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私が生まれ変わりに気付いたのはいつだっただろうか。
それは幼い頃だった気がする。そう、確かまだお嬢様に出会う前のこと。
本を読んでいた?家庭教師が出した課題を解いていた?それとも花畑で遊んでいた?——兎も角、そんな普段の日常生活の中で、急に気付いたのだ。
ニュートンが、果実が落下するのを見たように。
アルキメデスが、お湯を溢れさせたように。
メンデレーエフが、夢を見たように。
ああいや、結局これらは脚色されているんだっけ。まあ、ここの世界には誰も何もいないから、知る術は無いし。
別に良いか、なんでも。
そう、それはあくまで自然だった。
ただそう思い出すのが決定されていたように、私は生まれ変わりだと気付きを得た。そして、過去の私の死に様も、記憶全て。
それはもう大層不幸な死に様だった。一人で惨めに野垂れ死んだから。
気付いた私は、幼いながらにも狂いそうになった。そりゃそうだ、気付くまではぬくぬくと貴族として幸せに暮らしていたのだ。
それが当たり前だと信じて疑わず。
外れることはないと疑わずに信じていた。
だから——先ず、それが幻であった事実に狂い、次に前世での惨めさに狂い、最後に今迄の幸せさに狂った。
私は暫くの間、外に出ず、ただ本を読みあげ勉強を果てなくするだけであった。
——要は、知らないことと失うことが恐ろしくなったのである。
さて。そんな愚かな私にも転機が訪れる。
それは両親に「世間を知れ」と無理矢理引っ張りだされた茶会であった。
世間を知ることは重要で、そして友人を失うことが恐ろしいと考えていた私は、たった一人も友人を作らずにただお茶会でぼうと当たりを眺めているだけだった。
それは社交デビューとして許される程度の幼い茶会だったので、そんな子供がいてもまだ許されていたのだ。
ただし。
許される、と、人目を引く、は全く別である。
——そこで私は彼女に出会ったのだ。
「貴方、ご友人は?」
そう声をかけられた。
今思えば、愚かにも愚かな決意をしていたのだから、その声を無視してどこかへ逃げ去ってしまえだ良かったのだ。
それでも、私は声の方を見てしまった。
そして、理解した!
私は膝まづいて、彼女の手を取った。
それはもう、散々幼い子供が成熟した騎士のように見えたと言われ続けるくらい。
まるで俯瞰して紡がれる夢のように。
私は彼女に言ったのだ。
「私の友人はカルディア様のみでございます」
彼女は切れ長の目をこれでもかと丸くした。
「貴女と私、初対面よね?私、貴方の名前を知らないわ」
「はい。初対面で、友人です」
「……そう、初対面で、友人」
そしてすぐに満面の——それはもう、悔しいことにここ最近では見られもできないような満面の——笑みをして。
一体どうして皆目見当もつかないが。
思い返せば思い返すほど、過去の自分を罵りたくなるのだが。
不思議なことに、彼女は私の手を取った。
「そうね、貴方と私は友人だった……忘れていたわ。失念してた。ねえ、そんな私に名前を教えなさい!」
「はい、仰せのままに。私の名前は——」
以上が、彼女と私、グレイモアの出会いである。