魔法の小瓶
ルキ→レイモーン王国のプリンスにして上級戦士
リノ→ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使い
クレオン→もふもふ熊の獣人、上級騎士
ライラプス→もふもふ犬の獣人、神官騎士
タバサ→もふもふ猫の獣人、魔法騎士
キラ→もふもふうさぎの獣人、魔法騎士見習
サヤン→レイモーン王国の神官長、上級悪魔
アイルーリス→レイモーン王国の水の魔女で予言者、タバサのママ
「リノ様が心配で戻ってきてみたら、何て素敵なことが起きているのでしょう! ああ、ついに私の愛の使者としての働きが報われたのですわ!」
俺とリノの真横で両手を広げ空を見上げながら叫んでいるもふもふ猫タバサのその叫びを受け、俺は離れ難いリノの甘美な唇から岸を離れる船のようにゆっくりと自分の唇を横に滑らせながら顔を上げると、右手でリノの頭をすっぽりと覆うように後ろから手を置き優しく腕の中に抱きしめたあと、もふもふ猫タバサに視線を向けた。
もふもふ猫タバサの後ろには、もふもふ犬ライラプス、もふもふうさぎキラ、御者でゴーレムのレムレムもいる。
俺は、おそらく顔を紅潮させながら興奮しているであろうもふもふ猫タバサに答えた。
「ああ、そうだな、俺とリノはダソス王国の酒場で飲んだ直後から付き合ってるからな」
「やっぱり! ルキ様、リノ様おめで⋯⋯えっ? どういうことですの? では私が愛の使者に就任した時にはもうお二人はお付き合いされていたということですの?」
俺の肩口に顔を埋めていたリノは肩口から顔を離すと俺の腕をすり抜け振り返りながら俺と腕を組んだあと、しおらしくもふもふ猫タバサに言った。
「タバサごめんなさい⋯⋯騙すつもりはなかったの、言い出せなくて」
もふもふ猫タバサが答えようとするのを見て俺はすぐさま割り込んだ。
「いやタバサ、リノは悪くないんだ。俺がリノに秘密にしといてほしいと頼んだから全て俺が悪いんだ。ごめん⋯⋯許してほしい」
だが予想とは裏腹にもふもふ猫タバサの顔がパァーっと明るくなったかと思うとタバサはリノのそばへ駆け寄った。
「許すも何も、良かったですわ! リノ様おめでとうございます」
「ありがとうタバサ」
もふもふ熊クレオンが笑みを浮かべながら俺に近寄ってきた。
「おめでとうございます、ルキ様」
「ありがとうクレオン」
もふもふうさぎキラも俺に近寄ってきた。
ムッとした表情をこちらへ向けている。
「えー、リノちゃんは私のものなんだからルキちゃんはリノちゃんと付き合っちゃダメだよー」
俺はやや食い気味にツッコんでやった。
「は? リノは俺のものだよ」
さらにもふもふ犬ライラプスも渋い表情で近寄ってきた。
「ルキ様⋯⋯ルキ様はこれから我が王国の為に犠牲となり政略結婚を控える身、まずは国王陛下とサヤン様の許可を取らねばなりませんぞ」
「何でサヤンの許可がいるんだよ!⋯⋯てか何でいつの間に政略結婚が決定事項になってんだよ!」
「いえ、サヤン様がナツキナと、そう話されていたもので⋯⋯」
「ナツキナってアイルーリスのとこの巫女だったよな」
「そうですな、なぜご存知で?」
「いや、前に俺の影武者候補にナツキナが上がったから⋯⋯さすがに最終審査で俺と体型が違いすぎるから落ちたらしいけど」
「なるほど、そうだったのですな」
(でもなぜナツキナが?⋯⋯サヤンは一体俺の知らない所で、何をコソコソ画策してんだよ⋯⋯)
その時ゴーレムのレムレムが近寄ってきて言った。
「ご主人様、激しいキスって何?」
「な、なんだよ突然⋯⋯いや、そんなピュアな目でそんな事言われても⋯⋯おい、レムレムにこのワード教えたやつ誰だよ!」
俺がみんなに向かってそう言った次の瞬間突然、体の大きなゴーレムのレムレムの後ろからひょっこりと知らない顔が現れた。
ミニチュアホースに跨り大きなシャベルを背負っている屈強なドワーフだ。
「まぁまぁ、めでてーじゃねーか、ここはオラと酒で乾杯といこーや」
「いや、お前誰だよ!」
「オラか? オラはこの先のドワーフ村にある鍛冶屋のボルトスだよ」
急にもふもふうさぎキラが俺の前に駆け寄ってきて微笑んだ。
「私のマブダチなんだよー」
「は? また初対面でマブダチかよ⋯⋯ったく、キラにはどんなコミュニケーション能力が備わってんだよ⋯⋯とにかく乾杯はしてられない⋯⋯敵が近くにいるかもしれないし」
突然もふもふ犬ライラプスが険しい顔を俺に向けた。
「敵ですと? ルキ様はそれで装備をされているのですな? ん? ルキ様、魔軽鎧の色が変化していますな」
俺はその言葉に自分の魔軽鎧を見た。
「えっ? あっ、ほんとだ、気づかなかった」
(なんで魔軽鎧の色が⋯⋯今度サヤンに会ったら聞いてみるかな)
俺は剣と盾と鎧を収納玉に収めるともふもふ熊クレオンの方を向いた。
「ちょっとクレオン、俺はリノに話があるから、みんなにさっきあったことを説明しててくれるか?」
「はい、分かりましたルキ様」
俺はリノと手を繋ぎ平原の方へと歩き始めた⋯⋯。
草原の国は夏と冬の二季。
はや季節が変わったように暖かな陽気だ。
見渡す限りの平原⋯⋯晴れ渡る空があり、その空に映える緑の大地がある⋯⋯ああ、緑と言ったのは、そこは草原の国と言われる由縁、平原といえども大地一面には青々と生い茂った魔法草が風で緩やかに揺れているのだ。
突然風が吹き渡り俺とリノの間を駆け抜けていく。
その風を追いかけるように濃い緑の匂いが俺とリノを包み込んだ⋯⋯。
歩くたび柔らかな魔法草の感触が足の裏に伝わってくる⋯⋯。
俺は辺りを見回した。
緑の大地に点々と白い岩が光って見える⋯⋯木も疎らに見えた⋯⋯だが俺はリノの手を引き最初から決めていた正面に見える木立に向かうことにした。
ここから見える木立は少し妖しげで、まるで巨大な兵士たちが隊列を組んでいるようにも見える。
俺とリノはその妖しげな木立から伸びる影の中に入ると導きの道を歩くようにその影の中を進んでいった⋯⋯。
木立の中へ入ると少しひんやりした。
「ルキ、どうしたの? 話って何?」
俺はリノの手を離すとリノの方を向いた。
リノ越しに巨大な猫の毛玉馬車とみんなの姿が小さく見えた。
その向こうには木々が点々とし、さらにその先には切り立った山のゴツゴツとした山肌が見える。
その時間の流れが違うようにも見えるゆったりとした厳かな山の佇まいは神聖なものにさえ感じられた。
俺は山から視線を切ってリノの目を真っ直ぐに見つめるとリノも見つめ返してきた。
「リノ⋯⋯あいつ⋯⋯あの赤いローブの男は自分の事を火の女王バシリッサに仕える四天王の一人、魔術師マーゴスだと言ったんだ。しかも俺を恨んでるとも言ってた。死神の時と違って今後俺が狙われ続けるかもしれない⋯⋯だから⋯⋯」
「えっ⋯⋯もしかして帰れって言うんじゃないでしょうね?」
「俺と一緒にいたら、ずっと危険が付きまとうんだぞ」
「そんなの関係ない、こんなに気持ちが通じてるのに私絶対離れないわよ! さっき愛してるって言ってくれたのは嘘なの?」
「いや、俺はリノを本当に愛してる、一生離さない!」
「だったら⋯⋯」
リノは今にも泣き出しそうだ。
「リノ⋯⋯」
「そうだ、ルキ、政略結婚するのね! そうよ! だからそんな風に言うんだわ!!」
「違うって!! 政略結婚は初耳だ、サヤンがまた何か企んでるだけなんだって!」
「本当に? 」
「ああ、本当だ! だって俺はリノと!!⋯⋯⋯⋯分かったよリノ、ずっと一緒にいよう! そしてドワーフ村で仕事が終わったら王様に会いに行って俺たちのことを認めてもらおう!」
「もし反対されたら?」
「俺が何度でも説得する!」
「それでも反対されたら?」
「⋯⋯それでも⋯⋯ずっとリノと一緒にいる!」
「ルキ!」
リノが抱きついてきた。
俺はそのままリノをギューっと抱きしめるとリノの全てを包み込むような優しいキスをした。
しばらくして俺とリノはみんなの所へ戻った。
「クレオン、攻撃受けたことみんなに説明したか?」
「はい」
俺はみんなに向けて言った。
「レムレムはここに置いていけない」
続けて俺は巨大な猫の毛玉馬車を指差しながら言った。
「つまりこの馬車もここには置いてはいけない、何とか持って行かないと⋯⋯」
「でもどうやって? 今私は魔力の大きな魔法は使えないし」
リノがそう言ったあとドワーフのボルトスがリノに近づいてきた。
「ん? あんたのそのピアスの細工⋯⋯もしかしてそれは【マジカルストーンハンマーギルド】のピアスじゃないか?」
「えっ? そうよ、私のお気に入りなの」
「お気に入りなんて言われて嬉しいねぇー。そのブランドではオラの家族も働いてるんだぜ⋯⋯ところであんたたちはこの巨大な猫の毛玉を持ち歩きたいのか?」
「えっ? 今なんて?」
「だからこの巨大な猫の毛玉を⋯⋯」
「ルキ!!」
突然リノが叫び俺の方を向いた。
「なんだよ⋯⋯何勝ち誇ったような顔してんだよ」
「だって私の勝ちでしょ。この馬車が巨大な猫の毛玉だってことが分かる人には分かるのよ」
「どうせキラが教えたんだろ」
「私教えてないよー」
もふもふうさぎキラが頬っぺたを膨らませながらそう言った横からドワーフのボルトスが俺に言った。
「オラも誰にも聞いてないぞ。どう見たって巨大な猫の毛玉だ」
「いや、どう見たって巨大な猫の毛玉には見えねーだろ」
「何でオラが怒られてんだ? それでこの巨大な猫の毛玉の持ち主は誰なんだ」
「私だよ~」
もふもふうさぎキラがそう答えた瞬間、もふもふ猫タバサがドワーフのボルトスの前に出て言った。
「ダメよ、キラ嘘言っちゃ、ボルトスさん、この馬車はリノ様のものです」
俺は当然間髪入れずにツッコんだ。
「おい、タバサも嘘言ってんじゃん!」
「何ですのルキ様、リノ様とお付き合いされたのであれば、もはやこの馬車はリノ様と私のものですわ」
「なんでそこにタバサが入っちゃってんだよ。リノにはあげてもいいけど、タバサにはやらねーよ」
「ルキ様! 私はルキ様とリノ様の愛の使者ですのよ!」
「いや、だからタバサが愛の使者になる前からリノとは付き合ってるんだって」
その時ドワーフのボルトスが呆れた顔をしながらリノの方を向いた。
「まぁ、持ち主はよく分からんけど見たところあんたは魔法使いのようだし、あんたが持ってた方がいいのかもな」
そう言うとドワーフのボルトスは腰にぶら下げている袋から透明な小瓶を取り出しリノに差し出した。
「これあんたにやるよ」
「これは?」
ドワーフのボルトスが差し出したその透明な小瓶はおそらくガラスで出来ているのだろうが蓋の部分から小瓶の正面上部にかけて高級感漂う金細工が施してあった。
ただその金細工は普通の彫刻というより機械仕掛けな印象が強かった。
なぜなら金の歯車が金細工の隙間の至る所から見えていたからだ。
しかも蓋の上には機械的なドラゴンが羽を広げ立っていて正面上部には機械的な騎士がしがみついている。
「これは魔法の小瓶だ、あんたその小瓶の騎士の下にぶら下がっている柄の無い硬貨に人差し指を押付けて『所有者は私』って言ってくれねーかな」
「えっ? ああこれね、分かったわ」
リノが真新しい柄の無い硬貨に人差し指を押し付けた。
「所有者は私」
その途端硬貨が一瞬光り輝いた。
「もう、いいぜ」
ドワーフのボルトスの言葉にリノが指を離すと硬貨には指紋が刻まれていた。
「これで登録完了だ。さぁ、もう一度指を押し付けてくれねーか」
「ええ」
リノはリノの指紋が刻まれた硬貨の上に指を押し付けた。
するとどこからか男の野太い声が聞こえてきた。
「認証完了、発動すっぞ!」
ガガ⋯⋯ガガガガ⋯⋯
突然機械的な音と共に機械的な騎士が上に向かって登り始めた。
機械的な騎士はすぐに機械的なドラゴンの足元まで登り切ったあと剣を抜き機械的なドラゴンに突き刺した。
次の瞬間機械的なドラゴンが動き出し大きく羽ばたいた。
ギ⋯⋯ギィィィィ⋯⋯ャァアア⋯⋯
バタッ⋯⋯
機械的な叫び声と共に機械的なドラゴンが倒れた。
ポンッ⋯⋯
蓋が開いた。
ドワーフのボルトスが叫ぶ。
「さぁ、早く中に入れたいものを叫んで!!」
「ええ、巨、巨大な猫の毛玉馬車!!」
ガターン!!!!
ミシミシミシミシ⋯⋯
突然巨大な猫の毛玉馬車が大きな音と共に軋みながらゆっくりと空中へと浮かび始め俺たちの頭の上くらいの高さまで浮かび上がったと思った次の瞬間、突然巨大な猫の毛玉馬車が急激に小さくなりながらこちらへ向かってきた。
さらにこちらに来るにつれ巨大な猫の毛玉馬車はみるみる細くなっていきまるで先端が細い槍のようになっていった。
そしてついにその先端が魔法の小瓶にたどり着いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯
細い筋となった巨大な猫の毛玉馬車の先端が魔法の小瓶に吸い込まれたあと、ものすごい勢いで巨大な猫の毛玉馬車が魔法の小瓶に吸い込まれていった。
ヒュン⋯⋯バタンッ!
そして巨大な猫の毛玉馬車が魔法の小瓶に全て入り切った瞬間、蓋が閉まった。
みんなが急いでリノに駆け寄り魔法の小瓶の中を見るとそこには毛玉が一つコロコロと転がっていたのだった⋯⋯。




