47 ∞大好きと織田総一の好感度
セーブシステムの使い方を八枷に教えてもらったあと、俺は一階に下りて夕食を食べると、再び議決の議題について考えていた。
そんな時だ。
『小日向さん。愛紗がプログラムを完成させてくれました。これであべこべにも対応出来るかと思います。それと小日向さん、1と1/2のみさおんがアップデート稼働してまもなく、ある議決が提案され可決されました」
八枷が慌てた様子で報告してくる。
『それで? なんて議題なんだい?』
『それが……セーブシステムに似ていて非なるモノと言いますか、一口で言えば好感度システムということになるでしょうか』
『え……? 好感度システム!?』
『はい。各人の好感度を可視化した上で、【大好き】と言うことで好感度が一定量貯まるというシステムのようです』
まるでギャルゲーみたいなシステムだ。
本当にそんなものが可決されたのか。
『一体誰がそんなシステムを……?』
『それが……小日向さんを救う時空同盟のどなたかが提案したところ、唯一神様の101%票によって可決されたそうです。量子通信機におけるハンドルネームがないので量子脳を持つ存在でしょう』
八枷がそう言う。
すると、ロレースが念話してきた。
『小日向くん。済まない。たぶんいま好感度システムの話になっているだろう? あれを提案したのは今日できたばかりの僕の量子脳仲間の友人、白夜疾駆のナイトジークって渾名を持つ奴なんだ』
『え? 白夜疾駆のナイトジーク!? それって……』
俺には心当たりがあった。
エロゲ会社メトロプラスが出すケイオスアルカナというPCゲームの主人公だ。
『彼と話していて、彼が女性関係に悩んでいるっていうから、じゃあ各人の好感度が分かるように議題提案してみたら? と言ったのが始まりなんだ……まさか唯一神様が賛成されるとは思っていなかったんだよ……』
ロレースは狼狽えているようだ。
彼にしては珍しい。
俺はちょっとだけ面白くなって、八枷に『じゃあT2のロレースの好感度は?』と聞いてみた。
『はい。T2さんのロレースさんへの好感度は、1億回大好き程度となっている模様です』
『おぉ、1億回! それは一生かかっても言えなさそうなくらいだね』
『はい……ですが皆さんそれを議題で乗り越えようとなさっている様子です』
『ん? 議題で? つまりどういうこと?』
『先程から100万大好きという概念などが議題で提案されています。そのままに、100万大好きと言ったら、大好きと100万回言ったことにするという議題なのですが……』
『へぇ……つまりそれが通ったら俺が例えばりつひーとかに……りつひー! 100万大好き! って言ったら、りつひーの俺への好感度が100万回大好きって言ったくらい上がるってこと?』
『小日向さん……大変申し上げにくいのですが、小日向さんが100万大好きという直前に議題は黒のサタナエル陣営の賛成もあり可決されていました……』
八枷が残念そうに言う。
『え!? じゃありつひーは……りつひー大丈夫!?』
俺はりつひーが心配になって声をかける。
『たっくん! ほんと、バカみたいな話はやめてくださいよね』
どうやらなにも変わってないみたいだ?
『ところでたっくん。私、香月さんみたいに絶対完全完璧究極に守るって言ってもらいたいんですけど……』
いややっぱりなんか違う! りつひーはここまで率直にこんなお願いをしてきたりしない!
『りつひー大丈夫?』
矢那尾さんも心配になったのか言う。
『りつひちゃん、ちなみにたっくんと結婚したい?』
Mioさんが聞くと、りつひーは『なんですかそれ……当たり前じゃないですか』と恥ずかしそうに答えた。
『うわーん、りつひーがおかしくなったー!』
俺が悲痛な叫び声を念話で上げると、八枷が『ふふふ』と笑う。
八枷でも笑うことがあるんだ。
『いえ、すみません。笑い事ではありませんでした。ロレースさんを始め、味方の皆さんが寝返らないように対策を着々と進めている様子です。唯一神様によって可決されたりされなかったりですが、敵味方問わず好感度システムへの対策議題は通っているようです』
『そっかそれは良かったよ』
このまま好感度システムで両陣営の様子がおかしくなってしまったら目も当てられない。
俺は思いついて、セーブシステムを使うことにした。
「この地点をセーブ1とする!」
りつひー含め、これ以上味方がおかしくなる前にセーブしておくのが必要だと思ったのだ。
夕食を食べる前に八枷に教えて貰ったのだが、こうすることでセーブしたことになるらしい。
俺が使えるセーブデータは全部で999個あるらしいので、今の地点がセーブ1なのを忘れないようにしたい。
『八枷、一応いまセーブしておいたから、不味かったらいつでも言って』
『はい。懸命なご判断だと思います』
不味いと思ったらセーブ1をロードすると言えば良いのだ。
いつでもこの地点の因果に戻ってこられるのは安心できた。
「んでも、俺にとっては何にも変わらないんだけどね……! どうせ統合失調症だし」
俺は自身を統合失調症であると考えていたのでぽつりとそう言うと、話を聞いていたのかりつひーが『たっくん、そんなことないよ!』と励ましてくれた。
100万大好きの効果は抜群のようだ。
そうして2時間ほどすると、四巡目の俺のターンがやってきた。
『実はもう提案する議題は決めてあるんだ。【∞大好きという概念を小日向拓也と香月伊緒奈と唯一神だけが使える状態で実装する】ってのなんだけど、どうかな?』
俺が聞くと、1と1/2のみさおんが困ったように言う。
『たっくん。∞という概念は量子コンピュータで扱えないので単位を明確にする必要性があります。どうしましょうか?』
『そうなのか……じゃあ1∞大好き辺り、1無量大数大好きってのはどうかな?』
俺は知っている限り最も大きな単位を挙げた。
『はい! それならば実装可能です! ではたっくん、【∞大好きという概念を小日向拓也と香月伊緒奈と唯一神だけが使える状態で実装する。1∞大好きは1無量大数大好きと等価である】。本当に、これでいーい?』
『うん、それでいい!』
そうして俺は八枷によって、『唯一神様のご賛成により、先程の議決提案が可決されました』と報告されたのを確認すると、俺はすぐに「香月伊緒奈が∞大好き!」と言った。
絶対命令のターンはやってきてないので、あくまでもシステムに感知されるかが頼みだ。
これで香月さんの俺への好感度は上がったに違いなかった。
すると八枷が神妙な様子で、「小日向さん、お話があります」と言ってきた。
『なんだい八枷、改まって』
『それが……味方の皆さんが必死に私や1と1/2のみさおんの好感度を守ってくださってはいるのですが、一つお願いがありまして』
『お願いって?』
『はい。お願いとは、絶対に私の織田総一さんへの好感度を弄らないで欲しいということなのです』
『そんなことか、でもどうして?』
『それは一口には申し上げにくいのです。私が四巡目に提案する議題で私の好感度操作に対するカウンターのようなものを提案したのですが、先程唯一神様によって可決されました。それは非常に複雑な議題となっていまして……。ただ、織田総一さんへの私の好感度を弄ろうとしたときに、最も重いカウンターが飛んできますので、注意して貰いたいんです』
八枷は念入りに説明してくれた。
八枷にとって織田総一は――革命のレヴォルディオン主人公の存在は特別なようだ。
『OK。分かった! 織田総一の好感度を弄らなければ良いんだよね?』
『はい。ちなみに私に大好きと言っても無意味ですので、その辺りもご承知おきください』
『え? そうなのかー八枷声凛が∞大好きなんだけどなー』
俺がそう戯けると、八枷は『ご冗談を。香月伊緒奈さんにゾッコンなのは承知しています』と返す。しかしその声が当の香月さんの声なものだから笑ってしまう俺だった。




