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気泡

 光は耐え切れず、自分の部屋を出た。夜更かし屋な兄ももう寝静まったろう深夜、気持ちの悪い心地良さと出どころの知れぬ不安感に襲われ、光は長いこと眠れずにいた。目は冴え、布団の間にいる気持ちよさはあれど、横になっていることが苦しく、彼はそっと一階に降り、廊下のオレンジ色の灯りをつけた。寝息の充満した二階とは違う、冷えた、清涼さのある空気を吸い込み、幻想的な滝と森を思う。そういうところで羽を伸ばしてみたかった。

 彼は廊下からリビングに入り、空間を区切る扉を閉めた。戸にはまった磨りガラスから差し込む仄かな光がリビングを薄く照らし、繊細な中学生が浸るには最適なギリギリものが見えるくらいの明るさになる。光はその中を進み、ソファに座り、寝転がった。薄暗い部屋に自分の存在が溶けていくようで、ああ、今自分は誰でもない、と思う。それだけでも不安を忘れることができた。誰にも、何も思われていない。自分は渋谷光ではない。自分は誰でもないのだから、未来を心配しなくともいい。

 誰の気配もない真夜中とは、妙に心地よく高ぶるものだ。それに学校もなく、何にも追われず、永遠のような時間を自由に過ごせる。大抵は寝て過ごすけれど、最近はどうもごちゃごちゃした不安が浮かび、寝付きが悪かった。些細なことで傷ついた記憶を思い返して、友人の発言の意図を深く勘ぐったり、将来のことで心が折れたり、お気楽な大人たちへの怒り。そう、どうせ、思春期で小さなことを重く感じてしまうだけのガキっぽいセンチメンタル。実際そうでしかないのだけれど、こっちはそれで圧死しそうなほどいっぱいいっぱいなのだから思春期なんて一言で終わらせてほしくないものだ。ことん、ことん、と取り留めのない考えごとをしながら、光は枕にしていたタオルケットを広げ、自分の身体にかけた。幼い子どもがリビングで昼寝をしていた名残で、全員でかくなった今は、寒いときに包まる用だ。リビングには二枚ほどタオルケットが常備されていた。

 もうどうだっていいのだ。未来のことなど。夢のことなど。どうせ叶いはしない。どうせ挫折して一から新しい道を探さなければならなくなる。センチメンタルに飲まれて全てを投げ打ちたかった。傷つきたくないもの。

 ああ、ビールでも飲みたいな、まずいらしいけど。

 ぐったりとした疲れに、頭痛が重なってこたえた。早く寝つきたくてそう思った。成人した兄からはビールは苦いとかなんとか聞くけれど、ほかにぱっと思いつく酒がなかった。炭酸は、苦手だけれど、アルコールの力を借りれば気持ちよーく何も考えずに眠れるのではなかろうか。気を失うように、意識が濁って、遠のいて。どれも願ってやまない効能だ。どうせ明日にはけろっと楽になっているのだから、さっさと寝て、苦しむ時間を減らしたかった。

 光がのっそりと寝返りを打つ。やがて、リビングには寝息が響き始めた。

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