夢想家
うんちが漏れそうな時、僕は下唇をかむ。よけいきばる。だが、もれない。別腹だから。入るとこが違えば、出るとこも違うはずだ。だけどどうでもいい。そんなこと。
朝から雨だった。じっとりと、ジャボジャボと雨滴が空を踊った。僕は下唇をかみしめながら、ここ数日生きていた。生きづらかった。うんこが出そうだったのだ。下唇からは大量の血が流れつづける。いい血だ。赤くてほんのり甘みがあって。シュガーレスとはこのことだろう。というか全然、砂糖が入っていないんじゃないか。そんな疑問を胸に一物、僕は空を三匹の馬で翔ける。天の神なんだ、僕は。雨を降らせるのが役目だ。さあ僕のとこまでこい! 逃げも隠れもせんぞ! 一、二、一、二、ヒンズースクワットして便意をごまかさないでくれ。お願いだから。気をちらしたりせず、前向きに歩んでいこう。
僕らの目がなぜ正面に付いているのか。それは、それはわからない。わからなくていい。だが、僕の目が黒いうちは。僕の目が黒いうちは。
机の周りをぐるぐる回って、休み時間、そんなことを考えながら、小学生の頃、うんこを我慢したことがあった。
「ねえ、今、何考えてるの?」
「昔のことさ」
「元カノのことでしょ?」
美香がキリッとしたまなこで僕をにらみながら訊ねる。
「違う、違うさ」
「じゃあ何よ?」
「今は言えない」
ヘラヘラ、ヘラヘラ笑いながらうんこを壁に投げつけていた。ペッタリと壁にひっついて、ゆっくりとはがれ、地面に落ちる。それがおもしろくて何度も何度も繰り返した。いい汗をかいた。それが一年前の僕だった。いい思い出。いい匂い。ぷ、ふぅ~。
「ねえ、ねえ、何考えてるの! 楽しそうにほほえんで!」
美香の叫び声で僕は我にかえった。
「ほら、また元カノのこと考えたんでしょ!」
「……美香のことだよ。……将来のことさ。美香と僕のすばらしい未来のことだよ」
彼女はほんのり頬を染めながら、上目遣いで、
「ほ、ほんと?」と、言い、口ごもった。