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 ね、本当だったでしょ?と。

 その柔らかく女性らしいとされる笑顔が私には憎くなるほどだった。


「マキシマイザーさん」

「私のこと、これで信じてくれるよね〜?」


 約束したもんね、と。

 それはそれは素敵な笑顔を——決して嫌味ではなく、上品に佇まう花のような笑顔で——彼女は私を見ていた。

 午後。学園内の植物園、温室。

 曇りガラスで円状に覆われた、一定の温度と湿度で保たれているそこは少しだけ蒸し暑い。「異文化交流」のていで異国の植物が植えてあるから。


「今日もお嬢様は生徒会〜?」

「ええ」

「そっかそっかー、それは都合が良い」

「……都合が良い、というのは?」


 お嬢様は最近忙しい。

 生徒会の総選挙が近付いているのはさながら、聖女が現れたという噂は現実になる、と生徒会権限で知ったらしい。

 「内緒よ?」と微笑むお嬢様のなんと美しかったことを思い出す。


「彼女は転生者じゃないからねえ。別に言ってもいいけど、妄言だって笑われる確率の方が高いから」

「お嬢様が転生者ではないと、何故」

「まあ、詳しい話は座ってしよ〜よ。二階の席、用意してあるんだ〜」


 彼女は上を指した。見上げる。

 温室は中央に螺旋階段がある。白く美しい石——おそらく大理石——で作られたその先には、小柄ではあるが整ったアフタヌーンティーのセットが並んでいた。


「執事が運んでくれたんだ〜。今も場所取りしてくれてるよ」

「場所取り?二階に見当たりませんけど」

「二階だけじゃないよ〜、温室全部だよお」

「おっ……」

「今からするのは、とっても大事な話だからね」


 彼女はそういうと階段を上がって行った。私も後に続く。

 緑色の空間に映える明らかな人工物の白は少し目がチカチカする。その上に乗っているのは、果物の詰められたアイスティー入のガラスポット。


「わあ美味しそ〜。こんな世界じゃお貴族様じゃないといろんな果物をなかなか食べられないもんねえ」

「……そのよう、ですね」


 前世での私は果物なんて食べたことはなかった。シールが貼られた菓子パンを、拾ったり投げつけられた僅かなお金でどうしようも無くなった時に食べるものだった、から。

 少し曇ってしまった表情を目敏く見つけたのだろうか。彼女は心配です、というような声で語りかけてきた。


「グレーちゃんはこっちに転生して、嬉しかった?」

「……嬉しい、というのは……」

「んー、あのね。私たちは今からとんでもないことを仕出かす……かもしれない。これから現れる聖女ちゃんは、ゲームやアニメと同じなのか転生者なのかは分からない。それで、ストーリー通りに進まないとどうなるのかも、わからない」

「何が言いたいんですか」

「つまりね、今の幸せな平穏を守るために、この世界を壊す覚悟はある?って話、だよ」


 いつになく真面目な表情で彼女は首を傾げた。

 キラキラと輝く目が、私を見ている。

 でも……私には覚悟がある。


「私はお嬢様の幸せが第一です」


 ただそれだけ、明確で単純で確実な覚悟。

 じっとマキシマイザーを睨む。

 この世界も、貴方も、お嬢様を邪魔するならば許さないという覚悟を見せつけるように、睨んだ。


「じゃあ、やっぱりぶち壊さないとね」


 彼女は今までにないほど緩んだ表情でそう呟いた。

 少しだけ、驚いた。

 今まで見せた表情は、今のを見て気づいたのだけれど、どうやら少しだけ気をはっていたらしい。

 ……もし自分が輪廻転生の記憶と同時に、この世界が物語の——決められた世界だと気付いたら。そんなことを少しだけ想像して、やめた。無意味なので。


「先ず自己紹介しよーよ。マキシマイザー・バクっじゃなくて、前世の話。もし誰かに聞かれた時も、そういう空想の話って言えばいい。念には念を、だよね〜」

「念には念、ですか」

「そーだよ」


 彼女は一口アイスティーを飲んで、アフタヌーンティーの一番下、なにか果物と野菜のサラダをつまんだ。


「私、前世では高校生だったんだ〜!……文化祭の買出し中に死んじゃったけど。このゲームはまあ……普通程度くらいしか知らないんだよね。グレーちゃんは?」

「私は……貴方よりも年下ですね。ゲームもアニメも存じ上げないです」

「え!?年下、そっかぁ……じゃあまあ知らない……かも……深夜アニメだったしねえ」


 私もアイスティーを飲んだ。砂糖は入っていないけど、果物で少し甘酸っぱい。


「輪廻転生に気付いたのはいつだった?私、高熱出した時だったんだよね……頭がぼんやりして、辛くて、意識を失ったあと、のような気はするけど、あんまり前後を覚えてない」

「私は……」


 少しだけ口を噤んだ。ちょっとだけ恥ずかしい記憶だから。


「……別に、無理しなくてもいいよ」

「ああいえ、大丈夫です。……予め言っておかないと、お嬢様に変な風に言いそうだから」

「言わないよお、そこまで親しくないもん。階級違うし〜。でも、聞かせてくれるの?」

「対して面白みは無いですが」

「うん、全然いいよ」


 私は、ゆっくりと口を開く。

 前世のことは最小限に、少しだけ隠して、今世の——今までのことを話し始めた。

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