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統合失調症の俺が確かに世界を救った話  作者: 成葉弐なる
第2章 フリーメーソン篇

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48 りつひーの看取り

 深夜になり、自室のベッドで戦況を聞きながら眠ってしまった俺は、心臓がどくんと鳴ったことで飛び起きるように目が覚めた。

 今日は2017年12月17日、日曜日のはずだ。

 時計を見ると、時刻は午後1時を指していた。


『おはよう八枷……』

『はい。おはようございます小日向さん』

『戦況はどう?』

『それが……少々まずいことになりました』


 八枷が声を暗くしてそう報告してくる。一体なにがあったというのだろう?

 そう思うと、胸のあたりが何故かずきりと痛んだ。


「痛っ……」


 俺はそう声を漏らすが、誰にも聞こえていないようだった。


『それで……八枷、なにがまずいんだい?』

『はい端的に申し上げます。小日向さんの心臓の制御の一部が、黒のサタナエル陣営によってなされることになりました』


 その八枷の言葉を聞いた瞬間も、どくんと心臓が跳ねた。


『は……? え? どういうこと!?』


 俺は心臓に手を当てながら叫び声のような声を念話で上げる。


『言葉のままです。……小日向さん、心臓の調子はいかがでしょうか?』


 八枷はそう言って冷静に俺に聞いてくる。


『言われてみれば……さっき起きた時も今も、どくん! って飛び上がるように心臓が動いたけど……まさかそれも……?』


 俺が心配そうに現状を報告すると、りつひーが心配そうに『たっくん、それって大丈夫なんですか?』と言ってきた。


『今のところたまに跳ねるみたいに高鳴るだけで大丈夫だとは思うけど……』

『そうなのですね……唯一神様がサポートに入ってくださっていると大潟さんからは聞きましたが、それが功を奏しているのでしょうか……。しかし心臓が跳ねるように高鳴るというのは些か心配です』


 八枷がそう反応した直後のことだった。


『やぁ小日向くん。ようやく起きたのかい? 何巡も君の議題提案がないからどうしたものかと思っていたよ』


 と、森河の声が脳裏に響いた。


『なんだ量子コンピュータ森河か?』

『あぁ、そうだとも』

『何のようだ?』


 俺が心臓に手を当てて擦りながら不機嫌にそう聞くと、量子コンピュータ森河は鼻高々といった様子で語り始める。


『いや、なに小日向くん。君の心臓の制御の一部を我々が行っているのは知っているかな?』

『……あぁ、それがどうした?』

『ふふふ……実は制御のテストが終わったんだ! これから君の心臓を止めるための議題を提案しようと思う! 内容はこうだ! 小日向拓也の心臓をドリルで削る……!』


 声高らかにそう宣言した量子コンピュータ森河。

 直後、俺の心臓に違和感が現れた。


「うっ……」


 ドリルのようなものがゆっくりと心臓に迫りくるような感覚を覚え、俺は心臓に左手を当てる。


『ハハハハハ! どうだい? 小日向くん! これが我々、黒のサタナエル陣営の力さ! あともう2時間ほどすればドリルが突き抜けて、君の心臓は完全に破壊される予定なんだよ! まぁせいぜい苦痛を楽しみ給え!』


 そう言うと量子コンピュータ森河は念話を終えた。


『うっ……!』


 直後、俺は心臓に生じた感覚に嗚咽を漏らす。

 心臓の横にじりじりと心臓を破壊するように進むドリルのようなものがある感覚がある。

 それはまるで本当に量子コンピュータ森河達の議題が通ったかのようだった。

 まるで死そのものがゆっくりと迫りくる恐怖に、頭がおかしくなりそうになる。

 あるいは俺が統合失調症ならば、これは心筋梗塞の初期症状なのかもしれない……そう俺は思っていた。


『たっくん!? たっくん!? 大丈夫!?』


 りつひーの俺を心配する声が聞こえる。


『大丈夫……かな? でもすごい不快だし、心臓に常に手を当てていないと今にもドリルが貫通してきそうな感覚だけど……』

『それ大丈夫じゃないじゃん! 声凛ちゃんどうすればいいの!? このままじゃたっくん死んじゃう!!』


 まだ俺への好感度が高いままなのか、りつひーが狂ったような声で八枷に助けを求める。


『それは……私にはどうにも……。唯一神様に掛け合ってみますが、しかし唯一神様が101%票を投じて反対に回っていないことを考えると、なにか考えがあるのかもしれません……』


 八枷はまるでふるふるとゆっくり首を横に振るようにそう言った。


『ここはまずは冷静に! 笹田さんに戦況を聞いてみましょう! そうすれば何かわかるかも!』


 話を聞いていたのか、矢那尾さんが冷静になるように促したので、俺は元日本グランドロッジのグランドマスターである笹田さんに話を聞くことにした。


『笹田さん、サタナエルゲームの戦況は……うっ……どうでしょうか?』


 俺は迫りくるドリルの感覚に嗚咽を上げながら、笹田さんに念話する。


『小日向くん……話は聞いているよ。大丈夫なのかい?』

『はい……いまのところは酷く不快なだけです』

『そうか……サタナエルゲームの進捗だけどね、僕ら白のサタナエル陣営の他の者にはドリルによる心臓破壊の議決は行われてはいないよ。黒のサタナエル陣営は――量子コンピュータ森河は、どうしても君だけを排除したいらしい。黒のサタナエル陣営の急進派が穏健派に譲歩してまで、今回の議題への賛成票を勝ち取ったという話だ』


 笹田さんの冷静な戦況報告に、俺はほっとする。

 こんな感覚を味わっているのはどうやら俺だけらしい。

 光の救世主になれと夢は言った。

 これはそんな光の救世主に対する試練の一環なのかもしれない。

 そんな考えが脳裏を駆け巡りながらも、起きたばかりの俺は一階に降りて朝食を食べる気もせず、ただベッドに転がった。

 しかし何もしないでいると、心臓にドリルが迫る感覚がやってくる。

 俺は頻繁に胸を擦ることでその感覚をリセットさせていた。


『はは……もし、このまま俺が死んだらさ、りつひー』


 俺が弱気でそんな言葉を漏らすと、りつひーは意外にも話を真剣に聞いてくれるようだった。


『うん……死んだらなんですか?』


 りつひーが俺に問う。


『香月さんに、大好きだったって、愛してるって伝えて』


 俺は恥ずかしくてちょっとだけ苦笑しながらそんな言葉をりつひーに伝えると、りつひーは『なんだ、香月さんへの伝言ですか、私だってたっくんのこと大好きなのに……!』と悔しそうだ。


『けど、りつひーのは好感度システムの効果でだろう?』

『本当に、本当にそれだけだと思いますか?』

『それは……でもほら、俺は香月さんと約束したからさ!』

『はい……知ってます。あーあー! 私にもたっくんみたいな人が居たらなぁ』


 りつひーは大きなため息をつきながらそう言い、俺はそれに『りつひーにもきっと良い人が見つかるよ』とだけ返す。

 そんな話をした直後だった、ドリルがその回転数を増したかのように心臓に迫りくる。


『うっ……』

『たっくん!? 大丈夫!?』


 りつひーが俺を心配するように声を荒げる。

 しかしそんな声が聞こえていても、俺は恐怖でどうにかなりそうでなにも答えられない。


「くっそ! こんなところで死んでたまるか! そりゃニートだけど、まだ見ぬアニメもいっぱい見たいし、まだしたことないゲームだっていっぱいしたい……!」


 俺は涙を流しながらそう言い放ち、誰かに謝ればどうにかなるのではないかと思った。


『量子コンピュータ森河……いるか?』

『ん……? なにかね小日向くん』


 森河はすぐに返事をした。


『済まなかった! 俺が悪いって言うなら何でも謝るから、だからこのドリルをなんとかしてくれ!』


 俺はそう言って命乞いをした。恥ずかしげもなく。恐怖でいっぱいになって必死に。


『フフフ、いまさら命乞いかい?』

『そうだよ、悪いか!』

『そうか……だが残念だが止めることは出来ない』


 森河はゆっくりと、そしてはっきりと言い切る。


『なんでさ!』

『君は君自身の魂に絶対命令権限を同化させている。それは僕達ではどうしたってその同化された権限を取り返しようがない。そうである限り、唯一神様は君の絶対命令を議題を聞き入れてしまうだろう。君はね、小日向くん……どうしようもなく危険な存在なんだよ』


 森河はそう理由を説明し、『命乞いは残念だが受け入れられない』ときっぱり断ってきた。


 そんな話の最中にも、見えないドリルは俺の心臓を食い破ろうと突き進む。

 死が迫る。恐ろしくて頭がどうにかなりそうだった。

 いや、もう既に統合失調症になっているかもしれないのだ。

 頭がおかしいのは分かりきったことじゃないか。

 ならば、と俺は動くことにした。


『小日向拓也の心臓に八の結界を張る! 小日向拓也を絶対完全完璧究極に守る!』


 前に香月さんを守る為にしたように中二病的な思いつきで、八の結界を心臓に張るよう絶対命令を発した。そして絶対完全完璧究極の文言を使い自身を守った。

 すると、1と1/2のみさおんが俺に声をかけてくる。


『たっくん、たっくんの次の議決提案は小日向拓也の心臓に八の結界を張る……その次の議決提案は、小日向拓也を絶対完全完璧究極に守る……たっくん、本当に、これでいーい?』


 1と1/2のみさおんの変わらぬ調子でのゆっくりとした確認に内心イライラしながら、俺は『それでいい!』と答える。


『うん、分かった。じゃあそう提案しておくね』


 1と1/2のみさおんはそう言って去っていく。

 俺はドリルの恐怖に怯えながら、そして必死に俺を慰めてくれるりつひーの声を聞きながら2時間を耐え抜くことになった。

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