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王太子妃ギネカ

「ゲッ! マギア⋯⋯」


俺が振り向くと、そこにはリノの側近でリノの家庭教師、ダソス王国王立魔法大学学長のマギアが立っていた。


俺はマギアが苦手だ⋯⋯。


俺がリノに引き止められたにもかかわらずプリンセス・リノ・キャッスルから宿屋で生活するようになったのも半分は城に滞在中、魔法大学で魔道具研究の権威でもある魔道具師のマギアがリノへ発明品を持って城へ来るたびにいつも城で遊んでいる俺ともふもふたちを見るにつけ、俺に対するマギアの視線が絶えず疑惑と不信感に満ちた冷たいものであったからだと言っても過言ではない。

何しろ俺のダソス王国への留学という嘘がバレたら一巻の終わりなのだ。

それになぜかは分からないがマギアは俺がリノに近づくのも気に食わないらしかった。


「あら、そこにいらっしゃるのはルキ様かしら?」


「知ってんだろ」


俺はそう言いながらハシゴからツリーハウスの中へ入ると、俺に続いてもふもふ犬のライラプス、もふもふ猫のタバサ、もふもふうさぎのキラもツリーハウスの中へ入ってきたのだった。


俺は続けてマギアに言った。


「それで⋯⋯ギネカはどこにいるんだよ」


「ギネカ様? さぁ、どこかしら」


「ごまかすなよ⋯⋯ていうか、マギアは何でここにいるんだよ」


「あら、ルキ様こそ、何かごまかしておられることがあるのでは?」


「は? な、何だよ、唐突に」


「あら、図星だったかしら」


その時もふもふ犬のライラプスが話に割って入ってきた。


「マギア殿、その物言いはルキ様に対して不敬なのでは?」


「そうかしら⋯⋯とにかく私はギネカ様がお一人で歩いてらしたのををお見かけしたので良からぬ者からお守りするために勝手に護衛して差し上げていますのよ」


(どういうことだよ⋯⋯マギアはギネカから何か聞いたのかな⋯⋯)


俺はそう思いながらマギアに言った。


「つまり良からぬ者って俺のことかよ」


「さぁ? どうでしょう」


(否定しないのかよ⋯⋯)


俺はそう思い一瞬イラッとしたがその気持ちを抑えるとマギアに言った。


「⋯⋯ったく⋯⋯で、その肝心のギネカはどこなんだよ」


「ここですわ」


そう言って魔法の杖を取り出したマギアが魔法の杖を振ると、突然俺の前に溺愛するギネカが現れた。


「ギネカ!!!!」


俺は満面の笑みで名前を呼んだ。


だがギネカはなぜか腰に手を当て仁王立ちで、こちらを見ている。


(ん? あれ? ギネカのやつ何かよそよそしいな⋯⋯いつもなら俺が呼んだら愛くるしい顔で飛びついてくるんだけど⋯⋯)


俺がそう思っているともふもふうさぎのキラが叫んだ。


「ギネカちゃん!!!! 会いたかったー!!!!」


「キラちゃん、私も会いたかったわ!!!!」


反応が俺の時と違いすぐにキラと手を取り合って一瞬喜んだギネカだったが直ぐに真剣な表情に戻るとマギアに目で合図した。

するとマギアは理解したらしかった。


「では、私たちは外に出ていますわね⋯⋯ライラプスたちも、行くわよ! さぁ早く」


マギアはライラプスたちを引き連れツリーハウスの扉から出ていった。


空気が緊迫している⋯⋯。


ギネカが静かに言った。


「お兄様⋯⋯いえ兄さん⋯⋯そこに正座して」


「えっ? なんでだよ⋯⋯それより会いたかったぞギネカ」


俺はギネカの腕に触れたのだが予想と反してギネカは俺の手を払い除けた。


「やめて⋯⋯さわらないで兄さん」


「一体どうしちゃったんだよ、ギネカ」


「兄さん⋯⋯リノちゃんから聞いたわよ。どこに留学するって?」


「えっ、王立ダソス大学帝王学科にだけど」


「それは本当なの? 問い合せてみるけどいい?」


「そ、それは⋯⋯困る⋯⋯嘘だから⋯⋯」


「やっぱり⋯⋯」


「ギネカをそばで守りたくて⋯⋯」


「ねぇ、兄さん⋯⋯兄さんは将来王様になるんでしょ?」


「えっ?⋯⋯ああ、たぶんな」


「じゃあ、もう馬車で城に来なくていいからこの国から立ち去って。そして自分の国を守って」


「で、でも⋯⋯」


「兄さん、私はもうこの国の人間なの。兄さんに守られる立場じゃないの。構わないで」


「ギ、ギネカ、じゃあ俺どうすれば⋯⋯」


「知らない」


「あっ! さてはマギアに吹き込まれたんだろ」


「何も吹き込まれてないわ。私の考えよ」


「ギネカは、そんな子じゃなかっただろ!」


「兄さん、私はもうレイモーン王国にいた頃の私じゃないのよ⋯⋯じゃあね、兄さん⋯⋯」


そう言い放ち俺の妹⋯⋯ダソス王国、王太子妃ギネカはツリーハウスの扉を開け出ていった。


俺は呆然ぼうぜんとし自然と体が崩れ落ちたあと、うつ伏せになった⋯⋯。

ショックのため頭が真っ白になったからだ。


「ツンツン。ツンツン」


誰かが俺の体をツンツン言いながらつついている⋯⋯。


この声はきっとキラだろう⋯⋯。


「ルキ様、 どうされたのですか?」


ライラプスの声がしたので俺は仰向けになりマギアがいないことを確かめ今あったことを簡潔に話すとライラプスは少し興奮した様子だった。


「それは正論ですな!! さすがギネカ様!!」


「うるさい! 分かった! 俺はレイモーン王国に帰るぞ!!」


「えっ?」


ライラプスが驚きの表情を俺に向けた時、ギネカを見送っていたのかマギアが今になってツリーハウスの扉から入ってきたかと思うと、つかつかと俺の前まで歩いてきた。


「あら、ルキ様。やっとお帰りになる決心をされたのですか? 私お見送りいたしますわ」


俺はもうマギアに悪態あくたいをつく気力もなくなっていたので黙っていた。


ライラプスの優しい声が聞こえた。


「ではルキ様、私めがおんぶいたしましょうか?」


俺はうなずくとライラプスは俺をおんぶしてくれた。


俺はおんぶされたまま前方を見た。


その時突然ツリーハウスの扉がひとりでに開き、開いた扉から初嵐が吹き込んできた。


ビューーーー。


俺はその勢いの強さに顔を背けたあと再び扉の方を向いた。


「えっ⋯⋯」


扉の向こう⋯⋯空中にリノがいた。


黒のタイトミニワンピ姿のリノは横向きにほうきに乗っていた。

頭にはオシャレな黒のとんがり帽子を被り、足には黒のハイヒールを履いている。

そのリノのあまりにもいつもとは違うセクシーな美しい姿に俺は息を飲んだ。

次の瞬間リノは風でなびいている自分の髪を左手で押さえた。

俺はその指先まで美しいリノの姿に突然どうしようもなくリノが欲しいという欲求が湧き上がり胸が熱くなった。

そして俺はすでに自分の心と体にあふれんばかりの力がみなぎっているのを感じ俺は力強くライラプスに言った。


「ライラプス降ろしてくれ」


俺が降りるとツリーハウスの中にリノが入ってきた。


「ルキ、どうしたの? ギネカちゃん、何だって?」


「それがギネカ、俺にレイモーン王国に帰れって⋯⋯」


「そう⋯⋯それで?」


「俺、レイモーン王国に帰ろうかと今⋯⋯」


「は? ルキ何言ってんの? しっかりしなさい! いいじゃないギネカちゃんに何と言われたって⋯⋯そうだ! それなら予定通り旅に出ましょう。

それに私、もっとルキの育ったレイモーン王国を見てみたいわ」


その時マギアが慌てたように会話に割って入ってきた。


「リノ様、な、何を言われるのです。ルキ様と旅などなりません! 私が許しませんわ!」


「マギア、あなたの意見は聞いてないの」


リノはそう言いながら俺を真っすぐに見つめてきた。

そのリノの眼差まなざしに俺もリノを真っすぐに見つめ返した。

そして俺とリノはそのまま、まるでお互いの気持ちを確かめ合うようにいつまでも見つめ合っていたのだった⋯⋯。

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