赤き死神
サヤンとは草原の国レイモーン王国の神官長であり俺の側近である。プライベートでは吟遊詩人として各地を旅している。実は上級悪魔。
今、草原の国レイモーン王国のプリンスにして上級戦士の俺と、森の国ダソス王国のプリンセスにして上級魔法使いのリノの周りは、深い霧のせいでもふもふたちとの距離でさえほとんど視界が遮られている状態だった。
後方からは馬が騒ぎ、暴れ、嘶く声が聞こえてくる。
(あの馬たちの騒ぎよう⋯⋯この霧の中に魔物がいるのか?)
俺がそう思った次の瞬間リノが魔法の杖を取り出し叫んだ。
「霧風吹飛!!」
するとたちまち周りの霧が晴れていった。
だがよく見ると俺たちは辺り一帯を覆うほどの大きな四角い透明な箱のような物の中に居ることが分かった。
透明な壁は所々薄霞んでいる。
前方の透明な壁は、石の上に俯いて座っている者の手前にあったが、その透明な壁の向こうにいる者は間違いなく冒険者ギルドの監視人ドロフォノスだった。
突然もふもふ犬ライラプスが魔道具、収納玉を取り出し叫んだ。
「槍と盾よ、姿を現せ!!」
その途端徐々に大きくなった収納玉は粘土をちぎるように半分になったかと思うと、それぞれ変化しあっという間に槍と盾になった。
もふもふ犬ライラプスは軽金属盾を背負うと、三メートル程の槍を構えた。
だがその槍は俺の初めて見る槍だった。
「ライラプス、そんな槍持ってたっけ?」
「ルキ様よくぞ聞いてくださいました、この槍は我が主⋯⋯いや、サヤン様から頂いた契約の魔槍アキレウスですぞ!」
「は? やっぱりサヤンと悪魔の契約してんのかよ!」
「いえ、ルキ様、私は決してサヤン様の眷属などではありませんぞ!」
「おい、誰が眷属って言った!」
「あっ!!」
「おい! しまったって言う顔してんじゃねーよ」
「ルキ様、さっそくあの壁が破れるか試してみますぞ!」
「話題変えんなよ」
魔槍アキレウスは光り始めた。
もふもふ犬ライラプスが魔槍アキレウスの穂先で何かを空中に書き始めるとあっという間に黒色の魔法円が空中に描かれ浮かび上がった。
魔法円の中には悪魔サヤンの紋章が描かれている。
悪魔サヤンの紋章が描かれた魔法円は辺りを飛び回りながら少しずつ大きくなっていき地面へ落ちた。
次の瞬間その地面の魔法円から、一メートル程の無数の短槍が次々と浮かび上がってきたかと思うとそれぞれがものすごい加速で発射し途中で回転しながら一斉に右の透明な壁目掛けて飛んで行った。
ガキンッ!!
壁に当たった短槍は次々に弾き飛ばされていく。
「ルキ様、あの右の透明な壁は破れませんな、私たちは袋のネズミですぞ」
「縁起でもないこと言うなよ」
もふもふ熊クレオンが俺を見た。
「ルキ様、私がやってみます」
そう言うともふもふ熊クレオンは収納玉を取り出し叫んだ。
「鎖付きスパイク鋼球と盾よ、姿を現せ!!」
すぐさま鎖付きスパイク鋼球と盾が現れた。
もふもふ熊クレオンは軽金属盾を背負うと巨大な鎖付きスパイク鋼球を構えた。
俺はライラプスの時と同じようにそのクレオンの武器も初めて見るものだった。
「おい、クレオン、何だよその黄金色で煌びやかで、見るからに派手な球は? しかも今鉄球じゃなく鋼球って言ってたよな?」
「はい、ルキ様、よくぞ聞いてくださいました」
「いや、言いたいんだろ、早く言えよ」
「では、遠慮なく⋯⋯この鋼球は我が主⋯⋯いや、モナルヒス王様から頂いた鎖付きスパイク鋼球、キング・モナルヒスなのです」
「また、大層な名前だな⋯⋯あれっ? よく見たらその鋼球のデザインもほとんど馬車と同じじゃん⋯⋯一体うちの王族のセンスってどうなってんだよ」
その時突然もふもふ熊クレオンが左の透明な壁に向かって突撃していった。
「どりゃ〜!!」
「おいクレオン、待てって!!」
そのままの勢いでもふもふ熊クレオンが左の透明な壁に巨大な鎖付きスパイク鋼球、キング・モナルヒスを打ち付けた。
グワワワワ~ン!!
ものすごい振動と共に大きな音がしたが、左の透明な壁の表面は傷一つ付いてはいなかった。
少し期待していた俺はガッカリした。
「ダメじゃん⋯⋯」
「あっ! 見てルキ!!」
リノの声にリノの方を見た俺は驚いた。
いつの間にか監視人ドロフォノスの背後に、死神の姿と全長5m程の漆黒のワイバーンの姿があったからだ。
ワイバーンは羽である前足でこちらを威嚇している。
死神はフード付きの赤いローブを着ており顔は骸骨そのものだ。
その骸骨の両目は赤く光っていた。
死神の骨の手が持っている死神の大鎌の刃先は監視人ドロフォノスの首すじに置かれている。
「ドロフォノス、早く逃げろ!!」
皆が口々に叫ぶ中、死神の大鎌が引かれた。
ズサッ!
バタッ⋯⋯ドロフォノスの体が崩れ落ちる。
死神は倒れている監視人ドロフォノスを足蹴にしたあとこちらへ歩いてきた。
透明な壁の前まで来ても足取りは変わらずそのままスーッと透明な壁を通り抜けてきた。
俺たちはすぐさま戦闘態勢をとった。
それを見て死神はせせら笑っている。
「無駄なことはやめておけ、それよりリオーナという娘はどこにいる? お前たちと一緒にいることは分かってるのだ。先程お前たちが霧に巻かれている間にわざわざ馬車の扉から入ってそのリオーナという娘に礼を尽くしてやろうと思ったのに馬車はもぬけの殻じゃないか! お前たち一体リオーナをどこへ隠したのだ? 大人しく差し出せばお前たちの命だけは助けてやろう⋯⋯さぁ! 差し出すか、差し出さないか、決めてもらおうか!」
俺は勇気を振り絞り一歩前に出て死神に向かって叫んだ。
「なぜリオーナさんを探してるんだ!! お前は一体何者だ!!」
「⋯⋯私か? 人族のお前に名乗っても何の得もないのだがな⋯⋯まぁ、いいだろう、その勇気に免じて教えてやる⋯⋯私は火の国クラティラス王国の女王バシリッサ様にお仕えする四天王の一人、奴隷商人の死神タナトスだ⋯⋯それで、答えはどっちだ?」
「⋯⋯もちろん差し出すことなんて出来ない」
「そうか、分かった。それなら力づくで⋯⋯」
そう言いながら死神がこちらへ歩き出そうとした瞬間、突然透明な壁の外に甲高い鳴き声と共に濃緑色のワイバーンが降り立ったのだった⋯⋯。




