カフェ・ノスティモのモーニング
俺の側近の一人であるソラハンは、草原の国、レイモーン王国の外務大臣でソラハン商会の社長である。
今は俺の代わりに国王補佐をしてもらっている。
(ん? あれ? ソラハン⋯⋯)
カフェ・ノスティモにいる俺たちは、全員組み合わせ自由なモーニングに決めて、各自メニューを見ながら食べたいものを選んでいたのだが、俺はそのメニューの中にソラハンの名前を見つけ、そばにいた店員に聞いた。
「ねぇ、この、ソラハンミニラーメンって、今レイモーン王国で流行ってるあのソラハンラーメンのこと?」
「流行っているかは存じませんが、このラーメンはレイモーン王国にあるソラハン商会のソラハンラーメンと聞いておりますが」
(何だよ、ソラハン、隣の国にまで売り込んじゃって⋯⋯手広く商売やってるな。うーん、でもなー、ソラハンには悪いけど、ソラハンラーメンは、レイモーン王国にいた時、めっちゃ食べたから、ちょっと飽きてきてるしなぁ⋯⋯まぁ、ここにソラハンがいるわけでもないから別にソラハンミニラーメン選ばなくても大丈夫だよな⋯⋯)
「お客様、あの⋯⋯それで、そのスープなんですが⋯⋯きのこと山菜のこってりソラハンミニラーメンと、当店自慢の特製コーンスープと、どちらになさいますか?」
「あっ、じゃあ⋯⋯俺は特製コーンスープで」
「かしこまりました」
◇
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
俺たち6人は全員分のモーニングが運ばれてくると、大きな四角い穴⋯⋯いや大きな四角い窓の前にある6人がけの長方形の木のテーブルの前で乾杯した。
俺はシュワシュワ山葡萄ジュースを、リノはシュワシュワ梅ジュースを、クレオンは、はちみつジュースを、ライラプスはブルーベリージュースを、タバサは山桃ジュースを、そしてキラはキャロットジュースを飲んだのだった。
俺とリノは窓の目の前で向かい合って座っており、俺の左隣にはクレオンとライラプスが、リノの右隣にはタバサとキラが座っている。
突然、俺の左隣にいるクレオンが俺の耳元で囁いた。
「ルキ様、まるで合コンのようですな」
「えっ? そうそう、俺はもう右端のリノさんに決めちゃってるんだけど、クレオンはどうする? っじゃねーよ!!!!」
俺はクレオンに囁き返したのだが、つい声が大きくなってしまったらしくリノがこちらを向いた。
「ルキ、何、興奮してるのよ」
「いや、興奮してねーし」
俺は照れ隠しも込めて慌てて目の前にあるハムチーズホットサンドを取るとかぶりついた。
「うまい!!!! ねぇ、リノ、このハムチーズホットサンドうまいよ、早く食べてみなよ」
「えっ、うん、分かったわ⋯⋯うんしょ、うんしょ⋯⋯パクっ、あっ、ほんとだ、美味しい!」
「だろ! ていうか、ホットサンド持つ時に、なんで、うんしょうんしょ言ってんだよ、そんなにホットサンド重くないだろ」
「は? い、いいでしょ!!!! そんなこと言ってると魔法でルキのホットサンドほんとに重くするわよ!!!!」
左からライラプスの声がした。
「あいかわらず、仲がおよろしいですな」
俺はライラプスに答えようと左を向いたのだが、クレオンの20枚重ね、はちみつパンケーキが残り3枚になっているのを見て、急遽ライラプスに答えるのをやめ、クレオンに全力でツッコんだ。
「いや、クレオン食べるの早っ!!!!!!!!」
だが、クレオンは、はちみつパンケーキに夢中で俺の言葉は聞こえていないらしい。
俺はテーブルを見渡した。
(もふもふたち美味しそうに食べてるな⋯⋯)
ああ、ちなみに、俺が選んだモーニングは、ハムチーズホットサンドセットで、サラダは秋野菜サラダの目玉焼きのせ、スープは特製コーンスープ、ドリンクはシュワシュワ山葡萄ジュース、そしてデザートはブルーベリーチーズケーキだ。
ダソス王国のプリンセス、リノが選んだモーニングも、ハムチーズホットサンドセットで、サラダは秋野菜サラダの目玉焼きのせ、スープは特製コーンスープ、ドリンクはシュワシュワ梅ジュース、そしてデザートは山葡萄チーズケーキだ。
もふもふ熊のクレオンが選んだモーニングは、はちみつパンケーキセットで、俺との約束通り20枚重ねにしてもらった。
サラダはマッシュポテトサラダの目玉焼きのせ、スープは特製コーンスープ、ドリンクは、はちみつジュース、そしてデザートは、はちみつケーキだ。
もふもふ犬のライラプスが選んだモーニングは、ホットドッグセットで、サラダはマッシュポテトサラダの目玉焼きのせ、スープは特製コーンスープ、ドリンクはブルーベリージュース、そしてデザートはマロンケーキだ。
もふもふ猫のタバサが選んだモーニングは、またたびハンバーガーセットで、サラダはマッシュポテトサラダの目玉焼きのせ、スープは、きのこと山菜のこってりソラハンミニラーメン、ドリンクは山桃ジュース、そしてデザートは山桃チーズタルトだ。
もふもふうさぎのキラが選んだモーニングは、キャロットフレンチトーストセットで、サラダは秋野菜サラダの目玉焼きのせ、スープは、きのこと山菜のこってりソラハンミニラーメン、ドリンクはキャロットジュース、そしてデザートはキャロットケーキだ。
そんなこんなで楽しい朝食の時間も残すはデザートだけとなった。
俺はリノの方を見た。
「リノの山葡萄チーズケーキ、うまそうだな」
「えっ、欲しいの? じゃあ、一口あげる、あーんして」
「えっ? う、うん、ありがとう、あーん⋯⋯パクっ⋯⋯ん?」
俺がパクっとした瞬間、視線を感じたので左を見た。
もふもふたちが、こちらをじーっと見ている。
あんなに騒いでいたタバサとキラまで無言になり、もふもふ騎士団はシーンと静まり返っていた。
左からライラプスの声がした。
「ゴホンっ⋯⋯ところでルキ様、これからどこへ向かわれるおつもりですかな」
「えっ? ああ⋯⋯そうだな、まずはダソス王国とレイモーン王国の二国間にまたがる巨大なカルデラ湖である、フィリア湖に遊びに行こうかな⋯⋯俺まだフィリア湖には行ったことないからさ」
するとリノが驚いたような声で言った。
「は? 観光するの? ルキは、てっきり、妹のギネカちゃんのために火の国クラティラス王国との戦いの最前線、国境の街クレモスに行くものとばかり思ってたけど⋯⋯」
「えっ⋯⋯うん、まぁ最初は、そう思ってたんだけど⋯⋯まっ、いいじゃん!」
(ダソス王国でリノに再開してから、妹よりリノのことで頭がいっぱいだなんて言える雰囲気じゃないな⋯⋯いや、どのみちリノには言えないか⋯⋯)
「ダメ、戦うのよ、じゃあ何? ルキは私に嘘をついたってこと? 酷い⋯⋯」
リノは両手で顔を覆った⋯⋯。
「えっ、リノ、泣いてるのか? 悪かったよ、じゃあ先にギネカの所へ行ってこれからどうするか策を練るから」
俺の言葉を聞きリノはすぐに顔を上げた。
「えっ、そうなの? じゃあそうしましょう」
「は? 今泣いてたんじゃないの?」
「1ミリも泣いてなんかないわよ」
左からライラプスの声がした。
「ルキ様、そもそも女性というものは⋯⋯」
「いや、ライラプス、何も言わなくていい⋯⋯」
その時突然、大きな四角い窓の外から大声が聞こえた。
「は?なんだよ、この店、獣人がたむろってんじゃん」
「そうね、やーねー、獣臭くって」
俺たちが一斉に大きな四角い窓の方を向くと、青い肌で耳の長いダークエルフのカップルが俺たちに軽蔑の眼差しを向けながら嘲笑していたのであった⋯⋯。