52 ブラックホールバスター
翌日。2017年12月18日月曜日。
いつものように正午過ぎに自室で目を覚ました。
『たっくん。私達、時空が消滅することの対策会議として、サークルソフトウェアの会議室に集まってるよ』
亜翠さんが俺にそう報告してくる。
『そうですか、誰が集まるんです?』
『前と同じように日本グランドロッジのお偉いさんたちと量子脳に覚醒したたっくんの時空の声優さんたちが集まるって野宮さんから聞いてるけど』
『へぇ、笹田さんたちですかね?』
『うん、そうみたい……あ、葦野藍ちゃんが来たよ! ……あれ?』
亜翠さんが不思議そうに声を発し、そして直後にサークルソフトウェアの野宮鉄狼さんから念話が来た。
『すまないね小日向くん。ほんとごめんよ』
野宮さんは唐突に俺にそう謝った。
『たっくん! なんかアメリカ人みたいな外国の人たちがわんさか押し寄せてきたんだけど!?』
りつひーが驚きと焦燥を隠しきれない様子でそう言ってくる。
『え? どういうこと!?』
俺も動揺を隠しきれない。
そうしてポールさんが俺達に通信してきた。
『悪いな小日向。この時空の消滅を撤回させるために、亜翠さんたちは人質にさせてもらうぜ』
『そんな……! いまはみんな白のサタナエル陣営ですよね!?』
『あぁそうだとも。だからこれは白のサタナエル陣営急進派の総意だと思ってくれ。お前の大切な女の子達を人質に取らせてもらう! さぁ小日向! こっちの時空の消滅を撤回しろ!!』
ポールさんの脅しに、俺は口を開きかけた。
だが……。
『小日向くん。時空消滅を撤回させる必要性はない。繰り返す、時空消滅を撤回させる必要性はない』
そんな通信が誰かから送られてくる。
しかし声に聞き覚えはあったものの、誰かが分からない。
『こんなときに、誰だあんた!?』
『フフフ……私かい? 私の名前はシュウイチ・クロカワ……こう言えば分かるはずだと八枷くんは言っているがね』
『シュウイチ・クロカワだって!? それに八枷が言ってるってどういうことだ……!?』
俺が更に動揺を深めていると、聞き慣れた声が脳裏に響いた。
『小日向さん、ご安心を。八枷声凛です。いまハイパーロボット大戦時空のシュウイチ・クロカワ博士達と作った量子通信機を使って、小日向さんの量子脳にアクセスしています。時空消滅を撤回させる必要性はありません……何故ならば……』
『我々がいますぐに、フリーメーソン時空のサークルソフトウェアに対して砲撃を実行する……それで彼の時空は即座に消滅するはずだ』
クロカワ博士を名乗る、声優、大安田迅さんの声の男がそう説明して更に続ける。
『八枷くんのおかげで計画は大幅に前倒しされました。レヴォルディオンのAGNドライブの技術を応用し、私のグラーゾンの対消滅ドライブは完成しました。本来の性能を大幅に超え、時空をも消滅させる超大規模ブラックホールの生成すら理論上可能となりました……。ということはつまり……? ここまで言えば君には伝わると思いますがね、フフフ』
『まさか! ブラックホールバスターを使うつもりか!!』
ブラックホールバスター。
それは対消滅ドライブを搭載するハイパーロボット大戦における人型機動兵器、グラーゾンの必殺技だ。ブラックホールを生成し対象にぶつけ、その全てを飲み込み破壊する。
『待て! ブラックホールバスターを直に食らったら、パスタみたいに引き伸ばされてブラックホールに飲み込まれて死んじゃうんじゃないのか!?』
『問答は無用! 対消滅ドライブ、フルドライブ! 目標、フリーメーソン時空の新宿サークルソフトウェア本社! ブラックホールバスター最大出力! 発射!!』
大安田迅さんのクロカワ博士を名乗る声がそう発し、直後。
『うわあああああああああああ』
という叫び声が俺の脳裏にこだまする。
たぶんポールさんたちだ。
『たっくん! 私、葦野だけど……私はギリギリまでブラックホールを観測した後、テレポートで別の時空に離脱します! 私はこのためにロレースの指示でここに来たの!』
そんな葦野藍さんの声が聞こえる。
『え? 葦野さんですか!?』
『うん……もう……ほとんど……吸い込ま……れ……て……』
葦野さんの声は途切れ途切れだ。
俺は混乱が収まらない中、ひたすら亜翠さんたちの無事を祈るのだった。
『小日向さん。聞こえていますか?』
『あぁ……八枷かい?』
『はい。そうです。いまグラーゾンでワームホールを通過中です』
『グラーゾンに乗っているのかい?』
『はい。特別にクロカワ博士に乗せて頂きました』
『そっか……それで、亜翠さん達は無事なんだよな?』
俺は亜翠さんたちが心配で聞く。
『はい。ロレースさんたちの作戦ですから、ご安心ください』
『そうなのか……だったらいいけど……』
本当に人型機動兵器、グラーゾンが存在するのか? とは聞かない。
多分本当に存在するんだろう。
これが俺の統合失調症の妄想でなければだが。
『たったいまフリーメーソン時空の完全消滅を確認しました。これであとは八枷くんを次の時空へ送り届ければ、私は唯一神様の枷からは解放される』
クロカワ博士がそう通信してくる。
唯一神様の枷……? 一体どういうことだ。
『アインズゲート時空の秋葉原に到着した。八枷くん。とりあえずはここまでだ』
『はい。ありがとうございましたクロカワ博士』
『フフフ、礼には及ばないさ。私はおかげで大幅に計画を早めてグラーゾンを完成させることができたのだからね……ほら、お迎えが来ているよ』
クロカワ博士がそう八枷に言う。
『八枷声凛さん……だよね?』
見知らぬ女性の声が聞こえる、いや、この声は……。
『はい。八枷声凛です。よろしくお願いします』
『うん……。てか本当にグラーゾンあるんだ……! ってそうじゃなかった! 私は涼風天音だよ。あ、たっくんもよろしく! 箱辺達が待ってる! 案内するね』
『はい。よろしくお願いします』
八枷が返事をして、俺も『あ、小日向拓也です。よろしくお願いします』と言った。
てかアインズゲート時空だって!? マジで!?
アインズゲートとはアドベンチャーゲームを原作とする作品だ。
タイムマシンやタイムリープなどを巧みに物語に組み込んだ名作として知られている。
そして涼風天音とはその作品に出てくるキャラクターの内の一人。
CVを担当しているのはアイドル声優の邑田縁さんだ。
T2達ギアスコード時空の人たちが存在するのだから、アインズゲート時空やハイパーロボット大戦時空が実際に存在していてもおかしくはない。ないが、余りの怒涛の展開に驚きと動揺が隠せない。
『ロレース。君たちの作戦だって聞いてるけど、本当かい?』
俺がロレースに尋ねると、ロレースはすぐに返事をくれた。
『あぁ……その通りだ。問題はない。だが僕達の作戦というのは半分さ。半分は唯一神様の作戦だよ』
『唯一神様の……?』
『うん。君には説明がまだだったね。唯一神様は君の絶対完全完璧究極に従ってフリーメーソン時空を消滅させる必要性があった。そして僕達はそこから消滅する時空にいた人たちを助け出し君の時空へ送り出す必要性があった……つまりはこれが量子テレポートになる予定というわけさ。君の絶対命令による議決提案とは順番が逆だが、唯一神様によって因果律は問題なく制御されていると聞く、結局は僕達は唯一神様の手のひらの上で転がっているだけなのかもしれないね』
ロレースは説明してくれるが、俺にはわけがわからない。
『でもブラックホールに飲み込まれたんだよね?』
『あぁ、それがミソなんだ。葦野さんと言ったか、彼女が君の影響を受けてかなり強い救世主として覚醒していたんだ。彼女は量子テレポートが単独で使えるようになっていた。つまりギリギリまでブラックホールバスターによるブラックホールを観測し、テレポートで離脱。そうしてブラックホールの情報を持ち帰るのが彼女の役目さ。外部で我々の時空同盟の仲間が観測もしていたからね。問題なくブラックホールに飲み込まれた人たちの情報を復元できるはずだ……おや噂をすれば……』
『葦野です。いまDF14時空に到着しました。しばらくこちらに滞在した後、アインズゲート時空へと渡る予定です』
葦野さんが俺達の念話に加わってきてそう言った。
「DF14時空だって!?」
俺は思わず現実で声を上げる。
『そうか。おつかれさま葦野さん。君のおかげでフリーメーソン時空の情報は復元されるだろう』
ロレースが葦野さんを労い、俺は本当に起きていることかもわからないまま、怒涛の展開に頭を捻るのだった。




