表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

4

 それができれば苦労はしねぇ、と私の中の会長が言っている。

 しかし、できなければ実際問題ゲームオーバーなわけで。結局のところ、私に行動を起こす以外の選択肢は残されていなかった。

 眠れぬ夜を過ごした後は、早起きをして朝食と三人分の弁当を作る。

 弁当は私と姉と、あとは長十郎の分だ。手を抜くと姉がうるさいが、あまり凝ったものを作ると長十郎に恐縮されるので塩梅が意外と難しい。

 でもまあとりあえず肉、あとは卵焼きでも入れておけばどっちも文句は言わないので楽と言えば楽ではあるけど。私は出汁巻の方が好きだが二人は砂糖派だ。


「うっし、やるぞ」


 気合いを入れて、気合いを入れる。あまり長い時間は掛けられない。

 短期決戦だ、兵は拙速を尊ぶ。やられる前にやれと偉い人も言っていた。


「ハンバーグ、卵焼き、ベーコンとほうれん草のソテー、ミニトマト」


 シンプルに行けば良い。シンプルに。

 下手な小細工は気付かれる。緊張を悟られてはいけない。

 昼休みになったら長十郎と一緒に弁当を食べ、雑談に乗じて好みのタイプを聞く。疑われそうになったら桃瀬の名前は伏せて正直に話せば丸い。

 長十郎だって年頃の男だ、自分を好きな女子がいると聞かされたら嫌でも意識はしてしまうはず。そこで私が好みのタイプの情報と思春期の心の隙を存分に利用し、桃瀬が行動を起こすよりも先に、私のことを好きになってもらう。


「お前が告白するんとちゃうんかい!」

「あいたっ⁉」


 後ろから姉にチョップされた。私はとても痛かった。


「え、なに? この期に及んで? 告白する気はないと?」

「……アクションは起こすつもりでいる。でも、桃瀬さんより先に告白はしない」

「一応聞くけど、なんで」

「長十郎には、幸せになってほしいもん」


 選ばれたいと思っている。選ばれる努力をするつもりでもいる。

 でも、家庭環境のせいで我慢を強いられ、少ない選択肢の中で生きている。

 そんな長十郎には、可能な限りたくさんの選択肢をあげたい。

 私が選ばれるにしても、桃瀬が選ばれるにしろ、どちらも選ばれないにしろ。


「はぁ……」


 姉が呆れたように溜息を吐く。


「あんたは男女の色恋以前に、本当に長十郎のことが好きなんだねぇ……」

「……うん」

「私はてっきりフラれるのが怖くなったのかと」

「そんなわけないじゃん」


 そう、私は告白してフラれるのが怖いんじゃない。

 正確には万が一告白に成功したとして、後になって「やっぱり桃瀬にすれば良かった」とか思われるのが怖いのである。たとえ長十郎と付き合えなかったとしても、あいつとの関係が終わってしまう方が何倍も嫌だ。

 へたれと思うだろうか。いいよ、別に。何とでも言え。


「おっ、ハンバーグ入ってるじゃん」


 そんな私の内心を露知らず、姉はよくやったと私の背中を叩く。

 魔法瓶に味噌汁を流し込みながら、私は深く溜息を吐くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ