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市場の賑わいと大地の人形

俺は馬車内に突然漂ってきた香辛料と果物の甘い香りに顔を上げた。

するとすぐに馬車がゆっくりと止まったので俺は左を向いた。


「リノ、市場に着いたのか?⋯⋯って、リノ! 何でそんな大きなサングラスかけてんだよ!」

「変装に決まってるでしょ! それより、ここが市場の馬車置き場よ。さぁ、降りましょう。みんなも降りるわよ」


俺は馬車を降りてから辺りを見渡したが俺たちのような大型馬車は停まっていなかった。


俺たちは市場の方に歩き始めた。

市場に近づくにつれ、買い物客の話し声や笑い声が聞こえてくる。

かなり賑わっているようだ。


馬車置き場の端まで来ると、そこにあった古びた両開き扉をもふもふ熊クレオンが両手で一気に開けた。

次の瞬間、市場から香辛料や焼きたてのパンの匂いがものすごい勢いで俺の体に降り注いだ。


「ルキ、ほら見て! 王城よ」


リノが指さす市場の向こう側には巨大な石の城壁が見えた。

その上には高い塔が何本もそびえている。

王城全体が陽の光で白く輝く姿に俺は圧倒された。


「ああ、すごいな⋯⋯」


だが俺がこの城に圧倒されるのは今回が初めてではない。

我が国レイモーン王国の王族は、俺が幼い頃からレイモーン王国の隣国であり同盟国である、ここダソス王国のプリンセス・リノを含めた王族とは親交があったため、俺、すなわち、レイモーン王国の王子である俺は、何度かあの王城には行ったことがある⋯⋯というか、ダソス王国に来ても、ほとんど王城とその隣にある王宮から外に出ることはなかったのである。


俺たちは歩き始めた。

すぐに露店に並ぶ鮮やかな布地、毛織物、陶器に目が止まる一方、一人、もふもふうさぎキラだけは果物の山の前で目を輝かせていた。

市場には貴族から獣人、エルフ、ドワーフに至るまで様々な人種が溢れている。


俺たちが色鮮やかな香辛料でマリネされた巨大な肉が吊るされている露店の前を通りすぎようとすると、突然俺は商人に声をかけられた。


「ちょっと味見してみませんか?」


その商人は、いくつかのグラスが置いてあるトレイを持ち、そのグラスの中には怪しげな色の液体が入っている。

俺はあまり表情を変えずその商人に聞いた。


「何ですか? それは」

「はい、そこに吊るされている魔獣の血から作った魔獣ドリンクです。お客さん、味見しますか?」

「結構です!」


俺が即答したのにも関わらずその商人は引き下がらなかった。


「お客さん、これを飲めば一瞬にして野獣のように活力が出ますよ! ポーション顔負けですよ! 名前はブラッド・オブ・ザ・ビーストと言って⋯⋯」

「いや、間に合ってますので!」

「そうですか⋯⋯」


何だか悲しそうだ。俺はつい質問してしまった。


「ちなみにどんな魔獣ですか?」

「えっ? は、はい! この魔獣は、うさぎくらいの草食動物なら、ひと飲みにしてしまうクリムゾン・ペロリンチョという名の魔獣です! お客さん! 味見しますよね! してくれますよね!」

「い、いや⋯⋯」

(圧が強いな、この人)


その時、突然後ろから、もふもふうさぎキラの声がした。

「私飲む~」

キラは素早く商人が持つトレイからグラスを取った。


「おいキラ、いつの間に俺の背後に⋯⋯ていうか、お前うさぎだろ! 野獣にならなくてもいいんだよ!」


だが、もふもふうさぎキラは俺の声を無視して一気に飲み干した。

するとすぐに効果が現れたのか、もふもふうさぎキラは野獣のように空に向かって雄叫びを上げた。


「ガ、ガルルルル⋯⋯ガ⋯⋯ウォー! ウォー! ウォー! フォー!!」


「キラ、お前な⋯⋯」

俺が呆れているとリノが俺の顔を覗き込んだ。

「ルキも飲んだら? 野獣になれるわよ」

「いや、今はやめとく⋯⋯」




俺たちは自分たちの物を買いたいというアグロス辺境伯令嬢リオーナとその従者グレゴリウスと別れ、もふもふ騎士団だけで市場の端から端まで見てまわった。

商人たちとの値段交渉を繰り返す中で、最終的には、肉、魚、野菜、卵、チーズ、調味料、香辛料、果物、ハチミツ、水、ワイン、ハーブティー、小麦粉、そして、おやつを買った。


市場ではアグロス辺境伯領の件も耳に入ってきた。

皆、北の砦が破られクレモスの街の空が赤く染ったことに驚いていた。そして『もし火の国の軍隊が南下してきたら、ここは一体どうなるのか?』ということが一番の議論の対象だった。


俺が『もう少し市場を見たい』と言うとみんな賛成してくれた。

そして今⋯⋯もふもふたちは大道芸に夢中である。


俺はもふもふたちの目を盗みリノの手を取り軽く引っ張るとリノは俺を見た。

俺は空いている手で自分の口元にそっと人差し指を当てたあと、リノにアイコンタクトをしながら顔を左に軽く降りそちらに歩くように促した。

俺とリノは手を繋いだまま人混みの中を歩き始めた。

俺が全く止まる気配を見せなかったせいか、リノが声をかけてきた。


「ちょっと、ルキどうしたの? どこまで行くの?」


ちょうどその時、俺は【ドワーフ魔法装飾品店】と書かれた看板のある露天の前で止まった。

その店には店主と思われる無愛想なドワーフがいる。


俺は振り向くとリノと手を繋いでいる手では無い方で露天の前に置かれた木製テーブルの上の装飾立てに飾られているピアスの中の、一対のピアスを指さした。


「これ、どうかな? さっき通った時に気になって⋯⋯」

「えっ、可愛い、デザインが風と雷の一対になってるピアス?」

「そう、リノに似合うかなと思って⋯⋯」

「プレゼントしてくれるの?」

「ああ、もちろん」

「ありがとう、大切にするね」


リノは微笑んでいる。

俺はドワーフの店主の顔を見た。


「あの、これもらえますか?」

「えっ、ああ、風雷のピアスだね」


ドワーフはそう言うと飾ってあるピアスを渡してくれた。俺は金貨を払った。

ドワーフの店主の言葉を借りると、その風雷のピアスとは、風をモチーフにした小さな翼と青い宝石が付いた、風のピアスと、雷をモチーフにした小さな稲妻と黄色い宝石が付いた、雷のピアスとで、一対になっているものだった。

どちらも動きのあるデザインだが、よく見るとどちらのピアスにも【マジカルストーンハンマーギルド】という文字が刻印されていた。


俺がリノにその風雷のピアスを渡すと、リノは連結されている細いチェーンを外し左の耳には風のピアスを、右の耳には雷のピアスをつけた。


「どう?」

「ああ、よく似合ってる」

「ほんと? ありがとうルキ⋯⋯でも、突然ね。もしかして魔獣ドリンク飲んだ?」


「飲んでねーよ」



今俺の隣にはもふもふうさぎキラがいる。

つまり、馬車内の前方の三人掛けソファーにはもふもふうさぎキラ、俺、もふもふ犬ライラプスが座っている。


リノはというと、もふもふうさぎキラが座っていた馬車内の後方の三人掛けソファーの真ん中に座り、アグロス辺境伯令嬢リオーナと、その従者グレゴリウスと話し込んでいる。


俺はもふもふうさぎキラに話しかけた。

「なぁ、キラ⋯⋯お前リノには後ろのど真ん中の席あっさり譲るんだな」

「だって、リノちゃんは私の主だも~ん」

「へー、あー、そうですか、はいはい⋯⋯」


その時、急にリノが後方のソファーから立ち上がりこちらへ歩いてきた。

それと同時に、もふもふうさぎキラがソワソワし始めた。

「ルキちゃん、リノちゃんが戻って来るんだから、どいてよ!」

「なんでだよ! お前こそあっちのソファーのど真ん中に戻れよ」

「あそこはルキちゃんに譲るよ」

「はー? 今さら譲られる覚えはねーよ⋯⋯てかキラは、ただ知らない人に挟まれてるのが居心地悪いだけなんだろ」


リノが俺の前で止まる。

「何揉めてるの?」


そのリノの声にもふもふ犬ライラプスが慌てて立ち上がり答えた。

「ルキ様とキラが、また席のことでケンカを⋯⋯」

「えっ、また? 全くルキは子供なんだから! また、たらこ出してあげるから、それに乗って遊んでなさいよ! ⋯⋯あっ! いえ、背もたれクッションよ」

「おい、今、完全にたらこって言ったよな! あっ!とも言ったし」

「う、うるさいわね! もう分かったわよ⋯⋯仕方ないから、もう一つ魔法で三人掛けソファーを出すわよ」

「えっ? 出せんのかよ」

「もちろん出せるわよ、でもいい? 馬車の中がものすご~く狭くなるから覚悟しときなさいよ」


リノが魔法の杖を振ると、たちまち前方の三人掛けソファーと向かい合わせになっている三人掛けソファーが現れた。

その間には小さなテーブルも置かれている。

一瞬で馬車内はぎゅうぎゅう詰めでキツキツになった。


「わーい!」

もふもふうさぎキラが新しいソファーに飛び込み寝そべった。

リノが俺に不敵な笑みを浮かべている。

「どう?」

「ああ、予想通りだな」

「でしょ」


リノが前方のソファーに座ったので俺もリノの隣に座った。

もふもふ犬ライラプスも俺の隣に座った。


「それで、リオーナさんとグレゴリウスさんは、何だって?」

「ええ、市場でりんごは買えたけど、ハチミツスライムハチミツと魔小麦は探したけどなくて、今持ってるハチミツスライムハチミツも魔パンスネークも、残りわずかだからどうしたものかと言ってたわ」

「じゃあ、りんごだけ食っとけば?」

「ルキッ!」

「なんだよ、仕方ないじゃん⋯⋯ていうかリノが魔法でサクッと出せばいいじゃん」

「は? 私はダソス王国、国家魔法院の国家上級魔法使いなのよ! そこには魔法使いとして守るべきルールがあるの。倫理に反する魔法は禁止なのよ。禁忌魔法法典、第一章で生き物を創り出すことは禁止されてるの。もし禁忌魔法法典を管理している国家魔法庁の査察官に見つかったら私は魔法資格が剥奪される可能性があるのよ」


「じゃあ今あるハチミツスライムハチミツと魔パンスネークをどんどん魔法で増やせばいいじゃん」

「魔力を持つものや含むものを増やすことも禁忌魔法として禁じられてるのよ」

「そうなんだ、あれ? でもたしかクレオンの二日酔いを魔法で治療した時、あれ生き物のウコンだよな?」

「よくウコンだと分かったわね」

「リノがウッコンコンて叫んでたからな」

「はは、そっか⋯⋯でもあれはたしかにウコンだけど、私が手元に持っていたウコンを元に魔法をかけたから大丈夫なの」

「なるほどな。他にも禁忌魔法ってどんなのがあるんだよ」

「そうね、例えば時間操作や死者の復活とかかな」

「時間操作? じゃあカリンがタイムリープの魔法使ったのは法に触れたということ?」

「いえ、禁忌魔法にも例外事項があって時間操作魔法に関しては現在に影響を及ばさなければ大丈夫よ。あの時カリンはルキの無くしたサイフを取りに過去に行っただけだから大丈夫よ」

「なるほどな⋯⋯」


その時、もふもふ猫タバサが馬車の扉を開けて入ってきた。手には鳥かごを持っている。

俺は、もふもふ猫タバサに聞いた。

「それは何?」

「これですの? いえ、その前にこのぎゅうぎゅう詰めでキッツキツな状態は何ですの?」

「ただの模様替えだよ」

「そうですの」

「いや、冗談だよ⋯⋯これだけソファーがあればみんな自由に座れるだろ⋯⋯で、その鳥かごは何だよ」

「馬車の周りをウロチョロしてたので捕まえたのですわ」


俺とリノはぎゅうぎゅう詰めでキッツキツの馬車内を移動し、もふもふ猫タバサの持っていた鳥かごを覗いた。


「あっ、ニフテリザス!」


それはリノの側近でリノの家庭教師であり、またダソス王国王立魔法大学学長で魔道具研究の権威である、魔法使いで魔道具師のマギア⋯⋯の使い魔のコウモリのニフテリザスだった。

ニフテリザスは鳥かごの中でぶさら下がりながらこちらを見た。


「お久しぶりですリノ様」

「どうしてここに?」

「まぁ、その⋯⋯いろいろありまして」


俺は話に割って入り言葉を濁すニフテリザスに言った。

「どうせマギアのことだから、リノが心配でこの馬車を尾行させてたんだろ」

「あっ! そうだわ、リオーナさんの食事のことをマギアに相談してみようかしら」

「えっ、マギアに? マギアに頼るのはやめとこうよ」

「まぁ、ほんとは頼りたくはないんだけど他に方法が思いつかなくて⋯⋯ただ、こちらから連絡する魔法はちょっと大変だわ。どうしようかしら」


鳥かごの中でぶら下がっているニフテリザスがポツリと言った。

「そこの暖炉の火をお使いになられては?」

「ええ、そうね、マギアは炎の魔法使いと呼ばれているくらいだから火の精霊に頼んだら連絡つくかもしれない。やってみるわ⋯⋯」


リノは俺たちの身分がバレてはいけないので、もふもふ騎士団だけで相談があるからと嘘をつき、アグロス辺境伯令嬢リオーナとその従者グレゴリウスに絵画の中の八段ベッドに移動してもらった。


俺はリノと暖炉の前に移動した。


「ねぇ、ルキ、何か鉱物持ってない?」

「えっ? ああ、ドラゴンの鱗なら持ってるけど」

「それ貰ってもいい?」

「ああ、もちろんいいけど」


リノは俺から受け取ったドラゴンの鱗を暖炉の火の中へ投げ入れたあと呪文を詠唱し魔法の杖を振り叫んだ。


魔法連絡もしもし!」


俺が暖炉を覗き込むと暖炉の火の中にマギアの上半身がうっすらと炎のゆらめきに合わせ浮かんできた。

その火の中のマギアが突然喋りかけてきた。

「ああ、誰かと思ったら、ルキ様じゃありませんか。ごきげんよう。あの、リノ様ともう少し⋯⋯そうですね、スライム百匹分くらい離れていただけますか?」


俺は振り返り叫んだ。


「消せ! 誰か、この暖炉の火を早く消せ!」

「ちょっと! もう、ルキは下がってて」

リノはそう言うと俺を暖炉のそばからどかそうとしたが俺はそのリノの手を押えマギアに言った。


「マギア、ニフテリザスにこの馬車を尾行させてただろ!」

「あら、なんのことかしら?⋯⋯それでリノ様ご要件は?」


リノは強引に俺を押しのけるとマギアを呼び出した理由を説明した。

マギアは少し考えた後、喋り始めた。


「そうですか、それでは魔パンスネークとハチミツスライムハチミツの代用品を作るのはどうでしょう」

「そうね、でもそれなら、そのための魔道具を送ってくれる?」

「はい、では魔力を込めた魔石付きスタンドミキサーと魔獣エキス、魔力の粉末、そして魔果汁をお送りしますわ」

「良かった、ありがとう」

「但しこれらを送りますが、この暖炉の火の精霊を通しては、これは一日一回しか使えないと思います⋯⋯あの、それと魔道具を送る代わりと言ってはなんですが何か対価を頂けませんか?」

「そうね、いいけど⋯⋯じゃあ魔道具をはじめ四つも貰うんだし対価は四つかしら」

「いえ、二つほど頂ければ」

「分かったわ、じゃあ、ルキのズボンとおやつでどうかしら」


俺はすぐさまリノにツッコんだ。

「なんでだよ!」


それを見てマギアが即座に答えた。

「却下いたします!ではリノ様が使っていらっしゃるシルクリボンと香水の瓶を頂けますか?」

「いいわ」

「分かりました」

「ありがとうマギア、これで魔パンスネークとハチミツスライムハチミツに似たものが作れるわ!」


その時馬車の扉が開き、もふもふ熊クレオンが入って来た。


「えっハチミツ? どこですか、ハチミツ!」

「落ち着けクレオン、それより、馬の世話ご苦労だったな、馬は大丈夫だったか?」

「はいルキ様、馬たちは食欲もあり健康状態も良いです。馬車もチェックしましたが、どこも問題はありませんでした」

「そうか、ありがとう」


リノが心配そうな顔で俺に話しかけてきた。

「ルキ、クレオンはこのまま御者を続けるの? ルキが変わってあげたら?」

「えっ、ああ、ライラプスに頼もうと思ってたけど、そうだな俺が変わろうかな⋯⋯じゃあリノも御者台に来いよ、二人で御者台からの景色を楽しもうぜ」


突然暖炉の火が大きく揺れマギアの声が聞こえた。

「なんですって、二人で御者台に⋯⋯二人きり⋯⋯あっ!リノ様、それと提案なのですが旅の御者にゴーレムをお使いになられてはどうでしょう」

「えっ、ゴーレム? そうね、それはいいかもね⋯⋯でもそんな強力な魔石は今手元にないし」

「では追加で炎の魔石をお送りしますわ。ゴーレムの心臓代わりにお使いになってください」

「ありがとう、でも、その⋯⋯対価は?」

「対価はリノ様のアレを頂きます」

「えっ? アレ?⋯⋯ アレってもしかしてアレのこと?」

「そうです、アレとはアレのことです」

「う~ん、アレはちょっと恥ずかしいけど仕方ないわね、いいわよアレで」

「ありがとうございます。では各地で魔道具の素材を集めてくださる件もお忘れなく」

「分かってるわ⋯⋯ああ、マギア、私が居ないことで何か困ったことある?」

「いえ、こちらは私がうまく魔法で対応してるので今のところ何も問題ありませんわ」

「そう、ありがとう、じゃあね」


暖炉からマギアは消えた。

すると暖炉の前には魔力が込められた魔石付きスタンドミキサー、魔獣エキス、魔力の粉末、魔果汁、そして炎の魔石が現れていたのだった。


俺はリノに速攻で聞いた。

「なぁ、アレって何だよ! 恥ずかしいって⋯⋯」

「秘密よ!」

「気になるだろ!」

「いいでしょ! さあ、早くルキは市場で石と土と粘土買ってきて! 私はゴーレムを作り出す魔法の準備してるから」

「分かったよ⋯⋯ああ、ちょっと聞いてみるんだけどゴーレムを作り出す魔法はさっき言ってた禁忌魔法じゃないのかよ」

「いえ、ゴーレムは生き物じゃなくて人形だし、炎の魔石もゴーレムの心臓として使うだけで、魔力を増やすわけではないから大丈夫よ」

「そうなんだ、分かった。じゃあクレオンとライラプス連れて行ってくる」


俺と、もふもふ熊クレオンと、もふもふ犬ライラプスが石と土と粘土を買って帰ってくると馬車の前にヒラヒラと大きな布が浮かんでいて、その中へ入ると、リノと、もふもふ猫タバサが馬車のそばで準備をしていた。


「あっ、帰ってきたのね。じゃあルキ、買ってきた石を体の基本にして、土を胸の部分に、粘土を関節の部分に見立てて人型に置いてくれる?」

「分かった」


俺と、もふもふ熊クレオンと、もふもふ犬ライラプスが石と土と粘土を人型に置くとリノに合図した。

するとリノは炎の魔石を人型の土の心臓の部分に押し込んだあと魔法の杖を取り出すと呪文を詠唱し魔法の杖を力強く振った。


その次の瞬間、土の中に埋めた炎の魔石が魔石を押し込んだ穴から光を放ったあと炎に変わり穴から出た炎が人形全体を包み込んでいった。

炎の隙間から見える石も土も粘土も一つ一つ小刻みに揺れながらギュッと集まり固まっていく。

人形は徐々にゴーレムの体へと形成されているようだ。

人形の胸の穴の周りの土が盛り上がり魔石を押し込んだ穴も塞がったらしく急に炎は収まり関節部分の粘土もしっかり収まっている。

ただ人形は相変わらず、ものすごい熱を帯びていた。


しばらくすると熱も冷め人形はどうやら完全にゴーレムとして形成されたようだ。


リノはみんなの方を向いた。


「さぁ、ゴーレムの完成よ!」


すると突然ゴーレムがビクッと動き、ゆっくりと立ち上がった。

立ち上がったゴーレムの目が開きゴーレムは目の前にいる俺を見た。そして静かに口を開いた。


「ご主人様」


リノが俺のそばに来た。


「ルキを一番初めに見たから、ルキをご主人様と思ってるのかな」

「えっ、アヒルかよ! まぁ、でもお前だけだよ、今この中でご主人様って呼んでくれんのは」

「じゃあ、ルキがこのゴーレムの名前を付けて」

「いいのか? うーん、じゃあ、ゴーレムのレムを取って今日から、お前の名前はレムレムだ!」


「私⋯⋯名前⋯⋯レムレム⋯⋯」


リノが俺の顔を見て微笑む。

「レムレム? いい名前じゃないの、じゃあ早速レムレム、この馬車の御者をしてちょうだい」


ゴーレムのレムレムが俺を見た。

「ご主人様?」

「えっ、何? 俺に聞いてんの? じゃあ御者を頼むよ、レムレム」


リノがゴーレムのレムレムを睨んだ。

「は? なんでレムレムを作った私の言うことを聞かないのよ!」


そこへアグロス辺境伯令嬢リオーナとその従者グレゴリウスを呼びに行っていた、もふもふうさぎキラがリオーナとグレゴリウスと共にやってきた。


「な、なんですの! これは一体!」


アグロス辺境伯令嬢リオーナが驚き叫んだのを見てリノが説明した。


「新しい御者、ゴーレムのレムレムです」

「す、すごいですわね⋯⋯」


驚いたままゴーレムのレムレムをまじまじと見ているアグロス辺境伯令嬢リオーナとその従者グレゴリウスに俺は近寄った。

「まぁまぁ、いいじゃないですか⋯⋯よしじゃあ、みんな出発だ!」


リノも俺に呼応する。

「そうね、じゃあ戻って深い森の道を行くより、ちょっと遠回りだけどこのまま水門通りから王都の北にある道を行きましょう。石畳で整備されてるし街道だし魔物も少ないと思うわ」


だがアグロス辺境伯令嬢リオーナが慌ててリノに話しかけた。

「あっ、リノさん、ちょっと待ってください、私皆さんのことを冒険者ギルドに報告するのをうっかり忘れてましたわ」


リノはその言葉を聞きハッとした表情で俺を見た。

「あっ! ルキ、私たちも冒険者ギルドに報告するのを忘れてた⋯⋯」

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