現れたのはナディア。海を思わせる深い青のドレスは、膝上まで大胆に切り詰められ、しなやかな肢体のラインを余すことなく映し出す。わずかに波打つ生地が彼女の動きに合わせて揺れ、潮騒のような静かな誘惑を放つ。 舞台の光を受けたその姿は、歌声を待たずしてすでに観客を酔わせていた。レイラは剣士の気品を残したロングブーツ、セラフィナは透き通る白のドレスに挑発的なスリット、ナディアは海を思わせる青と銀のドレスに裸足――すべてが視覚的な爆弾だった。
観客の熱は、ステージ照明の熱を超える。
だが、その熱狂の裏で、冷たいものがじわりと忍び寄っていた。
ドーム内部の裏通路。
作業服を着た数人の男たちが、無言で通り抜ける。
識別用のパスをスキャンし、設備制御室へ。
表情は能面のように硬く、視線はまったくぶれない。
そして、その動きは偶然のようでいて完璧に同期して、複数のモニターが青白く点滅している。
その操作卓の脇に置かれた端末に、一瞬だけ暗号化通信のマークが灯った。
制御室の奥、監視モニターと操作パネルが青白く瞬き、会場の映像とランプの光が絶え間なく入れ替わっていた。
送信先の名は表示されない。だが、この場の誰もが、その背後に糸を引く者の存在を悟っていた。
「……始めようか」
その低い声が通信回線を通じ、静かに作戦を起動させた。
■陰謀の兆し
曲が始まった。
爆音と共にレーザーライトが観客席を舐め、銀河中継のカメラは一斉にズームインとパンを繰り返す。
ミャウコのマイクが唇に触れる瞬間、ドーム全体が震えるような歓声が上がった。
「セクシーは正義にゃ!もっと――私を見るにゃ!」
その挑発的な歌詞と同時に、腰の動きがスクリーンいっぱいに映し出される。
十万人の目が、いや、数十億の目が、ひとりの女性に釘付けになっていた。
だが、その熱狂を切り裂くように、楽屋裏の通信チャンネルにざらつくノイズが走った。
ルシアは曲のインターバル中、インイヤーモニターを外し、不快そうに眉を寄せる。
「……誰か、裏で妙な信号を飛ばしてる」
彼女の声は警戒心と戦闘本能を含んでいた。
同じ頃、レイラはステージ袖から客席を注意深く観察していた。
元剣士の眼光は、人混みの中から異物を見つけ出すのに慣れている。
歓声に溶け込むようにして、十数名の観客がほとんど瞬きもせずステージを見つめている。
目の焦点が合っていない。訓練された工作員の可能性――レイラの手は無意識に剣の柄を探していた。
制御室では、最初の異常が発生していた。
メインモニターが一瞬ブラックアウトし、別の映像が挿入される。
そこには、勇者ミャウコと、かつての魔王が酒場で談笑するシーン――明らかに合成されたフェイク映像だ。
字幕にはこう書かれている。
「勇者と魔王、裏で結託!銀河を欺く淫らな女」
数秒後、映像は消えたが、銀河中継は既に数千万の視聴者にその映像を届けてしまっていた。
SNSは即座に炎上し、会場外のファンと反ミャウコ派が衝突を始める。
その混乱は、まるで誰かが事前に計算していたかのようなタイミングだった。
「ミャウコ、気をつけろ」
ステージ裏からガレンの低い声が響く。
元戦士の彼は、観客席の上層から不自然に動く黒い影を二つ見つけていた。
ルナは別方向から同じものを視認し、手早く仲間にサインを送る。
観客席最前列。
サラはダンスの動きに合わせて視線だけを巡らせる。彼女の野生の勘が警告していた。
彼女の視界の端、機材搬入口の扉が開き、作業員の制服を着た男たちが機材ケースを押して入ってくる。
ケースの隙間から覗いた銀色の指先――人間のそれによく似ているが、金属の冷たい光沢を放っていた。
サラは腰をひねり、ステップを踏みながら観客に笑顔を向けた。
だが、その笑顔の奥で、彼女は心の中で呟く。
(これは、ただのコンサートじゃない。
コンサートの裏で何かが起きようとしている)
制御室の奥、監視モニターと操作パネルが青白く瞬き、会場の映像とランプの光が絶え間なく入れ替わっていた。
スタッフたちがステージ裏で機材の最終チェックを行っていた。
ライトの動作、音響のバランス、そして会場全体を覆うはずのシールド装置の動作確認も忘れない。
「シールド、問題なし。いつでも起動できる状態だ」
責任者の声に、周囲も頷いた。
しかし、その安心は長くは続かなかった。
チェックを終えた直後、控え室の片隅に身を潜めていた一人の男――紛れ込んだドウトク秩序連合の工作員が密かに制御端末に手を伸ばす。
その指先が操作パネルの一部を素早く操作すると、監視モニターの一角でシールドの制御信号が途切れ、装置が静かに停止した。
制御室のオペレーターの声が冷たく響く。
「シールド解除、確認」
男は無言で操作を終え、すぐにスタッフの一員として振る舞いながらその場を離れた。
会場のシールドは、作動するはずだったが、静かに死んでいた。
しかし、その“計画”を指揮しているのは、ドウトク秩序連合の幹部たちにすぎなかった。
だが彼らの背後には、さらに深い闇が潜んでいることを、誰もまだ知らなかった。
会場内で、不穏が確実に形を成し始めていた。
■襲撃開始
サラが最後のターンを踏み終えた瞬間、ドームの天井が低く唸った。
突如、巨大な裂け目が天井に走り、魔獣たちが闇から姿を現し、会場のシールドは動作することなく無防備なままだった。
「シールド、起動しろ!」誰かが叫ぶ。
だが制御パネルは反応せず、装置は沈黙を守ったままだった。
慌ててテオがステージ脇から結界を張り、即席の防御壁を作り出す。
しかし、コンサート会場の規模があまりに大きいため、テオが張った結界は保って数分くらいが限界だろう。観客の安全は依然として危険にさらされていた。
だが、観客の誰もが演出の一部だと思った。
――次の瞬間、巨大な裂け目が闇を割り、そこから黒い影が雪崩れ込んできた。
魔獣!?
最前列の観客の悲鳴が、波紋のように広がる。
異形の爪がライトを反射し、観客席を踏み潰すように進む。
鋭い牙の間からは、粘つく黒煙が漏れていた。
それは単なる物理的な存在ではなく、見る者の心に直接刺さる恐怖を植え付けた。
まるで悪夢の中に閉じ込められたかのように、冷たい手が胸に絡みつき、心の奥を凍らせる。
恐怖が理性を溶かし、視界が歪み、叫び声さえも震える囁きに変わっていくのだった。
「全員、配置につけ!」
ガレンの声がインカム越しに響き渡る。
ルナは観客の頭上を軽やかに駆け抜け、両手に蒼白い稲妻の魔法陣を浮かべた。
魔法陣の中心が形を変え、漆黒の弦と光の矢を備えたボーガンが具現化する。
彼女が弦を引き絞ると、矢先に奔る電光が空気を焼き、耳を裂くような雷鳴が響いた。
矢は閃光そのものとなり、影の首筋へ一直線に突き刺さる。
次の瞬間、爆ぜる雷光と金属の焦げる匂いが、観客席の悲鳴と混ざり合った。
――初めての実戦投入。
息を呑む間もなく放った一撃が、見事に決まった。
胸の奥で安堵と高揚が入り混じり、彼女はほんのわずか、口元を吊り上げた。
テレビカメラはその一撃をしっかりと捉えており、視聴者にはまるで炎の嵐が魔獣を焼き尽くすかのように映し出されていた。
レイラはステージ中央で立ち止まり、背後の観客席を見据えた。
「みんな、ここが勝負どころにゃ!一緒に守り抜くにゃ!」
彼女の冷静な声に応えるように、ルシアが妖しく輝く魔法陣を浮かべ、敵を惑わす幻惑の魔法を準備する。
ほかのメンバーは周囲の安全を確保するため、声を張り上げて観客を落ち着かせたり、避難誘導の準備を始めた。
その瞬間、黒い影が一気に襲いかかってきた。
ミャウコは身を翻し、鋭く爪をかたどった雌豹のポーズを決める。
その瞳が輝きを増し、彼女の優雅なダンスが始まると、観客も敵も目が釘付けになった。
一瞬で魔獣の視界が歪み、次第に異世界へと引き込まれていく。
敵はその場で動きを止め、錯乱と狂気に呑まれていった。
さらに、ルシアも同時に妖艶な魔法陣を描き、幻惑の呪文を唱える。
魔獣はそのまま異界の扉へと吸い込まれ、深淵の闇へと消えていった。
周囲には静寂が訪れ、魔獣が消えたことを確信したミャウコは、冷静に次の行動を促した。
だが、これはほんの序章にすぎなかった。
機材搬入口から入ってきた偽作業員たちが一斉にケースを開き、中から銃器と爆発物を取り出す。
彼らの標的は――観客ではなく、ステージ上のミャウコ。
セラフィナが両手を掲げ、聖なる光を放つ。
その光は破裂音と火花の中で観客の傷を癒し、恐怖を和らげていく。
だが同時に、彼女は狙撃手の視界にも晒されていた。
スコープの十字が、白い肌を捉える。
「セラ!」
レイラが叫ぶ。
ナディアの歌声がステージを満たす。
その瞬間、空気の波紋が狙撃手の腕を弾き、弾丸は天井へ逸れた。
彼女の歌は水の流れのように滑らかで、敵の動きをわずかに鈍らせる。
だが、その効果は長くは続かない。
モンスターの群れは観客席を半分以上埋め尽くし、偽作業員たちは混乱を利用して武器をばら撒く。
観客の中にも煽動された反ミャウコ派が紛れ込み、怒号と罵声が飛び交う。
「裏切り者!」「魔王の愛人!」――そんな言葉がステージにまで届く。
しかし、ミャウコは涼しい顔でウィンクした。
「ふふっ、なんかいきなりカオスになったにゃ〜♡でも……こういう時こそ、あたしのセクシーポーズで解決にゃ☆」
ピンクのステージドレスの裾を翻し、腰をしならせ、雌豹ポーズから必殺のダンスへと移る。
観客席のあちこちで、人々の目がミャウコに釘付けになり、まるで操られたかのように動けなくなった。ざわめきは消え、会場全体が彼女の動きに吸い込まれていく。
一方、モンスターたちもその異様な力に引き寄せられ、動きを止めて膝を折り、戦意を失った。
だが、黒いゴーグルを着けた数十人の男たちは微動だにしない。
ガレンが顔をしかめる。
「ミャウコの能力が利かない?」
「……あれ、特殊部隊よ。二十四時間エロ動画を見ながら筋トレする耐性訓練を受けた連中」
「そんな地獄みたいな訓練、本当に効くんだ……」と、ガレンが呟いた。
次の瞬間――ミャウコの瞳が夜の宝石のように艶やかに輝いた。
ゆったりとした動きで、指先がそっとドレスの胸元を撫で下ろし、布地が柔らかく揺れる。
その仕草だけで、空気が一変し、まるで自然と彼女に光が集まるかのように照明までもが彼女を照らし出した。
それは、特別な魔法でも変身でもない。
ミャウコ自身が持つ、大人の女性としての深い色気と揺るぎない自信がにじみ出ていた。
普段の無邪気な笑みは消え、そこに立つのは全宇宙を魅了する“大人のミャウコ”だった。
しなやかな腰のひねり、流れるような雌豹ポーズ――視線を向けた者は、敵であろうと味方であろうと、息を呑んで動きを止めた。
「さあ……忘れられない夜をあげる。」
ルシアが彼女の隣に立つ。
黒いマイクロビキニにサキュバスの翼が広がり、瞳は紅く輝いている。
「本気モードってわけ?ふふ、いいじゃない。私も負けないから」
ミャウコは口元に妖しい弧を描き、腰をしならせながらステージ中央へと歩み出た。
照明がその曲線美をなぞるように輝き、観客の視線が一斉に吸い寄せられる。
その仕草一つで、空気が甘く熱を帯びていった。
その途端、最前列の観客たちがふらりと立ち上がる。怒号を飛ばしていた男が口を半開きにし、罵声は甘い吐息へと変わった。
観客席の隅で銃を構えていた工作員が、ゆっくりと武器を下ろす。瞳は焦点を失い、まるで恋人に見とれるような表情になっていた。
特殊部隊の隊員たちは全員、黒いゴーグルを装着していたが、それでもなおミャウコの色気に耐えきれず、頬を赤らめる者や仲間の肩に寄りかかる者もいた。
一方、ドウトク秩序連合の女性メンバーたちは視線を床に落とし、必死にミャウコを直視しないようにしていた。彼女たちの表情はこわばり、動揺が隠しきれないようだった。
中には胸に「ドウトク秩序連合」の徽章をつけた活動家もいれば、SNSでの扇動によってアンチ・ミャウコになった者たちもいた。
彼女たちの表情には、怒りとも嫉妬ともつかない色が浮かび、周囲の熱気から冷たく浮いて見えた。
甘く痺れるような空気はステージから観客席へ、そしてドーム全体へと広がっていく。
工作員の列が崩れ、特殊部隊の隊形が乱れる。観客の歓声とざわめきが渦を巻き、敵と味方の境界は一瞬で溶けていった。
銀河TVの中継カメラは、この地獄の光景を全宇宙に送り続けていた。
制御室のモニターには、ドウトク秩序連合の幹部の冷徹な横顔が映っている。
彼の目は鋭く、混乱を楽しむかのように細められていた。
「計画は順調だ……あとは、この混乱を利用し、奴らの“力”を解析するのみ」
だが、その計算が崩れ始めるのは、この数分後のことだった。
■能力奪取作戦と反撃
観客席の騒乱はピークに達していた。
泣き叫ぶ子供を抱えて出口へ殺到する者、怒りのままに椅子を投げつける者――混沌の中で、黒い戦闘スーツを着た一団がステージ裏へ向かって進む。
彼らの胸部には、見慣れぬ六角形の紋章が光っていた。code zeroの実行部隊だ。
制御室の奥、code zeroの実行部隊の幹部が全景を俯瞰していた。
「照準ロック完了。対象、エネルギー放出率が基準値を超えた」
オペレーターが報告する。
――ミャウコが大人バージョンを発動してから、彼女の身体からは微細な光粒子が常時放出されていた。
それは単なる光ではない。勇者時代から彼女を最強たらしめた“力”の源、**艶戯(Eroticism Dance)**だ。
「奴のオーラを波形で抽出しろ。誤差は許さん」
幹部の声は冷たく、無駄な抑揚がなかった。
実行部隊はステージ裏に到達し、円形の装置を床に展開する。
青白いリングが静かに浮かび、内側に複雑な術式と機械配線が組み合わされていく。
ルナがそれを見つけ、観客席の手すりを蹴って降下した。
指先に蒼い魔力がほとばしり、雷の如き一撃を放つ。
だが、相手は人間ではなかった。
打撃を受けた箇所から冷却液と金属の破片が飛び散る。
「アンドロイド……!?」
背後で装置のリングが回転を速め、低い振動音がステージ全体に響いた。
ガレンはリングの中心部に突進し、ハンマーで叩き壊そうとする。
しかし青白いバリアが彼を弾き飛ばした。
背中を打った衝撃で視界が揺らぐ。
「くそっ……ただのエネルギー障壁じゃねえな」
リングは物理的な衝撃を拒絶するだけでなく、魔力などの精神的な干渉も遮断していた。
その頃、ステージ上ではミャウコが複数のモンスターを一度に押し返していた。
だが――ふと、全身を包む空気が冷たくざわつくのを感じた。
まるで、上空から得体の知れない誰かの視線が自分を見つめているかのような、不気味な感覚。
それはまだ何かをされているとは気づけない、ただの予感だった
ルナはふとドームの外壁付近に設置された、見慣れない機械に目を留めた。
「……これ、ただの監視カメラじゃないわね」
彼女は近づき、その内部のデータ端子を解析装置で調べ始めた。
「これは……異質なエネルギーの波動を記録・解析する装置。対象は……まさか、ミャウコの力?」
ルナはインカムを通じて、静かに告げた。
「ミャウコ、大変よ。ドームの外壁に解析装置が仕掛けられている。ターゲットはあなたの力かもしれない」
ミャウコはその報告を聞くと、眉一つ動かさず、不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、そういうことね。私のフェロモンを解析しようなんて、無駄な足掻きを」
彼女の声には自信と余裕が溢れていた。
微笑みを浮かべながらも、その瞳は鋭く敵の企みを見据えていた。
「ルシア!右側の花道を抑えて!」
ミャウコが叫ぶと、ルシアはサキュバスの翼で一気に飛び立ち、花道の上空から装置周辺に火球を浴びせる。
爆炎が機械兵の装甲を焼き、煙と火花が舞った。
しかし炎が消えると、既に次の機械兵が補充されていた。
敵の数は減らない。むしろ増えている。
そのとき、サラの踊りが再び始まった。
彼女は混乱した観客の群れの中央で、くびれた腰をしなやかに揺らす。
次第に光の粉が観客の視界を覆い、魔獣や機械兵の輪郭がぼやけていく。
幻想の中で、観客は敵の姿を忘れ、互いを守ろうと肩を組み始めた。
それは一時的な平穏だったが、その数分がガレンたちにとって貴重な時間となった。
テオは両手を広げ、淡い紫色の光が彼の指先から広がっていく。
その光は装置を包み込み、呪詛や異質なエネルギーを浄化するように輝きながら、リングの障壁の波形を揺らがせた。
「……今だ、ガレン!」
ハンマーが再び振り下ろされ、障壁に亀裂が走る。
だが、その瞬間――
ステージの上空から、冷たく機械的な声が響き渡った。
「興味深い……ここまでやるとはな」
観客も、ミャウコたちも、声の主が誰なのか知る者はいなかった。
巨大スクリーンの映像は静止しているが、画面の端に浮かび上がる複雑なグラフと数値が、まるで生きているかのように動き続けている。
「これまで遠隔で収集していた断片的なデータから、初めて対象の能力波動を直接的に解析可能となった」
機械的な声が冷たく告げる。
「対象のエネルギーパターンを分子レベルで捕捉、リアルタイムに詳細分析を行っている」
解析装置の仮想空間に、膨大なデータが流れ込み、立体的な波動図が展開される。
「応用範囲は軍事、科学技術、教育現場、企業の人材育成、メンタルケア、さらにはエンターテイメント分野まで広がる」
「今回のライブは完璧な解析条件を提供した。これを基に模倣技術の開発を直ちに開始する」
いつの間にか、ステージに数体の機械兵が忍び寄っていた。
ターゲットのミャウコがその輪の中に囲まれているのを、ルシアは鋭く察知した。
視界の端で、ルシアが歯ぎしりをしているのが見えた。
「ミャウコ!」
彼女が駆け寄ろうとするが、機械兵の無数の冷たい金属の壁が立ちはだかる。
その視線はまるで感情を持たぬ殺戮者のように彼女を遮断し、逃げ場を奪った。
機械兵は単調な動きではない。
攻撃対象を的確に狙い、致命傷を与えることも厭わない。
ミャウコは鋼鉄の機械兵にぐるりと囲まれた。
彼らの冷たい無機質な瞳は、感情の欠片も持たず、ただ命令通りに任務を遂行するだけだった。
容赦なく迫り来る無機質な圧力に、胸の内で焦りがじわじわと膨れ上がる。
「流石に機械には効かないみたいね」
いつも余裕を見せていたミャウコであったが、無機質な機械を前に焦燥感が体を支配した。
逃げ場はなく、冷たい金属の壁が次第に狭まっていく。
戸惑いが胸を締め付け、恐怖に変わっていくのを感じた。
だが、それでも彼女の意識は鋭く現実を見据え、必死に突破口を探し続けていた。
感情のない敵に対し、心だけがもがき苦しむ。
「ここで終わるわけにはいかない」
絶体絶命の瞬間、胸の奥深くで封じられていたもう一つの“何か”がゆっくりと目を覚ます。
冷静で落ち着いた声が彼女の中から響いた。
「──なるほど。確かに機械にお前の能力は効かないな。だから、私を呼んだのだな」
支配者モード(裏ミャウコ)の声は冷徹で、感情を一切含まない。彼女は機械兵を一瞥し
「お前たち機械でよかったな……恐怖を感じずに済む」
瞳に宿る光は普段の妖艶さとは異なり、冷たく鋭い輝きを放つ。
「お前達の時間を停止し、存在そのものを過去へと巻き戻す。説明しても無駄だな。機械には感情も記憶もない」
ミャウコの声は氷の刃のように空気を切り裂いた。
その瞳は、まるで星のない夜空のように、一切の感情を拒絶していた。
「慈悲をかけよう。ゆっくりと過去に戻るか、それとも即座に消え去るか?機械には選択の自由も感情も無かったな」
微かな笑みを浮かべたその瞬間、機械兵は跡形もなく消滅した。
その姿は空間から完全に抹消されるだけでなく、周囲の記憶や記録からもすべて消え失せていった。
存在のすべてがなかったことにされる──まるで最初から存在しなかったかのように。
その消滅と共に、ドーム内の監視カメラ映像からも彼らの姿は消え、記録は一切残らなかった。
後日、作戦本部では──
「ドーム内にあの機械兵が持ち込まれた記録が一切見つからない…どういうことだ?」
幹部が首をかしげ、データベースのナンバリングされた書類を探すが、どれも消失している。
「ナンバー001から015までの管理書類が、全て忽然と消えているとはな……」
冷ややかな声が室内を満たす。
だが、幹部の眉間にわずかな皺がよる。何かを思い出そうと必死に脳を働かせるが、記憶は砂のように指の間から零れ落ち、すでに消え去っていた。
「……そもそもその番号の書類は初めから存在してなかったはずだが」
誰も気づかないうちに、時間差はあれど存在そのものが“なかったこと”にされていたのだ。
その後、リングや、他の監視カメラに見せかけた装置はガレン、テオ、ルナにより破壊された。
制御室でモニターを見つめていたcode zero特殊部隊の幹部は、冷静ながらも険しい表情で呟いた。
「奴の力は想像以上だ。今回は失敗に終わったが、次は必ず成功させる。」
「撤収準備を急げ。」
彼の背中は、敗北にも勝利にも見えなかった。
■クライマックス決戦
轟音が響き渡り、リング装置は無情にも真っ二つに裂けた。
青白い光が四方へ散り、飛び散った破片が観客席を襲う。だがその危機を、サラの野性的で官能的なダンスがやわらげていく。
彼女の動きは荒々しくも美しく、爆風を“光の花びら”へと変え、空間にまるで魔法のような柔らかい輝きを撒き散らした。
その中心、ステージの中央にはミャウコがいた。
ノーマルモードの大人バージョンに変わった彼女は、落ち着いた大人の雰囲気をまといながらも、目は深紅に染まり、そこに秘めた力を誰にも悟らせない。
彼女のしなやかな身体の動きが周囲の空気を揺らし、観る者すべてを虜にする。
「この場は、私が支配する」
その一言は言葉というよりも、振る舞いと存在感で語られた。
隣で、ルシアが妖艶なサキュバスダンスを始める。
彼女の身体が光をまとい、艶やかな曲線を描きながら敵の意識を絡め取る。
目を離せなくなった敵の動きは鈍り、仲間の攻撃がその隙を突いた。
セラフィナが静かに祈りを唱える。
清らかな光が彼女の周囲に広がり、ドーム全体を包む神聖なヴェールとなって敵の攻撃を浄化する。
聖なる力が味方を守り、絶望を遠ざけていた。
ナディアの歌声がステージに、そして会場全体に響く。
透明で圧倒的な声が仲間の心に灯火を灯す。
その旋律は鋭くも優しく、力を与え、闘志を燃え上がらせた。
ナディアの隣で、サラの野性的で躍動感あふれるダンスと、レイラの冷静でキレのある動きが見事に絡み合う。
二人のリズムが重なり合い、まるで対照的な炎と氷が融合するかのような独特のケミストリーを生み出していた。
観客はその息の合ったパフォーマンスに釘付けになり、歓声が波のように広がる。
その一方で、レイラの瞳は戦士としての鋭さを宿し、周囲の状況を冷静に見据えていた。
彼女の内に秘められた強さは、今は静かに灯り続けている。日常の舞台ではアイドルとして輝きながらも、いざという時には仲間を守る盾となる覚悟を、胸の奥にしっかりと宿していた。
ルナは攻撃魔法の奔流となった。
燃え盛る炎の竜巻が敵の陣形を切り裂き、氷の槍が狙い澄ました要所を凍結させ、雷鳴が空を裂いて敵をなぎ倒す。
彼女の魔法は鮮烈で、まるで嵐の中心にいるかのようだった。
ガレンは重く振りかぶったハンマーを振り下ろす。
「俺に任せろ!」
その一撃は圧倒的な力を持ち、重装甲の敵を粉砕し、戦場に轟音を響かせた。
テオは詠唱を続け、魔法の結界を次々と展開する。
敵の砲撃や攻撃魔法を跳ね返し、前線を死守。彼の存在が味方の命綱となっていた。
そして、ミャウコは静かに舞い踊る。
武器は持たず、ただその存在だけで敵を押し返していく。
彼女の動きは妖艶でありながらも鋭く、まるで刃物のように敵の意識を切り裂く。
深紅の瞳が揺れ、視線を受けた者は一瞬にして虜になり、動きを止めた。
「逃がさない――」
その低くも甘い囁きは、戦場に冷たい風を吹かせる。
遠隔監視室の暗がりで、一連の流れを見ていたクロウは冷ややかな笑みを浮かべていた。
「神のプロットは終わった。だが、まだ終わらせん……」
その言葉には揺るがぬ決意と、歪んだ期待が混ざっていた。
戦いの後、めちゃくちゃになったドームのステージ。
ミャウコが掃除機を持って、「こんなに散らかすなんて、あたしたち最強のアイドルだにゃ!」と笑う。
妖艶に腰を振りながらダンスをするルシアに、「あたしも一緒にダンスやるにゃ!」と唐突にセッション開始。
少し目を細めて妖しく笑いながら、ミャウコに「まだ、ちゃんと真剣勝負してなかったもんね。やる?」と挑発
ミャウコは軽く笑いながら、「もちろん、やるにゃ!」と応じ、二人がステージで軽やかにステップを踏み始めると、ミャウコの表情がふと変わった。
顔を少し下に傾け、目を細めて射るように観客を見据える。その視線には、普段の愛らしさはなく、妖艶さと鋭い挑発が宿っていた。まるでステージ全体を支配するかのような、力強くも妖しいオーラが漂う。
「ミャウコやるじゃん!流石!」
ルシアが楽しそうに笑う。
サラはまだ爆風の跡を飛び跳ねて、「私のダンスの破壊力、半端ないでしょ?」と艷やかな黒髪をかきあげながら勝ち誇った笑みを浮かべた。足元で小さな瓦礫がカラカラと転がるが、彼女はまるで気にも留めない。。
ナディアは真剣に歌の練習中だが、突然高音が出なくなり、「え?スランプ?」と焦る。
セラフィナは静かに祈りを唱えながら、
「主よ私達をお守りくださりありがとうございます」
ミャウコがすかさず突っ込む。
「神はあたしだにゃ☆」
レイラは剣を肩に担ぎ、「まあまあ、戦いは終わったんだから、みんなリラックスよ」とまとめるが、ガレンは「リラックスしすぎでしょ!」と苦笑い。
ミャウコは鏡の前で大人のセクシーポーズを決めていると、ルナが、「何やってんの?」と呆れ顔で突っ込む。
その頃、控室の隅でテオが突然狂乱の詠唱を始め、
「ミャウコ様の光を讃えよ!我が魂を捧げよ!」と絶叫。
ガレンと、ルナがテオを遠い目で見つめる。
そんな女だらけのドタバタ後日談。
戦いは終わったけど、彼女たちの賑やかな日常はこれからも続く!
そして──。
➡エピローグへつづく




