2.爬虫類型宇宙人陰謀論
「お前ら、陰謀論部はいつも問題を起こすな」
指導教諭は、呆れたような顔をして言った。気球を飛ばしたことについてもう10分ほど怒られている。高橋先輩は逃げたままこの場にいない。ずるい先輩だ。重い気球の片づけをした後で疲れており、眠い。先生の怒りに油を注いでしまうため、僕はバレないようにあくびをかみ殺した。
「すみません」
「廃部になりたいのか?」先生の叱り方は熱がこもっていない。その理由が何かは分かっていた。
「いえ、すみません」
「そもそも、お前らのような陰謀論の部活があることがおかしいんだよ」
先生はため息をついて言った。自分でもわかっているが、陰謀論部はこの学校のやっかいものである。できれば関わりたくない、口には出さないがみんなそう思っている空気を感じる。
「いえ、違います。私たちは昨今の世情を騒がせる陰謀論を検討することで、デマの広がり方や社会とメディアの関係を研究しているだけです」
部長は言い返した。一番熱心に活動しているから、我慢できないのだろう。
「そうか、うん。まぁ、活動の意義は置いといてだな、やってることは危険極まりないじゃないか。お前たちの活動に疑問を持つ先生は多い、以降、何か活動する時は事前に相談して、許可を得ることとする。部室内でもだぞ、とりあえず、今日中に、今週と、来週の活動内容の予定を書いて提出するように、そのあと、反省文だ。とりあえず、どんな書き方でもいいから、今月のざっくりとした活動内容と今週の活動内容を書いてこい」
「はい、分かりました。」
「あぁ、とりあえず、30分後くらいに途中でもいいから一回提出してこい」
「分かりました。失礼します」
部長は頭を下げると踵を返し、職員室をすぐに出た。僕たちはその後を付いていった。
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「どうするんですか?適当な嘘言ってるし、陰謀論の検討と、メディアと社会の研究って全く違うじゃないですか?」
僕がそう聞くと、部長は笑って言った。
「ああ、そうだね。しかし、それはしょうがないのさ、先生を騙すためのきれいごとだよ。そう言わないと部として発足出来なかったらしいしね。そのために、表面上は陰謀論研究部と名乗っているのさ」
「そうだったんですね」
「どうするんですか、今後は?」伊藤さんは聞いた。
「あぁ、ま、気球は当分いいだろう。な、多分、風の吹かない季節のほうがいいだろうし。また、時期を見て今度実験しよう」
「そう言って、怖かっただけでしょ、ひとみちゃん」田中先輩は部長をからかうように言った。部長は顔を赤くして「そんなわけないだろう」と言い返した。
「じゃあ、何するんですか」
「いったん、これからはみんながしたいことをそれぞれすることにしようと思う」
「いい案じゃん、うちは賛成―」
「私も賛成です」
「僕もそれでいいと思います。部長は何をするんですか?」
「レプティリアンさ」部長は得意げな顔をして言った。聞きなれない言葉だった。
「レプティリアン?」
「ふ、君はまだ知らないか。しょうがない、説明してあげよう。この世の闇を。この世界は宇宙人によって支配されているのさ」
「はぁ」突然のことでうまく反応できなかった。
「なんだね、その反応は、ゴホン、この世界は爬虫類型宇宙人に支配されているんだ、危機感を持ちたまえ」少しムスッとした顔で言った。
「あ、私知ってます」
「伊藤君は分かってくれるね、それに比べて佐藤君は」
「すいません。あまり詳しくないんですよ。勉強ばっかりしてきたから」
「まぁ、いいさ。この世の支配者層はほとんどすべてが爬虫類型宇宙人、レプティリアンが関係していると言っていい。君がいつも目にしている総理大臣や天皇は宇宙人が化けた姿なんだ。そしてね、レプティリアンは世界を支配しているのさ。レプティリアンの好物は人の恐れや、敵意、罪悪感といったネガティブな感情エネルギーなんだ。だから、レプティリアンは人間を戦争や大量虐殺、堕落に駆り立てるのさ。社会の中に潜み、人間と交配して、交配種を作る、そしてその交配種は純血種の意のままにコントロールされるのさ。闇の勢力、ディープステートを作り出しているのがレプティリアンだ。」
「僕はレプティリアンの研究をこれからやっていく。僕の見立てだとね、この学校もレプティリアンの支配を受けているはずなんだ。どうだ、研究のし甲斐があるだろう」
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「あ、お帰り」部室では高橋先輩が机にだらりと顔を伏せながらスマホを見ていた。
「高橋、お前なに、逃げてんだよ。僕たち怒られてたんだよ。それに片づけだって」さすがの部長も怒っていた。
「ごめん、ごめん。みんなも逃げてると思って」悪いとは思っていない顔をしている。
「まさちゃん、部室でずっと待ってて、おかしいと思わなかったん?逃げられてたら、部室にうちらもすぐ戻ってくるでしょ」田中先輩は高橋先輩に突っかかった。
「はぁ、別にお前らを待ってたわけじゃないし、帰ったんだと思ってたんだよ。それに、田中は敬語使えよ、二年だろ」図星だったらしく、声を荒げた。
「はいはい、逆ギレ」田中先輩は先輩相手でもため語のため、高橋先輩によく注意されている。
「あー、お前ら、それはどうでもいいから。これからは活動の許可をいちいち取らなくならなくなったからな、それで、今から、これからの活動予定をそれぞれ考えておいてくれ」
こういう時に部長は部をまとめてくれて心強い。
「「はーい」」
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それから、みんなはそれぞれ机に向かって自分のしたいことを紙に書いていた。僕はやりたいこともないので、何も書けずにいた。部長の顔を覗き見ると、真剣な面持ちで熱心に書いていた。その目はまっすぐときれいだった。部長はいつも仰々しい言葉遣いをしているが、黙っているとモデルかと思うほどの整った顔で目を離せない。僕はこの部に入った時のことを思い出した。高校に入学したばかりで期待を膨らませていた。廊下を歩いていると、とてもきれいな女子生徒に呼び止められ、部活勧誘された。「部活に入りませんか、陰謀論研究部に入ってくれませんか?」緊張した顔で、消え入りそうな震えた声で言われた時、僕は「はい、入ります」と言った。その女子生徒が部長だった。僕は陰謀論には興味がない。他の目的のために部活に入ったのだった。
「じゃあ、まず、3年から発表しようか。僕の活動内容は、レプティリアンの研究だ」
部長は周りのみんなを見渡しながら言い、笑った。はにかんだ口元からは白い歯が見える。
「じゃあ、次は俺だな。俺は日本の文化の研究だ。ビートルズがタヴィストック洗脳研究所で作られた音楽で、洗脳が目的の音楽だったんだ。若者を堕落させるため広められたんだ。日本のおたく文化もフリーメイソンによって広げられたって話があって、それについて研究するつもり。漫画やアニメは日本を堕落させるために作られたものなんだ」
高橋先輩は力強く言った。
「ウチは変わらず、ノスタルダムスの予言。それだけ」
田中先輩はけだるげに言った。
「私はいま、健康にいい水を探してるんです。だから水の研究をしようかなぁって思います」
伊藤さんは元気に言った。
「おお、みんないいね」
「お前はどうするんだ、佐藤」高橋先輩は僕を見て言った。
「あー、僕はみんなのお手伝いをしようかなって、色々と興味があって、やりたいこと絞れないし」
「うん、それもいいな、よし、じゃあ、それを中心にこれからの活動予定を考えて、先生に言われた紙を埋めていこう」
ルーズリーフに活動予定をいっぱい書き、先生に提出した。そして、みんなで駄弁りながら帰った。