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風の精霊

その魔法円からは徐々にドレスを着た人型の何かが浮かび上がってきた。


俺は驚き、思わずソファーから立ち上がると、魔法円に近寄り身をかがめながら自分の顔をその何かに近づけた。


その高さが20cmほどで顔が半透明の⋯⋯いや、顔だけじゃなく長い髪、そして手や足⋯⋯つまりドレス以外の部分全てが半透明で柔らかな光を帯びていた。よく見ると柔らかな光の正体はその半透明の体の中で無数に舞う光の粒からくるものだと分かった。その半透明の人型が動くと、少し遅れて光の粒も動き、煌めくのだ。


ドレスも奇妙だった。

ドレスと言ったが、透けるくらい薄く透明感のある虹色のリボン⋯⋯つまり七色のリボンが絡み合うようにしてドレスは形成されている。


さらに特徴的なのは、背中だ。背中にも同じく七色のリボンが、まるで羽のように大きく広がり形成されていた。

その七色のリボンのドレスは絶えず風に吹かれているかのように、僅かだが滑らかに、そしてゆっくりと揺れ動いていた。


ここから見ると実体のないふわふわとした人型にしか見えなかった。


突然その何かが動いた。

背筋をピンと伸ばし両手でドレスの裾を持ちながら右足を斜め後ろに引き、左足の膝を軽く曲げたのだ。

そのポーズは紛れもなく相手に敬意を示す挨拶、カーテシーだった。


その人型の何かはカーテシーを終えるとリノの顔を見た。


「リノ様、お呼びでしょうか?」

「アイオロス、ちょっと頼みがあるの」

「何でしょう」


その瞬間、俺はついに我慢ができなくなりリノに話しかけた。

「ちょっとリノ、ごめん、これ⋯⋯いや、こちらの方は?」


リノはその何かから視線を切って俺を見た。

「ああ、この子もケラウノスと同じで、私の使い魔として仕えてくれている風の精霊アイオロスよ」


「やっぱり精霊なんだ⋯⋯」


リノは再び俺から風の精霊アイオロスに視線を戻した。

「アイオロス、待たせてごめんなさい。実はこの馬車の御者の所へ行ったきり帰ってこないケラウノスに頼んだことを実行させてほしいの」


「かしこまりました」


すぐさま理解したらしい風の精霊アイオロスはそう言うとその場から軽やかに飛び上がった。ただ七色のリボンの羽で羽ばたくことはなく、風の精霊アイオロスは、まるで空中を泳いでいるかのように飛び回っている。


リノは窓に近寄ると窓を開けた。

すると風の精霊アイオロスはリノが開けた窓からあっという間に外に飛び出して行った。


リノが窓を閉め俺たちはソファーに座った。その途端、ギャッ!という声が聞こえ御者台がバタバタしているのを感じた。


トントントン⋯⋯。


窓を叩くその音に俺たちが一斉に窓の外を見ると、そこには風の精霊アイオロスと、アイオロスに七色のリボンでぐるぐる巻きにされ、まるでミノムシのように吊るされた雷の精霊ケラウノスの姿があった⋯⋯。



馬車の窓から見える景色が明らかに変わった。


ソファーに座っている俺から見えるすぐ横の左右の窓と、もふもふうさぎの獣人キラたちが座っているソファーの横にある左右の窓に、次から次へと建物が流れていく。

さらにしばらくすると彫刻や装飾が施された立派な建物も窓に流れていくのが見えた。


俺はもっとよく窓の外を見るためソファーから立ち上がった。


さすがに森の国といえど郊外とは違い、この王城近くの貴族たちの住居が立ち並んでいる地域にはツリーハウスの住居は見当たらないが、そこは森の国だけあって緑が多い。

その緑が多い通りを、人族から獣人にいたるまで、さまざまな種族が往来していた。


その時ふいに大型馬車とすれ違った。


(ん?あれ?⋯⋯ そういえばリノは水門通りから小道に入って狭い路地を抜けるって言ってたな。でも、この馬車は大型だし、四頭立て。横幅はかなり大きいし小道や狭い路地に入れるのかな?)


俺はその疑問をぶつけるべくソファーに戻り座るとリノの方を向いた。


「ねぇ、リノ、この大型馬車で小道から狭い路地に入れるのかな?」

「まぁ、普通は入れないでしょうね。たぶん少しだけこの馬車の幅の方が大きいと思うわ」

「じゃあ、通れないじゃん」

「ルキ⋯⋯一体私を誰だと思ってるの? これでも上級魔法使いなのよ。そのことは、このルートを考えた時に気がついて、あらかじめ馬車に魔法をかけといたから大丈夫よ」

「えっ、あらかじめ馬車に魔法を? ま、まさかそれは最近覚えたての新しい魔法のことだったりする?」

「ええ、そうだけど、それが?」


俺は、そのリノのあらかじめの馬車への魔法により、この馬車でスライムを踏み潰し横滑りしたことを思い出した。


「えっと⋯⋯その魔法、なんて言ったかな。ちょっとライラプス、あの魔法のこと忘れたから代わりに説明してくれよ」

「ルキ様、あの魔法とは?」

「あれだよ、あれ、例のスライムの⋯⋯ほら」

「おお! あれ! あれですか! 例の⋯⋯分かりました。ではリノ様にご説明いたします。リノ様、つまりその魔法とは特定の条件のもとで魔法効果を発動させる、条件発動型魔法というものですか?」

「そうだけど、何よ、二人ともさっきから変よ。私の魔法に何か問題でもあるの?」

「い、いや、リノなんでもないって! その魔法は、かなり難しいんだろうな~って思ってさ⋯⋯失敗して路地に突っ込まないかと⋯⋯」

「は? どういうことよ! 路地に突っ込むわけないでしょ!」


その時、急に馬車が大きく揺れ右に曲がるのが分かった。

馬車が右に曲がる際、窓の外に歴史を感じさせる大きな石造りの橋が見えた。


もうすぐか⋯⋯。


俺はドキドキしながらライラプスを見た。

ライラプスも両方の目を見開き緊張しているようだった。


ゴクリッ⋯⋯。


馬車は右に曲がり切って水門通りに入った。そして次の瞬間、馬車内が突然光ったかと思うと、女性の声が馬車内に響き渡ったのだった⋯⋯。

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