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秘密の抜け道

「ルキ様、ギネカ様が、ひそかにお会いしたいそうです!」


俺と目が合ったプリンセス・リノ・キャッスルの執事セバスチャンは、急いで馬から降り俺の前に来て礼を尽くすと開口一番そう言った。

俺はその言葉の意味が分からず一瞬戸惑ったが、すぐに王子らしく平静を装うとセバスチャンに質問した。


「えっ? ひそかにってどうゆうこと?」


「はぁ、それが、リノ様が城にお戻りになられるとすぐにリノ様はギネカ様とお会いになられたのですが、その後ギネカ様が私に『お兄様の馬車がお城に入る前にお兄様と内々に話がしたいからお兄様をひそかに私の元へ連れてきてほしい』と頼まれまして⋯⋯」


「なるほど⋯⋯一体何だろう。それでギネカは今どこにいるの?」


「はい、今ギネカ様は侍女や近衛隊を、何とかいたあと城の裏庭にあるリノ様専用のツリーハウスでお待ちになっておられます」


「そう、分かった。じゃあ行こうか」


「はい。あっ、ですが城まではリノ様と私しか知らない秘密の抜け道を通りますので馬車では行けないのですが⋯⋯」


「そうなんだ。じゃあ、誰か一人ここに残って馬車の番をしてもらおうかな」


いつの間にか馬車の御者台から降りていたもふもふ熊のクレオンが近寄ってきた。


「ルキ様。では私がここに残って馬車の番をしておりますので、ルキ様は城まで私の馬をお使いになってください」


「えっ、ああ、分かった。クレオン、ありがとう」


「いえ」


もふもふ熊のクレオンはハーネスで繋いである自分の馬を馬車から外した。

それを見てもふもふ犬のライラプス、もふもふ猫のタバサ、そしてもふもふうさぎのキラは、それぞれ自分の馬を馬車から外すとそれぞれの馬にまたがったのだった。

そして最後に俺がもふもふ熊のクレオンの馬にまたがると執事セバスチャンが言った。


「では、ルキ様、ご案内いたします」



西の森の中にあるプリンセス・リノ・キャッスルまで続く大きな一本道から外れた俺たちは、馬に乗ったまま森の中に分け入るように入っていく執事セバスチャンのあとをついて行ったが、しばらくすると俺たちは突然開けた場所に出た。


そこには幅10mほどの池と、石で出来た井戸があったのだが、池の水は白濁はくだくしており池の中は全く見えなかった。

井戸のそばには一本の松明たいまつが落ちていた。


「少しお待ちください」


執事セバスチャンはそう言って馬から下り井戸の前に行くと、突然両手で井戸の上部の石を持って力を込めた。


ギギ⋯⋯


「あっ、動いた⋯⋯」


俺がつぶやくと、執事セバスチャンの声が聞こえてきた。


「まず、右に南西までと⋯⋯」


するとセバスチャンが持った井戸の上部20cmほどの部分がどんどん右に動いていった。


「次に、左に北西までと⋯⋯」


今度はセバスチャンは井戸の上部20cmほどの部分を左にどんどん回していった。


ガチャン!!!!


ザーーーー。


金属音のあと何か水の流れる音がした。


「さらに、右に南東までと⋯⋯」


セバスチャンは井戸らしき物の上部20cmほどの部分をどんどん右に回した。


ガチャン!!!!


ゴーーーー。


再び金属音がしたあと、水が激しく流れる音がした。


「そして、最後に左に北東までと⋯⋯」


セバスチャンは井戸らしき物の上部20cmほどの部分をどんどん左に回した。


ガチャン!!!!


ゴ、ゴ、ゴ、ゴ⋯⋯ゴーーーー。


また金属音がしたかと思った次の瞬間、ものすごい⋯⋯まるで濁流のような轟音が聞こえてきた。

それと同時に明らかに、ものすごい勢いで池の水位が下がっているのを見た俺は叫んだ。


「あっ! 池の水がすごい勢いで減っていく!!!!」


しばらくすると水の音がしなくなったので俺は馬を下りて池に近づくと池の水は完全に抜けそこには池の底まで続く石の階段が現れていたのであった。


「では、ルキ様、参りましょうか⋯⋯あっ、その前に⋯⋯少しお待ちください」


執事セバスチャンはそう言うと、井戸のそばに落ちている松明たいまつの所へ行ってしゃがむとポケットから火打石、火打ち金、火口ほくちを取り出した。

そして右手に火打ち金、左手に火打石を持つと、右手に持った火打ち金を左手に持った火打石の縁を擦るように勢いよく打ちつけた。

すると次の瞬間、火花が散り、飛んだ火花が火口ほくちに移り燃え始めた。

執事セバスチャンは燃えている火口ほくち松明たいまつに近づけると松明たいまつは直ぐに煌煌こうこうと燃え始めたのであった。


火のついた松明たいまつを持った執事セバスチャンは俺を見た。


「ルキ様、お待たせいたしました。では参りましょう」


「参りましょうって、どこへ?」


「池の底でございます」


「池の底?」


「はい」


執事セバスチャンは馬に乗って池の中に現れた石の階段を降りていった。

俺ともふもふたちは、怪訝けげんな顔をしながらも、とにかく火のついた松明たいまつを持ち馬に乗ったセバスチャンの後について池の底へ続く石の階段を馬で降りていったのであった⋯⋯。



「セバスチャン、これは洞窟?」


池の底へ続く石の階段を降りた先⋯⋯真向かいの突き当たりにはポッカリと穴が開いていた。

ちょうど馬に乗った俺たちが通れる高さである。

俺が執事セバスチャンの後ろからそう質問するとセバスチャンは振り返った。


「左様でございます、ルキ様、まさにここが城への秘密の抜け道なのでございます」


「へー、すごいな!!!!⋯⋯こんな所に城への抜け道なんて⋯⋯ねぇ、セバスチャン。これは緊急時、脱出用の抜け道なの?」


「はぁ⋯⋯リノ様は城を抜け出すために、よくこの洞窟を使われてはおりますが⋯⋯まぁ、そのようなものです」


「そうなんだ⋯⋯何だよ、リノのやつ⋯⋯俺がリノに城で世話になってる時に、この洞窟のことこっそり教えてくれてもいいじゃん⋯⋯まぁ、でも、抜け道か⋯⋯いいな!! 俺も今度作ろうかな!!」


その時、もふもふ犬のライラプスが俺が乗る馬の前に出た。


「ルキ様! またそんなワクワクした顔でおっしゃられて⋯⋯テーマパークではないのですぞ!」


「分かってるって! うるさいなライラプスは! でも脱出用でも楽しいほうがいいだろ!」


「ルキ様、国を離れて⋯⋯いや、ルキ様の教育係であらせられるサヤン様から離れて、ちと王子様らしさが⋯⋯」


「分かってるって! 王子らしくすりゃいいんだろ王子らしくさ! せっかくサヤンの小言から解放されたと思ったらここに来てライラプスもサヤンに負けず劣らずの小言神官になってるじゃん⋯⋯ったく⋯⋯まぁ、とにかく先を急ごうぜ!⋯⋯じゃあ引き続き案内を頼むよ。セバスチャン」


「分かりました。では、参りましょう」


再び松明たいまつを持った執事セバスチャンを先頭に俺たちは洞窟の中に入った。


だが洞窟に入ったと思うとすぐに目の前に石の階段が現れ、俺たちはその石の階段を登った。


階段を登りきった所には池のそばにあった井戸とそっくりな井戸があった。


すると執事セバスチャンは馬から下り井戸のそばまで行くと、先程と同じように井戸の上部を右、左、右、左に回すと再びものすごい濁流のような轟音が聞こえすぐに階段の1番上まで水が一杯になったのであった⋯⋯。


執事セバスチャンがそれを見て馬に乗って行こうとするともふもふ猫のタバサの声が聞こえた。


「ルキ様、松明たいまつだけでは少し暗くありませんこと?」


「えっ? そういえば少し暗い気もするけど⋯⋯」


「私、魔法で明るくして差し上げますわ」


するともふもふうさぎのキラの明るい声がした。


「ねぇ、タバサちゃん。私が魔法で明るくしてもいい?」


「ええ、キラ、いいわよ。やってご覧なさい」


「はーい」


魔法騎士マジックデイムもふもふ猫のタバサの弟子の魔法騎士見習マジックデイムアプレンティスのもふもふうさぎのキラは右手を高々と上げ手のひらを広げると叫んだ。


月光ムーンライト!!!!!!!!」


するとたちまち洞窟は明るい月の光に照らされたように明るくなった。


「おお、すごいですな!!⋯⋯この明るさではもう松明たいまつは必要ないですね」


執事セバスチャンがすぐさま驚きの声を上げ松明たいまつの火を消す中、俺はキラを見た。


「まぁ、でもそんなには明るくないけどな」


俺のその一言にキラはすぐに噛み付いてきた。


「はぁー? じゃあルキちゃんが魔法で明るくしてみてよー」


「いや、俺は戦士だし⋯⋯」


するとタバサの叫ぶ声がした。


太陽光サンライト!!!!!!!!」


その瞬間、辺りはまるで燦燦さんさんと照りつける真昼の太陽のように明るくなったのであった⋯⋯。



俺たちはもうずいぶん長く馬に乗っていた。


突然もふもふうさぎのキラの疲れた声がした。


「ルキちゃん、お腹減ったー、お菓子が食べたいなー」


「ねーよ、そんなもん。その辺のこけでも食っとけ」


「えー、お菓子くれなきゃ、ルキちゃんにイタズラしちゃうんだからー」


「は? なんでそうなるんだよ」


「えい!」


突然もふもふうさぎのキラが馬に乗っている俺の後ろに飛び乗ってきた。


ヒヒーン。ブルブルブル。


「おい、な、なんだよ、急に飛び乗ってきたら馬が暴れて俺が落ちちゃうだろ!」


「ふーーーーんだ!」


その様子を見兼ねたのかもふもふ猫のタバサがキラに近づいた。


「キラ、やめなさい。私お菓子持ってるからあげるわ」


「えっ? タバサちゃん、お菓子持ってるの? わーい! おっ菓子、おっ菓子、おっ菓子⋯⋯」


「何だよ⋯⋯ったく⋯⋯キラ、それ食ったら行くぞ⋯⋯」



それからまたしばらく経った頃、突然執事セバスチャンの前方の道の先に、岩の壁があり道をふさいでいるのが見えた。


行き止まりのように見えた俺は執事セバスチャンに聞いた。


「セバスチャン行き止まりじゃん、迷ったのか?」


「いえルキ様、行き止まりではございません」


「は? どういうことだよ」


その言葉に俺は馬から下りてそこにある岩の壁を触ってみた。

ビクともしないただの岩の壁であった。


「やっぱり、行き止まりじゃん」


「ルキ様、門番に開けさせますのでお待ちください」


「えっ、門番? どこにもいないじゃん」


「ルキ様、お足元をご覧下さい」


「えっ、何? 真っ赤な花が一つあるだけだけど⋯⋯これはナデシコの花かな?」


「ルキ様、よくご存知で⋯⋯さあ、ナデシコさん出て来て門を開けてください」


「かしこまりました。ヨイショ⋯⋯」


その真っ赤なナデシコの花から声が聞こえてきたかと思うと突然花の中に人族のような顔が現れた。


「わっ!!!!」


俺が驚いていると、さらにその真っ赤なナデシコの葉っぱの先に人族のような手が現れた


「おおー!!!!」


その光景に俺が叫びながら唖然としているとその真っ赤なナデシコはついに地中から出てきたのであった。

根っこの先を見ると人族のような足がついていた。


「ごきげんよう。あなたがルキ様ですか? わたくしはナデシコです」


「あっ、どうも。なんかクネクネしておしとやかっスね」


「まぁ、ルキ様ったら、お上手だこと⋯⋯じゃあ開けますね」


そう言うと真っ赤なナデシコさんは、岩の壁の右側の方に両手をかけた。


フンッ!!!!!!!!


ボコボコボコッ⋯⋯。


力を入れた真っ赤なナデシコさんの細い茎は急激に太くなっていき、まるで人族のように筋肉が盛り上がっていった。


「ナデシコさん。き⋯⋯筋肉隆々っスね⋯⋯」


「ありがとうござ⋯⋯お⋯⋯お⋯⋯おりゃーー!!!!!!!!」


ズサーッ⋯⋯。


真っ赤なナデシコさんの足がすべった。

真っ赤なナデシコさんは少し考えている。

突然真っ赤なナデシコさんの両足がぐにゃぐにゃの根っこに変化したかと思うと真っ赤なナデシコさんの根っこは地中の中に入っていった。


その次の瞬間⋯⋯。


ガシッ!!!!!!!!


ナデシコさんの筋肉隆々の腕はパンパンに張っていた。

どうやら100%の力が岩壁にかかったようだ⋯⋯。


ドンッ!!!!!!!!


その時、岩壁から割れるような音が聞こえ、大量の砂粒が岩壁の表面を一気に滑り落ちていった。


ズ⋯⋯ズズズ⋯⋯ズズズ⋯⋯。


そしてついに少しずつ岩の壁が動き出したのであった。


だがナデシコさんが押している右側の岩壁は向こう側へ動くにつれ、左側の岩壁が、こちら側に迫ってくるのが分かった。

どうやら、真ん中に支柱があり、それを軸に回転する仕組みらしい。

時間が経つにつれ隙間は大きくなり徐々にナデシコさんの押す右側の岩壁の向こう側に道が続いているのが見えた。

突然ナデシコさんの動きがピタリと止まった

そしてナデシコさんは息を一つ吐くと俺たちを見た。


「ふぅ~。さあ、皆さんどうぞ、お通りください」


「えっ、ああ、どうもありがとう」


俺たちは口々にナデシコさんにお礼を言いながらナデシコさんが作ってくれた隙間から向こう側へと続く道に出た。

俺たち全員が通り抜けたことを確認したナデシコさんは隙間を通り、城側に来ると再び力を込めて岩壁を元に戻し、その場で足を地面に突っ込むと、ただの真っ赤なナデシコになったのである。


それを見た執事セバスチャンは俺たちの方を向いた。


「さあ、行きましょう」


俺たちはその言葉にうなずき先を急いだのだった⋯⋯。



目の前には大きな螺旋状らせんじょうの坂があった⋯⋯。


今度は明らかに、ここが目的地だという気がした。

俺の気持ちを察したのか、執事セバスチャンが近寄ってきた。


「ルキ様、城に着きました」


「ああ、そう⋯⋯やっと着いたか」


「はい、あとはこの螺旋坂らせんざかを上るだけです」


俺たちがその螺旋坂らせんざかを馬に乗ったまま上って行った突き当たりには大きな木の壁があった。


執事セバスチャンは馬から下りると木の壁に開いている小さな穴を覗いた。


「セバスチャン⋯⋯その穴の向こうは何?」


俺が執事セバスチャンに質問すると、執事セバスチャンは木の壁を観音扉のように勢いよく開きながら言った。


「ここは、プリンセス・リノ・キャッスルの裏庭です。では私はこれで失礼します。ギネカ様は上にいらっしゃいますので⋯⋯」


執事セバスチャンはそのまま馬に乗って行ってしまった。


俺はもふもふ犬のライラプスに木の扉を閉めさせたあと馬から降りてそこに付いてあるハシゴをのぼり始めた⋯⋯。


ハシゴの先を見上げると木の板でふさがっている。


そのまま俺はもふもふたちの先頭に立ちハシゴをのぼっていきハシゴの先まで行くと木の板を押し上げた。


俺は顔を出し辺りをうかがった⋯⋯。


ツリーハウスだった。


誰もいない⋯⋯。


だがその時、突然俺の頭の後ろから声が聞こえ俺は振り返ったのだった⋯⋯。

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