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森での戦闘

草原の国、レイモーン王国の王子である俺の剣の先生とは、レイモーン王国の戦士長『ストラティゴス』である。幼い頃からストラティゴスの元で剣を学んだ俺は上級戦士の資格を持っているのである。

急停止の反動で馬車はさらに大きく揺れ俺は咄嗟とっさにリノを抱きとめ頭を守りながらソファーに倒れ込んだ。


揺れが収まり完全に止まった馬車は床が左側に傾いている。


「リノ大丈夫か?」

「ええ」


俺はリノをソファーに座らせると立ち上がり馬車内を見回したが幸い馬車内はぎゅうぎゅう詰めでキッツキツに固定されているせいか、たいした被害も見受けられなかった。みんなも無事なようだ。ホッとした俺は小さな写実絵画二枚をポケットに入れると、もふもふ猫タバサに言った。


「タバサ、魔道具カーメラを金庫に入れといてくれないか」

「かしこまりましたわ」


その時突然馬車の扉が勢いよく開いたかと思うと、フード付きの短いマントを着た冒険者ギルドの監視人ハイエルフのドロフォノスが叫んだ。


「手配中の人喰い魔獣だ! 今すぐもふもふ騎士団の連中は馬車から降りて戦え!」


その言葉に、なぜかもふもふうさぎのキラだけが監視人ドロフォノスの背中を睨み今にも飛び掛りそうだったがそれを制したもふもふ熊クレオンを先頭に、もふもふたちは少し上向きになっているステップから馬車を降り始めた。

俺はもふもふたちのあとからステップを降りたあと振り返りリノの手を取り支えた。


そこへ先に降りたもふもふ犬ライラプスが俺に近寄ってきた。


「ルキ様、灰色狼魔獣グレイウルフモンスターが道を塞いでおりますぞ!」


もふもふ犬ライラプスがそう言って指さす先を見ると、獰猛そうで大きな灰色狼の魔獣が馬車の前方数十メートルの位置から、こちらへ向かって咆哮をあげながら歩いてきていた。


「あれが人喰い魔獣か⋯⋯」


俺が少し恐怖を覚えていると、馬車の前方で自分の馬と共にいる監視人ドロフォノスが俺たちの方を見た。


「さぁ、早く戦え! 但しトドメは私がさすからな」


監視人ドロフォノスの少し上擦った声を無視し、もふもふたちは、俺の指示を待っている。

その時御者台にいたゴーレムのレムレムが御者台を降り俺たちのいる方に恐る恐る近づいてきた。


「レムレムどうした? 大丈夫か?」

「ご主人様、レムレムは大丈夫⋯⋯みんな大丈夫?⋯⋯馬があれに気づいた。馬が暴れだした。馬車左に寄った。ごめんなさい」

「大丈夫だレムレム。誰もケガしてないからそんなに気にすんな。あんな恐ろしい魔獣、馬じゃなくても誰だってびっくりするさ」


馬車はゴーレムのレムレムの言う通り、道の左の端にあるぬかるみに左の前輪、後輪共にハマり馬車は左に傾いていた。

なぜかその辺りだけぬかるみになっていて水溜まりもあった。地下水の影響だろうか⋯⋯。

そんなことを考えていた矢先、突然鳥の甲高い鳴き声が聞こえてきた。鳴き声のした方を見ると白い大きな鳥が灰色狼魔獣グレイウルフモンスターに掴まれていた。


俺たちが戦う素振りを見せないせいか監視人ドロフォノスが自分の馬を置いて俺の方に走り寄ってきた。


「さぁ、早く行け!」


監視人ドロフォノスは来るなり俺の肩を掴んだ。

その瞬間もふもふ熊クレオンが、監視人ドロフォノスを睨みながらドロフォノスの腕を掴み言った。


「ルキ様、わたくしが参ります」

「いや、俺が行く!」


そう言った時にはもう俺は肩を掴んでいるドロフォノスの手を振り払い走り出していた。


ポケットから魔道具【収納玉】を取りだし叫ぶ。


「剣と盾よ、姿を現せ!!」


その途端魔道具【収納玉】は徐々に大きくなりながら粘土をちぎるように半分に分かれ、それぞれあっという間に剣と盾に変化した。俺は変化した軽金属盾ライトメタルシールドを背中に回し走った。


灰色狼魔獣グレイウルフモンスターにだんだんと近づいていく⋯⋯怖い⋯⋯俺は恐怖に打ち勝つために心の中で叫んだ。


(俺はできる⋯⋯俺はできる! 俺は必ずできる!!)


走るスピードを上げ灰色狼魔獣グレイウルフモンスターの手前まで来た俺は、剣を両手で握ったまま地面を強く蹴って灰色狼魔獣グレイウルフモンスターに向かって高く飛び上がった。


「一刀両断!!」


俺は灰色狼魔獣グレイウルフモンスターの頭に渾身の力を込めて剣を打ち下ろしたあと灰色狼魔獣グレイウルフモンスターの真下まで一気に振り下ろした。


ドカッ! ズガァン!⋯⋯ブシャーッ!


「ググッ⋯⋯」


真っ二つになった灰色狼魔獣グレイウルフモンスターは一瞬呻いたあと体が綺麗に左右に分かれた。灰色狼魔獣グレイウルフモンスターに掴まれていた白い大きな鳥はすぐさま灰色狼魔獣グレイウルフモンスターの手を離れ飛んでいった。


ハァハァハァ⋯⋯。


俺は自分の息が上がるのを耳にしながら胸が痛み手が急に震えるのを感じていた。


(やった⋯⋯やったぞ! 俺はやり遂げた!!)


俺はゆっくりと後ろを向き剣を突き上げ叫んだ。


「うぉおおおー!」


目の前からリノを先頭にみんなが走ってくる。

その勢いのままリノが抱きついてきた。


「ルキ! やるじゃないの! それにしてもその剣すごい切れ味ね」

「ああ、この剣は俺の先生からもらった剣だからな⋯⋯」


その時監視人ドロフォノスが、俺とリノの間に割って入ってきた。


「き、貴様⋯⋯一体何者なんだ! あの凶暴な魔獣を一撃で⋯⋯」

「えっ、いや⋯⋯俺は⋯⋯」

「ふんっ⋯⋯まぁ、そんなことはどうでもいい、但し、いいかよく聞け、例えお前が魔獣のトドメをさしたとしても、あの魔獣を倒すように指示したのは私なのだから、あの魔獣に掛けられた賞金は私が頂くからな!」

「⋯⋯ああ、勝手にしろよ」


監視人ドロフォノスは俺を無視するかのようにゴーレムのレムレムに言った。


「さぁ、出発だ!」


だが、ぬかるみにハマり左に傾いている馬車は、車輪が空回りして何度試みてもぬかるみから抜け出せなかった。

明らかにイラついている監視人ドロフォノスは馬車のそばにいる俺たちに怒鳴った。


「お前たちは早く馬車を押せ!!」


俺たちはぬかるみの中に入り馬たちが引っ張るのに合わせ馬車を力一杯押した。

泥がみんなの冒険者用チュニックにつく。

馬車を押す度に一番深いぬかるみの場所で馬車を押していた俺の足が徐々にぬかるみの中へ入っていく。


その時突然俺の足に激痛が走った。


「痛っ!!」


ピリピリとした痛みのあと痺れも感じる。


「どうしたのルキ、大丈夫?」


リノがそう言った途端、突然ぬかるみの泥の中から何かの触手が次々と現れた。


監視人ドロフォノスが叫ぶ。


「マッドクラゲの群れだ! 弱いが毒を持ってるぞ!」

「えっ! マジかよ! 俺刺されちゃったよ!」


俺のそばにすぐリノが駆け寄ってきた。


「ルキ、毒消しポーションよ! 早く飲んで!」

「ありがとう! これってキラの言ってた甘いポーションだな。ゴクッ⋯⋯オェッー!!」

「どうしたのルキ、吐き出しちゃダメでしょ!」

「リノ! このポーション苦くて飲めないぞ! もっと甘いのくれよ!」

「は? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 毒消しのポーションは苦いのよ! ガマンして全部飲み干しなさいよ!」

「わ、分かったよ⋯⋯」

俺はしぶしぶ一気に飲み干した。

するとどうだろう、すぐに力が湧いてきて痛みもなくなったのだった。


突然マッドクラゲが次々と跳ね上がった。すごいジャンプ力だ。

先頭のマッドクラゲがリノに襲いかかる。


「リノ危ない!!」


俺は反射的にリノを守ろうとリノの前に出た。だがその瞬間⋯⋯ドドドドドン! 激しい音と共に辺りに一瞬閃光が走った。

見るとなぜかリノに襲いかかった先頭のマッドクラゲが地面に倒れている。俺は振り返った。リノが手に小型銃を持っている。リノは素早く俺の体の前に出た。


ドドドドドン⋯⋯ドドドドドン⋯⋯。


リノは持っている小型銃で次々とマッドクラゲを連続で撃ち落としていった。どうやら連射できるらしい。

そしてあっという間に全てのマッドクラゲはリノによって撃ち落とさたのだった。


「何とか収まったわね」


そう言ってホッと息を吐いたリノに俺は聞いた。


「リノその小型銃って⋯⋯」

「ああ、これね、これは⋯⋯ん? あれっ? ルキ待って⋯⋯何か地面から感じない?」

「えっ、何かって何を?」


その時ドーンという低い音と共に地面が振動するのを感じた。目の前の水溜まりに波紋が広がる。振動は少しずつ大きくなっていった。


突然道の端にある巨大な樹の根がゆっくりと動きだし樹と樹の間が大きく開いていった。そしてその樹と樹の間から巨大な手が現れた。


監視人ドロフォノスが叫ぶ。


「あっ!ドリュアスだ!」

「ドリュアス?」


俺が戸惑い驚いているとリノが俺に近寄ってきた。


「ドリュアスは樹の精霊で、この国の森の守護者よ」


リノがそう言っている間にも緩やかで重そうな足音が響きついに樹の精霊ドリュアスはその姿を現した。

馬車より高い身長。圧倒的な存在感。肩には白い大きな鳥が止まっている。

樹の精霊ドリュアスは灰色狼魔獣グレイウルフモンスターが倒れている方を見たあと俺を見ながら近づいてきた。

俺の前までやって来た樹の精霊ドリュアスは俺の顔の前にゆっくりと拳を突き出してきた。

そして拳を、180度回転させ巨大な手のひらを開いた。

何か丸い玉がドリュアスの巨大な手のひらの上にある。


(ん?⋯⋯植物の玉?)


ドリュアスの手が小刻みに揺れた。


「くれるのか?」


ドリュアスは頷いた。

俺はもう一度その植物の玉をよく見たが何の変哲もないただの植物の玉だった。

俺が戸惑っていると、樹の精霊ドリュアスの口が動き出し地底から聞こえてくるかのような低い声がした。


「ソレ⋯⋯タイコノジュシダマ⋯⋯」


その言葉を聞いた瞬間リノが興奮を隠しきれない様子で言った。


「ねぇルキ! それ太古の樹脂玉だって!」

「えっ、リノ、何? 太古の樹脂玉? 何でそんなものを俺に?」

「さぁ、どうしてかしら⋯⋯まぁ、いいから、貰っときなさいよ! ものすごく貴重な物だし」

「あ、ああ⋯⋯分かった」


俺がその太古の樹脂玉を樹の精霊ドリュアスの手のひらから受け取ると樹の精霊ドリュアスは満足そうな表情を浮かべたあと視線を馬車の方へ向けた。そしてゆっくりと馬車の方へ歩いていき馬車を持ち上げると道の真ん中へ戻してくれたのだった。


それを見た監視人ドロフォノスが俺たちに向かって叫んだ。


「さっさと出発するぞ!」


俺たちは樹の精霊ドリュアスに向かい口々に『ありがとう』と言って馬車に乗り込んだ。

動き出した馬車の窓からリノと二人で外を見ると俺たちを見送るように樹の精霊ドリュアスはこちらを見つめていた。

そして俺たちと距離が離れると樹の精霊ドリュアスは静かに森に近づき森とまるで一体化するかのように消えていったのだった。


リノは突然馬車内の方に向くと、もふもふたちに向かって言った。


「みんな泥だらけね。各自、絵の中で着替えなさい」

「リノちゃん、は~い!」


リノの言葉に真っ先に返事をした泥だらけのもふもふうさぎのキラを先頭にもふもふたちは絵画から出たハシゴを順番に握り絵の中に入っていった。

もふもふたちを見送りながらリノは最後にハシゴを握ろうとしたもふもふ猫タバサに声をかけた。


「タバサ、みんなの着替えはみんなの荷物から魔法で出してあげて⋯⋯そして着替えが終わったら、みんなとここに戻って爆睡してるリオーナさんとグレゴリウさんの護衛をお願い⋯⋯あと食事の準備が出来たら、私とルキを呼びに来てくれるかしら」

「分かりました、リノ様」


もふもふ猫タバサがそう言って絵の中へ入るとリノは俺を見た。


「ルキも、さぁ、行くわよ」

「俺も?」

「あたりまえでしょ、ルキが一番泥だらけなんだから」

「分かったよ」


俺は棚にある自分の荷物を取り背負ったあと右手でハシゴを握ろうとした。

突然リノがハシゴを握ろうとした俺の右手の手首を握ってきた。

「ん? リノ先に行く?」

「いえ、そうじゃないの⋯⋯ルキ⋯⋯好きよ」

「⋯⋯俺もリノが好きだ⋯⋯」


その瞬間リノの顔がいつもより速く俺の顔に近づいてきた。リノの唇が俺の唇に触れる。そのキスはいつもより熱いものだった⋯⋯俺は思わず身体の力が抜け手の位置が下がりハシゴに触れてしまった。

その瞬間俺とリノは熱いキスをしたまま絵の中に入っていったのだった⋯⋯。


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