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酒場『バー・アドベンチャー』

「リノ⋯⋯おめでとう」


日もとっぷりと暮れ、月明かりが差し込む部屋の中、俺とリノは見つめあっていた⋯⋯。






その前、太陽が沈む頃──。






「なぁ、クレオン、ナデシコさん絶対酔ってるよな」


派手な音楽が鳴り、人々の話し声が飛び交い、そして酒の匂いが漂う酒場のテーブル席で俺の隣に座っているもふもふ熊のクレオンがこちらを向いた。


「えっ? ルキ様、何か言われましたか? 周りがあまりにも騒がしいので聞こえませんでした」


「いや、大したことじゃないからいい⋯⋯」






実際冒険者ギルドに併設された酒場『バー・アドベンチャー』は騒々しかった。

辺りも暗くなり冒険者たちが続々と入り口の扉から入ってくる。


俺たちはまだ客がチラホラいる時から、空いているテーブルに座り酒を飲んでいた。

但し騎士学校を出たばかりのもふもふうさぎのキラはまだお酒の飲める歳ではないのでジュースを飲んでいる。


俺は隣のもふもふ熊のクレオンから視線を外し再びテーブルに視線を戻すとテーブルの真ん中ではナデシコさんが依然として奇妙なダンスを踊り続けていた。

真っ赤な一輪の花であるナデシコの花に、顔と手と足がついているナデシコさんは見るからに楽しそうだった。


「⋯⋯ルキー! ルキ!! ちょっと聞いてるの?」


リノが人差し指で俺の頬をつついている。


俺はリノを見た。ドキッ⋯⋯胸がときめいた⋯⋯。

リノの頬はほんのり赤く、目もとろんとして妙に色っぽい。


突然リノが俺の手を握り椅子から立ち上がった。

俺もリノが握った手に引っ張られ椅子から立ち上がる。


「ルキ、行くわよ」

「どこへ?」

「いいから」


だが、その答えを聞くまでもなくリノは酒場のバーカウンターの前で止まった。


バーカウンターの椅子は長椅子だが空きはない。


突然リノが叫んだ。

「ちょっと詰めて!!!!」


リノは長椅子に座っている客たちに両側に詰めるように促し移動させると正面に出来た隙間に座った。


「さぁ、ルキ空いたわよ、座って」


「いや、無理やり空けたんだろ。それにその隙間に二人は座れないだろ」


「大丈夫よ。早く座って」


俺は何とかその隙間に座ったが予想通りギュウギュウ詰め状態だった。


俺はリノに密着した⋯⋯。


(ちょっとこれは⋯⋯やばい⋯⋯)


俺の心臓が早鐘を打っていることを知る由もなくリノはこちらを向くと猫なで声で言った。


「ルキニャン、めっちゃ強いお酒を頼んでよ~」


「おい、ルキニャンって何だよ! それより強い酒はやめとけって」


「はー? 何でよー、私の言うことが聞けないのー? それにー、ルキニャンも私のことリノニャンって呼んでよー!」


「いや、完全に悪酔いしてるだろ! あっ!」


俺は急に隣から押されリノの方に体が傾いた。


「えっ」


リノの顔が間近に迫った。


「リ⋯⋯リノニャン」


「ルキ~」


リノは俺に抱きついてきた。


「ちょ、ちょっとリノニャン」


その時である。

突然酒場『バー・アドベンチャー』の扉の方から大勢の掛け声が聞こえてきた。

男の野太い声だ。


わっしょい! わっしょい! わっしょい! わっしょい! わっしょい!


「あっ!! マフィナ・一家だ!!!!」


誰かがそう叫ぶと店内は騒然となった。


俺は振り返って入り口の扉の辺りを見た。


そこには大勢の筋肉隆々の半裸の男たちが小さな神輿を担いでおり、神輿の上には一人の戦士と思われる腕組みをしてあぐらをかいている女性と、小脇に太鼓を抱え踊り狂いながら太鼓を乱れ打ちしている女性が乗っていた。


酒場の客がその神輿の周りへ我先にと集まっていく。


バーカウンターにいた客も例外ではなく、あっという間に俺とリノの周りには誰もいなくなった。

リノはいつの間にかバーカウンターに突っ伏している。

(寝てるのかな⋯⋯)


俺はバーテンダーに聞いた。

「あれは?」


「ああ、あれですか⋯⋯あれはマフィナ・一家のマフィナさんと、アキャリンさんですね」


「有名なんですか?」


「はい、マフィナ・一家は、この冒険者ギルドで一番のパーティでして、この間もこの冒険者ギルド始まって以来のパーティレベル90に到達したとか」


「へぇー」


俺はもう一度振り返りマフィナ・一家を見た。

アキャリンが踊り狂い乱れ打つ太鼓で酒場の熱気は最高潮に達しつつあった。


その時マフィナが右手を挙げた。

その途端、アキャリンの太鼓のリズムが変化した⋯⋯そして⋯⋯神輿を担いでいる男たちが叫び声を上げた。


ウォー!!!!!!!!


明らかに終わりに近づいている雰囲気だ。その時アキャリンが叫んだ。


「いよ~っ!!!!」


ダン! ダン! ダンダンダン!!!!!!!!


太鼓の音が止まった⋯⋯。


酒場はシーンと静まり返っている。


突然、誰かの声がした。

「マフィナ! サインくれよ! 学校で自慢すっからさー!」


その途端、マフィナは神輿から飛び降りた。


ドスーン!!!!


「今言ったやつ、出てこい!」


「おー、マフィナ、サインくれんのか?」


一人の学生らしき男の子が出てきた。


「小僧、私を呼び捨てしたのは貴様か!!!!」


マフィナはそう言うと目を閉じた。

そして次の瞬間マフィナは一気に目を見開いた!


カッ!!!!!!!!


ギャー!!!!!!!!


叫び声と共に学生はコロコロと後ろへ吹っ飛んだ。誰かが叫んだ。


「こ、これはマフィナの目力砲だ!! こんな所で見られるとは⋯⋯」


「なめんなよ、小僧」


マフィナはそう言ったあと急にこちら⋯⋯バーカウンターの方に歩いてきた。

客たちはマフィナを避けるように道が出来た。


マフィナがバーカウンターの長椅子に座った。


「伝説のカクテルをくれ」


「えっ、伝説のカクテルですか? 少々お待ちください」

バーテンダーは準備をしシャカシャカした。


「お待たせしました。こちらが伝説のカクテル、アルコール度数100%のドラゴンファイヤーパワーボムです」


マフィナは一気に飲み干した。

グビグビグビ⋯⋯プッハー!

息をするたび口元から火が出ている。


「うっ、めぇー!!!!!!!!」


ドガンッ、バキバキ、ベキベキベキベキ⋯⋯。


その美味しさに興奮したのかマフィナが目の前のバーカウンターを叩くとマフィナの目の前のバーカウンターは木っ端微塵に破壊された。


「あ、ああ、あ、あ、ああ⋯⋯」


バーテンダーはオロオロしている。


「すまない、これで勘弁してくれ」


マフィナはバーテンダーに長さ20cm程のずっしりとした袋を渡した。

バーテンダーは袋を開けた。


「えっ、よ、よろしいのですか?」


「ああ、いいってことよ」


俺がチラッとその袋の中を見ると金貨がいっぱい詰まっていた⋯⋯。






突然リノが、ガバッと起きた。

「ルキ、帰るわよ」


そして勢いよくイスから立ち上がったと思った瞬間、リノはつまずきふらついた。


「あっ、危ない!」


俺はリノを咄嗟に抱きとめると引き寄せた。


「あ、ありがとうルキ⋯⋯」


俺とリノは見つめ合った。


もふもふ熊のクレオンが俺とリノのそばに来た。


「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ⋯⋯クレオン。リノが酔ったみたいだから宿屋に送ってくる」


「分かりました」


「じゃあ、リノ、帰ろっか」


「うん⋯⋯」



窓から月明かりが差し込んでいる⋯⋯。


俺とリノはベランダに出た。

通りを歩く人の声や馬車の音、そして夜の匂いがした。


「ルキ、いい夜ね⋯⋯」


「ああ、そうだな⋯⋯リノ、それより気分は大丈夫なのかよ。だいぶ飲んでたみたいだけど」


「ええ、だいぶ酔いは冷めたから、もう大丈夫、ありがとう」


「良かった」


「ねぇ、ルキ⋯⋯ちょっと奥の部屋に来ない?」


「えっ?」


俺の鼓動は急に速くなった。


リノは一人ベランダから部屋に入ると、奥の部屋のドアから俺に手招きをした。


「さぁ、来て」


「う、うん⋯⋯」


俺はリノと共に奥の部屋に入った。

奥の部屋も窓から月明かりが差し込んでいた。

リノは上着を脱ぐとベッドに座った。


「ねぇ、ルキ、ここに座って」

リノがベッドをポンポンと二回叩いた。

「あ、ああ⋯⋯」


俺がリノの隣に座ると、突然リノは両手で自分の胸元を開いた。


「えっ! リノまだ酔ってるだろ!」


俺は狼狽うろたえた。


「もう酔ってないわよ⋯⋯ねぇルキ、これ覚えてる?」


リノの胸元が、月明かりでキラキラしている。


「ネックレスか?」


「そう⋯⋯私が10歳の誕生日の日に、ルキが初めて私にくれたプレゼントよ」


「えっ、俺ネックレスなんてプレゼントしたっけ?」


「いえ、ルキがくれたのは、水晶よ。レイモーン王国の海辺で拾った水晶⋯⋯私それをネックレスにして今でも身につけてるの⋯⋯」


「リノ⋯⋯今でもそんなに大切に持っててくれてるんだ⋯⋯ありがとう」


「うん⋯⋯ルキ、これからも仲良く出来たら嬉しいな⋯⋯よろしくね」


「もちろんだよリノ⋯⋯俺の方こそよろしくな」


俺は急にリノが愛おしくなり自然とリノに近づいていった。


だが突然リノが俺の両肩を持って俺が近づくのを制した。


「ル、ルキ⋯⋯それはそうと私が馬車にかけた新しい魔法はどうだった? 役にたったでしょ」


「えっ⋯⋯う、うん、すごく役に立ったよ、ありがとう」


「そう⋯⋯良かった。あの魔法ね、すごく難しくって、やっとこの間、習得出来たんだから⋯⋯褒めて⋯⋯」


「そっか⋯⋯」


俺は自分の両肩にあるリノの両手をゆっくりと外しながらリノを熱く見つめ言った。


「リノ⋯⋯おめでとう」


リノは黙ったまま、俺を熱く見つめ返してきた。


月明かりが俺たちを優しく包みこむ。


俺はそのままゆっくりとリノに近づいていった⋯⋯そして⋯⋯

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