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魔女の棲む家

作者:安路 海途
「世界は呪うか、祝福するしかない場所なのよ」
 と、その人は言った。
 ――古い洋館、たった二人の住人、観葉植物であふれた部屋、外界から遮断されたような生活。
 藤谷志仄は、その洋館に住む女主人だった。正体不明の、本物の魔女だとしてもおかしくないような女性。
 わたしはひょんなことから、彼女と親しくするようになる。でもそれは、危険も冒険もない、いたって平穏なものだった。いつもコーヒーとお菓子がつくような、静かな会合でしか。
 それでも、志仄さんが謎の人物であることに変わりはなかった。
 例えばその左手には、ひどい火傷の痕が残されていた。彼女は自分で、自分に火をつけたのだ。自由を手に入れるために、世界と戦うために、自分を生きるために――彼女にはそうするだけの、理由と必要があったから。
 一方のわたしはといえば、あくまで凡庸で、中途半端で、幼稚な人生を生きていた。そこには耳をつんざく雷鳴も、猛り狂う炎も、不吉で残酷な運命なんてものもない。あるのはただ、柔らかくて、窮屈で、愛情にあふれた、箱みたいなものでしか。
 光と緑の部屋で、わたしと志仄さんが過ごした時間――たわいのないおしゃべり、いくつかの出来事、奇妙な頼まれ事。
 やがてそれは、いたって不可解な終焉を迎える。そこには何のヒントもなければ、ほのめかしさえ存在しない。
 そして数年後、わたしは偶然の邂逅をはたすことになる。それが何を意味するのか、正確なところはわからないにせよ。
 結局のところ、わたしと志仄さんのあいだにあったのは、フィクションとリアルの奇妙な交錯だった。彼女が本当は何者だったのかは、今でもわからない。
 それでも志仄さんは……そのフィクションは、わたしにとって〝リアル〟だった。

(21/10/18~21/11/10)
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