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短編小説「試合中に駄々をこね出す泣き虫ボクサー」

「監督、僕、もうこれ以上戦えません!」


 ボクサーの安室城は、1ラウンドを終え、リングの外に立っていた監督の元へ向かった。

 安室はそのラウンド中、相手のボクサーから一方的にパンチをもらい続け、顔面がすでに蜂に刺されたように赤く腫れあがっていた。彼は早くも弱音を吐き、戦意喪失していたのだ。


「バカモン、城! まだ試合は終わってないぞ! いいから立て! 立つんだ、城―!」


 当の監督はそんな安室を、突き放すかのようにそう言った。


「あんたは鬼ですか!? なんて薄情な!」


 監督の言葉を聞き、逆上する安室。


「いかにも、俺は鬼だ! 鬼教官だ! せっかくお前をデビュー戦に出してやったのによお。こんなところで根をあげさせてたまるか! いいから立て! 立つんだ城―!」


「そんな、あんまりだあ~」


 戦意喪失した安室を、監督はリングに立たせようと試みる。

 しかしそんな彼はまるで、お地蔵様のように目を瞑り、ロープを掴んだままその場から一向に動こうともしなかった。

 そこで監督は苦肉の策で、安室に次の提案をしたのだった。


「おい聞け、城! お前がこの試合に勝ったら、ラウンドガールのあの娘の連絡先を教えてやるよ」


「えええ! それは本当ですか! 僕の大好きなZARDのボーカル坂井泉水さんに似たあの子の連絡先ですよね!? そんなことが可能なんですか!?」


 監督の一言で、安室は途端に目を輝かせる。


「いかにも。だから立て、立つんだ城ー!」


 監督は自信たっぷりな表情で、腕を組んだまま強く頷いた。

 それまで絶望に暮れていた安室だったが、意中の相手の連絡先を交換できると聞き、感情が高ぶってきたようで……。


「安室、行きまーす!」


 不死鳥のように蘇った安室。それから再びリングに立った彼は3ラウンド目。

 彼の右ストレートが相手の顎にジャストミートし、見事にKO勝利を収めたのだった。この試合をきっかけにその後、安室城は連勝街道をばく進していくのであった。


◇◇◇


 時を経て、安室のあの鮮烈なデビュー戦の1年後のこと。安室はチャンピオンベルトをかけた戦いに身を投じていた。

 これまでの道のりは大変険しかった。安室はそれまでの試合全てで、1ラウンド目を戦い終える度に、優勢劣勢関係なしに監督に駄々をこね、相変わらず弱音を吐いていたのだ。


「監督、僕もうダメです。おってあげーです」


 案の定、今回のチャンピオン戦においても、安室はまたもや弱音を吐いていた。


「何がおってあげーだ、バカモン! まだ試合は始まったばかりだろ!」


「監督! 今度こそ、あのZARDの坂井泉水似のラウンドガールの娘とお見合いさせてください! 連絡先は聞き出せたけど、まだ直接会うまではいけてないんです! どうかお願いします!」


「この期に及んで、何を言ってんだ! そもそもお前。メッセージを送っても既読すらつけてもらってないんだろ!? いい加減、諦めろ!」


「諦めきれません! でも僕がこの試合でチャンピオンベルトを巻けたら、その絶望的な状況を巻き返せると思います! だからお願いします!」


「わ、わかった。俺が何とか運営の関係者に口利きしてやるから! だから立て、立つんだ城―!」


「安室、行きまーす!」


 監督の一言が起爆剤となったのか。闘争心がすっかりメラメラとなった彼は3ラウンド目。

 彼の渾身の右ストレートが相手の顎に炸裂し、結果、チャンピオンの座を射止めてみせたのだった。


◇◇◇


「監督、ついにこの日が来ましたね!」


「おうよ。ひとまずお前は恋愛経験が皆無だから、今宵は特別に俺がセコンドについてやるよ!」


 チャンピオン安室城は、ついにZARDのボーカル似のラウンドガールの娘とお見合いすることになった。


「仮にラウンドガールのあの娘から脈なし光線が飛んできたとしても、俺が巧みな交わし方と、そこからの巻き返し方を教えてやるからな!」


「監督、とても心強いです。鬼に金棒です」


「その意気だ。栄光はすぐ目の前だ、城!」


「安室、行きまーす!」


 おそらくチャンピオンベルト戦よりも厳しい戦いが予想される、ZARDの坂井泉水似の娘とのお見合い。果たして安室城の運命や如何に。

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