神官長サヤンへの手紙
ルキ⋯⋯草原の国レイモーン王国のプリンスにして上級戦士。
リノ⋯⋯森の国ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使い。
みんなとの待ち合わせ場所である遊園地のチョコレートフォンデュの滝の前にリノの魔法で俺とリノが瞬間移動すると、もうみんな集まっていた。
俺は直ぐに神官騎士のもふもふ犬ライラプスに近寄る。
「ライラプス、教皇様の就任式って今から何年前のことだったかな」
「現在の教皇様の就任式は今から15年前だと記憶しておりますが」
「15年前?⋯⋯じゃあ俺とリノが7歳の時だな」
「そうですな。で、それが何ですかな?」
「い、いや、何でもない⋯⋯それより、頼んでおいたサヤン宛の手紙は書けたか?」
「はい、ここに」
「ああ、すまないな、ライラプス」
俺はもふもふ犬ライラプスから受け取った神官長サヤン宛の手紙を、俺の周りで楽しそうに飛び回っている宮廷魔法師団団長で妖精のアズミナに渡した。手紙が大きかったのかアズミナの慌てた声が響く。
「あらら、手紙が落ちちゃう⋯⋯」
そう言った次の瞬間には妖精アズミナは人族の大きさになり地面に降り立っていた。そしてなぜか妖精アズミナは俺を見てニヤついている。
「ルキ様、これってサヤン様へのラブレターですか?」
「は? 何言ってんだよ、アズミナ! ち、違うよ!!」
直ぐにリノが近寄ってきて俺の顔を覗き込む。
「へー、サヤンへのラブレターなんだぁ」
「あのなぁ⋯⋯」
どうやらリノは手紙の事を知った上で、俺をからかっているらしい。
えっと⋯⋯とにかく神官長サヤン宛の手紙の内容は主に次の二点だ。
一つ目は、サヤンに頼まれていたドワーフ村の現状のこと。
二つ目は、死神タナトスに続き、またもや火の国クラティラス王国の女王バシリッサに仕える四天王の一人、魔術師マーゴスなる者に命を狙われたことだ。
リノが怪訝な顔をする。
「ねぇルキ、でも私達も王都に向かってるのに、なぜアズミナに頼むの?」
「えっ、ああ、アズミナの方が王都に着くのが早いかなって⋯⋯」
実の所、俺は寄りたいところがあるのだ。その事をリノに悟られないように言葉を濁すとリノに近寄り耳打ちした。
「リノ、それより、俺の記憶が戻ったことは、みんなには内緒だぞ」
リノも俺の耳元で囁く。
「ええ、分かってるわよ⋯⋯大体タバサのパパがルキの誘拐計画に関わっていたなんて言えるわけないでしょ」
「ああ、そうだな⋯⋯」
その瞬間、俺の脳裏に、あの時の情景が浮かんだ。
(俺は確かにあの時、恐ろしい顔をした女性に罵倒されたあと、恐ろしい顔をした女性が予知の悪魔キャットベレトに向かって俺を見ながら誘拐という言葉を使って会話していたことを覚えている⋯⋯)
だが俺は直ぐに嫌な記憶を振り払うため気持ちを切り替えると妖精アズミナの方を向いた。だが俺はその途端強く思った。
(あっ! さっき幼い頃のサヤンとの記憶を取り戻したことをサヤンには伝えといた方がいいよな、絶対⋯⋯)
俺が微動だにせず考え込んでいるのを見てアズミナが近寄ってきた。
「ルキ様?⋯⋯」
「ああ、悪い、ちょっと手紙返してくれるか?」
「はい、それは構いませんが⋯⋯」
そのやり取りを見て、聡明なリノは瞬時に気づいたらしい。
「ルキ、手紙かして、あのことを書き込んであげるから」
「えっ⋯⋯ああ、頼むよ」
リノは魔法の杖を取り出し振ると、手紙が開き文字が独りでに書き込まれていく。
しばらくして手紙が閉じられるとリノが俺に耳打ちしてきた。
「ルキ、この街であった幼い頃の記憶が戻ったことを全て手紙に書いたわよ」
「ありがとう、リノ」
俺はリノから手紙を受け取ると待っていた妖精アズミナに渡した。
「じゃあ、頼んだぞ、アズミナ」
「かしこまりました、ルキ様」
◇
レイモーン王国宮廷魔法師団団長、妖精アズミナを見送った俺たちは、駐馬車場に停めてある四頭立て大型四輪箱型もふもふ馬車に乗り込むと街の入り口にある冒険者ギルドで食料調達をしたあと街を出た。
馬車は道を南南東へ向かっている。
途中、温泉へ続く小道への分かれ道まで来た時、少し離れた場所に巨大な間欠泉が見えた。その凄まじい勢いで噴き出す水蒸気や熱湯は生き物のようにうねりながら高く高く舞い上がっている。
(すごいな!)
その姿はまるで白いローブを着た巨大な魔女が魔法によって現れたかのようである。
さらに落ちてくる水もキラキラと反射し、本当に巨大な白き魔女が魔法を使っているかのようにも見えた。
おそらく何百メートルも噴き上がっているその巨大な間欠泉を見て皆が感嘆している中、俺は一人、考えていた。
(リノと温泉に入りたかったな⋯⋯)
直ぐに体が火照ってくる。
俺はリノとの妄想で熱くなった⋯⋯いや、もとい、間欠泉で熱くなった自分の体を冷ますため胸元に手をやり服の中に風を送りながら、みんなに話しかけた。
「なぁ、暑くないか?」
すると直ぐにもふもふ猫タバサが答えた。
「確かに気候と間欠泉が合わさると、かなり暑いですわね⋯⋯もう耐えられませんわ!⋯⋯招猫大氷塊!
ドーン!
もふもふ猫タバサが呪文を詠唱した次の瞬間、突然馬車の中に大きな招き猫の形をした大きな氷塊が落ちてきた。
皆が驚く中、馬車内が一気に涼しくなる。
「ルキ様、これでどうですの?」
「ああ涼しくなったよ、ありがとうタバサ」
◇
それから少しして馬車から間欠泉が見えなくなり、さらに南南東への道を進むと、ようやく元の一本道に出た。そこを馬車は左へと曲がり、俺たちは、一路、王領の港町リマニへと向かったのであった⋯⋯。




