赤き魔術師
森の国ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使いのリノともふもふたちと分かれた草原の国レイモーン王国のプリンスにして上級戦士の俺は、巨大な猫の毛玉馬車の前に立っている御者ゴーレムのレムレムに話しかけた。
「それで話って何だよ」
「分からない⋯⋯レムレム、ここが痛い」
ゴーレムのレムレムは胸を押さえた。
「どうした、大丈夫か?」
「分からない⋯⋯ご主人様、レムレムは一体誰?」
「何言ってんだよ、レムレムは⋯⋯」
その時俺は背後に強烈な殺気を感じ振り返った。
だが見渡す限りの広い平原には誰もいない。
(何だ気のせいか⋯⋯)
そう思って再びゴーレムのレムレムの方に向き直った瞬間、俺は一気に背筋が凍った。
なぜならゴーレムのレムレムの左斜め後方、つまり巨大な猫の毛玉馬車の左側に、あいつがいたからだ。
赤いとんがり帽子を被り、顔全体を覆う黒いペストマスクをつけ、赤いローブを着て、赤い宝石が付いた黒い長杖を右手に持ったあいつだ。
突然辺りに男の低い声が響いた。
「炎弾!!」
次の瞬間、長杖の赤い宝石から炎に包まれた光の玉が放たれた。
俺は反射的に叫ぶ。
「レムレム、逃げろ!!」
炎に包まれた光の玉は、微動だにせず俯いているゴーレムのレムレムの横を通り抜け俺の方に向かって一直線に飛んできた。
俺は間一髪、炎に包まれた光の玉を避けたがその時突然ゴーレムのレムレムが動き出した。
「ご主人様、どうしたの? なんでいるの?」
「何言ってんだ、早くみんなの所へ逃げるんだ」
「みんなの所って?」
「とにかくこの道を走れ!」
俺がそう言って右を指さすとゴーレムのレムレムは頷いたあとドスドスと小道のある右へと走っていった。
俺はポケットから素早く収納玉を取り出すと叫んだ。
「剣と盾よ、姿を現せ!!」
するとすぐに右手には先生から貰った草原国戦士長剣が、左手には軽金属盾が、体には魔軽鎧が装着された。
赤いとんがり帽子に黒いペストマスクをし赤いローブに赤い宝石が付いた黒い長杖を右手に持ったその男は走っていくゴーレムのレムレムの方には見向きもせず俺の方に近寄ってくる。
だが俺が剣を構えるとその男の動きは止まった。
「レイモーン王国の王子よ! この時を待っていたぞ!!」
「お前は何者だ!!」
「すぐに殺されるのに知ってどうする」
「やってみなきゃ分からないだろ」
「ふんっ、相変わらず威勢だけはいいな」
「相変わらず? 普段の俺を知ってるのか?」
「ああ、よーく知っているとも⋯⋯私は火の国クラティラス王国の女王バシリッサ様にお仕えする四天王の一人、魔術師マーゴスだ」
「マーゴスなんて名前聞いた事ないぞ」
「お前への恨み、この場で晴らしてやる!!」
「恨まれる覚えはねーよ!」
「問答無用!」
そう言って魔術師マーゴスは自らの懐を大きく開けた。
バサバサバサバサバサ⋯⋯
その瞬間魔術師マーゴスの懐からは、ものすごい勢いでたくさんの燃え盛る赤いハトが飛び出してきた。
飛び出した燃え盛る赤いハトは次々と俺に群がり襲いかかってくる。
俺は盾で防ぎながら次々と燃え盛る赤いハトを剣で切って落としていきようやく全てのハトを倒し巨大な猫の毛玉馬車の方を見たがもうそこに魔術師マーゴスはいなかった。
その時突然なぜか遠くからもふもふ熊クレオンの叫び声が聞こえた。
「ルキ様ー!! 上です!!」
俺がその声にすぐさま空を見上げると、そこに魔術師マーゴスはいた。
巨大な猫の毛玉馬車の上空に浮かんでいる魔術師マーゴスは、右手に持った長杖を高々と掲げている。
突然長杖の先の赤い宝石が光り赤い宝石から炎が噴き出してくるとその炎は赤い宝石の周りを回り出した。
炎の残像が風車のように見える。
「爆轟大爆発!!」
そう魔術師マーゴスの叫び声が俺の耳に入ってきた瞬間、突然俺の視界は揺れ始め、まるでスローモーションのように全てがゆっくりと動き始めた。
(魔法が放たれたのか?)
だが、そう思う間もなく俺は息苦しさを感じた。
(空気が薄い⋯⋯ものすごい圧力も感じる⋯⋯)
キーン⋯⋯
急に耳鳴りがしたかと思うと、すぐに周りの音が一切しなくなった⋯⋯
(何も聞こえない⋯⋯いや、微かに声が聞こえる)
「ルゥゥゥゥキィィィィ!!!!」
(リノの声だ!!)
そう思った次の瞬間いつの間にか俺の目の前にはガラスの壁が現れていた。
「魔法円反射板!!!!」
突然辺りにやまびこのように反響するリノの叫び声がハッキリと聞こえてきた。
そのリノの叫び声と共に俺はスローモーションのような世界から脱した。
次の瞬間、俺の目の前でものすごい衝撃波のような光と炎と熱が同時に降り注ぎ、そしてその刹那ものすごい爆音がした⋯⋯
ドドドドーーーーン!!!!
その爆音のあと、煙で包まれた目の前のガラスの先がすぐに晴れると向こうへ飛んでいく巨大な光の球が見えた。
目の前のガラスが消えていく⋯⋯。
ガラスが完全に消え空を見上げると、もうそこには魔術師マーゴスの姿はなかった。
突然リノが走り寄ってくるのが視界に入った。俺はリノの方を向いた。リノが抱きついてくる。俺も剣と盾を捨てリノをしっかりと抱きしめた。
「ルキ、大丈夫?」
リノの声が耳元で聞こえた瞬間、俺は体の力が抜けるのを感じた。
「ああ、大丈夫だ⋯⋯」
もふもふ熊クレオンが心配そうに見ている。
俺はリノを抱きしめた手を緩めリノの肩に手を置いた。
「これってリノの魔法なのか?」
「ええ、小道の向こうからルキの周りに魔法円を投げて半球の透明な反射板で覆ったのよ」
「そうか、ありがとう⋯⋯でも何でここに?」
「それは何だか胸騒ぎがしたからルキの所へクレオンと戻ってたら、レムレムがいてルキの事を聞いて居ても立っても居られなくなって急いで来てみたらルキに向かってものすごい魔力の魔法が放たれようとしてて⋯⋯ルキが死んじゃうかもって⋯⋯それで私⋯⋯」
リノの目には涙が溢れんばかりに溜まっている⋯⋯
俺はそんなリノを見て一気に胸が熱くなり、もふもふ熊クレオンが見ているにも関わらずリノにキスをした。
そしてリノから唇を離すとリノを熱く見つめ言った。
「リノ⋯⋯愛してる」
リノの目から涙が溢れた。
「⋯⋯私もルキを愛してる」
俺はその言葉にリノをギュッと抱きしめると熱いキスをした⋯⋯溶け合うような熱いキスを何度も重ね、とろけるような感覚の中、ふいにクレオンの咳払いが聞こえたような、そんな気がしたのだった⋯⋯。




