続・25章 銀河アイドル編 デビュー前の一波乱!? 盗撮事件
プロローグ:突然の招待状
ミャウコが《みゃう☆プロダクション》を立ち上げる少し前のこと。勇者一行は、魔王を倒した偉業の余韻に浸りつつ、今後のことも考えるため休息を取っていた。拠点である古びた宿屋「つぶれ荘」は、王都の辺境にひっそりと佇む、埃っぽい木造の建物だ。そこに、ある日、一通の招待状が届いた。封筒には星を型どった見慣れぬ紋章が刻まれ、差出人は「エリュシオン自治都市」と記されていた。
「ふぁ~、歓迎パーティ?なになに、勇者一行の功績を讃えるって?にゃは♪ キラキラな感じがするにゃ!」
ミャウコは目を輝かせ、尻尾型アクセサリーをぴょこぴょこ揺らしながら封筒をひらひらさせた。彼女の無邪気な笑顔は、宿屋の薄暗い部屋を一瞬で春の陽光のように明るくした。猫耳カチューシャが、彼女の動きに合わせて愛らしく揺れる。
「ちょっと待てよ、ミャウコ。ギャラの欄、見ろって。」
ガレン、勇者一行が、眉間に深い皺を寄せて見積書を睨んだ。「全員で菓子パン一個分って……ふざけてんのか、このエリュシオンの連中は?」
彼の声には、魔王を倒した英雄としてのプライドと、冒険で得たわずかな報酬をやりくりする貧乏暮らしの苛立ちが滲んでいた。ガレンの大剣が壁に立てかけられたまま、埃をかぶっているのがその証だった。
「まあまあ、ガレン。お金じゃないのよ、こういうのは。名誉ある招待なんだから!」
ルナの服装は、魔導士というよりも現代的でラフな印象を受ける。
ゆったりとしたTシャツは淡いグレーで、胸元にはさりげなく星のシンボルがプリントされていた。だがその生地は彼女の豊かな胸を隠しきれておらず、特に魔法発動時に胸が上下するたび、視線を奪われる者は少なくなかった。
「……あの、見すぎじゃない?」
ルナは無表情でそう言いながら、ホットパンツのベルトを軽く締め直す。
魔導石が取り付けられた片足のガーターベルト、黒いニーハイブーツが彼女の脚線を強調し、戦場に不釣り合いなほど艶やかだった。
■第一幕:祝宴の罠
エリュシオン自治都市は、銀河の辺境に位置する交易の要衝だ。高層ビルの合間に浮かぶホログラム広告が夜空を彩り、ネオンに輝く街並みには小型飛行艇が音もなく滑る。まるで未来とファンタジーが交錯する夢の都市だ。勇者一行は、指定されたイベント会場――《スターホール・グランデ》へと足を踏み入れた。
会場は息をのむほど豪華だった。巨大なクリスタルシャンデリアが虹色の光を放ち、壁一面のガラス窓からは無数の星が瞬く銀河が見えた。貴族、富豪、銀河連合の要人たちが集い、勇者一行を讃える拍手が鳴り響いた。ミャウコは、ピンクのドレスに身を包み、壇上で愛らしいウィンクを飛ばした。
「にゃは♪みんな、ありがとにゃ!ミャウコ、キラキラで返すにゃ!」
彼女の声は、まるで魔法のように会場を一瞬で虜にした。観客の拍手はさらに大きくなり、まるで星々が共鳴するかのような熱狂に包まれた。
だが、祝宴の熱気が最高潮に達したその瞬間――。
ドガァァン!
天井が爆発音とともに砕け、巨大な影が会場に落下した。四足の魔獣だった。牙を剥き、口から赤黒い炎を吐き、鱗に覆われた巨体はまるで魔王の残党のような威圧感を放っていた。その体躯は、会場を埋め尽くすほどの大きさで、床がその重さに軋んだ。
「なんで魔王倒したのに、こんなバケモノがまだいるんだよ!?」
テオは叫びながら回復魔法の態勢を取った。だが、仲間たちが傷つくよりも早く、魔獣の咆哮と暴走が戦場を支配していく。観客たちの悲鳴が会場を包み、混乱が広がる。
「この硬さ、尋常じゃないわ……!」
ルナが杖を掲げ、青白い雷光を纏った攻撃魔法を放ったが、魔獣の突進にはわずかに遅れ、直撃を防ぐには至らなかった。激突の余波で地面が割れ、彼女は数歩、後退を余儀なくされた。
ガレンは大剣を振り上げ、渾身の一撃を放ったが、刃は鱗をわずかに削るにとどまり、魔獣の咆哮が空気を震わせた。
混乱の中、ミャウコは一瞬だけ目を閉じた。彼女の猫耳がピクリと動き、背後で何かが弾けるような感覚が走った。それは、彼女の内に眠る力が目覚める瞬間だった。
「――にゃ。」
次の瞬間、彼女の身体を包む光がピンク色に輝き、ドレスがまるで蒸発するように変形した。
「マイクロビキニ☆バージョン、発動にゃ!」
極小極薄のビキニに身を包み、尻尾カチューシャが艶やかに揺れる。彼女の周囲に灼熱のオーラが渦巻き、会場全体が熱波に包まれた。観客たちは呆然と見つめる中、ミャウコは軽やかに跳び上がり、魔獣の頭上に着地した。
「悩殺ショットで焦がしてア・ゲ・ル♡」
彼女の手から放たれた灼熱の奔流は、まるで太陽の輝きを凝縮したかのようだった。轟音とともに魔獣は一瞬で黒焦げになり、床に崩れ落ちる。
一瞬の沈黙の後、会場は歓声とどよめきに包まれた。悲鳴まじりの驚嘆、歓喜の叫び、割れんばかりの拍手が波のように押し寄せる。焦げた匂いと、なおもまばゆいミャウコの姿だけがその場に残されていた。
彼女はウィンクを一つ、観客に投げかけ、まるで何事もなかったかのように微笑んだ。
■第二幕:視線の裏側
「にゃふ……やったにゃ!」
ミャウコが勝利のポーズを決めると、観客から遅れて雷のような拍手が沸き起こった。だが、その歓声の中、彼女はふと背筋に冷たいものを感じた。鋭い視線――誰かが、彼女をじっと見ている。それは、ただの賞賛の目ではなかった。
「にゃ?」
ミャウコは振り返り、舞台裏の暗がりに目を凝らした。そこには、ビデオカメラを構えた怪しげな男がいた。レンズは、戦闘中のミャウコ、特にマイクロビキニ姿を執拗に捉え、まるで彼女の動きを一秒たりとも逃すまいとしていた。
「おい、てめえ!何撮ってんだ!」
ガレンが男に飛びつき、胸ぐらを掴んだ。男は青ざめ、震える声で弁解した。
「お、俺はただの雇われだ! 撮れって言われただけで……! 頼まれたのは、ミャウコの戦闘シーン、特にその……衣装の瞬間を、だ……」
一行は男を問い詰め、依頼の出元を辿ることにした。だが、事態は予想以上に複雑だった。雇い主を追うと、次から次へと「自分はただの仲介者だ」と繰り返す関係者が現れる。カメラマンは、なんと十五次請けの末端だったのだ。テオは苛立ちを爆発させた。
「ふざけんな! こんな回りくどいことして、何企んでんだよ!」
ルナは冷静に状況を分析した。
「これは……組織的な何かよ。ミャウコの戦闘力、変身能力……彼女を狙った、大きな計画の匂いがする。」
彼女の言葉に、一行の間に重い空気が流れた。ミャウコだけは、尻尾を揺らしながら「にゃふ?」と首を傾げていたが、その瞳の奥には、ほのかに鋭い光が宿っていた。
■第三幕:黒幕の影
幾重もの仲介者を経て、勇者一行はついに元請け企業に辿り着いた。《スターダスト・エンタープライズ》、銀河連合の裏で暗躍する巨大メディア企業だ。社長室は、ガラス張りの高層ビルの最上階にあり、眼下にはエリュシオンのネオンが広がっていた。そこには、悠然と葉巻を燻らせる男がいた。銀髪に高級スーツ、口元には薄い笑みを浮かべた男――社長、クロウリーだ。
「おや、勇者様方のご訪問とは。どうぞ、座ってくださいな。シャンパンでもいかが?」
クロウリーの態度は慇懃無礼そのものだった。ガレンは我慢の限界を超え、机に拳を叩きつけ、書類を奪い取った。
「この書類、説明しろ!」
そこには、物騒な文言が並んでいた。
【戦闘時肉体データ解析計画】
【勇者型戦闘兵器試作】
【ミャウコの潜在能力抽出プロジェクト】
さらに、契約金の欄には「350億ゴールド」の文字。そして、書類の端には、銀河連合政府の極秘印が押されていた。
「表向きはグラビア映像の撮影……だが、裏じゃ政府と繋がってやがるな。」
ガレンの声は低く、怒りに震えていた。
「マジかよ……俺たち、ずっと監視されてたってことか?」
テオが顔を歪め、握った杖に力がこもった。
ミャウコは静かに一歩前に出た。ピンヒールの音が、社長室の硬い床に冷たく響く。彼女の瞳は、夜の底よりも深く、鋭い光を帯びていた。
「コソコソ監視なんかしないで、堂々と指名してくださればいいのに」
その瞬間、彼女の姿が一変した。ピンクのビキニが胸元の大きく開いた漆黒のドレスに変わり、ドレスのスリットから彼女の艶めかしい脚が露わになる。髪は優雅にまとめ上げられ、そこには全く別人の女性が佇んでいた。妖艶なオーラを放つ女性――《Club 夢幻》のNo.1ホステス、麗華がそこにいた。彼女の声は甘く、しかし凍てつく刃のようだった。
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「……残念。壊れるのは、あなたの方よ」
麗華の瞳が妖しく輝いた瞬間、クロウリーの視界がぐにゃりと歪む。
社長室のガラス窓は金色のカーテンに変わり、デスクは大理石のVIPテーブルに。
壁際の棚には、リシャール・ゴールド、ヘネシーXO、ロマネ・コンティ、そしてルイ13世など、銀河オークション級の超高級酒瓶がずらりと並んでいた。
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空調は柔らかく、ほの暗い照明が室内を包み、耳にはジャズピアノが流れる。
「ようこそ、《Club 夢幻・特別室》へ。今夜は最後まで楽しんでいただきますわ」
麗華がウィンクすると、扉から何十人ものホステスたちが雪崩れ込んだ。
艶やかなドレス、甘い香水、笑顔の嵐。
「社長、こちらロマネ・コンティでございます♡」
「ヘネシーはお好きですか♡」
「こちら最高級のルイ13世でございます」
「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりくださいませ♡」
クロウリーは必死に抵抗しようとするが、時間の流れは加速していた。
一瞬のうちに数時間分の酒宴が過ぎ、テーブルの上は高級ボトルと領収書の山。
黒服のスタッフが静かに歩み寄り、深々と一礼。
「……こちら、お会計になります」
恭しく差し出された明細書には、堂々とこう記されていた。
小計:35,000,000,000ゴールド
「……なっ……!?」
クロウリーの顔が蒼白になる。
「もちろん――」
麗華は涼やかな笑みを浮かべ、脚を組み、右手でグラスを傾ける。
「明朗会計でお願いしますわ♡」
彼女の言葉にクロウリーが自分の意識とは関係なく気が付いた時には支払いを済ませていた。その後、景色は元の社長室へと戻っていた。
しかしデスクの上には、きっちりと領収書と空になったボトルが残されている。
クロウリーは力尽き、葉巻を落とした。
「またのお越しを、お待ちしております♡」
麗華の声が甘く響き、闇に溶けて消えた――。
「忘れてましたわ。最後まで楽しんでいただかないと。本日は御指名頂きありがとうございました」
クロウリーの薄笑いが一瞬で凍りついた。次の瞬間、社長室は闇に飲み込まれた。まるで光そのものが吸い込まれるような、異様な暗黒だった。クロウリーの叫び声が一瞬響き、そして静寂。誰も、その後の彼の行方を知る者はいなかった。机の上に残された葉巻だけが、かすかに煙を上げていた。
第四幕:波乱の火種
「盗撮事件」はこうして幕を閉じた。
――表向きは。
だが、裏では銀河連合政府のデータ収集計画が別の形で進行していた。ミャウコの潜在能力――その異常な戦闘力と変身能力は、科学者たちにとって垂涎の的だった。彼女の「灼熱地獄☆」は、単なる派手な技ではなく、未知のエネルギー反応を示していた。それを解析し、兵器化する計画が、密かに動き始めていたのだ。
勇者一行は、事件の真相を胸に秘め、エリュシオンを後にした。ミャウコはいつもの笑顔に戻り、尻尾を揺らしながら呟いた。
「にゃふ……なんか、キラキラの裏ってドロドロしてるにゃ。」
だが、その瞳の奥には、ほんの一瞬、麗華の冷たい光が宿っていた。彼女は知っていた。この一件が、ただの終わりではなく、新たな戦いの始まりであることを。
一行は再び旅に出る。次の舞台は、銀河の中心――アイドルと陰謀が交錯する、華やかな世界だ。ミャウコのキラキラは、果たして闇を照らすのか、それとも飲み込まれるのか。銀河アイドル編の幕が、今、上がろうとしていた。
エピローグ:星屑の予感
宿屋「つぶれ荘」に戻った夜、ミャウコは窓辺で星空を見上げていた。ルナがそっと近づき、彼女の肩に毛布をかけた。
「ミャウコ、考え事?」
「にゃふ……なんか、キラキラって、ただ光るだけじゃダメなのかも、って思ったにゃ。」
彼女の声はいつもより少し静かだった。だが、すぐにいつもの笑顔に戻り、ルナに抱きついた。
「でも、ルナやガレンやテオがいるから、ミャウコ、どんな闇もキラキラに変えるにゃ!」
ルナは微笑み、ミャウコの頭を撫でた。だが、彼女の心には一抹の不安がよぎっていた。銀河連合の影は、想像以上に深く、暗い。この先、ミャウコの光がどれほどの試練に耐えられるのか――それは、誰にも分からない。
つぶれ荘の窓から見える星々は、静かに瞬いていた。その光は、希望か、それとも新たな戦いの予兆か。勇者一行の物語は、まだ終わりそうになかった。
26章へつづく




