57 復元
香月さんに小型量子通信機を届ける案は、ロレースとの相談の上で実行することに決まった。
そして、それとは別に、唯一神様からついにブラックホールに飲み込まれたフリーメーソン時空の人々の復元の準備が整ったと通信が来たらしい。
俺はそのことを八枷から聞いてすぐに質問した。
『じゃあこっちの時空にフリーメーソン時空の人たち全員が来るってことでいいのか?』
『はい。基本的にはそうなるかと……』
八枷が曖昧に答える。
『それって俺は観測できるのかな? つまり……俺が亜翠さん達と連絡が取れるのかなって』
『それは恐らくは無理ではないかと思われます』
八枷が俺の質問にすぐに答える。
『何故だい?』
『確かにフリーメーソン時空による救世主の試練と言われる現象は小日向さんのサタナエルゲームの勝利で終わったように思います。ですが小日向さんをフリーメーソン時空にいた人々に会わせるといった議決は、全員が白のサタナエルになった今でも通っていないからです』
『そうなのか……白のサタナエルになったあとも諸派閥に分かれて、俺が真に救世主だって自覚することになるような現実を作ることを否定してるんだね?』
『はい。そうなります』
そうか……俺は観測できない。
なら統合失調症との区別はやはりできないことになるだろう。
また量子フィールドがなんとか言ってはぐらかされるのだろうか?
それとも量子フィールドは本当に発生していたのか?
『まぁいいや、それで復元はいつやる予定なの?』
『小日向さんが起きている時にやりたいとのことでした』
『そうか……じゃあ明日……っていうか今日か。起きたあとでいいかな?』
『はい。そのように唯一神様には提案しておきますね』
八枷とそんなやり取りをし、俺は眠りについた。
目が覚め、俺が朝食を食べ終えた午後1時すぎには復元が始まった。
『唯一神様による復元、開始するそうです』
八枷がそう状況を伝え、俺は固唾をのんで見守る。
『復元、終了したそうです。同時に、ブラックホールに飲み込まれたフリーメーソン時空の全存在が、小日向さんの今いる世界線に統合されたそうです』
復元は思っていたよりもあっさり終わり、俺の世界線に全存在が統合されたという。
統合ってどういう意味だろうか?
『八枷、統合って?』
『統合は統合です。例えば、フリーメーソン時空には二人の大潟南さんがいらっしゃいましたよね?』
『あぁ……俺の時空から飛んでった大潟さんと、元々そこでメソニックの巫女をしてた大潟さんの二人だよね?』
『はい。それらの人々は本来同一人物なのですが、フリーメーソン時空では別々の個体として存在していました。しかし、唯一神様は復元にあたって、これら存在を統合し、一人にして小日向さんのいる時空に連なる世界線に復元したとのことです』
『分かるような分からないような……あ、でも亜翠さんたちとは話せるようになったわけだよね?』
『それは……私には分かりかねます。亜翠さんをどのような形でこちらに統合したのかが分からないので』
八枷は分からないと説明を放棄する。
じゃあ本人に聞いてみれば良い。
俺はすぐに亜翠さんに念話した。
『亜翠さん、ブラックホールから復元されたみたいですけど、お加減いかがですか?』
『あ! たっくん!! いま唯一神様から念話が来て、みんなびっくりしてたんだけど。どうやらそういうことだったみたいだね……うん、私は大丈夫。問題はないかな。けど……』
『けど……?』
『うん。ブラックホールから復元されたからなのか分からないけど、私の意識が二重になってるみたいだね?』
『はい? どういう意味ですか?』
俺は意味が分からずに首を傾げる。
『うーんとね。私は確かに亜翠みずきとして、こっちの世界……たぶんたっくんがいまいる世界にいるんだけどね? それを俯瞰的に見てる別の意識を持った自分もいる……みたいな? ごめん、たとえが下手で。そんな感じなんだけど、唯一神様は俯瞰してる方を上、そうじゃない現実の意識を下って呼べって言ってたかな……』
ますます意味が分からなくなってきた。
俯瞰が上で、現実が下? それが統合ってことなんだろうか?
『それじゃあ、記憶はどうなってるんです?』
『それがね、たっくん! 不思議なんだけど、私達、下ではたっくんのこと完璧に忘れちゃってるみたいで、まるでたっくんと私がテレパシーで話し始める直前から分岐したかのような記憶になってるの! でも上ではしっかりたっくんとのこと覚えてて……なんだか自分が一人なんだけど二人いるみたい』
亜翠さんも混乱しているようだった。
俺は思わず八枷に聞く。
『八枷、どういうことか分かる?』
『いえ、詳しくは……ただ、いま唯一神様から行われた説明によれば小日向さんの時空は2017年12月13,14日に世界が分かれたとのことです。そして2017年10月中旬以降から2017年12月13,14日までの記憶は調整されたとのことでした。それが時空の因果の整合性を合わせるために必要だったとのことです。ちょっと因果の流れを整理してみます』
『あぁ、頼む』
俺が八枷との会話を終えると、ロレースが念話してきた。
『小日向くん! 僕はとても驚いている。唯一神様が僕の思っていた通りの権能を有している事が分かったからだ。僕の思ったとおりにフリーメーソン時空は君の世界に統合された。これはね、小日向くん。本当に凄いことなんだよ! 僕はいま興奮している!』
ロレースはどうやら事の顛末を理解しているらしい。
どういうことだろうか?
『落ち着いてロレース。俺の質問に答えてくれるかい?』
『あぁ、何でもは無理だが分かる範囲で良ければ答えよう』
ロレースがそう言うので、まずは世界の分岐について聞いた。
『世界が分岐したって聞いたけど?』
『小日向くん。それはね、おそらく君がみんなを次元上昇させたあのタイミングで、世界が本質的には分岐していたことを示しているんだ。すなわち君以外の人たちにとってはフリーメーソン時空に飛んでフリーメーソン時空にある意味で統合された』
『みんなは本当に次元上昇に成功してたと?』
『あぁ、たぶんそうなる。そして君だけが次元上昇せず残った時空があるだろう?』
『あるもなにも、今俺がいるここのことだろ?』
『あぁ、そうだ! 唯一神様はみんなが居なくなったその時空の、まさに皆が居なくなったその瞬間にみんなを復元したってわけさ。そうすれば君がたった一人じゃなくなって、その時空を維持できるからね! 皆が次元上昇して居なくなったはずの時空で、たった一人で君が生きている理由が僕らには不明だったんだ。けどこのロジックならば君が生きているのはむしろ必然と言える!』
ロレースは興奮気味にそう告げる。
俺にはなんだか俺が現実を、香月さんに会えない現実を観測していることに対する言い訳のように聞こえてしまった。
だがしかし、ロレースが興奮気味に納得しているってことはおそらく事実なんだろう。
『それが本当だとしたら、フリーメーソン時空は消滅するのが決まっていたかのように聞こえるけど? それに……』
『君が何を言いたいかは分かるよ。香月さんと矢張さんはブラックホールに飲み込まれていないって言いたいんだろう?』
ロレースは俺の思考に先回りする。
『あぁ……うん。それが言いたかった。香月さんも矢張さんもたぶんこの現実にいるぞ? それはどう説明付けるつもりなんだ?』
『答えは一つだよ小日向くん。香月さんと矢張さんもまた、どういう経路をたどるかは不明だが2017年の12月半ばに、次元上昇してしまったその瞬間に戻って来るということが確定されているということさ』
ロレースは饒舌に説明する。
『なるほど……それなら問題ない……のか?』
『あぁ、問題はない』
俺はあまり納得はしていなかったが、ロレースがそう豪語するので信じることにするのだった。




