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カフェ・ノスティモ

ここは森の国ダソス王国にあるリノのパパ、プルーシオス王が治める王都、『プルーシオス』の街の一角にある冒険者ギルドだ。


俺は冒険者ギルド内にある冒険者専用のシャワー室でシャワーを浴びるとタオルで全身を拭き髪は半乾きのまま、シャワー室の隣の売店があるスペースに、もふもふ熊の獣人クレオンと、もふもふ犬の獣人ライラプスと共に移動した。


クレオンもライラプスも全身の毛が半乾きのせいか、一回り小さく見えた。


俺たちがその売店があるスペースに入ると、サッと一人の男が近寄ってきた。


「いかがですか?」


俺はその男が首から下げているボードに目をやった。


【魔法で全身を乾かします】


(なるほど)

俺は理解しその男に聞いた。


「いくら?」


「はい、お一人様、銀貨1枚になります」


「は? 高っ⋯⋯でも、まぁ仕方ないか⋯⋯じゃあ、全員頼む」


俺が銀貨3枚をその男に渡すと一瞬その男の口角が上がったように見えた。


「かしこまりました、では」


男は持っていた魔法の杖を振ると、すぐに温かな風が俺たちの全身を包み、俺の髪やクレオンやライラプスの全身の毛はみるみる乾いたのだった。



俺は冒険者ギルドの扉を開け外に出た。

青々とした緑の光景が広がっている。

王都の街の通りといっても、さすが森の国だけあって街中もまるで森の中にいるようだ。

もちろん森と調和しようとする店側の努力も見られる。


俺は、通りの向こう側に目を向けた。


そこには周りの木々より明らかに巨大な大木があった。

その巨大な大木の少し上の方にテラスのようなものがあり、その奥の真ん中に横に長い大きな窓⋯⋯いや、大きな四角い穴と呼ぶべきか⋯⋯その大きな四角い穴の左右には同じような扉が2つ付いていた。


そしてそのさらに上には巨大な看板がありそこには【カフェ・ノスティモ】と書いてある。


俺はさらにその上を見た。


本当に高い大木だ。


看板の数メートル上から枝が放射上に伸びていて、1番上の枝は空にも届きそうなくらいに真っ直ぐに伸びていた。


もう秋口だが、その枝枝の中にびっしりと生えている葉っぱは、風が吹くたびに小刻みに揺れている。

俺は大木の迫力よりも、絵になるその立ち姿の美しさに見入った。


(ん? 今、木の上の方に誰かいたような⋯⋯気のせいか?)



通りを渡った俺たちは、巨大な大木の前に来た。


絡み合ったむき出しの根っこの中に少し古びた木の扉があったので、近づいてみると、ちょうど俺の目線と足元辺りに無骨な鉄のびょうが打ってあり真ん中には【ようこそ】と書かれた小さな板がぶら下がっていた。

扉の枠の左上部には、ランタンも吊り下げられている。


森の国ダソス王国では、一般的に住居として生きた樹木を活用するツリーハウスが多い。

ここが、間違いなくそのツリーハウス型の店舗であることを確信し俺は扉を開けた。


(甘い香りがする⋯⋯)


甘い香りに酔いしれながら俺が扉の中に入ると、そこは大木を丁寧にくり抜いてある小さな空間で、その小さな空間には木のイスとフラワースタンドの上にカラフルな花の寄せ鉢が置いてあった。


左に階段がある。


俺が階段を上がろうと一番下の段を踏むと、軋んだ大きな音がしたが俺が気にせず階段を上がると後ろからクレオンとライラプスも階段を上がってきた。

もふもふ熊の獣人クレオンは、階段を一段上がるごとに俺とライラプスより大きな軋む音がした。

所々、木の壁の上の方にランプが取り付けてあり灯ってはいるが薄暗かった。


(ん? この階段、右に大きくカーブをしているな⋯⋯)

俺がそう思った瞬間、突然右に大きくカーブしている階段の上に小さな光る人影が見え、その小さな光る人影は俺とクレオンとライラプスのそばを飛ぶように、あっという間にかけ降りていった。


「わっ!!!! 今、小人がすり抜けていったよな? しかも体が光ってたし⋯⋯何だよあれは!!!!」


俺が驚きながらそう言うとライラプスが優しい笑みを浮かべた。


「階段の妖精でしょうな」


「いや、適当だろ!!!!」


俺は間発入れずにライラプスにツッコんでやった。



階段の突き当たりには先程と同じような古びた木の扉があったので俺は扉を開けた。

扉の向こう側は一瞬テラスのように見えた。

一歩扉から出るとクレオンがギリギリ通れるくらいの木の廊下が右に向けて続いていた。

廊下には太い木の手すりはあるもののその手すりの下はスカスカであり床も隙間が空いていた。


俺は完全に扉から出ると、その太い木の手すりを持ち辺りを見回した。

見晴らしは最高だが結構な高さだ⋯⋯5メートルくらいはあろうか⋯⋯正面には冒険者ギルドが見える。


俺がポケーっとしているとライラプスが近寄ってきた。


「ルキ様、早く行きましょう、リノ様がお待ちかもしれませんし」


「えっ、ああ、分かった」


俺は景色を見るのをやめ右に続く木の廊下を歩き始めた。

景色を見ている時は気づかなかったが、いつの間にか太い木の手すりの上には白い鳥と黒い鳥が止まっていた。


すぐに右手に大きな窓⋯⋯いや、さっき冒険者ギルドから見た時も思ったが大きな四角い穴のようだった。

穴から中を除くと暖かい雰囲気のカウンターが見え、その四角い穴を通り過ぎた所に入り口の扉があった。


俺が扉を開け店内に入ると、扉に付いているベルが鳴った。


店内を見渡すと、大木をくり抜いたらしい店内は全体的に木のぬくもりを感じるオシャレで落ち着いた空間だった。

しかも緑を多く配置しているせいか癒しも感じられた。


俺は、まばらにいる客たちの中にリノを探したがリノたちは、まだ来ていないようだった。


その時、人族らしき店員が近づいてきた。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「ああ、あとで3名くるから、6名かな」


「かしこまりました、ではこちらへ」


店員はそう言うと俺たちを先導して、あの大きな四角い穴の前のテーブルに案内してくれた。


ちょうど6人がけの席だった。


外側から見た感じでは、ただ大木をくり抜いただけの大きな四角い穴かと思ったが店内から見ると内側にレールがあり、左右には木の雨戸らしきものがあった。

おそらくスライドさせて開け閉めしているのだろう。


俺は席に着こうとイスを引いた。


「⋯⋯ルキー⋯⋯ルキー⋯⋯ルキー」


(あれ? リノの声がする⋯⋯)


俺はイスに座るのをやめ、リノを探すため大きな四角い穴から外を覗いた。

するとスカスカな手すりの間に冒険者ギルドが見え、その冒険者ギルドの前にリノとタバサとキラがいて、リノがこちらへ向かって大きく手を振っていた。


「あっ! リノだ、おーい!!!!」


俺はリノの姿を見つけ、大きな四角い穴から身を乗り出しリノに向かって手を振りながら叫ぶと、リノは手を振るのをやめ、魔法の杖を取り出し振った。


赤絨毯レッドカーペット!!!!!!!!」


その次の瞬間、まるで生き物のような赤いものがリノの足元から飛び出し、リノの足元を旋回し始めた。

だがそう思ったのもつかの間、突然その赤いものの先端がピタッとリノの足元で止まった。

そしてその赤いものの先端にリノたちが乗った瞬間、その赤いものはこちらへ向かって伸び始め、徐々に近づいてきたのだった。


こちらに近づくにつれ、その赤いものは、ふわふわとしていて布のようにも見えた。

突然その赤い布のようなものは、俺の目の前から大きく右にれていった。

赤い布のようなものの先端に乗っているリノたちの向かう先はどうやら、この大きな四角い穴の右側にある店の入り口のようだ。


そしてさらに赤い布のようなものの先端に乗ったリノが最も俺に近づいた時、リノが突然俺の方を見て微笑んだ。

リノの微笑みと共に、リノの長く美しい髪や上品でカジュアルな服が風でなびいた。


俺はその瞬間、そのリノの圧倒的な可愛さに胸が締め付けられるような、ときめきを覚えた。


リノとタバサとキラは【カフェ・ノスティモ】の入り口の前に降り立った。


その次の瞬間、赤い布のようなものは一瞬で消え去った。


そして【カフェ・ノスティモ】の入り口の扉に付いているベルは鳴ったのであった⋯⋯。

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