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小さめのわたしの体には少々、不釣り合いな大きさ。
魔力を流してないと、持てないほどずっしりと重い。
「なんでこんなもの…………え……」
「な、に……それは……!」
鞘から剣を引き抜いて、目線の上に掲げる。
その剣の刀身に目が釘付けになる。
横で見ていたアベリア先輩も思わず声を出す。
まるで宝石のような美しさの、りょくばん色と瑠璃色模様の両刃剣。
周囲の色を反射し、薄暗い部屋の中でもわかるぐらいに存在感を持っていた。
「なにこれ……すご……」
その見た目に思わず、見とれてしまう。
こんな美しい剣があるのか?
い、いわゆる宝剣ってやつかな?
「それはもしや、聖剣では……?! なんでそんなものが!」
「いやー、手に入れるのに結構苦労したよ。ほんとだったら、わたしの愛剣にしちゃいたいくらいなんだけどねえ~」
しかし、ただ見た目がいいだけではなく、その剣からは並々ならぬオーラを感じることができた。
ただの宝剣では決してなさそうな、絶大な力を秘めている。
それが直感でわかった。
「それはね、”翠星の剣”っていって、聖剣なの。凄腕の上位剣士でも持っている人は少ない超レアもの。最高レベルの剣だよ」
この剣の名前は翠星の剣というらしい。
ためしに軽く振ってみる。
すると、目の前にあったベッドがまるで豆腐のように、するりと割れた。
きれいに真っ二つ……
なんじゃこれは!!?
ほんとうにヤバい代物だよ! これ……!
「も、もしかして、それをリーリアナに授けるおつもりですか?」
「そうだよ。師匠は弟子に剣を贈るものでしょっ。それに剣士になったら、必ず帯剣しなければいけないし。だから、せっかくだしリーリアちゃんに見合ったうんと強い剣をあげようかなって思ってさっ」
「いや、しかしさすがにやりすぎではありませんか? こんな強力な剣……しかも、聖剣なんてみたことありません。いかに素質があるとはいえ、ほぼ素人と同然のリーリアナが持つというのは……」
「そう? わたしも他に持ってるよ、聖剣。それに魔剣も。ほら、見せてあげよっか? 」
「え……うえ……? 他にも聖剣をっ……! ま、魔剣も……! い、いえ、私は大丈夫です。さすがミハニア様、感服いたします……しかし、それはミハニア様が冠位の剣士であらせられるからで」
「えー、でもわたしもリーリアちゃんくらいの歳にはすでに聖剣を持ってたよ。今使ってるこの子が現にそうだし」
「そ、そうですか……」
聖剣、翠星の剣……
なんてきれいな響き。
異世界に来て初めて、それらしい物に出会った気がする。
剣士には興味がないが、剣そのものはわたしの心に訴えかけるものがある。
なんていうか、こう中二心をくすぐるっていうか……
いや、そんなちゃちなものではない。
心の中の芸術性に訴えかけるっていうか、そういう高次元のものだよ、これは。
「それあげる。師匠から弟子への贈り物。だからさ、許してくれないかな? なんてさあー、思ったりして……剣術部におとなしく入ってくれたらわたしとっても嬉しいんだけどさ」
「え? ……い、いや……それは」
くそ……思わず、剣に見とれてしまい
ほだされそうになった。
たしかに剣はすごいし、くれるっていうならもらうが、だからってそれとこれとは別だ。
そもそも、師匠と弟子ってなんだよ
誰も貴様の弟子になるって認めたわけでは……
「お願い、ねえ、お願い。ほら、前に言ってた戯画士の集いだっけ? わたしが働きかけてリーリアちゃんだけ例外的に二つ以上の部に入っても、いいようにするからさあー。それに戯画士の集いのことについてもさぁ、わたしの人脈を使っていろいろ調べてみるからさあ。わかったら、また教えるからそれでいいでしょー? ね、ね、お願い。このとーりだよ」
「…………」
どうしよう……?
ミハニアはこう言っているけど、そもそもそうやってこいつの言葉を信じた結果、今みたいな状態になってるわけだし……
しかし、こうなってしまった以上どの道他に選択肢はないような気もする。
剣術部に入らなければ、借金を還せなくて詰む。
ミハニアが霊熾院ってとこで、勝手に剣士として登録してしまった。
完全に詰まされている。
認めたくないが、ミハニアの方が何枚もうわてで、完全敗北。
最初からすべてこいつの手のひらの上だったわけだ。
「あの一つ聞きたいんですけど、霊熾院ってなんですか?」
「霊熾院はね。剣士としての資格の保持を許可したり、管理してるところ。ほら、誰も彼もみんなが勝手に剣士を名乗り出たら、剣士のしつは落ちるし、価値も下がるじゃない? だから、一定以上の強さに保つために剣士の資格はきびしく取り締まる必要があるわけ。ルペリアの剣術部も霊熾院の息のかかった組織だよ」
「まあ、言ってしまえば、すべての国の剣士を監視・管理・統括する剣士たちの中枢組織、総本山的な場所だな。他にも必要以上の悪事や問題を起こした剣士を抹殺したり、国からの依頼にたいして戦力を送ったりする役目も担っている。剣士の中でもとくにエリートしか所属することは許されないこの世界でも最強レベルの戦力を持った組織だ」
「一旦、剣士になったものは辞退することはできないんですか……? その霊熾院ってとこに言って」
「うーん、基本的には無理だよ。よほど大きな犯罪とかに手を染めない限り……」
なら、もう剣士として登録されてしまっている以上、打つ手はないってことか……
犯罪に手を染めてまで剣士をやめるなんてことはしたくない。
そもそも、そうなったら他の剣士から命を狙われて排除されるのは目に見えてるし……
それに剣士になったところで、そんなにディメリットはないような気もする。
別にいますぐどうこうってわけでもないし。
むしろ問題は他にいろいろあって……
「わかりました……剣術部に入ります。剣士にもなります。それでいいですか?」
こう言うしかなかった。
非常に不本意だが、仕方ない。
「ふふ……やった。それじゃあ……」
「ただし、条件があります」
「条件?」
「わたし、ミハニアさんの弟子は嫌です。他の人がいいです」
「えー、なんでえっ」
「何でもです」
「でも、霊熾院にはわたしの弟子として登録しちゃったからさー」
「書類上はそうでも、気持ちの上ではそうではないってことです!」
しかし、それでもすべてがこの人の思い通りになるというのは許せなかった。
終始この人の手のひらの上だったけど、心まで思い通りになると思わないでよね!
「てことで、わたしアベリア先輩の弟子になろうと思います! ミハニアさんは嫌なんで」
「それは無理かなー」
「何でですか!?」
「あなたの剣位がアベリアちゃんのランクと同じ一級だからね。ランクが同じのもの同士が師弟関係って変でしょ」
「ちっ……」
は? ランク? 知らねえよそんなこと!
価値観押し付けてんじゃねーよ!
アベリア先輩の弟子になるったらなるんだ。わたしは!
「なにっ……私とリーリアナの剣位が同じなんですか?」
「そうだよ。リーリアちゃんのランクは級位の1。あなたと同じ」
「リーリアナはまだ剣士に成り立て……剣士になったばかりのやつは普通八級からスタートなのでは?」
「でもあなた、リーリアちゃんと戦ったとき、ほぼ互角だったでしょー。強さがすべてだしねえ。リーリアナちゃん強いし、妥当なんじゃない?」
アベリア先輩が驚いていた。
そういえば、剣士には称号……強さの階級のようなものがあるってラナから聞いたような。
わたしには、もはや全くどうでもいいことだが。
「まあでも、剣士になることを認めてくれたことだし、今日のところはこれでいいかな」
「もう行かれるのですか?」
「うん、今日の目的は達成したしね。まだまだやることが残ってるから……」
そういってミハニアは部屋のドアに手をかける。
もうすでに部屋の結界は解除されているみたいだった。
「わたしの愛弟子をよろしくねー。とりあえず、周囲に振り撒く魔力を制御するところからでも教えてあげてくれると嬉しいかな」
「わかりました。お任せください」
「じゃあ、また近い内に顔みせるねー。それまでリーリアちゃん元気でねっ」
ミハニアはドアの向こうから顔を覗かせて、わたしの方に手を振って、部屋から出ていった。
はあ……やっと去っていったか。
何が愛弟子だよ。
願い下げだよ。まじでよお……
しかし、ほんとにこれからどうしよ……
ミハニアのせいで強制的に剣士にされてしまったし、剣術部でやっていかなきゃいけない……
ラナたちが一緒にいてくれることが唯一の救いか?
しかし、もっとも問題なのは校舎を破壊してできた大量の借金だ……
どうやって還せばいいの、いったい……?
「というわけだ。これから、よろしく頼む。リーリアナ」
「え、あ、うん……よろしくお願いします。アベリア先輩」
まあ何にしても、明日からは当初からの目的通り、【戯画士の集い】を探しに行くしかない……
ミハニアもいろいろ手を回してくれるみたいだし。
きっとすぐに見つかるだろう。
「とりあえず、言われたとおりその無駄に周囲に漏れ出ている魔力の制御はさっさと教えておこうか。それに関しては今すぐにでも矯正しておかないと新たな問題を起こしかねん」
「あ、ありがとうございます。先輩」
「それと私のことはアベリアと呼び捨てでかまわんぞ。敬語なんぞも使わず話してくれ」
「え……いや……それはさすがにできないですよ。一応、先輩ですし……」
「私とリーリアナは同じ称号をもつ、対等な関係の剣士同士だ。何もおかしなことではない」
アベリア先輩って、真面目なのか、おおらかなのか?
ただ当初の印象と違って、ただ怖いだけの人ではないということはわかった。
たしかにラナたちをボコボコにしたとはいえ、何も考えなしに行動する人ではない。
やっぱり……この人が師匠ってことで、もういいのでは?
「そもそも、私はこの学園の学生でも先生でもない。霊熾院の点数をあげるために、ルペリア学園のいうことを聞いて、剣を教えているだけにすぎない」
「え……そうなんですか!? わたし、てっきりこの学園の生徒かと……!」
「ああ、すべては冠位にあがるため、自分のためにやっていることだ。だからそうかしこまる必要もない」
先輩ってルペリアの学生じゃなかったのか……
ラナがルペリアに籍を置いてるとかなんとか言ってたから、てっきりそうだとおもっていたんだけど……
いわゆる雇われ顧問ってやつだろうか……
とりあえず、そう言ってわたしは周囲に漏れ出ていた魔力の制御の仕方を教えてもらい、なんとか形にすることができた。
先輩曰く、魔力を持つものとして最低限のたしなみ、
というかマナーらしい。
これでもう周囲に不用意にケンカを売ることもなくなるだろう。
しかし、今後先輩のことをなんてよべばいいんだろう。
アベリアさん? アベリア師匠?
さすがに呼び捨てにするのははばかられるし……
まさかの……アベリアちゃん? とか……
わたしはラナたちのお見舞いにいった後、
そんなどうでもいいことを考えながら、一人帰路につくのだった。




