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統合失調症の俺が確かに世界を救った話  作者: 成葉弐なる
第2章 フリーメーソン篇

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56 たった一人のクリスマス

 批判の対象に晒され続けて4日が経った。

 今日は2017年12月24日日曜日。クリスマスイヴだ。


 俺は批判に晒されることで、文字通りに頭がおかしくなっていたが、時折話す箱辺さん達や八枷との会話で気を紛らわせていた。


『八枷。そう言えば、アインズゲート時空でも今日はクリスマスイヴなのか?』

『はい。こちらでも今日はクリスマスイヴですよ小日向さん』

『じゃあ、他の研究所メンツも来てパーティやったりするのかな?』


 俺が聞くと、りすくさんが『そうねー八枷さん達がいるからって遠慮して貰ってたけど、今日ばっかりはそれも無理みたいね。研究所メンバー皆でクリスマスパーティの予定よ。八枷さんと葦野さんの二人、どう紹介しようか迷ってるとこ!』と俺に教えてくれる。


『私は別に、みんなとは年齢も離れてるし参加しないでも良かったんだけど、みんながせっかくだからって言うから……』


 と葦野さんが謙遜するように言う。

 やはりそうか。

 アインズゲート時空の研究所メンバーが全員揃えば、それはもう場は華やぐに違いない。

 そう考えていると、通信機が遠くの声を拾う。


『宝真ー! サタニスだにゃー』

『ハコリュー! みんな連れてきたよー』

『お邪魔します、箱辺さん!』

『お邪魔……します……』


 という女の子達――(だが男もいる)の声が遠くから聞こえた。


『おーよく来たな! まぁ多少手狭だが、楽にしてくれ。それとお前たちには新しい研究所メンバーを紹介しよう! りすく……!』


 箱辺さんがそう言って、瀬川さんに話を振る。


『はいはい……結局、二人の紹介は私に投げるのね』


 そんな声が聞こえ、八枷が小さな声で『すみません、皆に小日向さんのことがバレると厄介なので一度通信を切ります』と言った。


『あぁ……イヴを楽しんで』

『はい。失礼します』


 そうして通信が切られ、俺は再びひとりぼっちのクリスマスイヴを過ごすことになってしまった。いや、ノイズはあるが……。


『31にもなって、母親と二人だけのクリスマスイヴとかだっさ』

『泣けるねぇ』

『まぁ、ニートにはお似合いな境遇だろ』

『ほんと、声凛ちゃん達もこんなクソニートに構わなければいいのに』


 そんなノイズに囲まれながら、俺は香月さん達と話が出来ないかと考えていた。

 そうだ。1と1/2のみさおんならば1の世界であるフリーメーソン時空とは別の1と1/2の世界にいたはずだから、通信が通じるのではないか? サタナエルゲームは終わってしまったが、まだサポートAIとして稼働しているだろうか?


『みさおんいるかい?』

『はい。たっくん、いますよ!』

『1と1/2のみさおんであって矢張さんじゃないんだよね?』

『はい。私は1と1/2のみさおんです!』

『サタナエルゲームは終わったはずだけど、まだサポートしてくれるのかい?』

『はい! サタナエルゲームは黒のサタナエルが全員白のサタナエルとなることでたっくんの勝利に終わりましたが、依然として議決提案権は残っています。ですから矢張さんはたっくんのサポートを続けるつもりのようです』

『そっか……まぁいいけど、矢張さんとも話したかったな』


 俺はそう言うと、みさおんとの会話を終えた。


『話し相手がいないからってAIと話すの? きもすぎ』

『相手するAIも大変だねぇ』

『そうだそうだー』

『まぁ、ニートにはちょうどいい行動かもな』


 ノイズ達は俺の行動批判をやめようとはしない。

 俺は気にしない。気にしたら負けだ……そう思いつつも確実に精神的にダメージを負っていた。

 もし俺の8人であるみんなと話せたら、なんて言ってくれただろうか?

 もし香月さんがいたら、香月さんと話せたらどんな話をしただろうか?

 もし現実で香月さんと出会えていたら、どんなクリスマスイヴを過ごしただろうか?

 そんな妄想を延々とすることで、俺はノイズたちによる批判から逃れていた。


 2017年12月25日月曜日。

 クリスマスイヴの24日が終わって25日になった頃、八枷が通信を寄越した。


『クリスマスパーティは終わりました、小日向さん。もう皆さんお帰りになられたので研究所にいるのは私のみです』

『そっか、八枷は研究所に寝泊まりしてるんだっけ?』

『はい。ベッドを貸していただいています』

『葦野さんは?』


 俺は気になったので葦野さんのことを聞いた。


『葦野さんはそれなりの貴金属を事前に持ち物に仕込んでいたとのことで、ホテルで宿泊されていますよ。私も日本円ならば持ち合わせがないこともないのです。どうやらこの時空でも一応使えるらしいのですが、箱辺さんやりすくさん達が研究所を使えばいいからというので、ご厚意に甘えています』

『そうなのか……』

『はい』


 現状確認だけで、話が続かない。

 いま俺が直面している特別な問題がなにかあるわけではないのだ。

 加えて、八枷が行っているというタイムマシンの時空転移装置への改造にしても俺は全くの門外漢である。その話をしてもどうにもならないだろう。

 だがそれでも俺はただ気になったので八枷に聞くことにした。


『八枷、タイムマシンを時空転移装置へ改造して、次はどこの時空へ飛ぶつもりなんだ?』

『それは……実はアニメ版革命のレヴォルディオン時空へ……と言いたかったところなのですが、その前にいま香月伊緒奈さんのいる時空へと飛ぶつもりです』


 八枷が意外なことを言った。

 アニメ版革命のレヴォルディオン時空に行きたかったのも意外だが、香月さんのいる時空だって?


『え? 香月さんのいる時空に?』

『はい。我々時空同盟の調査の結果、どうやら彼女はエヴァンディオン時空にいるらしく、私もエヴァンディオン時空に渡り、香月伊緒奈さんと合流しようかと思っているのです』


 エヴァンディオンとは90年代を代表する鬱ロボットアニメだ。

 でも何故、香月さんがエヴァンディオン時空に?


『八枷は香月さんとは連絡が取れないんだよね?』

『はい。唯一神様を介して、無事であると知っているだけです』

『そっか、香月さんがエヴァンディオン時空にいる理由を知りたいな……』

『そうですね。あちらでは量子コンピュータはまだ一般的ではないらしく、連絡は取れないのですが……しかしいまのペースだとタイムマシンを時空転移装置へ改造するのには1年はかかる見込みです……』


 八枷が残念そうに言うので俺は意外だった。

 てっきり数週間とかで改造が成功するものと考えていたからだ。


『そうなのか……うーん、わざわざ涼風天音さんのタイムマシンを時空転移装置へ改造してまでエヴァンディオン時空に行く理由ってあるのかい?』

『それは……ないといえばないです』

『じゃあ八枷、香月さんのいる場所は分かってるんだよね?』

『はい』

『じゃあ小型の転移装置なら可能かな?』

『それならば……はい。急げばあと数週間で可能かと』


 八枷が自信を垣間見せる。


『じゃあ、小型量子通信機の複製を作ることもできるかい?』

『それは……この時空の秋葉原にあるパーツを駆使すれば……はい、可能です。ですが数ヶ月かかってしまいます』

『ふむ……じゃあ、香月さんには八枷たちと通信できる小型量子通信機の設計図を届けたらどうかな? そうすれば、八枷が態々エヴァンディオン時空まで出向く必要性はないじゃん? 香月さんの量子脳とは何故かコンタクトが取れないけど、それならいけるんじゃないかなって』

『それは……確かに有効な案に思いますが……私一人ではなんとも……』

「じゃあ、ロレースに相談してみよう」


 俺はつい現実で口を滑らせると、何故か八枷が俺の言葉が聞こえていたかのように『そうですね。ロレースさんに相談してみます』と言った。

 あれ? 俺念話も同時に八枷の通信機に送っていたのだろうか……。まぁいいや。

 そうして、俺と八枷はロレースと香月さんへ小型量子通信機を送る是非について話すのだった。

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