53 アインズゲート時空との協力
2017年12月19日火曜日。
フリーメーソン時空が消滅した翌日。
俺はまたいつものように正午過ぎに自室で目を覚ますと、八枷に声をかけた。
『八枷? いるかい?』
『はい。いますが、どうかしましたか?』
『いや、フリーメーソン時空の人たちの復元はどうなってるのかなって』
『そのことですか。先程、葦野さんがこちらの時空に到着なさったところです。いま天音さんが新宿まで迎えに行っています。私達は葦野さんの量子脳から情報を吸い出すスキャナを完成させました。それにしても、こちらの世界の秋葉原には様々なパーツが売っているのですね! びっくりしました』
八枷はアインズゲート時空の秋葉原に興奮している様子だ。
革命のレヴォルディオン時空の秋葉原はとうに超震災で沈んで崩壊しているはずだ。
きっと新鮮な経験だったのだろう。
『そっか……プログラムの方はどうなってるんだ?』
『そちらはいま愛紗と田無いるかさんの方で鋭意作成中です。こちらの時空でのフリーメーソン時空消滅時の時空間重力波――RIGOでの観測データは既にハッキングして取得済みです。あとは葦野さんのデータを吸い出して、それを唯一神様にお渡しするだけです。復元は唯一神様の方で行うそうです』
田無いるかさんとはアインズゲートにおけるクソオタ……天才ハッカーだ。
CVはベテラン声優の加世一知さんである。
時空間重力波とか、言っている意味はよくわからないが、刀道さんと二人でプログラムを作成しているとなれば、問題はあるまい。
しかしRIGOってそんな簡単にハッキングできる施設なんだろうか?
『そうなのか……? 唯一神様ってフリーメーソン時空にいたわけじゃないんだな?』
『はい。そのようです。元々フリーメーソン時空を中心とした複数の時空に連なる共同体とのことでしたから、別の時空に唯一神様はいらっしゃったみたいですね』
『へぇ……一体なにものなんだろうな?』
『それは……いえ、なんでもありません。憶測で物を言うのはいただけませんから』
八枷は唯一神様の正体に思いつく節があるのか、一瞬言葉を発しそうになるが口を噤んだ。
『そう言えば、アインズゲート時空にいるんだよな? 箱辺やりすくもいるのか?』
『はい。いらっしゃいますよ。お二人共私と違って、量子脳に覚醒されていますから……二人共、いい加減に小日向さんに挨拶してはいかがですか? 天音さんはもう挨拶が済んでいますよ?』
八枷がそう促すと、一人の女性の声が聞こえた。
『そう? あーあー、ハロー、聞こえる小日向さん?』
『はい。聞こえます。瀬川りすくさんですか?』
『うんそう。瀬川りすくよ。よろしく。あー私あまり量子脳使うのって得意じゃないのよね。だから今は八枷さんがハイパーロボット大戦時空で作ってきた量子通信機を使ってるわ』
瀬川さんがそう言うと、横から『ふふん、そんなんだからお前は駄目なのだ』と男性が念話してきた。
『量子脳とは積極的に使ってこそ、慣れていくものだ! ロレースや俺を見習うんだな!』
『はいはい。箱辺の量子脳はすごいわねー尊敬しちゃうー』
まるで棒読みで言う瀬川さん。
『ふふん、分かれば良いのだ分かれば! こほん。小日向拓也くん。初めましてだ! 俺の名前は狂気のマッドサイエンティスト! その名も平等院宝真……!』
『はいはい。箱辺、箱辺。箱辺龍太郎ね』
瀬川さんが箱辺さんの中二病をいなすように、本名を教えてくれる。
アインズゲートの主人公である箱辺龍太郎さんの声は思ったとおりに若手の演技派である守宮のもさんのものだ。それにメインヒロインの瀬川りすくさんの声も、麻本いまさんというアイドル育成ゲームのキャラクターで名を知られる声優さんの声そのものだった。
『あの、りすくさん。箱辺呼びはやめてもらってもいいでしょうか。興が削がれるので』
『なによ、いつもの中二病のノリがしたいわけ? だって私達は小日向さんの世界じゃゲームのキャラクターでそれなりに有名って話じゃない。今頃装いを変えたところで無意味よ。ね? 小日向さん』
『はぁ、まぁそうですけど、楽な形で話して貰えればいいかと』
『話の分かる人じゃないか! 俺のことは宝真と呼んでくれたまえ!』
『はぁ、善処します箱辺さん。それで復元の方は?』
そう言って俺は二人の夫婦漫才に巻き込まれることを華麗に回避すると、進捗を聞いた。
『量子脳スキャナの方は任せて頂戴、もうマシンの物理的部分は完成して、アルゴリズムも刀道さんと田無に伝えたから、あとはプログラムの進捗次第よ』
瀬川さんがそう教えてくれる。
『まぁ、我が研究所のメンツは優秀だからな! それに八枷さんも加わったとなれば、量子脳スキャナの完成など容易いものだ!』
箱辺さんが堂々とそう言い放つが、すぐに瀬川さんのツッコミが入る。
『ま! 例に漏れず箱辺はほとんどなにもしてないけどね、私達の指定したパーツを秋葉で揃えてきただけよ。資金はほぼ田無と私持ちだし?』
『うるさい黙れそこのリスクヘッジ女! タルカに強引に出させおってからに。来週発売のエロゲの購入資金だと嘆いていたではないか』
『誰がリスクヘッジだ誰が! 世界の命運がかかってるんだし、田無も少しは出したっていいじゃないべつに!』
再び夫婦漫才が始まりそうだったが、俺は再度このやり取りを聞かなかったことにして再度質問を繰り出した。
『それで、プログラムの方の進捗は?』
『あーうん、プログラムはどうなの田無ー?』
横に呼びかけるように聞く瀬川さん。
すると少し遠くから、『あと小一時間ってとこー。てか声凛ちゃんから聞いたアイディアがやばい! いや、刀道氏天才だろ常考! 一旦グラーゾンに送って圧縮するとか、僕には思いもつかないような実装アプローチすぎる!』という男の声が小さく聞こえた。きっと田無いるかさんだろう。
『聞こえた?』
『はい。聞こえました。あと1時間ほどだと、それじゃあ1時間後には葦野さんの量子脳からデータ吸い出しが始められそうですね』
俺が返事をしたのも束の間、遠くから『戻ったよー』という女性の声が聞こえた。たぶん声的に考えて涼風天音さんだろう。
『帰ったか天音! で、一緒にいるその人が葦野さんだな?』
『うん。葦野藍さん! あれ、もしかして小日向さんと通信中?』
天音さんが聞き、『あぁ、そうだとも』と箱辺さんが肯定すると、葦野さんの声が聞こえる。
『初めまして! 葦野藍です。わぁ研究所っていうからもっとすごいところかと思ってましたけど、これはこれで……!』
『我が研究所にようこそ! 葦野さん! いまちょうど葦野さんの話をしていたところだ』
『そうなんですね! あ、たっくんー! 葦野藍です、一応初めましてー』
葦野さんに挨拶され、俺は妙に最初からフレンドリーだなと思った。
『初めまして、小日向拓也です。俺の時空の葦野さんですよね?』
『あぁ、うん。そうだよ。たっくんの時空の葦野藍です! ブラックホール、事象の地平面近傍の観測情報間違いなくゲットしてきましたー』
『それは……お疲れ様でした、ところでなんか妙にフレンドリーなのは葦野さんの普段のキャラですか?』
『あぁ! ごめん、私、実は最近ずっとたっくん達の念話聞いてたんだ。それでなんか勝手に親近感湧いちゃってて……たっくんって呼び方も声優の皆がそう呼んでるから、私もそれでいいか!って……嫌だった……?』
『え!? そうなんですか!? なんか恥ずかしいな……。別に嫌とかではないです、はい』
『そっかー。良かった!』
葦野さんはなんだか嬉しそうだったが、俺は一方的に知っていると思っていた人に知られていることがなんだかとても恥ずかしかった。




