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冒険者ギルドの監視人

俺たちは王都プルーシオスの街の西にある冒険者ギルドへと戻ってきた。


今、俺の目の前ではギルドマスターとアグロス辺境伯令嬢リオーナが揉めている。

部屋の中にはもふもふ騎士団団長クレオンとリオーナの従者グレゴリウスもいる。

ギルドマスターは書類を見ながら悩んでいるようだ。


「ふむふむ、もふもふ騎士団のみなさんは⋯⋯っと。えっ? まだ全員冒険者レベル1ですか。つまりパーティーレベルも1⋯⋯ギルドとしては今回のこのクエストレベル13相当のリオーナ様の護衛任務は容認いたしかねますな」


「そこを何とかお願いいたしますわ。他にアグロス辺境伯領クレモスまで護衛をお引き受けしてくださる冒険者の方は居ないのですから」


俺は成り行き上、もふもふ騎士団団長補佐としてこの場にいる。

だが俺は昼メシのことを考えていた。


昼メシのこととは、今、冒険者ギルドの前の通りに停めてある俺たちの四頭立て大型四輪箱型馬車の中の暖炉のコンロで焼いているパンのことと、冷蔵庫で冷やしているゼリーのことである。

馬車はライラプスが一人で番をしている。


俺たちはここへ到着する前に、昼メシの準備をした。

リオーナが食べる魔パン・スネークもどきを作るため、まず、向かいあわせのソファーの間にある小さなテーブルの上に、魔力が込められた魔石付きスタンドミキサーを置き、その中に小麦粉、水、塩、ハチミツ、そして魔獣エキスを入れ捏ねたあと、しばらく発酵させ出来たパン生地を、とぐろ状に細長く成形した。


また俺たち用のパンも同時に作ったが、とぐろ状にはせず魔獣エキスも入れなかった。魔獣エキスのような酵母の代わりになるようなものが入ってないので、ちゃんと膨らむかは心配だ。


とりあえず成形したパン生地は冷蔵庫に入れておき、昼メシに合わせ到着後に暖炉に付いているコンロで焼き始めた。


同じように昼メシ用にリオーナが食べるハチミツスライムハチミツもどきのハチミツゼリーを作るため、まずハチミツを溶かし、水、魔力の粉末、そして魔果汁を混ぜ合わせたあと、リノが魔法で出したスライムの型に流し込み冷蔵庫に入れた。

俺たち用のハチミツゼリーは、ハチミツを溶かし、水とリンゴジュースを混ぜ合わせ、そこにリノの使い魔で風の精霊アイオロスに息を吹きかけさせるとプルプルのゼリー状になったので冷蔵庫に入れた。


ああ、そのリノはというと、俺がギルドマスターと話している間、冒険者ギルド内にある冒険者のための店を見て回って来ると言ってもふもふ猫タバサと、もふもふうさぎキラをつれてショッピングの最中だ。

正直俺もそっちへ行きたい⋯⋯。




トントントン⋯⋯。


突然ノックの音がした。

入ってきた女性はギルドマスターに耳打ちしている。


「何? ドロフォノス様が? すぐこちらへご案内しなさい」


女性が部屋を出ていくとギルドマスターは先程とは一転笑顔で、こちらを向いた。


「仕方ありませんね、リオーナ様のお気持ちも分かりますし。ではこういたしましょう。タイミングの良い事にたった今、この冒険者ギルドから出払っていた監視人の一人が任務を終えて帰ってきました。しかもこの冒険者ギルド最強の監視人とうたわれる方です」


しばらくするとノックの音のあと、一人の男性がギルドマスターの前まで一直線にツカツカとした足取りで入ってきた。


俺はその男をまじまじと見た。

(貴族のような雰囲気があるな⋯⋯耳が長い。ひょっとしてエルフか? しっかしプライド高そーだな)


「ギルドマスター、私に用とは?」


その貴族風のエルフに対してギルドマスターが手短に説明するとその貴族風のエルフは驚きの表情を見せた。


「何? 今からすぐアグロス辺境伯領クレモスへ行く者の護衛任務の監視をしろだと? 私はたった今任務から戻ってきたばかりなんだぞ」

「そこを何とか⋯⋯」

「無理だ、休ませろ!」


そこで困ったのかギルドマスターが急にこちらを向いた。


「ああ、皆さん、ご紹介します、この方は我が冒険者ギルド最強の監視人、元正義の暗殺者でハイエルフのドロフォノス様です。高貴な血統であられるドロフォノス様は⋯⋯」


俺は途中からギルドマスターの声が全く耳に入ってこなかった。

(は? 暗殺者? 正義ってついてるけど暗殺者自体、やばくね?)


ギルドマスターが監視人ハイエルフのドロフォノスと話し始めたので俺はそちらへ注意を向けた。


「臨時ボーナスをお支払いいたしますが⋯⋯」

「何! 金で釣るとは私を誰だと思っているのだ、無礼な!」

「こ、これは大変失礼いたしました。しかしドロフォノス様、リオーナ様が戻られるアグロス辺境伯領クレモスの近くには、たしかお仲間のハイエルフの里もあったのではないですかな? いずれそのハイエルフの里にも火の粉が降りかかる恐れがあるのでは」

「今度は脅しか⋯⋯まぁ、しかしそれは一理ある⋯⋯まぁいいだろう⋯⋯だが戻ってきた暁には臨時ボーナスと長期休暇を保証するとここで誓え!」

「はい、それはもちろん誓わせていただきます」


俺はすかさず心の中でツッコんだ。

(おい、結局臨時ボーナスはもらうのかよ!)


ギルドマスターとの話が終わり、アグロス辺境伯令嬢リオーナの前に進み出た冒険者ギルド監視人ハイエルフのドロフォノスは、急に紳士らしく礼儀正しく背筋を伸ばしたかと思うと真っ直ぐにリオーナを見た。


「リオーナ様、では後ほどまたお会いいたしましょう。私は馬に乗り馬車を先導しますのでこれから自分の馬を取って参ります」


監視人ハイエルフのドロフォノスが俺の横を通りかけた時、俺は手を差し出し声をかけた。


「俺はもふもふ騎士団の⋯⋯」


だがドロフォノスは冷たい表情のまま、俺を無視してそのまま素通りしたのだった。

(は? 無視かよ⋯⋯噂通りハイエルフは傲慢らしいな)




俺たちは一階に降りるとリノを探しに冒険者ギルド内の店のあるエリアに移動した。


「あっ、いた⋯⋯おーい、リノ~!」


だがリノは俺の声に気が付かないのかもふもふ猫タバサと、もふもふうさぎキラと一緒に向こう側を見つめていた。

俺はリノのそばに近寄ると声をかけた。


「ちょっと、リノ、どうしたん⋯⋯あっ!」


そこには肉汁したたる巨大ハンバーグがあった。

表面には焼き目もつき、巨大なハンバーグ全体から蒸気が出ている。


「あっ、ルキ、あれ見て、あれは何かしら?」


後ろからもふもふ熊クレオンの声がした。


「ああ、言ってませんでしたっけ? あれはマフィナさんが入ってるハンバーグサウナですよ」

「は? サウナ? 朝からまだ入ってんのかよ!⋯⋯って、ツッコむところはそこじゃないな」


バンッ!


その時突然その巨大ハンバーグの真ん中に隠れていたドアが開いた。


「おわっ! びっくりしたー! えっ、あっ!」


俺が巨大ハンバーグのドアに驚く暇もなく驚いたのは、その巨大ハンバーグのドアの中に、腕組みをして座っているマフィナ組長と、その横で明らかに何らかの魔人と思われるバーテンダーが、一心不乱にカクテルを振っている光景があったからだ。

もちろん二人の布地の面積は小さい。


バタンッ!


突然ドアが閉まった。


ザザーッ!


その次の瞬間、ハンバーグサウナの上からトマトソースのような色の温水が滝のように落ちてきた。

たちまち辺りは良い匂いで溢れかえったのだった⋯⋯。




俺たちはギルドの入り口へ向かった。

俺はリノが手に何か持っているのに気づいた。


「リノ、店で何か買ったのか?」

「ええ、市場には無かった薬草やポーションを買ったわ」


もふもふうさぎキラが嬉しそうな目で俺を見ている。


「ルキちゃん! 私、今そのポーションを飲んだから最高の気分なんだよー! と~っても甘かったよー!」

「そうか、それは良かったな!⋯⋯ってキラ! 今、旅で使うポーションをジュースがわりに飲んでんじゃねーよ」




俺たちは冒険者ギルドから出た。

馬車に近寄るとパンの焼ける匂いがした。


「リノ、なんかパンの焼けるいい匂いがするな」

「ええ、おそらく、完璧に成功したんだわ」


馬車の扉を開けると馬車内に充満していた焼きたてのパンのいい匂いが圧力を解放するかのように溢れ出してきた。

俺は喜び勇んで馬車のステップを上がった。


だが馬車に乗るとすぐにライラプスが焦った様子でぎゅうぎゅうでキッツキツのソファーの間を通り抜け俺のそばにやってきた。


「ルキ様大変です! パンが! パンが!」

「落ち着け、ライラプス! パンがどうした?」

「とにかく見てください!」


俺がぎゅうぎゅうでキッツキツのソファーの間を通り抜け暖炉に回り込みコンロの上を見ると焼いていた魔パン・スネークもどきは本物より2倍に膨れ上がっていた。


その時突然焼き立てのパンが喋り出した。

「うっひょー、うひひ、えっへへ、うひょひょ、うひょ、うひょ、うっ、ひょっ、ひょー!」


次々に焼き上がる度、パンは喋り出し、みるみる大騒ぎになっていった。


「いや、怖すぎるだろ、この状況」


俺がパンを押さえ込もうとすると、パンはニョロニョロと逃げ出した。

俺は仕方なくパンにパンチをすると、大人しくなった。

それを見て、もふもふたちも、みんな一斉にパンにパンチを繰り出し始めた。


バスッ! ドスッ! ボンッ! バンッ!


ウゲッ! グフッ! ウェッ! ギャッ!


パンのうめき声が馬車内に響く。

まさに地獄絵図のようだった。


やっと騒ぎが収まりアグロス辺境伯令嬢ゴリーナ⋯⋯いや、リオーナがその魔パン・スネークもどきパンを見てヨダレを垂らしている時、俺は暖炉のコンロの上の異変に気がついた


プクッ、プクプクプクッ⋯⋯。


俺たち用のパンが徐々に異様な膨らみ方を始めている。


あっという間に俺たち用のパンは風船を膨らませたほどの大きさになった。

俺はすぐにもふもふたちの後ろにいるリノを呼んだ。

リノはソファーの間に挟まりながら俺のそばまでやってきた。


「なぁリノ、これ見てくれよ。なんで俺たちのパンまで酵母入れてないのに風船みたいにパンパンに膨らんじゃってんだよ」


「あっ、ほんとだ! ねぇ、私たち用のパン生地ってルキが作ったのよね? ルキどんだけハチミツ入れたの?」

「ああ、甘い方がいいと思って結構入れたかな」


「やっぱり! もう! 少しでいいって言ったでしょ! 市場で買ったハチミツはエルフ産のハチミツだから酵母がなくても膨らむのよ⋯⋯もし、もっと入れすぎてたら⋯⋯」


「入れすぎてたら何だよ」


「入れすぎてたらきっと今頃このパンたちに馬車の中で押しつぶされてたわね」

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