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機動令嬢伝G-AKUYAKU  作者: スカーレット・オハラショースケ
9/13

ノーロープ有刺鉄線電流爆破舞踏会(中)

最初の一撃で仕留めるはずだった。仕留められるはずだった。


だが、「弾丸」として思い切り叩きつけた公子ゲルマーをあの平民女はさらりと躱した。


そして公子は電流爆破に引っかかり、黒焦げ状態になり湯気を立てて倒れている。


(なぜだ! 通常の人間にはあの速度での突撃を避けるのは不可能だったはずだ!)


なぜ当たらなかったのか悩む前に、婚約者である公子の安否を訪ねろ、と言いたいところだ。


ジャネットの心に、婚約者の公子の姿はもはやない。


彼女の視界には、「とも」というルビを降ることができない絶対的な強敵の姿だけがあった。


最初は彼女も悪役令嬢か、と思った。


彼女の連れ同様、自分に令嬢ファイトを挑んできたのか、と。


だが本人が、悪役令嬢であることを否定し、自分は平民だと告げてきた。


(しかしそれでもこいつはわたくしが今まで出会った中で最強の敵ですわ!)


強い敵に出会ったら全力で叩き潰さなければならない。


「それが悪役令嬢というものなのですわ」


それはこの世界においてもかなり間違った(他の真っ当な乙女ゲー世界では言うまでもない)信条なのであるが、本人がそう思っているんだからしょうがない。


「そぉいっ!!」


ジャネット嬢は気を取り直すと、「次弾」を放った。


それは公国の筆頭将軍の嫡子・アグウェル卿だった。


普通貴族の息子は「卿」付けで呼ばれない。爵位を持っているのが親だけで子はそうではないからだ。


だが高位の貴族の中には複数の爵位を持ち、そのうち比較的ランクが低めだが、由緒はあるものを、息子に与える場合がある。


英国王太子がプリンス・オブ・ウェールズって呼ばれるのご存知でしょ。あれは「ウェールズ公」の意味で、英国王室が持っている複数の称号のうち由緒があるけどランクはイングランド国王より下、という肩書なのだ。


というわけでアグウェル卿は若年ながら爵位を持っている。どういう名前かというとえーと……。どうでもいいでしょ。どうせまもなく退場して二度と出て来ないんだから。


アグウェル卿は悪役令嬢ジャネットによって人間ミサイルとなり、一直線にアンヌ・マリーに向かって吶喊していった。


すでに意識を喪失している。


今度こそ当たった、とジャネット思ったのだが、アンヌ・マリーはこれもひらりとかわし、アグウェル卿は電流入り有刺鉄線に激突して爆弾を破裂させ、公子同様黒焦げになってその場に倒れた。


回復魔法を使える教師が倒れたアグウェル卿に近寄って何やら様子を調べていたが、やがて首を左右に振って十字を切った。


この乙女ゲーム世界における攻略対象者中、最初の死者である。


悪役令嬢ジャネットは本来公子ルートのヒロインに対するお邪魔キャラである。


なのでシナリオ上公子に対してはそれなりの愛情を抱いているという設定なのだが、他の攻略対象者は最初から眼中にない。


遠慮会釈なくたまたま周囲にいた攻略対象者を、次々とアンヌ・マリーの方へと投げる。

ドーン、バチバチバチッ、ドッカーン!!


宰相の子息が、宮廷魔道士の子息が、電流と爆弾入りの有刺鉄線の餌食になる。


公子ゲルマー、将軍の子息アグウェル卿と並び、国中の婦女子にきゃいきゃい言われていたイケメンだったのだが、今やその美貌は見る影もない。


講堂内の一部の男子学生が、ひそひそと語り合う。


「ひでぇな」


「ああ、俺は以前あいつらの顔を見ながら『イケメン爆発しろ』と何度も思ったものだが、まさか本当に爆破するやつが出てくるとは……」


「かつて言ったことが現実になって正直『ざまぁ』と思ったけど、あそこまでボロボロになるとちょっとかわいそうな……うわっ!!」


ひそひそ話をしていた男子生徒の一人が、悪役令嬢ジャネットに襟を捕まれ、新たな人間ミサイルとしてアンヌ・マリーの方へとぶん投げられる。


当然のようにそれは躱され、男子生徒は有刺鉄線で電流爆破された。


その顔は攻略対象者たちと同じように二目と見られないものとなった。ある意味ジャネット嬢は平等主義者なのかも知れない。


そのジャネットは、内心焦りを感じていた。


(なぜ、なぜなの、なぜ一発もあの女には当たらないの!?」


ジャネットの表情を読み、アンヌ・マリーはにやりと笑う。


「どうして自分の攻撃が通用しないか、と思い始めたようね」


「!」


「そろそろ種明かしをしてさしあげますわ。結論から先に言うと、わたくしを倒す場として舞踏会を選んだ、そのことが大間違いだったのですわ」


「なんですって?」


驚愕の表情を浮かべるジャンヌ。アンヌ・マリーはどこからか扇を一つ取り出して広げ、自分の口元を隠すようにしつつ、落ち着いた声でジャンヌに言った。


「『舞踏会』……文字通りなら『舞』と『踏』を演じる会ということになりますわ。『舞』水平方向の円運動、『踏』は垂直方向の運動ということになりますの」


「それがなにか?」


「ただ実際に舞踏会で行わるのは、『舞』だけで、垂直運動の『踏』は行われませんの」


ジャネットはちょっと頭が痛くなってきた。アンヌ・マリーの言う事の半分も理解できない。


「わたくしたち淑女は、幼いころから社交ダンス、つまり『舞』の練習に努めてまいりましたの」


「だからそれが何だというのよ!」


「あなたの直線的な攻撃は、いくらスピードを乗せていても、水平方向の円運動で簡単に回避することができるということですの!」


ジャネットはアンヌ・マリーの言ったことを咀嚼しなんとか理解しようとしたが、頭痛が激しくなるばかりで一向にわからない。ついには頭のからピーという音を立てて湯気を吹いた。トシちゃん感激ー!


「わ、わ、わたくしは……」


拳を握りしめ、ブルブルと震える悪役令嬢。


「わたくしは、負けませんわー!」


そういうとジャネットは右腕をぐるぐると回した後に真横に突き出し、アンヌ・マリーに向かって突進する。


「まだおわかりになっていないようね」


アンヌ・マリーは隣で硬直していたダンスのパートナーの足首を掴み、横に薙いだ。


パートナーは見事な円軌道を描き、ジャンヌの膝横に激突した。


「くぅっ」


思わず膝をつくジャネット。しかし怯んだのはほんの一瞬で、彼女は立ち上がってファイティングポーズを取ろうとした。


しかし。


「な、何だとっ」


ジャネットが見たのは、風のように素早く彼女に接近するアンヌ・マリーの姿だった。


「だがその動きは直線! 直線同士のぶつかり合いならわたくしが有利!!」


「そうね、直線同士ならあなたの方が有利ね」


そのまま肩からぶちかましてくる、と思われたアンヌ・マリーだが、ジャネットの膝を踏み台にして宙に舞い、ジャネットの側頭部に渾身の蹴りを打ち込んだ。


「うあっ、……ああっ」


崩れ落ちるジャネット。


着地したアンヌ・マリーはくるりと回転してジャネットの方に向き直る。


「どうかしら。これこそが円運動を基本とする社交ダンスの極地技・フランケンシュタイナーですわ!」


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