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水晶玉の中の書庫

「背中の紐をほどいて⋯⋯」


リノはそう言って後ろを向いた。


俺が背後から近寄るとリノは右手で後ろの髪をかきあげ高い位置で軽く束ねて押さえた。首すじがあらわになり、その色っぽさに俺は鼓動が早くなる。


リノの膝下丈チュニックの背中を見ると背中の一番上で編み上げの紐が固く結んである。

俺が幾分躊躇いくぶんためらっているとリノが振り向いた。


「早くしてくれるかしら」


その表情は明らかに悪戯いたずらっぽい小悪魔的でありながらセクシーな表情にも見えた。



「えっ、ああ、分かった⋯⋯」


俺はそっと手を伸ばし固く結ばれた紐を解いたあと少し緩めた。それと同時にリノは首元の生地を前に軽く引っ張ると俺の目にリノのネックレスがあらわになり水晶がキラキラと輝いて見えた⋯⋯






リノが10歳の誕生日⋯⋯俺はレイモーン王国の海辺で拾った水晶をリノに初めてプレゼントした⋯⋯以来リノはその水晶をネックレスにして大事に身につけてくれている⋯⋯そのことを思うたび俺はあったかい気持ちになる⋯⋯






ふいにリノの声が聞こえた⋯⋯。


「ルキ、紐をほどいてくれてありがとう、じゃあ、すぐに魔法で新しい服に着替えるわね」

「は? じゃあ今背中の紐ほどいたのは何だったんだよ」

「うふふ」


リノがそう微笑んだ瞬間にはもうリノは魔法使いのローブを着ていた。

俺はそれを見て少し拗ねたような態度をとった。


「うふふじゃねーよ」

「へー、ルキって可愛いとこあるのね」


リノは相変わらず小悪魔的でいてセクシーな表情を浮かべている。

俺は本当に拗ねながら思った。

(これは完全にリノへのお仕置案件だろ! 今度こそは絶対ベッドの中でお仕置してやるぞ! でもとりあえず今は何か話題変えないとタジタジだよ)


「なぁ、リノ⋯⋯研究室の鏡なんだけど、なんで俺の幼い頃の姿が映るんだ?」


その瞬間明らかにリノの余裕の表情が崩れた。


「えっ⋯⋯あっ! ちょ、ちょっと、な、何? 見たの? あの鏡!」


「そりゃ見るだろ、着替えるんだから、で、何で俺の幼い頃の姿が映るんだよ」

「えっと⋯⋯そ、そう! あの鏡は古い魔法の鏡だから、勝手に変なことしたんでしょ」


リノは俺から視線を外しドギマギしているように見えた。だがすぐに俺の目を見ると一瞬にして表情が変わり再び小悪魔的なセクシーな表情に戻っていた。


「ルキ⋯⋯」

「なんだよ」


突然リノは右を向き言った。

「スリットよ!!」

「ふーん、で、そのスリットが、何なんだ⋯⋯って、なぁ、リノ、ちょっと、そのスリット深すぎないか?」

「そう?」

リノは右にあるスリットの方に体をひねった。


(あっ!)


俺はリノのローブの深いスリットの隙間からリノの美しい脚と共に小型銃のグリップが見えたのを見逃さなかった。


「リノ、さっき、マッドクラゲを倒した小型銃ってそれか?」

「えっ? ええ、そうよ、説明まだだったわね」


リノはそう言うとスリットの隙間に手を差し入れ広げた。すると右太ももに簡易的なガーターホルスターが装着されており、小型銃のグリップが見えた。


「これは小型魔導銃よ。魔法使うより早く攻撃出来るから今回のマッドクラゲのように突然の接近戦には有効ね。今魔力の雷撃弾を込めてて、一度に五連射出来るのよ」

「へぇー、接近戦を想定してるなんて、さすがリノだな」

「そうよ、何事も準備が大事なの⋯⋯ってルキ、いつまで足をガン見してるのよ!」

「は? 小型銃を見てんだよ!」

「ふーん、まぁ、そういうことにしといてあげるわ」

「それで、リノ、着替えが終わったら聞きたいことあるって言ってたけど何だよ」

「ええ、でもその前にまず、魔道具カーメラから取った小さな写実絵画出してくれる?」

「えっ、ああ、これか? はい二枚」

「そう、これこれ」

「それをどうすんだよ」

「これから二人の思い出を記録していくの」


ガタンッ!


その時頭の上の方で音がした。

反射的に見上げると、ものすごい速さで一冊の本が飛んできている。その本は一直線にリノの目の前まで来ると急停止し、俺の方に表紙が向いた。

そしてふわふわと浮かんでいるその本が急にパラパラと勝手にめくれ始めると最初のページが開かれた。


白紙だった⋯⋯。


次の瞬間、突然小さな写実絵画が飛んで来てその白紙のページに貼り付いたかと思うとまるで吸収されるようにその白紙の中に取り込まれた。俺が唖然としていると自然に小さな写実絵画の下に文字が浮かんできた。俺はさらに驚いた。


「リノすごいじゃん! 思い出いっぱい作ろうな!」

「ええ、ルキ、素敵な本にしましょうね!⋯⋯それともう一つやりたいことがあるの。ルキと二人で初めて時を切り取ったこの小さな写実絵画を⋯⋯」

「その初めて二人で時を切り取った小さな写実絵画が何だよ」

「でも⋯⋯うーん⋯⋯あーあ、ルキもネックレスがあればお揃いなんだけどなー。宝石を魔法で作り出すことは禁止されてるし⋯⋯」

「何一人でブツブツ言ってんだよ」

「ちょっと! 今考えてるんだから少し黙ってて⋯⋯あっ!そうだ、そうだわ!!⋯⋯ルキ、ドリュアスから貰った太古の樹脂玉出して」

「ああ、いいけど、どこやったかな」

「早く出しなさいよ、まさかなくしたんじゃないでしょうね!」

「なくしてないって⋯⋯あった、これだ、はい」

「良かった! ルキが樹脂玉食べてなくて」

「食べねーよ」

「ルキ、私がネックレスプレゼントしてあげるね」

「えっ、どういうこと?」


俺がそう聞いた時にはもうリノは魔法の杖を取り出し太古の樹脂玉に向かって魔法をかけていた。太古の樹脂玉は光に包まれすぐにネックレスに変化した樹脂玉が現れた。樹脂玉は黄金色の宝石に変わり輝いていた。


「ルキ、琥珀のネックレスよ、ルキにプレゼントするわ」

「えっ、すごい⋯⋯綺麗⋯⋯リノ、ありがとう!!」


俺は琥珀のネックレスを受け取ろうと手を差し出した。


「あっ、ルキ待ってまだやることがあるの」


リノは琥珀のネックレスを巨大なキノコのテーブルの上に置くと自分の水晶のネックレスを外しテーブルの上に並べた。


「リノ、何してんだ?」

「うん、この二つのネックレスの中に二人で初めて時を切り取った小さな写実絵画を入れようと思って」


その次の瞬間、リノの魔法の杖の先に二人で初めて時を切り取った俺とリノの姿が浮かび上がり光としてそのまま二つのネックレス目掛けて飛んでいった。

光がぶつかった二つのネックレスはその場で浮きあがり静止している。

俺は近づきネックレスをまじまじと見た。


「あっ! 水晶と琥珀の中に俺たちの姿が立体的に浮かんでる!」

「ルキ、どうかな?⋯⋯このアイデア⋯⋯ちょっとアレかな」

「そんなことないよ! いいよ、すごくいい! やっぱりリノは天才だ!」


俺たちはお互いにネックレスを着けあった⋯⋯。


「俺リノのことめっちゃ好きだ!!」

「ルキ⋯⋯私もルキのことめっちゃ好き!!⋯⋯ねぇ、今回のこの護衛の報酬が入ったら改めてまたお揃いの品物買いたいわね」

「ああ、でもほぼ報酬はないけどな」


俺たちは自然と近づきキスを⋯⋯だがリノは突然動きを止め俺に話しかけてきた。


「ん?⋯⋯ちょっと待ってルキ! 今なんて言ったの?」

「リノがめっちゃ好きって」

「そこじゃなくて、その後よ」

「ああ、ほぼ報酬はないってとこか」

「は? ルキ、どういうことよ! 私ギルドの依頼板のリオーナさんの依頼票見たけど、かなりの高額報酬だったわよ」

「なんかさ、ギルドマスターがドロフォノスに臨時ボーナス出すから俺たちの報酬減らすって言われてさ」

「えっ、それで、はい分かりましたって言ったの? で、いくらなの、私たちの報酬は」

「銀貨7枚だけど」

「ぎ、ぎぎ、ぎんか、7枚? じゃあ、一人銀貨一枚しか貰えないじゃないの!」

「仕方ないだろ! 俺たちのパーティーレベルはまだ1なんだし、ドロフォノスは冒険者ギルド最強の監視人なんだから」

「それにしてもムカつくわね、あのドロフォノス! 私たちへの態度も高圧的だし! もう! ルキ、さっさと行くわよ! タバサも待ってるし」

「わ、分かったって!」


その瞬間、俺の隣にはもふもふ猫タバサがいた。


馬車の中だ⋯⋯。

もふもふ猫タバサがリノに近寄った


「リノ様どちらにいらしたんですの?」

「まぁ、ちょっとね⋯⋯それよりこの騒ぎは何?」

「それがリノ様⋯⋯」


俺はリノともふもふ猫タバサを見ながら、何て良い主従関係なんだと思っていた⋯⋯ってタバサ! いつの間に完全にリノの側近になってんだよ!!

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