行き先
ギネカ⋯⋯俺の妹で、今はリノの兄イポティス王子と結婚してダソス王国で暮らしている。
マギア⋯⋯リノの側近で、ダソス王国王立魔法大学学長。
サヤン⋯⋯レイモーン王国の神官長で、魔界から召喚された上級悪魔。
リオーナ⋯⋯ダソス王国アグロス辺境伯令嬢、月の光を浴びるとゴリラに変身するゴリラ族。
「この辺りは誰の領地なんだ?」
草原の国レイモーン王国のプリンスにして上級戦士の俺は、巨大なキャロットケーキの端からニンジンの切り株まで戻って座ると、大きなビスケットの丸テーブルの上に紅茶のカップを置きながら、そうみんなに聞いた。
すると俺の左隣に座っている森の国ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使いのリノの左に座っている神官騎士のもふもふ犬ライラプスが答えた。
「ルキ様、この辺りの領地を治めているのはノルデスト男爵⋯⋯通称魔法男爵ですな」
「ノルデスト男爵? 会ったことないな」
「まぁ、まだ家督を継いだばかりで年も若く爵位も低いですし、ルキ様に謁見した事はないのでしょうな。変わった御仁で魔法オタクと聞いておりますぞ」
その時、正面に座っている上級騎士でもふもふ熊クレオンが立ち上がり大きなビスケットの丸テーブルの上に地図を広げた。
「このレイモーン王国の地図によると、一本道の先の途中に左に曲がる道があり、そこから国境沿いの山脈のそばまで行くとノルデスト男爵が治める街テルマレンに行けますね」
「ほんとだ⋯⋯で、これからどこへ行くかが本題なんだけど⋯⋯」
俺が言い終わる前に突然俺の右隣に座っている魔法騎士のもふもふ猫タバサが立ち上がるとレイモーン王国の地図を覗き込み指で地図上の一本道をなぞりながら言った。
「それで⋯⋯ルキ様はどうされたいんですの? リノ様と追っ手をかわしながらロマンチックな逃避行の末に愛を勝ち取るんですの?」
「何だよ、その吟遊詩人のメロドラマみたいな話は! 大体追っ手なんか⋯⋯いや、確かに何者かに狙われてはいるけど⋯⋯ん? 言われてみれば確かにその通りだな⋯⋯タバサ悪い、まじめな話だったんだな」
「いえ、妄想ですけれど」
「やっぱりな!!⋯⋯まぁ、まじめな話、本来の目的であるギネカはマギアに丸め込まれてすっかり俺を嫌ってるし⋯⋯じゃなくて、火の国と休戦になったから俺がそばにいなくても大丈夫だろ⋯⋯(それにもう今はギネカよりリノのそばにずっといたいし)⋯⋯サヤンから頼まれたドワーフ村の長の話も聞いたし⋯⋯」
俺は左隣のリノを見た。
ん?⋯⋯なんか目配せしてるな。
(か、かわいい)
ん?⋯⋯今度はめっちゃウインクしてくるじゃん!
(可愛すぎる!)
俺は思わず口元が緩みウインクをリノに返した。
ん? リノ、今度は急にほっぺた膨らましてどした?
(怒った顔も可愛いな)
俺はさらにウインクをリノに返した。
突然リノが握りこぶしを振り上げた。
俺はすぐにリノの真意を理解した。
(わ、分かってるって)
俺は再びみんなの方を向いた。
「俺は⋯⋯リノとも話したんだけど、このまますぐ王都へ戻って王様に俺とリノのことを認めてもらおうと思う」
「それでこそルキ様ですわ、私は、リノ様とルキ様の愛の使者として見守る義務がございますのでお供いたしますわ」
「ありがとうタバサ!(愛の使者ではないけどな!)」
その時もふもふ猫タバサの右隣にいる魔法騎士見習のもふもふうさぎキラの不服そうな声が聞こえた。
「え~、ルキちゃん、私もっと遊びたいな~」
「えっ、キラ、今俺の話聞いてた?」
「聞いてたよ、ヒューヒュー」
「いや、ヒューヒューじゃねーよ」
「だって遊びたいんだもん!」
「がまんしろよ!」
俺がそう言った次の瞬間、突然もふもふうさぎキラはニンジンの切り株から後ろへひっくり返ると巨大なキャロットケーキの上で手と足をバタバタし出した。
「い、や、だ! い、や、だ!」
「は? 駄々こねて子供かよ」
その時リノが立ち上がったのか、俺の背後からリノが急に出てきてキラのそばにしゃがんだ。
「キラ、ごめんなさい、どうしても先に王都へ行きたいの」
するとすぐにもふもふうさぎキラは起き上がりリノに抱きついた。
「いいよー、リノちゃんが行きたいならがまんする」
そう言ったあと、もふもふうさぎキラは俺の方を向いた。
「ねぇ、ルキちゃん!」
「なんだよ」
「あっかんべー!」
「あのな⋯⋯」
俺がキラに何か言おうとした時もふもふ犬ライラプスの声が左から聞こえた。
「ルキ様、私はサヤン様に一刻も早くお会いして撫でてもらい、おやつをいいただくために『待て』と言われ、お手をしたあとおかわりまでしたいので、すぐに王都へ戻ることには賛成ですぞ!」
(フルコースだな! 犬かよ!⋯⋯まぁ、犬だけど)
「じゃあライラプスは賛成だな⋯⋯あとはクレオンか」
もふもふ熊クレオンの方を向くとクレオンと目が合った。
「私はルキ様のご意志を尊重しますのですぐに王都へ戻ることに賛成です」
「分かった、ありがとう、じゃあみんな賛成だな」
俺がみんなの顔を見ながらそう言うとクレオンが何か言いたげな表情を見せた。
「どうしたクレオン」
「はいルキ様、ただ食料が王都まで持ちませんので調達しなければいけないのですが、急ぐならばノルデスト男爵の街テルマレンで調達するより少し遠いですが、この一本道の突き当たりにある王領の港町リマニまで行った方が良いかと」
「よし、じゃあ港町リマニで食料は調達しよう、リノもそれでいいな?」
「ええ、いいわ」
俺たちが巨大なキャロットケーキから下りて、馬車の前に来るとリノが俺に話しかけてきた。
「ルキ、もう馬車の中を元に戻してもいいわよね?」
「えっ?⋯⋯ああ、たしかにこの陽気だしリオーナたちもいないしな」
「分かった、じゃあちょっと待ってて」
リノはそう言うと一人馬車に乗り込み魔法の杖を取り出し振った。
一瞬馬車内が光ったかと思うと次の瞬間には、馬車の開いた扉から見える馬車内は何もないように見えた。
俺たちは馬車に乗り込んだ。
あんなにぎゅうぎゅう詰めでキッツキツだった馬車内は、前後に三人掛けのソファーがあるだけの広々とした空間に様変わりしていた。
突然もふもふうさぎキラが背後から飛び出し馬車内後ろに走っていき後ろのソファーにダイブした。
「おい、キラ!」
俺が大きな声でそう言っても、もふもふうさぎキラは我関せず寝そべりクロールをしている。
「⋯⋯ったく、相変わらずだな、キラは」
その時、俺の前にいるリノが振り向き人差し指を自分の口にあてた。
「ルキ、しーっ! キラの気が変わったらどうするのよ」
「えっ?⋯⋯ああ、そうだな」
俺はそう言ったものの後ろ側のソファーまで歩いていくと、もふもふうさぎキラを真ん中に座らせ無理やりキラの左側に座った。
キラが俺を睨む中、リノもキラの右側に座る。
前側のソファーには、もふもふ犬ライラプスと、もふもふ猫タバサが、今座った。
「じゃあレムレムに出発を伝えて来ます」
「ああ、頼む」
俺が返事をするともふもふ熊クレオンが馬車の入り口の扉を開いた。
「あっ!!」
その瞬間、馬車の扉の向こうを見た俺は思わず驚きの声を上げたのだった⋯⋯。




