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第12章. ミャウコ、全人類の意識に影響を与え始める

■戦場の静寂


 世界のどこかで、またひとつ戦争が止んだ。


 最前線に立つ魔王軍と人類連合の兵士たちは、両軍ともに武器を落とし、ただ立ち尽くしていた。


 空に、巨大な猫耳と雌豹ポーズを模した幻影が浮かんでいたからだ。



その姿は、雲を突き破り、陽光を浴して虹色に輝く。まるで天が割れ、神の使者が降臨したかのようだった。


「ミャウコの幻影」は、ただの視覚現象ではなかった。


 世界各地で“同時発生”し、衛星も、魔術も、科学も、その発信源を捉えられなかった。


 その正体は、“感情共鳴フィールド”──夢と現実の境界を溶かす、超常的な力。


戦場に響く銃声や剣戟の音は消え、代わりに、かすかな猫の鳴き声のような音が、風に乗って漂っていた。


──にゃん♪


「ご覧ください。あれが、“啓示”です」


 テオの声は震え、瞳には涙が光っていた。


 ルナとガレンは同時に振り返る。テオは手に持つ古びたノートを握りしめ、ページをめくる手が止まらない。


「ついに“第十三条”が顕現した……!」


 彼のノートには、ミャウコ教の教義が走り書きされていた。その最後のページには、こう記されている。


「教義第十三条:ミャウコ様の共鳴は世界の心を解放する」


 テオは戦場に響く声で叫んだ。


「ミャウコ様のポーズを!争いを捨てなさい!」


 戸惑う兵士たちに、彼は自ら雌豹ポーズを決め、目を輝かせる。


「この幻影は神の意志! 俺が広める!」


 ルナが叫ぶ。「テオ、やりすぎ!」


 だが、彼女の声は戦場の異様な静寂にかき消される。


 一人の兵士が、ふらりと銃を落とし、呟いた。


「なんか……楽になった……」


 その言葉をきっかけに、まるで波のように、兵士たちが次々と武器を捨て始めた。


 テオはさらに声を張り上げる。「ミャウコ様の共鳴は全てを癒やす!」


 彼は地面に聖句を刻み、空を見上げて宣言した。


「ミャウコ教、今日から世界に響く!」


 ルナは呆れ顔で「バカみたい……」と呟くが、目の前の光景に顔色が変わる。


 兵士たちの瞳に宿る敵意が消え、代わりに穏やかな光が宿っていた。


「あいつ、本当に……戦争をやめさせてるの……?」






■戦場の記憶


 戦場の一角、折れた剣のそばで、若い兵士が膝をついた。


 彼の脳裏に、幼い頃に飼っていた猫の記憶が蘇る。


「ミャウコ……お前、アイツに似てるな……」


 彼は幻影を見上げ、涙をこぼしながら雌豹ポーズを真似る。


 その姿を見た仲間たちが、次々とポーズを真似し始めた。


 まるで、忘れ去られた無垢な時間が、戦場に蘇るかのように。





王都:情報統制本部の混乱


 王都の地下深く、情報統制本部のモニターには、各地の戦場から送られてくる映像が映し出されていた。


 遠隔映像水晶には、巨大なミャウコの幻影が映り、空を覆いながら優しく微笑む。


──にゃん♪


 その声は、言葉を超えて世界中の脳に直接響いた。


「これは……新手の精神汚染か!?精神攻撃か!?」


 司令官の声が響くが、隣の研究者が震える声で答えた。


「違います。これは……癒やしです……」


 別の研究者が、データパネルを握り潰さんばかりに叫ぶ。


「“彼女”は……ミャウコは、“意識汚染型の神”です……!」


 モニターに映るグラフは、異常なスパイクを示していた。


 世界中の人間の脳波が、同時刻に同一のパターン──穏やかなシータ波に収束しつつあった。


「これは、妨害でも攻撃でもない。“共鳴”です。世界中で、同時に一つの意識が芽生えているのです!」


 兵士たちは命令を無視し、戦線を離脱していた。


 それは“指示”や“戦略”によるものではなかった。


 本能のレベルで、「戦うこと」の意味が溶け去っていたのだ。








■王都の市民の反応


 王都の広場では、市民たちが空を見上げ、ざわめいていた。


「なんだ、あの猫耳の幻影は!?」


「まるで……神様みたいだ……」


 ある老婆が、杖を握りながら呟く。


「昔、村で聞いたことがある。『猫の神が現れる時、世界は変わる』って……」


 彼女は震える手で、ミャウコのポーズを真似る。


 その姿を見た子供たちが、笑いながら真似し始め、広場は奇妙な一体感に包まれた。








■ガレンの葛藤


 崩壊した神殿跡。


 ガレンは、瓦礫の上でぽつりと呟く。


「おい、ミャウコ……お前、何したんだ……?」


 ミャウコは、無邪気に岩の上で爪を研ぎながら答える。


「うーん?特に何も。お昼寝してたら、みんなの心が勝手に私に同調しちゃったっぽいにゃ」


 彼女はくるんと一回転し、唐突に雌豹ポーズを決める。


その瞬間、ガレンの心に“共鳴”が走った。


(……なんだ、今のは……)


 思考が一瞬停止し、世界が色を失う。


 争いも、組織も、正義も悪も、すべてが滑稽に思える。


 ただ、ミャウコのそばで生きることが、“生”そのものだと錯覚する。


 ガレンは額に手を当て、深く息を吐く。


「……それ、恐ろしいことなんだぞ……。国家すら、軍すら、お前に靡き始めてる」


 ミャウコは首を傾げ、純粋な瞳で彼を見つめる。


「じゃあ、私が新しい国家にゃ?」


 彼女の言葉は無邪気だったが、その背後には、ガレンすら飲み込むほどの力が潜んでいた。





■ガレンの過去との対峙


 ガレンの脳裏に、忘れたはずの記憶がよみがえる。


 ――戦火に包まれた村。赤く染まった空。


 あの日、彼は家族を失った。


 その痛みを抱えながら、彼は生き延びるために討伐隊へと身を投じた。





 仲間と背中を預け合う日々の中で、同じ隊の女性を好きになった。


 彼女は明るく、戦場でも決して笑顔を絶やさない人だった。


 しかしある任務で、彼女が敵に囲まれ命の危機に陥ったとき、ガレンは上官の命令を無視して救出に向かった。





 彼女は助かったが、結果的に任務は失敗。


 規律違反として、ガレンは除隊処分となり、彼女もまた責任を感じて自ら隊を去った。


 あの日を境に、二人は別れた。


戦場を共に駆けた日々も、互いの胸に残る想いも、言葉にされぬまま風に消えた。





 その日から、ガレンは深く人と関わることを避けるようになった。





 だが今、目の前で歌い踊る少女の姿が、その壁をゆっくりと崩していく。


 ピンクのミニドレスがひらめき、頭にはふざけたように猫耳カチューシャ。


 なのに、その笑顔と声は、彼の胸の奥にしまい込んだ温もりを呼び覚ます。





「お前……こんな力、どこで手に入れたんだ?」


 自分でも驚くほど柔らかい声が出た。





 ミャウコはふわりと微笑み、猫耳カチューシャを軽く揺らした。


「力じゃないよ。みんなの心が、私を呼んだだけにゃ♪」


 その言葉が、長く乾いていた彼の心に、静かに沁みていった。








■ゼノスの視座:神々の危機


 神殿の裏、薄暗い書庫の中。


 ラノベの神・ゼノスは、古い書を閉じた。


「……これは、想定を超えた。型破りというより、型そのものの破壊だ」


 彼の背後に、“神々の円卓”が浮かび上がる。


 無数の神々の影が、ざわめきながら語り合う。


「我らは物語を織ってきたが、今や物語が我らを飲み込もうとしている」


「“偶像信仰”が超自然的暴走に至った前例がある……バビロンの塔だ」


「ゼノス、お前の選択が世界を終わらせるぞ」


「このままでは、物語の終焉そのものが起こる。“物語の神”にとって、これは死と等しい」


 ゼノスは静かに頷き、決断を下す。


「次なる手を打つしかない。**“反神格化システム:E・D・I・T”**を起動せよ」


「了解。対象:ミャウコ」








■E・D・I・Tの真実


 E・D・I・T──“Entity Deification Inhibition Technology”は、神を封じるためのものだ。だが……お前は神ではない」


 ゼノスの瞳が細く光る。


「──にもかかわらず、その力は神に匹敵し……いや、それをも超えている」


 ミャウコは猫耳カチューシャをクイッと直し、ウインクした。


「にゃふふ、私はただのグラビアアイドルだよ?」


「……そんな偶然があるものか。お前は“物語の外”から来た。制御不能のイレギュラーだ」


「もし、E・D・I・Tが失敗したら……」


 ゼノスの声には、初めての動揺が滲む。


「我々神々すら、彼女の物語に飲み込まれるかもしれない」


 ミャウコの問いと世界の夢


 空を見上げるミャウコ。


「ねえ。……なんで、みんなそんなに苦しそうにゃ?」


 誰に言うでもなく呟いた彼女の声は、風に乗って世界中に響いた。


──にゃあ……♡


 その瞬間、全人類の夢に“共通要素”が現れる。


 赤子が笑いながら雌豹ポーズを真似る。


 兵士が銃を置き、野良猫をそっと撫でる。


 王族が猫耳をつけ、宮殿で歌を詠う。


 労働者が工場を止めて、空を見上げる。


 全世界の魂に、ミャウコが干渉を始めた。


 彼女の共鳴は、憎しみも、欲望も、悲しみも、すべてを溶かし、ただ純粋な“生きる喜び”だけを残す。








■ミャウコの過去の断片


 ミャウコ自身も、自分の力の源を知らない。


 だが、彼女の脳裏には、かすかな記憶が浮かぶ。


 遥か昔、星々の間で彷徨い、孤独だった彼女を救ったのは、人間の“信仰”だった。


「みんなが私を呼んでくれるから、私、存在できるんだにゃ……」


 彼女の呟きは、誰にも聞こえない。


 だが、その声は、まるで宇宙そのものに響くように、世界を包み込んだ。








■新たな展開:反発の兆し


 一方、ミャウコの共鳴に抗う者たちも現れ始めていた。


 世界各国で、非営利団体「ドウトク秩序連合」のメンバーたちはメディア戦略を練り、密かにネガティブキャンペーンを展開していた。


 ニュース番組やSNS、ネットニュースを通じて、ミャウコの言動やパフォーマンスを歪めて報道し、彼女の影響力を弱めようとしている。


「神でも偶像でもない。あれは、混沌そのものだ」


 連合の指導者、黒衣の女が呟く。


 だが、どれだけ世界が騒がしくなろうとも、どこからともなくミャウコの声が響く。


──にゃん♪ やめちゃえば?楽になるよ~♪


 女の瞳が揺らぎ、スクリーン越しの情報に一瞬手が止まった。





➡13章へつづく

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