馬車トランスフォーメーション
ポーン⋯⋯前方の小道に入るため馬車が変形します。ご注意ください⋯⋯。
ギギッ⋯⋯ミシミシ⋯⋯。馬車が軋む。
明らかに馬車の両側の壁が内側へと迫ってきている。
それと同時に装飾品がカタカタ揺れ壁に擦れる音が響く。
窓を見ると薄っすらとした光で覆われ景色が歪んでいる。
そうしている内にも馬車の両側の壁はどんどん迫ってくる。
「リノ、一体どうなってんだ! これ大丈夫なのか?」
「もう、ルキ、大丈夫だからそんなに慌てないでよ」
俺はリノを見た。
(あれ? 何だか妙にリノと近い。俺こんなにリノと密着してたっけ?)
俺はその異変に慌てて立ち上がり振り返った。
(あっ! リノとライラプスが隣り合わせで座っている)
「リ、リノ! 三人掛けソファーが、二人掛けソファーになってるじゃん!」
「だからルキ慌てすぎだから」
リノはそう言うと突然立ち上がり魔法の杖を俺の方に向けた。
「えっ、な、何だよ」
「ちょっとルキ⋯⋯そこどいてくれる?」
「えっ、ああ」
俺が横にどくと、リノは一歩前に出て魔法の杖を構えた。
魔法の杖の先には、アグロス辺境伯令嬢リオーナと、その従者グレゴリウスと、もふもふうさぎキラが、三人掛けソファーから立ち上がってあたふたしている姿がある。
突然リノは叫びながら魔法の杖を振った。
「たらたらたらたら、たらりんこー!」
次の瞬間、もふもふうさぎキラたちの後ろから、ぷかぷかと浮かぶ深い赤色の巨大な円柱形を横にしたようなものが現れた。
「みんな、それに乗って!」
リノが、もふもふうさぎキラたちにそう言うとアグロス辺境伯令嬢リオーナがこちらを見た。
「リノさん、どういうことですの?」
「いいから、とにかく乗ってください」
ぷかぷかと浮かぶ深い赤色の巨大な円柱形を横にしたようなものに前からアグロス辺境伯令嬢リオーナ、その従者グレゴリウス、そしてもふもふうさぎの獣人キラの順でまたがると、それはどんどん天井まで浮かび上がり、たちまち、もふもふ猫タバサが寝ている大きめのクッションの横まで上昇した。
俺はすぐさまリノに聞いた。
「なんだよあれは! たらこか?」
「は? たらこじゃないわよ! 背もたれクッションよ」
「どういうことだよ」
リノは振り返り、前方の三人掛けソファーに座っている⋯⋯いや、もう二人掛けになってるのだが、そのソファーに座っている、もふもふ犬ライラプスを立たせ、どかせると、ソファーに向かって叫んだ。
「たらたらたらたら、たらりんこー!」
「いや、やっぱ、たらこだろ!」
俺がツッコみ終わる間もなくソファーの深い赤色の三つの背もたれクッションが小刻みに揺れだし、まるで磁石同士が引き寄せられるかのように、あっという間にピッタリくっつくと、深い赤色の背もたれクッションはみるみる巨大化しながら円柱形を横にしたような物に変化したのだった。
そしてゆっくりと浮かび上がった。
「さあ乗って」
「は? このたらこに?」
「いいから早く乗りなさいよ」
俺はリノに促され仕方なく乗った。
「なんか弾力が、すごいな⋯⋯」
俺の前にリノが、俺の後ろに、もふもふ犬ライラプスが乗った。
すぐにリノが俺に体を預けて来た。
(えっ、リノ⋯⋯いい匂い、髪キレイ⋯⋯いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないな)
下を見るとソファーの後ろにある棚が急速に縮まっているのが分かった。
それに合わせ棚の中の荷物も勝手に動き、棚の端の方にどんどん詰めていくとピッタリと収まった。
その棚の横の金庫と冷蔵庫も自らの意思を持っているかのように動き出し御者台の下のスペースに隙間なくピッタリと収まったのだった。
突然馬車の揺れが収まり女性の声がした。
ポーン⋯⋯馬車の変形が完了しました。ご協力ありがとうございました。
「もう、いいわね」
リノは俺たちの乗った、たらこ⋯⋯いや、背もたれクッションを床まで下ろした。
「一人掛けソファーになってる⋯⋯」
俺はソファーをまじまじと見たあと急いで窓を開け前方を見た。
「あっ! 馬が、一列になってる!」
たしかに二頭ずつ二列で馬車を引っ張っていた馬が、今は縦に一列に並んで馬車を引っ張っていたのだ。
その時後ろからリノの声がした。
「どう? これで小道を通れるでしょ」
その言葉通り、すぐに馬車は水門通りから小道に入っていったのだった⋯⋯。
◇
しばらく小道を走ると馬車は狭い路地に入った。
狭い路地の両側には木製の家と石積みの家が目立っていた。
壁に鮮やかな壁画が見え、それを過ぎると、ドワーフの鍛冶場が見えた。
ドワーフの子供たちも遊んでいる。
再び女性の声が馬車内に響き渡った。
ポーン⋯⋯馬車の変形を元に戻します。ご注意ください⋯⋯。
あっという間に馬車は元の姿に戻ると窓に巨大な水門が見えた。
俺は元に戻った三人掛けソファーに座りかけたが、すぐに窓に駆け寄り窓を開けその巨大な水門を見た。圧巻だった。青銅と石で出来ているようだ。
裏側にしてこれだけの迫力なんだから表側はさぞ大迫力なんだろう。
「ルキ、今、水門の表側見たいって思ったでしょ」
「えっ、なんで分かった?」
「分かるわよ⋯⋯ルキの顔見てたら。ルキ、表側はすごいのよ! 中央には私たちの王族の紋章が刻まれてて、その周りには剣と魔法の象徴や古代文字が刻まれてるの。とても芸術的なのよ」
「そっか、それは見たかったな⋯⋯」
俺は反対側の窓まで歩き窓を開けた。
水路には透き通った水が流れている。
俺たちの馬車は、そのまま水路沿いの道を通り市場がある水路の奥へと向かったのだった⋯⋯。




