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「はっ! こちらに来ていらしたのですか……」

「……わたし言ったよねー。あの子をさあー、どんな手を使ってもいいから、剣術部に入部させなさいって」

「はっ……しかし、打ち合いで負けてしまい……」

「そんなこと知らないよっ。あなたが勝手に戦って勝手に負けたんでしょぉ。もおー」


わたしが反応するよりも先に、アベリア先輩がすごい速さで部屋の入り口までとんでいった。

恐る恐る首をひねって、そちらの方を見やると、片ひざだちで挨拶するアベリア先輩と、それを見て不機嫌そうに話す外套をまとった女がいた。


あの話し方、あの仕草、それになにより腰に差した複数の剣。

やつは間違いないない。あいつは……!

ミハニア……剣士のミハニア! あの女だ!


「ミハニア様。あいつ……リーリアナはたしかにこれ以上ないほどの逸材です。しかし、心から剣士になりたいとは思っていません。無理やり、剣を持たせるというのはやはり酷ではないですか?」

「あなたの意見なんてきいてないよ。あの子はね。わたしの弟子なの。それに例のことも考えたら、そんなこと言ってる場合じゃないってのもあなたならわかるでしょー」

「まあ、たしかにそうですが……」


「あ、あの人……! いや、あいつ……!」


よりにもよって、やつがなんでここに?

しかも、こんな見計らったタイミングであらわれるなんて……!

もしかして最初から全部知っててここに?

その可能性はありえる。


というか、昨日の式典のこととか、道案内で嘘教えたこととか、あれがミハニアだったなら、そう考えるのが妥当だ。


今日もこの学園にとどまって、間接的にわたしのことを監視しててもおかしくない。


「あっ、リーリアちゃん! 偶然だねえっ、元気にしてた? どうかなあ、ルペリア学園は? すごいところでしょ? わたしもさ、昔はここに通ってたこともあるんだよねー」


ミハニアがわたしの存在に気づいて、こっちに歩いてくる。

いや、わたしがいることに今気づいたわけではなく、最初から知ってのことだろう。

何が偶然だねえ、だよっ

しらじらしい!


 しかし、こうなるんだったらもっと対策しとくべきだったかな?

 もし、わたしが先輩を完全にぶっ倒して勝利していれば色々先手も打てたけど、わたしは先輩に殴られ気絶してしまっていた。


 後手に回ってしまっている以上難しいってのもあるが……


「あの、一つ質問があります」

「何かな? なんでもきいていいよ」

「昨日、入学の儀で司会の人と話していたフードの人物ってミハニアさんですか? あと、わたしに【戯画士の集い(ミミックレギオン)】について嘘の情報を教えたのもあなたなんですか?」

「さあ~、誰だろうねぇ~、わたしかも知れないし、わたしじゃないかもしれない。神のみぞ知るって……」

「そうですか。わかりました。それではわたし、これで失礼しますね。アベリア先輩と大事なお話がありますので」

「な、なんだいきなり、貴様、ひっぱるなっ」


ミハニアが何かをいい終える前に、座っているアベリア先輩の腕を引っ張って、この部屋から出ようと歩き出す。

ここにいてはいけない。


おそらくミハニアの目的は、わたしを剣術部に入れることだ。

このままいけば、せっかく決まったわたしの退部も覆し返されない。

今退部の判断を握っているのはアベリア先輩だが、おそらく先輩よりミハニアの方が立場は上だ。

ミハニアが、圧力を加えれば、アベリア先輩だって意見を変えざるをえないだろう。

その前に先輩と話をして正式に手続きを踏んでもらう。

いくらミハニアでも、一度決まった決定事項を覆すのは不可能なはずだ。


「あっ、ちょっとっ……ちょっと待って! ごめん、ごめんっ。本当のこと教えるから話きいてよー」


 ミハニアのやつ焦ってるのか、余裕なのかわかんない口調で謝ってくる。

 しかし、そんな言葉には惑わされない。

 もうすでに一回、嵌められている。

 ここで待ったらやつの思うつぼだよ!


「あ……あれ……? 開かないっ……!」


くそう、扉がしまって開かないんだけど。

なんで外側からロックが……!?

まさかミハニアが変な小細工を!?


「ふふ、実はね。知り合いの術師に頼んで、魔術で結界を張ってもらってるんだよねぇ。簡単には出られないと思うよ」

「くうぅッ!」


くそっ、すでに先手を打たれていたのか!?

ちくしょー……! 

多分、わたしが寝てるときだ……!

まさか、アベリア先輩も全部知っててわたしを陥れたのか?


「いや、私はミハニア様が来られていることは知らなかった。私がミハニア様から承ったのは一週間前、入学の日にリーリアナ・ルレットとかいう膨大な魔力を持った女の弟子が剣術部の門戸を叩くからなんとしても引き入れろという言伝てだけだ」


怪しく思って、アベリア先輩の方を見る。

もしかして、アベリア先輩もグルなんじゃないか?

その答えは半分正解で半分違っていた。

やっぱり、アベリア先輩にもミハニアの息はかかっていたみたいだ。

しかし、すべてに加担していたわけではなさそうだった。


「ふーうぅ……まあ、アベリアちゃんが言っちゃったし、隠しておくのもあれだから言っちゃうけどさあ。あなたをルペリア学園という餌で誘き寄せ、剣術部にいれようとしていたのは事実だよ。昨日フードを被って、学園に侵入し司会を邪魔したのもわたし。人払いの結界を知り合いに張ってもらって、あなたを剣術部に誘導したのもわたし……」


そしてその後、ミハニアのやつが観念したように話し出した。

まあけど、今さら驚くことでもないよ。

大体は検討ついてたことだし。


「全部、あなたをわたしの弟子にしたくてしくんだことなのよね」

「それは知ってました」

「でもねー。それにも事情があったのよ。深いじじょーがさ」

「事情ですか?」

「わたしはさあ。もともと、弟子はとらない主義だったんだよね。面倒くさいし。けどそうもいってられなくてっ。で、どうせとるなら恐ろしく強い子がいいなあって思って。いろんな村とか回ってさ。ノイナ村の近くを通ったときビビッってきたのよね。なんかチャンバラごっこやってる……いや、こっちじゃない。まさかあの子がっ。ってあなたを見つけた時、運命感じちゃってさぁー。 どうしてもこの子がほしいってなったわけ」

「それが事情ですか?」

「そう。それが事情。だからさ。どうにかして、わたしの弟子になってくれないかな?」


 なるほどね……なんか大事なところはぼかされているような気がするが、要するにわたしを弟子にしたいということ。

それだけは確実なことだ。

それは半年前出会った時と全く変わらない。いたって単純な動機だ。

しかし、心が変わっていないこと。

それはわたしも同じ。

なら当然答えも同じになる。


「それは無理ですね」

「そこをなんとか。このとおりっ」

「無理です」

「なんでよー」

「理由は二つあります。一つ目は剣士なんて野蛮なことはしたくないからです。剣術を見る分にはいいですけど、自分が実際に表舞台にたって戦うのは嫌です。二つ目は他にやりたいことがあるからです。剣士という職業? の魅力がそのやりたいことに劣ってるからです。単に剣士そのものに興味がないだけともいえます」


当然といえば当然。

さっきだって一歩間違えたら死んでいた。

そうでなくとも最後殴られて気絶した。

わたしの運命、ラナたちの未来、それらがかかっていたから最終手段として戦ったけども、やむにやまれぬ理由がないのなら、もう一度だって戦いたくない。


「はあ、じゃあ仕方ないね。そこまで言うならもうどうしようもないよ」


 永遠と水掛け論のような会話が続くと思われたが、意外にも早くに引き下がってくれた。

わかってくれればいいんだよ……


「そうですか……わかってもらえてよかったです。じゃあ今度こそわたしはこれで……」

「この手は使いたくなかったけど、仕方ないよね」


 今度こそさっさと去ろうとアベリア先輩のもとへ向かう。

 そんなわたしを妨害するかのようにミハニアが目の前に一切れの紙を見せてきた。

なにかな? まだなんかあるの?


「あなたがルペリア学園に……いえ、霊熾院(グラディア)に借りてるお金よ。これを今この場で払ってもらうことになるわねー、なんて」

「は?」


何言ってんの? 意味わかんねーんだけど?


「あなたルペリア学園の校舎を破壊したでしょ。あれねえ、実は霊熾院(グラディア)が弁償費を立て替えてルペリアに払っているんだよね。リーリアちゃんは今後霊熾院に借金を還していかなければいけないってわけ」


校舎を破壊した? 借金? なにかな、それは??


いや……思い当たる節しかない……


そういえば……忘れてた。


破壊したグラウンドと建物の問題がまるまる残っていたことを……


試験の結果発表の時、呼びにきた子がなんか言ってたのを……!


「ああ、そういえば、校舎破壊の弁償費用。ミハニア様が霊熾院(グラディア)に掛け合って立て替えてくださったんですね? ありがとうございました。感謝申し上げます」

「そうだよー。さすがにポケットマネーで払うには出費が大きいからね。チャムソーって子についでにあなたにも伝えるように言ったんだけど、あの子伝えてなかったんだね?」

「はい、きいておりません。きつく言い聞かせておきます」


ミハニアとアベリア先輩がなんか話している。

しかし、それどころじゃない。


そういえば、そうだよ……

どうすればいいの……? あれの弁償費……!


「ていうことでさ。リーリアちゃんは霊熾院(グラディア)に莫大な借金があるわけ。もし、剣術部に入らないんだったら、借金はすぐにでも返してもらうことになるね」

「なっ……! そんなっ!」

「けど、もし剣術部に入るなら待ってあげられるし、借金を還すのも簡単だと思うよ。ほらっ、剣士って結構儲かるからさ」

「………」


ミハニアはさっきの紙切れをこれ見よがしに見せつけてくる。

そこには20000リブラノ:金20000枚とあった。

200リブラノで大体田舎の家が一軒分だから、家100軒分てこと?!


そんな法外なお金今すぐ払えるわけない。

というか、一生かかっても無理だよ!


「ぐぬぬ……」


くそ……これはもう手詰まりかもしれない。

そのことを持ち出されたら、もうどうしようもないじゃないか……


いや、そもそも20000リブラノ……

剣士になったとしても還せるか分かんない金額だよ。これ……

もはや【戯画士の集い(ミミックレギオン)】とか、剣術部とかそういう問題ではないのでは?

わたしの人生詰んだのでは?


「それにね、怒らないでほしいんだけどさ。もうすでにリーリアちゃんのこと、霊熾院(グラディア)で手続きして、剣士として登録してしまってるんだよねっ。実はというと……」

「は?」


借金手形の紙切れを見て呆然としてると、さらなる追い討ちをかけるようにミハニアのくそ野郎がなんかいってきた。

は? 今なんて言った? 


「どういうことですか、それ!?」

「どういうこともそのまんまの意味だよー。間違えて、すでに剣士として登録されてしまったんだよねっ、これが」

「間違えるってなんですか!? 明らかに意図的にやってますよね!? それ!」


はあ!? ほんとうに意味がわかんないよ!

そんな勝手に! そんなことゆるされていいの!?

いくら偉いとはいえ、こいつにそんな権限なんてあったの!?


「あの、ミハニア様……」

「なにー?」

「それはほんとでしょうか?」

「うん、ほんとだよ」

「見習い剣士ではなく、ほんとに”剣士に”ですか?

「そうだよー」

「しかし、剣士になるにはいろいろ認められなければならないはず、いきなり剣士っていうのは……」

「うん、そうなんだけどねぇ……」


 わたしだけではなく、アベリア先輩もこのことは知らなかったらしく、かなり驚いていた。

そりゃそうだ。

 たしかラナの話では剣士になるためには、誰かの元で実績を積み、認められなくてはいけないって話だ。

わたし実績なんて、何一つないし。


「いやあ、上にさあ、リーリアちゃんのこと話して弟子にしたいですって報告したら、是非とも今すぐ剣士にするべきだって言われてねえ……さすがにわたしもそれはどうかと思ったから、入学の日とりあえず、アベリアちゃんと戦わせてみて強さを測ろうと……アベリアちゃんさあ、そういうの好きでしょ?」

「まあ、そうですが……」

「あと、さすがに素人すぎるから、いろいろ経験値を積んでもらうために剣術部でがんばってもらおうかと思ってさ……ほら、わたしって忙しいじゃない? だから、頼むよっ、アベリアちゃん」


すべてそういうことだったのか……

じゃあ、今までことは何だったんだって話だよ……


「な、なるほど……それは構いませんが……しかし、いいのですか? リーリアナのやつふて腐れてしまっていますが……」

「あー、そうだねぇ……普通の人だったらこの上なく喜ぶんだろうけど、リーリアちゃんは少し特殊だからねえー……」


わたしが部屋のすみに座ってうちひしがれていると、ミハニアのやつが寄ってきた。


なによ……近寄ってくんじゃねーよ……!

もうどうでもよくなったんだよ!


剣術部に入るとか入らないとか、もうバカバカしいよ!

何のために戦ったんだ? 全部意味ねえじゃんか!


「……何ですか? ……何かようですか? もうあなたのこと信じられないです」

「まあ、そんなに落ち込まなくてもさぁ、ほら元気だしてよ。これあげるからさあ」


ミハニアはそう言って、ここに現れたときからずっと背負っていた長細い箱状の大きなかばんから何かを取り出した。


 何よ? また何か、物で釣ろうっていうの?

ほだされたりしないよ

もううんざりだよ……そういうのは……


「うっ、おもっ……なにこれ……剣? 一体なんの……」

「抜いてみてよ」


立ち上がったわたしに、押し付けるようにその物を渡す。

それは鞘に入った一振の剣だった。


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