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第24章:ゼノス、降臨――テンプレの神、最後の裁定

―“枠組みの守護者” vs “物語外のノイズ”―




 天が裂けた。




 大気が金切り声を上げ、次元そのものが白く滲むように歪んだ。雲は溶け、星々の光は凍りつき、まるで世界のキャンバスが引き裂かれたかのようだった。その裂け目から、荘厳にして無機質な存在が降り立った。





 ゼノス。




「物語のテンプレート」を司る神。すべての物語が定められた枠組みに沿って進行するよう管理し、“逸脱”を無慈悲に削除する裁定者。その姿は光と影の境界に浮かび、顔は無数の物語の断片で構成されているかのようだった。無機質な瞳が、地上を見下ろす。




「ノイズ――想定外の逸脱。物語における汚点であり、調和の破壊者。除去を開始する。」




 空間が“再構築”を始めた。風景が、まるで昔のRPGのマップのようにパタパタとタイル単位で塗り替えられていく。すべてが、テンプレートへと矯正されていく――それは、ゼノスの支配する“世界の正しさ”だった。




 ゼノスの声は、まるで世界そのものが発したかのように響いた。冷たく、絶対的で、一切の感情を許さない。








■ミャウコ、消滅の危機




 地上では、ミャウコ――物語の“ノイズ”と呼ばれた少女――が、いつものように気ままにセクシーポーズの研究をしていた。サラサラの髪を揺らし、リズミカルに頭を揺らし猫耳カチューシャをピクピクさせながら、彼女はふんっと鼻を鳴らす。




「にゃに?また変なのが出てきたにゃ?めんどくさーい!」




 だが、その瞬間、彼女の周囲で異変が起きた。




 ミャウコが歩いた道が、まるで消しゴムで擦られたように消滅していく。彼女の足跡、彼女が触れた草木、彼女が仲間たちと過ごした笑い声の残響――すべてが白い空白に飲み込まれていく。




 仲間たちの瞳が曇る。ガレン、ルナ、テオ――彼らの記憶が、ミャウコの存在を上書きされていく。まるで、彼女が最初からこの物語に存在しなかったかのように。




 過去の冒険、彼女が敵をからかって窮地を切り抜けた場面、彼女が仲間たちにふざけて抱きついた瞬間――物語の“過去巻”が、ゼノスの力によって編集され、彼女の痕跡が消されていく。




 テオが膝をついた。額に汗が滲み、息が荒い。




「これは……“物語そのもの”との戦いだ……!ミャウコ、お前を失うわけにはいかない!」




 だが、ミャウコはそんなテオをチラリと見て、ニヤリと笑った。




「にゃふん♪ テオ、顔がマジすぎ!そんなんじゃ、物語の神様に笑われちゃうにゃ!」








■メタバトル、開幕




 ゼノスが手を掲げると、空の“メニュー画面”が開いた。そこから選ばれたのは、《修正ペンβ:プロット整合性補正仕様》選択と同時に、巨大なペン型カーソルが空から現れ、風景に「修正線」を走らせていく。




 ペンの先端は光を放ち、触れたものを物語の定型に塗り替える。ゼノスは無感情に、しかし確実にミャウコを狙う。




「この戦いは、勇者の覚醒を引き出すための導線だ。」




「お前の存在は、テンプレートの外。不要。」




 その言葉に合わせ、修正ペンが振り下ろされる。空間が裂け、ミャウコの周囲の景色が“正しい物語”の形に書き換えられていく。草原は均一な緑に、風は計算された心地よさに、仲間たちの台詞は陳腐なテンプレに。




 だが、ミャウコは動じない。彼女は軽やかに跳び上がり、修正ペンの軌跡を避けながら、舌をぺろりと出した。




「テンプレって、そんなに大事かにゃ?全部同じ話ばっかじゃ、読者も飽きるにゃ!それにさ、テンプレの神ってことは……つまり“ダサ神”ってことにゃ?」




 その一言に、ゼノスの無機質な瞳が一瞬揺れた。まるで、彼女の言葉が神の存在そのものを揺さぶったかのように。




「ふん!物語ってのはさ、ルール破ってなんぼにゃ!見てなさい、このミャウコ様が世界をひっくり返すから!」












■神へのカウンター:自由の創造




 ミャウコは戦わない。彼女はただ、“自由に動く”。




 彼女は戦場のど真ん中で、なぜかピンクのマイクスタンドをスッと立てた。




次の瞬間、足元にスポットライトが当たり、存在しないはずのステージが出現。




「さあ、神様…アンコールの準備はいいかにゃ?」




 その声と同時に、戦場に流れ出すビート。ミャウコは歌い、踊り、観客ゼロのライブを始めた。




 その動きは、読者の心をざわつかせ、ページの外から物語のエネルギーを逆流させる。ルールに縛られぬ“読者の共感”が、世界の構造そのものを押し返していく。




 その姿勢が完成した呼吸の間に――世界はまるで新たな脚本を得たかのように書き換えられた。




「おい、それどこから出した!?」ガレンが叫ぶ。




「にゃふふ、世界が勝手に用意してくれたにゃ♡」








 空がピンクに染まり、雲がすべて猫の形へと変貌する。




 森の木々はピンクの葉を揺らし、幹がリズムを刻むように左右にスイング。川はミルク色に変わり、泡が肉球の形で浮かび上がる。湖面には巨大な猫の顔が映り、瞬きをするたび波紋が広がった。




 海は一面クリームソーダ色に変わり、魚たちが「にゃふん♪」と鳴きながら飛び跳ねる。




 ビートに合わせ、魚たちは空中でスピン、山々はベース音のように低く唸った。




 森の木々はバックダンサーのごとく左右に揺れ、雲がスポットライトを形作る。




完全に、世界そのものがミャウコのライブ会場と化していた。




 山々は猫耳の形になり、雪崩の代わりにふわふわの毛玉が転がり落ちていく。








 世界中の言語が、突然「ミャウコ語」に変換された。




「こんにちは」は「にゃふん!」に、




「ありがとう」は「ありがとにゃん♡」に、




そして「さようなら」は「にゃらば!」に。








 空を飛ぶ鳥たちも、森のリスも、海のクジラまでもがミャウコと同じタイミングでウインク。重力さえ、彼女のポーズに合わせてふわりと跳ね上がる。








 ゼノスが振り下ろした修正ペンが、まるで意志を持ったかのように宙に浮き、ぐるぐる回転しながら猫のしっぽのようにしなった。




「な、なんだにゃ!?自然までもがミャウコの味方に!?」




「くっ……馬鹿な……歌とダンスは構造式の外だと……?!」




ゼノスの手が震える。彼のシナリオに「アイドルライブで世界を塗り替える」項目は存在しなかった。








 ミャウコの自由奔放な存在そのものが、物語の枠組みを破壊していく。彼女の笑い声が響くたび、ゼノスの作り上げた“完璧なテンプレート”がひび割れていく。




 仲間たちの記憶も、徐々に蘇り始めた。




 ミャウコの高音が響くたび、仲間たちの胸の奥で何かが弾けた。




戦士も魔法使いも、気づけば手拍子を打ち、サビで声を合わせていた。




それは戦場というより、帰るべき場所を思い出させるフェスだった。




 ガレンが叫ぶ。




「ミャウコ!お前がいなきゃ、この物語はただの退屈なテンプレだった!お前がいるから、俺たちは……生き抜いて、戦って、仲間と一緒にここまで辿り着けたんだ!」












■ 神の葛藤




 ゼノスは一瞬、動きを止めた。その無機質な瞳に、初めて“迷い”が宿る。




「私は、無数の物語を修正してきた。整合性、進行性、王道展開……だが、それが“面白さ”である保証はどこにもなかった。私はずっと……“誰のために”物語を整えていた?」




「ノイズは、排除すべきものだった……だが、お前の中には“新しい物語”がある。」




 ミャウコはニヤリと笑い、指をパチンとはじいた。




「にゃふん!やっと分かった?物語ってのはさ、ルールじゃなくて心にゃ!ミャウコがいるから、みんながワクワクするんだにゃ!」




 ゼノスは静かに頷いた。その姿が、徐々に光の粒子となって溶けていく。




「お前は……物語の新しい座に相応しい。ミャウコ、お前に“物語の座”を譲渡する。私は、帰る」




 ふと、ゼノスが思い出したように振り返った。




「……ああ、忘れるところだった。これが約束の1000億ゴールドと、キャットタワー100階だ」




 空間がきらめき、ミャウコの足元に金貨の山と、天井を突き抜ける巨大なキャットタワーが現れる。




 ゼノスが空へと還っていく。その背中に、ミャウコはぺろりと舌を出した。




「にゃはー♪ やっと静かになった! ……さて、次の世界、もっとエグいのにしよっか〜☆」




 彼女の笑い声が、世界中に響き渡る。仲間たちは呆れながらも笑い、物語は新たなページへと進む――ミャウコが描く、自由で予測不能な物語へと。




 そして、閉じたはずの“物語のページ”の隙間から、もう一つの目がこちらを覗いていた。ミャウコがもたらした“自由”が、他の物語世界にも伝播し始めていた――次なる“ノイズ”は、既に書きかけのプロットに忍び込んでいた。そして、どこかで新たな“ノイズ”が、物語の枠組みを揺らし始めていた。








➡25章へつづく


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