雲のようで雲ではない雲の正体
雲のようで雲ではない雲の上に降り立った俺たちは、すぐに足元から立ち込めるむせかえるような甘い匂いに包まれた。俺は雲の端でジェットコースター龍の頭を撫でているゴリオに近づいた。
「ゴリオ、どうしてこの雲へ降りたんだ?」
「うん、ルキ君、ここで乗り換えようと思ってね」
「乗り換えるって、何に?」
その時、甘い匂いにガマン出来なくなったのか、もふもふうさぎキラが雲の中央に向かって走り出したかと思うとすぐにダイブして雲をかじり始めた光景が俺の目の端に映った。俺はすぐさまキラに向かって叫んだ。
「おい、キラ! 何やってんだよ! それは食べ物じゃないぞ!」
すると、もふもふうさぎキラはかじっていた雲をかじり取りこちらを向いた。
「ルキちゃ~ん、これ甘いよ~、これ綿菓子だよ~、ルキちゃんも、かじれば~」
「そうか~、綿菓子なんだ~、じゃあ俺もかじろうかな⋯⋯っておい! 人様のもの勝手にかじってんじゃねーよ」
その時ゴリオが笑顔で俺に一歩近づいた。
「ねぇ、ルキ君、キラさんって面白い子だね。ルキ君も綿菓子かじってみれば?」
「いや、遠慮しとく」
「そう? じゃあルキ君、みんなと僕のあとに着いてきてくれるかな?」
「えっ、ああ、分かった」
俺がみんなを呼び集めるとゴリオはもふもふうさぎキラの方向、つまり雲の中央に向かって歩き出した。俺はみんなとゴリオのあとに着いて歩き出しキラの前までいくと、嫌がるキラを綿菓子雲から引き剥がしキラの両足を持って右肩に担いだ。
歩くうちに、雲の手前からは全く見えなかった雲の向こう側に木製の大きな滑り台のようなものが綿菓子雲に突き刺さっているように見えた。
「ここだよ」
ちょうど雲の中央辺りまで来た時、ゴリオがそう言って足元を見たので俺も見るとゴリオの足元には穴が空いていて螺旋階段が見えた。螺旋階段もその周りの壁も全て白い雲だった。
俺たちがゴリオのあとについて螺旋階段を下り始めると、すぐに俺の背後からもふもふ熊クレオンの声が聞こえた。
「ルキ様、キラが階段をちぎって食べてますが」
俺はその声に振り返ると、たしかに右肩に担いだもふもふうさぎキラの両手には綿菓子が握られ口に運ぼうとしていた。
「は? キラ、 テルマレンの街に着いたらすぐに昼ごはんにするからそれまでガマンしろよ」
俺がそう言って、もふもふうさぎキラを螺旋階段に下ろすと、ゴリオがリノに近寄り話しかけた。
「リノさんはどんな魔法が得意なの?」
「えっ? ああ⋯⋯私が得意な魔法は風と雷だけど」
「雷魔法得意なの? じゃあ、この魔法がいいかも」
ゴリオは即座にどこからか取り出した本を開きリノに見せた。
「どうして魔法の書なんか⋯⋯この魔法を使えというの? でもこれは調理魔法でしょ、私には、まだ無理だわ」
「そんなことないと思うよ、やってみて」
「え?⋯⋯ええ⋯⋯分かったわ、やってみる」
リノは訝しげな顔をしながら魔法の杖を取り出し魔法の杖を振った。
「稲妻菓子!!」
するともふもふうさぎキラの持っていた綿菓子がキラの手を離れその場に浮かんだかと思うと引っ付いて丸くなり回転を始めた。回転が速くなるに連れパチパチと放電している。
そしてどこからか飛んできた⋯⋯おそらく馬車の中からだと思うが⋯⋯様々な材料が、綿菓子にぶつかり混ざり合っていき、どんどんエクレアの形に形成されていった。
しばらくして回転が収まるとそこにはパチパチと放電しながら光るエクレアが浮かんでいた。すぐに放電は収まりキラが手に取った。
「わ~! エクレアだ~! リノちゃん、ありがとう!!」
もふもふうさぎキラはすぐにパクつき美味しそうにエクレアを頬張っている。すると急にリノの顔がパーッと明るくなった。
「私、調理魔法出来たわ!!⋯⋯でも私、いつの間に調理魔法が出来るくらいレベルアップしたのかな? もしかしてルキの⋯⋯」
「俺が何だって?」
「い、いえ、何でもない⋯⋯」
そう言って慌ててリノがもふもふうさぎキラの手を引き再び階段を降り始めたので俺たちもあとに続いた。
長い螺旋階段を降り切った先にはワッフルで作られた巨大なバスケットがあった。
四隅には細長い飴で出来たロープ状のものが付いている。
先頭のゴリオが振り返った。
「みんな、これに乗ってくれる?」
「ああ、分かった」
まず、みんなでゴーレムのレムレムを乗せたあと俺たちも巨大なバスケットに乗り込んだ。ゴリオがパチンと指を鳴らす。
すると巨大なバスケットはゆっくりと綿菓子雲の床の中へと沈み始めた。
そのまま巨大なバスケットが綿菓子雲の下に出ると細長い飴で出来たロープに吊るされる形になった。
やはり下から見上げると木製の棒⋯⋯上から見ると滑り台だったが⋯⋯その木製の棒が綿菓子雲に突き刺さっていた。俺は見上げるのをやめ眼下を見下ろした。
近くにバウムクーヘンタワーが見える。俺はゴリオに近寄った。
「まるで気球みたいだな」
「うん、ルキ君、正解。これは綿菓子気球だよ、これで街まで移動するんだ」
その時ジェットコースター龍が綿菓子雲の上からバウムクーヘンタワーの方へ向かって、ものすごい勢いで飛んでいくのが見えた。
綿菓子気球は山肌沿いに飛んでいく。俺は山肌が気になりゴリオに質問した。
「ゴリオ、あの山肌にデコボコと立体的になってるのって何なんだ?」
「ああ、あれは岩脈だよ。今から25年前に、この山脈の向こう側の火の国の有名な自殺の名所がある火山が噴火して、この山からもマグマが噴き出したらしいんだ。あれは、そのマグマの跡だよ」
「へー、25年前ね⋯⋯」
俺はもふもふ猫タバサに近寄った。
「タバサ、たしか、モナルヒス王様がアイルーリスたちとパーティを組んで各地を旅してたのも25年前程前だと言ってたよな」
「ええ、そうですわ」
「噴火のことアイルーリスから何か聞いてないか?」
「ママからは何も聞いてないですわ」
「そうか⋯⋯」
俺は続けてみんなに向けて問いかけた。
「誰か、25年前に火の国の有名な自殺の名所がある火山が噴火しこと知らないか?」
するともふもふ犬ライラプスが声を上げた。
「ルキ様、噴火のことは知りませんが有名な自殺の名所がある火山のことは聞いたことがありますぞ。たしか火山の火口がデスクレーターとかいう自殺の名所だとか」
「そうなんだ⋯⋯分かった、ありがとう」
そうこうしているうちに、綿菓子気球はテルマレンの街に近づいた。
何気なく街の手前にあるまん丸の湖を見た俺はゴリオに聞いた。
「なぁ、ゴリオ、あのまん丸の湖の土手ってもしかしてドーナツか?」
「そうだよ、あれはドーナツ湖って言うんだ」
「美味そうだな⋯⋯だんだん腹減ってきた⋯⋯」
俺がそう言ってその場でしゃがむとリノの声が耳元で聞こえた。
「ルキ、何やってんの? 」
「腹減って元気出ないんだよ」
俺はそう言ってリノの方を向いた。みんなはテルマレンの街の方を向いている。
「じゃあ、元気出したげる」
そう言うとリノは俺の唇にキスをした⋯⋯。
俺はすぐさま立ち上がると叫んだ。
「元気出たーー!!!!」
そして俺は遅れて立ち上がったリノをギューっと抱きしめた。
「おほんっ⋯⋯ルキ様、リノ様、テルマレンの街に着きましたぞ」
突然のもふもふ犬ライラプスの声に俺はリノと抱き合うのをやめ、リノの肩を抱いて巨大なバスケットの外を見るとそこにはカラフルな街並みが広がっていたのであった⋯⋯。




