大好きな先輩をどうしてもチェックメイトしたい
私には好きな人がいる。
真面目で、芯が強くて、華奢な見た目とは裏腹に意外とたくましくて。
初めて彼に出会った時、倒れてきた看板から守ってくれた。
彼には下心なんてなくて。
怪我がないことを確認すると、さっさと行ってしまった。
その去り際があまりにクールで。
私は一瞬で恋に落ちた。
先輩は部員が一人もいない同好会で部長を務めていた。
それを知った私は速攻で入部届を提出。
「あっ、君か。よろしく」
あっさりと入部届を受け取る先輩。
もうちょっと何か反応してよ。
部活は退屈だった。
調べものをしてレポートを書くだけ。
それを延々と続ける。
でも、先輩と一緒の部屋にいるだけで最高だった。
ずっとこんな時間が続けばいいのにって、思うくらいには。
先輩とは帰り道も一緒だけど、「じゃぁ」とか「また」とか言って別れるだけ。
どうせまた明日会うよね、みたいな感じ。
先輩にとって私は恋愛対象ではないのかもしれない。
だとしても……ちょっとでもいいから意識させたい。
だから先輩にチェックメイトすることにした。
「先輩、私ですねぇ……チェックメイトって言いたいんですよ」
二人で歩く帰り道。
勇気を出して言ってみた。
先輩は「は? 言えばいいだろ」と冷めた反応。
「演劇部にでも行けばいいんじゃないか?」
「架空のお話ではなく、リアルで言いたいんです」
会話をしながら胸が高鳴るのを感じる。
心臓が破裂しそう。
そうこうしているうちに、分かれ道に差し掛かった。
右に曲がれば私の家の方向。
左に曲がれば先輩の家の方向。
ここでお別れ。
やるなら今しかない。
「じゃぁ、今日はこれで――
お別れの言葉を言おうとした先輩の顔に人差し指を突き立てる。
そっと指先が鼻の頭に触れた頃合いに、思い切って言った。
「チェックメイト」
困惑する先輩をしり目に、私は自分の家の方角へ向かって歩き出す。
決して振り返らない。
先輩の方を見たりはしない。
もし振り向いたら……この顔を見られてしまうから。
顔が熱くなるのを感じる。
きっと耳まで真っ赤に染まっていることだろう。
鏡を見なくても分かる。
どきどき、どきどき。
早鐘を打つ心臓の音。
早まる歩調。
明日、先輩はどんな顔をしているのかな。
どんなふうに部室で迎え入れてくれるのかな。
未来はずっとずっと先まで見えない。
たとえ明日のことでも分からない。
でも……分からないから期待してしまう。
先輩が私を好きになってくれる未来を。
私と恋人になってくれる明日を。