たらこ馬
「たらたらたらたら、たらりんこー! からの~! ばーじょんあーっぷ!!」
森の国ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使いのリノがそう言って馬車のそばで魔法の杖を振った次の瞬間突然四頭立て大型四輪箱型もふもふ馬車左側後方窓が開きその窓から次々と三つの背もたれクッションが一列に並んだまま勢いよく飛び出してきたかと思うと、まるで磁石同士がくっつくかのようにピッタリとくっついたのだった。
空中でくっついた三つの背もたれクッションは、以前と同じようにみるみる円柱形を横にしたような深い赤色のたらこに変化していったのだが、その変化したたらこからは徐々に前部分には馬の頭から鬣までの首が、下部分には馬の四本の脚が、後部分には馬の尻尾が生えてきたのであった。
そしてその馬車から遠ざかりながら馬として完全体になったたらこの胴体を持ったたらこ馬はしばらく空中を駆け回っていたが、突然速度を緩めると大きく弧を描きこちらへ向かってくると直前でさらに減速したあと俺たちのそばにスっと降り立った。
草原の国レイモーン王国のプリンスにして上級戦士の俺は、たらこ馬の鼻を撫でているリノのそばに近寄った。
「リノ、たらこを馬にすると何か怖いぞ」
「えっ、 たらこじゃないわよ!」
「じゃあ、何だよ、それは!」
「そ、それは⋯⋯何でもいいでしょ! とにかくルキ、乗るわよ!」
「また、誤魔化したな、これはお仕置だな!」
「は? やってみなさいよ! また返り討ちにしてあげるから!」
俺とリノが睨み合いをしていると魔法騎士のもふもふ猫タバサが近寄ってきた。
「ルキ様、例の件、失敗されたんですのね⋯⋯」
リノの口が開いた。
「ルキ、例の件って何よ」
「えっ⋯⋯ああ、あとで話す⋯⋯」
俺はそう言ってさっとリノの手を取るとたらこ馬に近寄り先にリノを手伝ってたらこ馬に乗せると俺もリノの後ろへ跨ったのだった⋯⋯。
今から少し前、俺たちは平原の一本道の途中にある左側へと続く小道との分かれ道の路傍に【ドワーフ村は左】という鉄の板に書かれた小さな野立て看板のようなものを見つけ馬車を止めたのだが如何せんこの大型馬車なので小道には入れず馬車を道の脇に止め番を御者のゴーレムのレムレムにさせて、馬車から外したもふもふたちの馬でドワーフ村まで行こうという事になったのだが、少し考えていたリノが『ちょっと待って! 私とルキが乗る馬は私が魔法で出すわ』と言って魔法の杖を振り今に至るという次第なのであった⋯⋯。
ぷりぷりしているリノの後ろで俺はまるで本物の馬のような息遣いをしながら揺れているたらこ馬の背⋯⋯つまり自分の股の間にあるたらこ馬の背を触り撫でた。
「相変わらず弾力が凄いな⋯⋯」
その時リノが振り返った。
「ちょっとルキ、今私のお尻触ったでしょ!」
「えっ、さ、さわってねーし!!⋯⋯い、いや、でもちょっと手が当たったかも、ごめん」
「もう!」
リノはそう言って俺に体を預けてきた。
突然リノの華奢で柔らかい身体と長い髪が触れドキッとした俺はリノの綺麗な髪の間から見え隠れしている目の前の風雷のピアスを見ながら思った。
(このキラキラと煌めく風のピアスの美しい青い宝石も、雷のピアスの美しい黄色い宝石でさえも、リノの完璧な美しさの前では霞んで見えるな⋯⋯)
俺は宝石をも凌駕するリノの美しさと良い匂いに包み込まれながら堪らなく愛しい気持ちで一杯になっていた⋯⋯。
その時馬車の方からゴーレムのレムレムの声が聞こえてきた。
「ご主人様。 レムレム、ご主人様と話ある。二人で。時間かかる。みんなどこか行ってて」
俺は馬車の方を向き、馬車のそばに立っているゴーレムのレムレムを見た。
「レムレム、今話したいのか?」
「うん、今」
「分かった。じゃあリノ、みんなを連れて先に行っててくれるかな。俺はレムレムの話聞いたらすぐに追いかけるから」
「ええ、分かったわ。でもルキ馬はどうするの? このたら⋯⋯いえ、この馬貸そうか?」
「ありがとう。でもリノはどうするんだよ」
俺がそう言って、たらこ馬から降りると自分の馬に乗ったもふもふ猫タバサが再度たらこ馬のそばに近寄ってきた。
「ルキ様、私の馬にキラを乗せますわ。ルキ様はキラの馬であとからいらして」
「ああ、すまない、じゃあそうさせてもらう」
次の瞬間もふもふうさぎキラの不満そうな声が聞こえてきた。
「えー、ルキちゃんは、あとから走ってきたらいいじゃんかー⋯⋯」
「は?⋯⋯」
俺がもふもふうさぎキラに反論しようとすると背後から語気を強めた上級騎士のもふもふ熊クレオンの声が聞こえてきた。
「キラ、ルキ様に何と不敬なことを、早く馬から降りないか!」
俺はもふもふ熊クレオンのその声に諦めた態度を見せているもふもふうさぎキラのそばに近寄った。
「キラ、悪いな、ふふ⋯⋯」
「ううっ⋯⋯ル、ルキちゃん! 私の馬を食べたら絶対許さないんだからね!!」
「いや、食べねーよ!!」
もふもふうさぎキラが渋々自分の馬から降りもふもふ猫タバサの馬の前に行ってタバサの手を借りタバサの前に乗ると俺はリノに言った。
「じゃあリノ、俺はレムレムの話を聞いてからキラの馬であとを追うから」
「ええ、分かったわ」
その時、神官騎士のもふもふ犬ライラプスが話に割って入ってきた。
「ああ、ルキ様大事なことを言い忘れておりましたぞ」
「えっ、なんだよ、大事な事って」
「こっそりおやつを食べてはダメですぞ」
「俺は子供かよ!! おやつも馬も食べないから早く行けよ!」
突然リノの少し拗ねたような声が聞こえた。
「ふーん、じゃあもう私、さっさと行っちゃうわね」
「い、いや、リノに言ったんじゃないって!」
「べぇーーだ」
リノは俺に向かって舌を出したあともふもふたちの方を向いた。
「じゃあみんな、さっさと行っちゃいましょうか⋯⋯あっ、そうだ、忘れてた! 馬車に魔法かけなきゃ」
リノはそう言ったあと魔法の杖を馬車に向けて振ると馬車から無数に生えている毛がさらにどんどんと伸びていき、あっという間に馬車は毛で覆われ巨大な毛玉となったのであった。
リノは満足そうに巨大な毛玉を見て言った。
「よし、これでただの巨大な猫の毛玉だとしか思われないわね」
「いや、思わねーだろ!」
リノはツッコんだ俺をその美しく色気のある目でジロリと睨むと言った。
「ルキ、私のおやつ食べたら逆にお仕置だからね!」
「だから、俺は子供かよ!!⋯⋯ていうか、どうやって馬車の中に入るんだよ」
リノは答える代わりに頬っぺたを膨らまし、ぷいっと横を向くと俺とレムレムをその場に残し、もふもふたちと共にドワーフ村の方へ向かって小道を馬で北上していったのであった⋯⋯。




