黒い獣たち
「ルキ! 今ジェットコースターが通り抜けなかった!?」
「ああ、全席、黒い獣が乗ってた!!」
俺はリノにそう返事をしたあとすぐさま立ち上がり、もふもふ熊クレオンの横をすり抜けステップを駆け下りるとジェットコースターが走り去った馬車前方へと走った。
繋がれた馬たちの横を走り抜け馬車の前まで出ると、まるで巨大なキャロットケーキに激突するかのようにギリギリで止まっているジェットコースターを見つけ足を止めた。
ここから見ると煌びやかな装飾が施された二人掛け、十列のジェットコースターの全席に黒い獣の後頭部が見えている。
(ん?)
いや違う。最後列に一人だけ貴族の男の格好をした人族らしき者がいる。その男を注視していると背後からリノの声がした。
「何なの、あれは!!」
次の瞬間、黒い獣たちが一斉に振り返った。
モグラだった。いやモグラの獣人だ。同じサングラスをかけたモグラの獣人たちが、こちらを見ている。
「ルキ様、お下がりください!」
突然もふもふ熊クレオンの声が聞こえ、もふもふ犬ライラプスと共に俺の前に出た。リノも俺のそばに来た。
「リノ、驚きだな」
俺がリノに向かってそう言うと背後からもふもふ猫タバサの興奮した声が聞こえた。
「ええ、ルキ様、本当に驚きですわ! 私、あのモグラたちのサングラス持ってますの!」
「いや! 驚くとこは、そこじゃないだろ!」
俺は秒で振り返りタバサにツッコんだあとジェットコースターの方に向き直り叫んだ。
「おい! お前たちは何者だ!!」
「まぁまぁ⋯⋯そう興奮しないで」
ジェットコースターの最後列に乗っていた貴族の男は、そう言いながらジェットコースターから降りた。やはり人族だ。
その瞬間モグラの獣人たちも一斉にジェットコースターから降り貴族の男の周りを守るように集まった。
尖った鼻先にサングラスをかけているモグラの獣人たちは皆ずんぐりとした体型をしていて平たく大きな両手で大きなスコップをまるで槍のように構えている。貴族の男が続けて言った。
「僕はこの辺りを治めるノルデスト男爵だよ」
「えっ? あの魔法オタクの⋯⋯」
驚く俺を見てノルデスト男爵は指をパチンと鳴らした。
次の瞬間俺たちはモグラの獣人たちに囲まれていた。
すぐさま俺たちが攻撃態勢をとるとノルデスト男爵は眉をひそめた。
「えっ、逆ギレ? 失礼だね、人の物を盗んでおいて」
「ちょっと待てよ! 何のことだよ、俺たちは何も盗んでないぞ!」
「証拠が丸見えなのに、しらばっくれるの? あれだよ、あれ。あの巨大なキャロットケーキをテルマレンの街から盗んだでしょ」
「テルマレンの街? 俺たちはテルマレンには行ってないし、そのキャロットケーキは俺たちが作ったんだよ」
「何のために?」
「朝食のためにだよ」
「またそんなデタラメを⋯⋯こんな大きな朝食を作るはずないでしょ」
「それがあるんだよ! なぁリノ、これは朝ごはんだよな!」
「ええ、これは誰がなんと言おうと朝ごはんよ!」
その声にノルデスト男爵がリノの方を向いた。
「あれっ? 君、リノって言うんだ⋯⋯さっきから気になってたけど君から感じられる魔力の大きさって尋常じゃないね⋯⋯君みたいに人族で魔力の高さに驚くのはこれで二回目だよ⋯⋯昔⋯⋯その子もリノって名前だったな⋯⋯教皇様の就任式の日、宮殿の裏庭の森でルキという男の子と一緒にいて⋯⋯」
その途端、リノがゆっくりとした口調で驚きの声を上げた。
「ゴリ⋯⋯オ⋯⋯?」
リノのその言葉にノルデスト男爵がハッとしたような表情を見せた。
「えっ!! 何で僕の本名を知って⋯⋯リノさん? もしかしてあの時のリノさんなの?⋯⋯たしかにその類い稀なる美しさの中に面影はあるけど⋯⋯じゃあもしかして君がルキ君?」
「⋯⋯いや、私はライラプスだが」
もふもふ犬ライラプスに向かって喋りかけたノルデスト男爵に俺は腹の底からツッコんでやった。
「おい、何ボケかましてくれてんだよ!! ルキが人族だってことは知ってんだろ!!!!」
ノルデスト男爵⋯⋯いや、本名ゴリオがこちらを向いた。
「えっ、ルキ君? きみがルキ君なの? たしかにあの頃の面影が⋯⋯いや、ごめん、全く思い出せない」
「シバくぞ!!」
「ごめんよ、ゴリオジョークだよ! ルキ君、僕だよ、ゴリオだよ!」
「知らねーよ!!⋯⋯ていうか、あんたゴリラじゃなくて人族じゃん!」
その次の瞬間、本名ゴリオことノルデスト男爵が指をパチンと鳴らすと、もうそこに本名ゴリオことノルデスト男爵はおらず、かわりに一匹のゴリラが立っていたのだった。
すぐにリノの興奮した声が聞こえてきた。
「あっ、ゴリオ!! やっぱりゴリオだわ! ルキ、覚えてる?⋯⋯ってルキは忘れちゃったんだっけ⋯⋯でも、ほら、ね! 嘘じゃなかったでしょ!」
「えっ? ああ、うん⋯⋯それってあれだろ? 俺たちが小さい頃、今の教皇様の就任式で退屈だからってこっそり二人で抜け出して宮殿の裏庭の森の中で遊んでたら目の前にゴリラが横切って声かけたら『僕ちょっと急いでるんだけど、君たちも来る?』って言われてついてったら大きなアリジゴクの巣のような、すり鉢状の穴がだんだん小さくなっていってて、その穴に飛び込んだら、お菓子と遊園地の国で、そのまま散々遊んで食べてたら、いつの間にか元の宮殿の裏庭の森で二人で寝てたって話だろ?」
「ええ、そうよ」
「俺はその事を覚えてないから、てっきりリノの夢の話かと思ってたけど本当だったんだな」
その時ゴリオが話に割って入ってきた。
「ルキ君はあの時の事を覚えてないの?」
「ああ、全く⋯⋯」
「そう⋯⋯残念。僕はあの時テルマレンの街の友達と遊ぶ約束をしてて先に帰ろうとしてたんだけど、リノさんの魔力の強さに驚いて、ついテルマレンの街へ誘っちゃって⋯⋯たぶんルキ君がその時の事を覚えていないのは、ルキ君が、その時まだ幼くてリノさんと違って魔法に耐性がなくて忘れちゃったのかもね⋯⋯しかし何年ぶりだろう⋯⋯あの時、教皇様の就任式に招待されていたということは二人共、名のある貴族の家柄なんだよね?」
「いや⋯⋯俺たちは、ただの冒険者だ⋯⋯それよりゴリオの方こそゴリラ族なのか?」
「僕は、ただのゴリラの獣人だよ、獣人はまだまだ世間の風当たりが強いからね。魔法で人族になってた方が何かと楽なんだよ」
「なるほどな⋯⋯」
(人がゴリラに変身するゴリラ族と、ゴリラが人に変身するゴリラの獣人か⋯⋯ややこしいな)
「ねぇ、ルキ君、リノさん、テルマレンの街に招待するから、今から一緒に来てくれる? 」
「えっ? それは嬉しいけど、俺たち先を急いでて⋯⋯」
「なぜ急いでるの?」
「それは⋯⋯」
リノが察して助け舟を出してくれた。
「ゴリオごめんなさい。その要件が終わったら必ず遊びに行くから⋯⋯」
「そうなんだ、残念だね、じゃあ⋯⋯」
その時ゴリオのそばにいたモグラの獣人がゴリオに耳打ちした。それを聞いたゴリオが俺とリノの顔を交互に見た。
「ああ、ダメだよ、やっぱり二人には来てもらわないと」
「なぜ?」
「これは領内で起こったことだから、ここでは処理出来ないらしくって」
「えっ、でも誤解は解けたし、領主なんだから、どの道ゴリオが判断することなんだろ?」
「うん、もちろん僕はいいんだけど、僕は魔法で遊んでばかりいる名ばかりの領主だから⋯⋯」
「それ、自分で言うなよ⋯⋯」
その時もふもふうさぎキラの場違いに浮かれた声がした。
「ねぇねぇ、リノちゃん! 今からお菓子と遊園地の国に行くの~~?」
「えっ? う~ん、そうね、どうやらそうしないといけないみたいだわ」
「わ~い!!!!」
ドンッ!
その瞬間、もふもふうさぎキラの地面を蹴る音と共にキラは一瞬にして俺の頭上五メートルくらいの位置にいた。
(⋯⋯ったく、どんなジャンプ力してんだよ)
俺がそう思った時、ゴリオが俺たちに笑顔を向けた。
「じゃあ、僕のジェットコースターに乗ってくれる⋯⋯」
ダンッ!
もふもふうさぎキラがゴーレムのレムレムの両肩に着地した。キラはニヤケている。俺はキラに構わずゴリオに言った。
「みんな、ゴリオのジェットコースターに乗るぞ」
リノが俺の顔を見た。
「ちょっと待って!」
リノはそう言って素早く魔法の小瓶を取りだすと硬貨の上に指を押し付けた。すぐさま機械仕掛けが発動し魔法の小瓶の蓋が開く。それを見てリノが叫んだ。
「四頭立て大型四輪箱型もふもふ馬車!!」
すると、みるみる馬車は吸い込まれていき、完全に馬車を吸い込んだあと、魔法の小瓶の蓋は閉まった。
「いいわよ」
リノの言葉に俺たちがゴリオのジェットコースターまで移動するとゴリオは指を鳴らした。たちまちジェットコースターは十四列になり俺とリノを最前列にみんなもジェットコースターに乗り込んだ。車輪はついているが何だか、ゆらゆらと浮いている感覚であった⋯⋯。




