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 学校に到着した。何やら校舎全体が騒がしい気がする。

 近くの席の比較的よく話す子に訊ねてみると、私がズル休み敢行していた最中に学校ではめくるめく愛憎劇が繰り広げられていたそうだ。

 登場人物は三年の美人生徒会長。一年の超人気有名生配信者。そして二年のアイドル的存在だそうだ。なんでもその三人が一人の男を取り合って争っているそうだ。

 正直あまり興味はない。他人の色恋沙汰なんてどうでもいい。私にとって重要なのは長十郎だけであり――


「ん? 桃瀬?」

「そう、二組の桃瀬ちゃん。この前なんか手作りのお弁当持ってその男子と待ち合わせしてたんだって」

「え?」

「そしたら一昨日は普段は学食の生徒会長がお弁当作ってきて、昨日は滅多に学校に来ない一年の有名な配信者の子もそれを真似したみたいで、今日はどうなるのかってみんな噂してるんだよ」

「……ちなみにその男子の名前は?」

「確か八組の辰川くん……って、そういえば鈴木さんの幼馴染みだっけ?」

「……ごめん、やっぱ体調悪いから保健室行くね」

「え、大丈夫?」


 心配して付き添おうとしてくれる級友の申し出を断りながら保健室へ。

 まじで顔色が悪いとのことで保健の先生はベッドを快く貸してくれた。


「いやなにやってんのあいつ?」


 桃瀬だけでも接点が謎だったのにどこで生徒会長と有名配信者をたらしこんだん?

 あなたバイト漬けの生活じゃありませんでして?

 つーか、三学年それぞれで一番可愛い女の子。

 弓道部でインターハイに出場したクールな生徒会長。

 とにかく可愛らしい学園のアイドル的存在。

 その明るく強烈な性格でチャンネル登録者数八十万を越える有名配信者。

 クールとキュートとパッションを取り揃えてらっしゃいますね。


「もう無理ゲーじゃん」


 いや本当はまだワンチャンあると思っていました。

 どれだけ桃瀬が可愛くたって、長十郎の美的感覚と合致しない可能性があるわけじゃないですか。蓼食う虫も好き好きと言いますしね。でもだからって、あんなん用意されたら無理ですやん。和洋折衷バイキングですやん。


「なんか、馬鹿らしくなってきたな」


 主人公か。あいつは主人公だったのか。

 なんかもうあの三人のヒロインの誰を選んでも長十郎のこと養えそうだし、なんなら借金問題も解決しそうだし、その上で華のキャンパスライフでも送れるんだろうなって気がしてきた。

 私のような一般的女子高生じゃあできないことをやってくれることだろう。

 美女三人に囲まれてハーレム生活ですか。良かったですね、おめでとうございます。別にすねてないよ。都合良く使われてぽい捨てされるんだとかも思ってない。

 私が好きでやったことだ。そりゃあ下心がなかったわけじゃないけど、それでも、長十郎の力になってあげたくてやったことだ。

 おじさんが死んじゃって、ずっと笑えていなかったあいつが笑えるなら、なんでもいんだよ。本当に。


「あ……はっ……あああっ……」


 頭を抱えながら嗚咽を漏らす。

 ここまでトントン拍子に状況が悪化することがあるなんて。

 勝手に追い詰められてみっともない。全部自業自得だ。

 行動しないことを選んだ私が悪い。


「……くそぅ」


 でも、行動したところで結果は変わっていたんだろうか。

 もしも私がとんでもない美少女だったら、特殊な技能を持っていてお金を稼ぐ力があったら、文武両道で将来有望な才媛だったら。

 もっと自己肯定感も高くて、勇気もあって、あいつの不遇をどうにかできる力もあって、告白もできていたかもしれない。

 でも実際の私はどこにでもいる平々凡々な女子高生。そう考えると、私の恋は始まる前から終わっていたと言えるのかもしれない。

 いや違う、言い訳だ。自己正当化だ。

 告白しなかった理由なんて指折り数えても虚しいだけ。


「……これからどうしよ」


 あいつがハーレムを築くにせよ、誰か一人を選ぶにせよもうお昼を一緒に過ごせそうにない。それはつまり、あいつとの接点の八割が消え去るということだ。

 そしてそれが何を意味するかというと、私の人生の八割が虚無と化すということ。


「なーんもやることがない」


 趣味の料理も、将来のための勉強も、長十郎を手に入れるためにやっていたこと。

 その努力が無に帰したとき私は何をすれば良いんだろう。別にそのまま続けとけよって感じだろうけど著しいモチベーションの低下は避けられない。


「なにしよっかなー」

「授業に出なさい」


 諦観が涙を引っ込めたらいつのまにか元気になってた。

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