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機動令嬢伝G-AKUYAKU  作者: スカーレット・オハラショースケ
8/13

ノーロープ有刺鉄線電流爆破舞踏会(前)

※今回は本文中にある曲をYouTubeとかで再生しながら読むと盛り上がると思います。



「レディースエンドジェントルメン、アンドおとっつぁんおっかさん!」


どこかで聞いたようなフレーズが、フランクンフルター魔法学校の講堂内に響き渡る。


ちなみに生徒の父兄は誰も来ていないので、後半はただのネタになっている。


「皆さんお待ちかね! フランクンフルター魔法学校新入生歓迎舞踏会の始まりだぁ!」


講堂内の生徒たちは全員顔を真っ白にしているので、「お待ちかね」なのは一人もいないとすぐわかる。


どうもこの司会(生徒会の一員だ)、場の空気を読めず一人で勝手にハイテンションになるタイプらしい。小指立ててるし。


令嬢ジャネットの予告どおり、舞踏会の会場となる講堂内には、ぐるりと有刺鉄線が張り巡らせてある。


もちろん有刺鉄線には電流が流されており、その要所要所には爆弾が仕掛けられている。運営担当者はあくまでも演出用の花火だと言い張っていたが。


全生徒はその有刺鉄線の内部におり、外側にはこちらの世界のオーケストラっぽい楽団がいた。


指揮者が入場し、指揮台に登ると、天井からがらがらと頑丈そうな鉄製の檻が降りてきた。


檻はがっしゃーんという重たげな音とともに、その中に楽団員全員を取り込む。


「危険ですから、楽団員の方々は鉄格子の中で演奏していただきます!」


場の空気を1ミリたりとも読もうとしない司会者が声を張り上げる。


対して中の生徒たちは(やっぱり危険なんだ……)とうなだれた。

中にはひざまずき、十字を切って神に祈りを捧げているものもいる。


まあ危険でないわけないんですけどね。


全生徒が絶望の底に突き落とされた結果、講堂内は静寂に包まれた。


「さあ盛り上がってきました! では、本日の主役の一人! 転入生のアンヌ・マリー・ド・バトロワゼル嬢の入場だ!」


司会が叫ぶと、楽団が音楽を奏で始める。


それはこちらの世界でいう、ベートーヴェンの交響曲第五番「運命」の冒頭部分だった。


アンヌ・マリーがこんな感じで演奏してくれ、と楽団に頼んだ結果である。


だがその「運命」も冒頭の数小節しか演奏されず、曲は激しいテンポのロックに切り替わる。



こちらの世界の現代音楽の知識がある人間が聞けば、こういうだろう。


「レッド・ツェッペリンの『移民の歌』だ!」


なお、ヴォーカルなしのインストゥルメントバージョンである。


「移民の歌」をバックに、講堂に入場して来たのは悪役令嬢アンヌ・マリーである。


その背後から侍女のアーデルハイドが、大きな箱型のカバンを持って、ちょこちょことついてくる。


あ、これ伏線ね。


一時的に電流がオフにされ、アンヌ・マリーとそのパートナーは、有刺鉄線を上下にかきわけ、講堂内に入ってくる。


侍女アーデルハイドは有刺鉄線の外側で待機。


悪役令嬢は「オゥ! オゥ!」と叫びながら、ダンスのパートナーとなる男子生徒の襟を掴んで引きずり、周囲の生徒を威嚇する。


なお、このパートナーはこのゲーム世界で本来攻略対象として設定されていた一部を除いた魔法学校の男子生徒の中から、厳正なる抽選で選ばれたものだ。


名前は……えーと、まあいいわ。すぐに出番のなくなるちょい役だし。


「映えある転入生のパートナーとして選ばれ、感動のあまり体を硬直させています! 皆さんパートナーに盛大な拍手を!」


司会者はそう言うが誰もアンヌ・マリーとそのパートナーの方を見ようとしない。その気持はわかる。


やがてアンヌ・マリーとそのパートナーは講堂の中央部に到達した。


講堂内は静かにざわめき、やがて静かになった。


「さて会場内の皆さん! 我らが生徒会長!! ジャネット・カーリー嬢の入場だ!」


ダダダンッ! という打楽器の音が響き、それに続いてこちらの世界のちょっとおっさんおばさんになった人なら聞き覚えがあるかも知れない旋律が流れてきた。


「パワー・ホール」である。


先ほどアンヌ・マリーが入ってきたのと反対側の入口から、悪役令嬢ジャネットが入場してくる。


彼女のパートナーは、フランクンフルター公国を舞台とする乙女ゲームのメイン攻略対象者である第一公子ゲルマーである。


こちらも顔面蒼白で、かろうじて粗い息を吐いているに過ぎない。


だがメイン攻略対象なので、アンヌ・マリーに配された名無しのように、襟を捕まれ引きずられるといった目には遭わされていない。


放って置くとへなへなとその場に崩れ落ちてしまうので、ジャネットががっちりと腰に手を回して無理やり立たせているのだ。


ちなみに学校の名前やキャラのネーミングがかなり酷いので、この地を舞台としたゲームがかなりろくでもないものであったと思われる。


他の地を舞台にしたゲームは、もうちょっと真面目な設定がある……のかも知れない。


ジャネットとゲルマー公子は、講堂の中央に進み、歩みを止めた。


ジャネットが腰に回していた手をちょっと緩めたので、ゲルマー公子はその場にばったりと倒れた。モロに顔面を打ったようである。


「おやぁ? 公子殿下は感極まって立ちくらみでも起こしたのでしょうか? 床に倒れたまま起き上がれません」


感極まったのは間違いないが、多分司会者が思っているような展開で倒れたのではないだろう。


「困りましたねえ。この場で最も身分の高い公子に、開会の挨拶をしていただきたかったのですが……」


司会者が全然困っていそうにない声でそう言うと、ジャネットが答えた。


「大丈夫ですわ。これこの通り」


また公子の腰をガッチリと掴み、無理やり立たせる。


「では、これよりフランクンフルター魔法学校の新入生歓迎舞踏会を開催するものとする(裏声)」


公子は半ば意識を失っていて声など出せる状態ではない。ジャネットに立たされかつ後頭部を捕まれ前後にがっこんがっこんやられたので、顎がぶらぶらと動いて喋っているように見えただけだ。


もちろん声はなんちゃって腹話術でジャネットが当てている。


というか、この令嬢こんな扱いをしていて、本当に公子を心から愛しているのだろうか。


ちょっと悪役令嬢道にもとる行動をしているように見えるが、その謎はやがて明らかになるだろう。


ジャネットは公子の腰に腕を回して立たせたまま、アンヌ・マリーを睨みつける。


アンヌ・マリーも睨み返す。両者ともに気迫十分で、目から何やら出てきそうな勢いである。


有刺鉄線の外側からそれを見ていた楽団の打楽器奏者が、びびってバチを取り落とす。


それが前にいた演奏者の持つチューバっぽい楽器にあたり、「カン!」と音を立てた。


それがゴング代わりとなり、二人の悪役令嬢はすばやくそれぞれ一歩下がり、ファイティングポーズを取る。


「指揮者、音楽! 音楽がなければ舞踏会は始まりませんわ!」


ジャネットが吠える。


指揮者はやけくそになって棒を振り、楽団員もまた「どうせ人は一度は死ぬんだ!」などとわけのわからないことを言って演奏を始める。


始まった曲は優雅な円舞曲だったり。


しかし、令嬢ジャネットのムーブは、優雅でもないし音楽に合ったものでもなかった。


「そぉい!!」


ジャネットはそう叫ぶと、腕の中にいたゲルマー公子を、思い切りアンヌ・マリー目掛けて投げつけたのである。


さっと避けるアンヌ・マリー。


そのまま障害物のない行動内をすっとんで言った乙女ゲームの筆頭攻略対象者は、舞踏会会場を取り囲む電流入りの有刺鉄線にぶち当たる。


公子は有刺鉄線に仕掛けられた爆弾の爆発に巻き込まれ、全身焼け焦げ状態になってその場に倒れた。


これはダメかも知れない。


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