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6 IQと上着

 どうやら熊総理と電話で連絡が取れたらしい亜翠さんを置いておくことにして、他の4人は俺と話しながら鍋をつついているらしい。。


『たっくんってニートだって聞いてたけど実は頭良いの?』


 香月さんが、少し気まずそうに聞いてくる。


『さぁ……それはどうかな。個人的には合ってると思ってるけど、さっきの話だってそこまでの自信はないですよ』


 ここに集まっているみんなは亜翠さんを除き、とても良い大学を出ていたはずだ。

 りつひーに関しては噂程度だったけど、香月さんと矢張さん、矢那尾さんの3人は、超高学歴で間違いがない。

 対して、俺は高校中退のニートだ。

 そんなやつが地球寒冷化理論を語ったところで、殆どの人は信じたりしないだろう。


『じゃあさIQっていくつかわかる?』

『あぁうん。病院で検査したのだと108~115くらい。ネットでやるのだと115~130くらいまででマチマチかな。どっちにせよ、高IQ集団には入れない感じです』


 俺は高校を過ぎた頃からは何をやっても駄目だった。

 それ故か、26歳のときに声優の夢を一度諦めた時に、発達障害を疑って専門医を受診した。

 結果として、診断結果は混合型ADHDということだった。混合型というのは不注意と多動や衝動性の両方を併せ持っているということらしい。

 処理速度は障害者ギリギリ手前のような値で、他の項目が高いことで全体のIQを底上げしていた。端的に言えば、頭の回転はそこそこ速いが絶望的にトロいのである。

 その結果を盾に、健常者には絶対に処方されない、メチルフェニデート徐放剤を処方されて服用している。2ヶ月に一度医者にも掛かっていた。

 しかし、俺は今ではその薬が原因で統合失調症を発症した可能性を考えていた。

 薬を服用するのを中断したほうがいいかもしれない。


『へーそうなんだ。私もネットのは130くらいかなぁ? 高IQ集団は130以上が安定して出せないと入れないんだっけ? まぁ、余り興味ないけど』


 香月さんが自身のIQを口にする。


『うん、確かそうですね。てか香月さんIQ高いんだー。やっぱり声優さんはIQ高い人多そうですよね』


 俺がそう言うと、今まで黙って聞いていたらしいりつひーが喋り始める。


『小日向さんのIQもそこまで高いってわけじゃないし、高校中退のニートだし、やっぱり地球寒冷化なんてしないんじゃないですか? 確かにテレパシーは出来てるって思うけど……でもそれとこれとは別な気もします』


 りつひーは冷静に実情を指摘する。

 まぁ俺も正直言ってそう思う。

 それにこれもテレパシーではなくてただの幻聴なのだろう。

 俺がそう考えていると、矢那尾さんが声を上げた。


『でも……りつひちゃん。小日向さんの寒冷化理論、今考えてたんだけどたぶん銀河宇宙線が多くなると地震や火山活動が活発になるらしいってところ以外は結構的を射てるように思うんだよね……私だけかな?』


 科学に興味があるらしい矢那尾さんが、そう所見を述べる。


『さぁ……私にはなんとも……。ただ一番の肝であるその銀河宇宙線ってのが、地震や噴火を誘発しないんだったなら大前提が崩れません?』

『それはまぁそう思うけど……』


 りつひーと矢那尾さんが俺の寒冷化理論について議論していると、矢張さんが『まぁそれはそれとして! テレパシーは出来てるんだから、たっくんには何かあるって私は思うな』と俺を擁護してくれる。

 そんな話をしていると、亜翠さんが熊総理との電話を終えたようで会話に入ってくる。


『たっくん。それなりに状況説明はしておいた。熊総理は専門家を交えて一度検討してみるってさ』

『そうですか……まぁそうおいそれとは政府は動いたりはしないですよね』


 俺はどうせそんなところだろうと思っていたので、驚きはない。


『でも、もしかしたらたっくんに東京へ来てもらうことになるかもって言ってたよ』

『えぇ……外出ですか。俺最近太っちゃったんで、着れる冬用アウターが寒冷地用のがっつりダウンジャケットしかないですよ……』


 俺が情けなくそう告げると、香月さんが驚きの声を上げる。


『えぇ、そうなの!? じゃあ買いに行ったらいいじゃん! 明日お母さん休みじゃないの?』

『いや、さすがに土日は休みだと思いますけど』

『じゃあいいじゃん。車の運転出来る?』

『はい。それはまぁ』

『おぉ! じゃあ、上着買いに行きなよ!』


 香月さんがそう提案してきて、俺は上着を買いに行くことに決まった。

 ただし車を運転している時に幻聴が聞こえてきたら事故りそうで怖くはあった。

 翌日。出かける前に亜翠さんに話しかけると、『ごめん、私、今日仕事……』と返答があった。

 ならば幻聴での会話はお預けか……と少し寂しくなった俺だったが、香月さんが『私、今日お休みー!』と言うので香月さんと会話しながら買い物に出かけることになった。


『でも運転中は話しかけないでくださいね!』


 と軽く釘を刺すと、香月さんは『分かってる分かってる!』と応じた。

 俺はそれを信じて車に乗り込むと、片道30分かかる市街地への道程を走り始めた。

 結局、車の運転中は幻聴と会話すること無く、無事に目的地のアメカジ屋さんに到着した俺は、頭の中で香月さんとの会話を再開した。


『着きました!』

『おぉ! 運転お疲れ! んじゃショッピングと行きますか!』


 香月さんと会話しながら店へと入っていき、入ってすぐ左手でアウターのコーナーを見つけた。


『香月さん、どれが良いと思います?』

『うーん……見えないからなんとも言えないけど……』

『ですよね。適当に選ぶかぁ』

『どんな商品があるか教えてくれれば一緒に選ぶよ!』

『分かりました……じゃあまずはこれかな?』


 俺はまず目に入った紺色のPコートを手に取った。

 しかしこの年齢になってPコートを着るというのもなんだがおかしく思えた。Pコートって若向けじゃないの? と思っていたからだ。ファッションに疎い俺にはよく分からなかった。


『まずはPコート……取り敢えずLサイズ選んで着てみます』

『おっけー』


 袖を通しただけで分かった。これは俺には着れない。


『無理でした……デブですみません』

『まぁ良いってことよ、自覚があるなら痩せなさい』

『はい……XLサイズもPコートはちょっと入りそうにないなぁ』

『他には何があるの?』

『普通のロングコートとチェックのやつと、あとミリタリージャケットっぽいジャケですね』

『ふんふん……たっくん、普段はほぼジーンズだっけ?』

『はい』

『じゃあロングコートはなしかな、なんとなく私のイメージに合わないだけだけど……。それとチェックのはなし! オタクはそういうの着ないほうが良いよ! チェックはファッション上級者になってから!』


 香月さんが俺のアウター選びを手伝ってくれる。

 俺はなんだか彼女と一緒に買物に来たみたいで、内心とても楽しくなっていた。


『じゃあこれですかね? ミリタリージャケット風のフェイクファーのフード付き』

『色はー?』

『黒と紺と緑の3種ありますけど……』

『うーんその中なら緑かな? サイズは? Lサイズ着れる?』


 俺は香月さんの見立てに従い、まずはLサイズに腕を通した。

 かなり大きめに作られているらしいそれは、太った俺の体躯でもなんとか着ることが出来た。


『一応普通に着れました。けど、どうだろうXLサイズのほうがいいのかな?』

『両方着てみて選んだらいいよー』

『そうですね。そうします』


 俺は香月さんのススメに従い、XLサイズにも腕を通した。

 かなり大きい。でもLサイズよりも大きい分着心地が良かった。


『かなり大きいですね。でもこっちのほうが着心地はいいかな』

『ふんふん……どっちにする?』

『うーんどうしよう……』

『迷ったなら、私が決めてあげようか?』


 香月さんがファッション上級者ぶってそう言ってくる。

 ちょっぴり悔しかったが俺が選んで間違えるよりはましだろう。


『じゃあお願いします!』

『オーバーサイズが少し流行ってるからXLサイズのほう!!』

『分かりました!』


 俺は香月さんに言われるがまま、XLサイズのミリタリージャケット風のジャケットを手に取ると、レジへと向かった。

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