17
「……結局こうなるのね」
立ち上がって、木剣を抜き取る。
ラナが使っていたからか、すでにボコボコで今にも壊れそうだ。
とても伝説の剣って感じはしない。
怖い。どうしようもなく怖い。
木の剣で殴りあうなんて正気じゃない。
ケガをしたらって思うと気が気でない。
そもそもわたしはたまたま偶然戦うことのできる力を持ってたってだけで、剣士でも武道家でもなんでもない。
しかし、ここで仲間を見捨てて戦いから逃げるようなやつに、「異世界と幸せの剣」のようなアツイ漫画を描くことができるだろうか?
いや、描けやしない。
「何だ、リーリア? 顔つきがずいぶんかわったじゃないか」
わたしの様子を感じ取った先輩がこちらの方向に体を向ける。
かつてないほど、不敵な笑みを浮かべている。
何でこの人は笑っているんだ。おかしな人だ。
やっぱりこの人も戦闘凶なのか……
しかし、つられてわたしも笑みを浮かべてしまう。
不思議なことに体は震えたまんまなのに、先輩に対するプレッシャーのようなものは全て消え去っていた。
「……先輩。一つ確認してもいいですか?」
「なんだ? 言ってみろ」
「もしも、先輩と戦って勝てたら言うこときいてくれるんですよね?」
「ああ、きいてやる。私に勝てたらだがな……」
先輩は模造刀をその場でブンと空振りした。
先輩と10mほど離れた場所で対峙する。
わたしの目的は単純で明快だ。
この部を脱退し、【戯画士の集い】に入部すること。そしてそのついでにラナたちを剣術部に入部させること。
その二つだ。
先輩は実力主義者だ。
だったら、やるしかない。
ミハニアがなんて言うかはわからないが、やつは今この場にはいない。
先輩に勝った後で考えればいいだけの話だ。
「ふっ、やっとか……実は試験とか関係なしに貴様とは戦ってみたかったのだ」
「……先輩といい、黒髪の娘といい、アリスちゃんといいなんでそうも戦いが好きなんですか? わけわかんないです」
「フッ、さあな……そっちから来ていいぞ」
「わかりました。じゃあこっちから……」
先輩はわたしよりもはるかに強い。
この付け焼き刃の力がどこまで通用するかどうか……
だが、戦って勝たなければラナたちもわたしも何も得られない。
やりたいことをなしとげる!
そのためには、ケガすることを恐れていてはダメだ。
ビビって遠回りばかりするやつに。
一番の勝負どころで逃げるようなやつに。
熱いバトルマンガを描くことなんてできないからッ!!
「はああああッ!!!」
体の魔力を解放させ、思い切り地面を蹴って、飛び出した。
姿勢を低くし、重心を落とし、横薙ぎに剣を振るう。
わたしの剣は自分でもビビるくらいの速さで、先輩の脇腹に吸い込まれていった。
「ふッ!! やはりいい腕をしてるなっ。想像以上の重さだ」
「くっ……」
先輩の剣とわたしの剣がぶつかり合い、大きな衝撃波を生み出す。
しかし、簡単に防がれてしまう。
わたしの剣が先輩の体に到達するよりもさきに、先輩の剣がわたしの剣と先輩の間にわって入り弾き飛ばす。
「反撃だ!」
「ふえっ!?」
わたしは剣ごと吹っ飛ばされ、体勢をくずした。
何とか体勢を建て直し、先輩の剣を受ける。
しかし、先輩の攻撃はとんでもなく重く速い。
「なッ!!? くぅっ、!!」
またも重心が傾く。
その隙を狙って、さらに剣撃が打ち込まれる。
「このッ!! ………ッ!!! うう」
やはり思った通りだ。
剣の重さ、剣の速さ、反応速度。
どれをとっても桁違いの強さだ。
アリスなんかとは比べ物にならない。
「っ、はやッ!……ぃッ!」
「はッ!!!」
「お、重ぃッ……!!」
先輩の剣を何とか目でおい、防ぎきる。
気がつけば、次の一撃がやってくる。
追い付くのでやっとだ。
一瞬で守勢に追い込まれてしまった。
「はっ、くっ……このぉッ!!」
アリスとの戦いで、魔力出力の方法は何となく理解できた。
あの時もわたしは防御する側だった。
しかし、あの時とは違う。
明らかに先輩の剣の速さについていけていない。
アリスと戦っている時以上の魔力で剣を振るっているにも関わらず、まったくジリ貧だ。
さっきの決意はなんだったのだという感じだ。
やはり気持ちの持ちようだけでは戦力を覆すことはできない。
「フン! なんだ、貴様……この私相手に手加減か? ずいぶん舐められたものだな」
先輩は不機嫌そうに、剣を振るう。
「違っ……ッ! ッ……くぅうッ!!」
先輩の剣を弾き返す。
「…………手加減なんて……」
そして、わたしには問題がある。
先輩の言うとおりだ。
先輩は一瞬で見抜いたのか。
わたしが全ての力を出していないことを……
「どうした? もっと本気を出してこい! その程度ではないだろ! 貴様の力は!」
「ううっ……!」
力を出していないわけではない。
力を出せないんだ。
あの時のことが頭にあるから……
「なんだ、貴様……力を温存したまま、勝つつもりか? よほど自分の腕に自信があるようだな?」
「違います! あううッ!!」
たしかに先輩に対するプレッシャーはなくなった。
ラナに言われて、胸のうちに覚悟のようなものができた。
しかし、アリスと戦って殺しそうになったという事実。
その時のことはまだ恐怖として、わたしの中にある。
それだけはどうしようもない。
もう少しで誰かを殺していたかもしれない。
あの時に振るった剣の感覚が、手にこびりついて力を出すことを躊躇させるのだ。
「どうしても本気を出さぬというのなら、後悔することになるぞ……」
それに今でも、すでにわたしはアリスと戦っている時以上の魔力を体内から放出している。
これ以上魔力の出力をあげたら……制御が……
「はあッ!!」
「…………!! な、なにそれ……?」
そんなわたしにしびれをきらしたのか、先輩が動きを止め、剣に力をこめる。
すると、剣に纏った先輩の魔力が柄の部分から赤い炎に変わりだした。
「ふっ、貴様……霊刃纏をみるのははじめてか?」
「な、なに? れ、れいじんてん……?」
何そのカッコいい名前……
じゃなくて! ヤバそうな技……!
なんか先輩の剣燃えてるんですけど!
そういえば、さっき300人あまりの人を一瞬で倒した時も先輩の剣は燃えていたような気がする。
「はじめても何も、剣を持って戦うの二回目なんですけどッ?」
「なに? ……フッ、化け物め」
さりげなく悪口言われた。
あなたの方がよっぽど化け物じゃないですか?
「なら特別に教えてやろう。貴様が今やっているように、剣にただ魔力をまとわせるだけなのが刃纏……」
先輩の剣が陽炎のようにゆらゆらとゆらめく。
そ、そうか……これって刃纏っていうのね……
「そして、その上位互換。多くの魔術師がそうしているように魔力を主要属性に変換し……剣に精霊を宿す技……」
先輩は剣を再度斜めに構える。
腰を落とし、いつでも踏み込める体勢を作った。
「これがっ、霊刃纏だ!!」
そういって、赤い炎を纏った剣を思い切り振り下ろしてきた。
「やばッ!」
これまともに受けちゃダメなやつだ!
そう瞬時に判断した。
剣先を少し横にずらし、力を受け流すようにしてその剣を受け止める。
しかし、そんな小細工お構い無しだ。
案の定、凄まじい力がわたしの腕にかかった。
体が吹っ飛ばされそうになる。
「うぐぅッ……! この炎っ! まずいッ!!」
さらにわたしの剣に纏う魔力が先輩の剣の炎によって溶かされるように消えて行く。
「霊刃纏は刃纏の上位技。上級剣士のみが使える技だ。刃纏のままでは話にならんぞ!」
ズブズブと分厚い魔力の刃を引き裂いていき、中心にある木の剣が折れそうになる。
くっ、これ以上は剣がもたない。
とっさに地面を蹴り、背後へ跳んだ。
「な、なんなの?! あの技……!? どうみてもチートじゃん! くうっ!!!」
しかし、先輩はわたしを休ませてはくれない。
さらに追撃の攻撃が来る。
よくみると今度は先輩の剣に無数の風の刃が渦巻いていた。
「こ、今度は何っ!!? ……ッ!!」
わたしの体を爆風のような風とたくさんの空気の刃が襲いかかる。
それはさながら、竜巻のようであった。
「こ、このお!! 」
まず大きく剣を振るって魔力で爆風を相殺する。
遅れてくる風の刃を必死に斬りつけ、迎撃する。
なんとかギリギリのところで空気の刃を全て叩き落とした。
「ふ、やるな。追撃もかわすとは……」
「くっ!! おかしいですそれ!? チートだよ! チート!」
ずるいよそれ!?
明らかに剣術の幅を逸脱している。
範囲攻撃なんてありか!?
「霊刃纏は、状況にあわせて攻撃を変えられる。炎は威力が上がり、物を切断しやすくなる。風は広範囲に渡る技が多いから多人数相手に有効だ。他にも使い手次第で毒や呪いを付与したり、結界を斬ったりできるものもある」
もはや、剣技と呼べるしろものではない。
わたしの知っているカッコいい剣技ではない。
鉄の棒を振って、炎や風や毒を出せるならそれはもはや魔術では!?
「さあ、どうする? これでもまだ力を温存するか?」
先輩は剣を振るって、挑発する。
ちくしょう……やっぱり、無理なのかな?
先輩に勝つなんてこと……この化け物を倒すなんて……
たしかにわたしはまだ、魔力の全てを出しきっていない。
魔力を出せばなんとかなるかもしれない。
しかし、今のわたしではこれ以上の魔力を出力しても制御できないという確信があった。
確実に制御不能の状態になって、アリスの時みたいに暴発する……
リーリア譲りの観察眼、あるいは戦術眼によりわたしにはそれがわかっていた。
何だかんだ言っても、わたしは戦闘においては素人同然。
昨日、魔力という力を認識したばかりの人間にいきなり魔力を出力maxで自由自在に操れっていう方が無理だ。
それは言わば、身の丈にあわない過ぎたる力。
九尾の妖狐やリョウメンスクナと言った正体不明の鬼神妖怪の力を借りるようなもの。
どこに落ちるかわからない爆弾を周囲にばらまくなんてできない。
アリスのことがある以上、誰かに大怪我させたり殺してしまったり、取り返しのつかないことになるのだけは絶対にさけたいのだ。
先輩を傷つけず、わたしも傷つかず、誰も大怪我をせずに、はるか格上の先輩に勝利する方法。
そんなことできるのか?
いやあ、無理じゃないか。
どう考えてもあの霊刃纏とかいうチート能力を突破できるとは思えないし。
いや……ほんとうにそうかな……?
じゃあ、なんでわたしは戦うことを決意したんだ。
勝算のない相手を前にして、笑みを浮かべたりしたんだ?
「なら次は愛用の剣で相手してやろう。今度こそ私の正真正銘の本気だ」
先輩は模造刀を鞘に戻し、腰からするりと真剣を抜き取る。
い、いや……ちょっと、待って……それ……本物の剣だよね?
「ちょっと、ずるいです! それ本物の剣ですよね!? わたし木の剣で戦っているのに!?」
「戦いにずるいもなにもあるか。それにずるいと思うなら、貴様も魔力をさらに解放すればよかろう」
至極まっとうな意見。
だが、それができないから、こうして手をこまねいているんだよ。
「ふ、喰らえ! これで、どうだ!!」
「うぐッ!! ヤバいぃ……ッ!! 死んじゃう……!」
先輩は強く踏み込み、連撃を繰り出してくる。
例によって炎を宿した本物の剣がわたしの剣をフルボッコにする。
なんとか相手の剣にあわせて、攻撃を防御する。
まるでわたしは意識が朦朧としたボクサーのように、右に左に揺さぶられた。
そんな時、ふと脳によぎるものがあった。
そういえば、「異世界と幸せの剣」のギュラスが言っていたな。
相手の得意な土俵で戦うな。
不得意な土俵で闘えと……
科学者に数学で、スポーツ選手にスポーツで、音楽家に楽器の演奏で勝負を挑んでも勝ち目はない。
科学者にはスポーツで、音楽家には数学の知識で、スポーツ選手には楽器の腕前で勝負をしかけろ。だっけか……
なんかめちゃくちゃな論だ。
でもそういえば、多くの漫画の主人公もそうだった気がする。
みんな土壇場では秘められた新技を解放して、”みんなの知らない技”で相手を倒して……
「ふ、この状態でも食いついてくるとは貴様本当に化け物だな……あの方はどこでこんなやつを拾ったんだ?」
最初からまったく勝算がないなら、笑みを浮かべて戦ったりしない。
わたしは何とかなるんじゃないかという希望を持っていたはずだ。
この戦いを始めた時から、〝もしそれができれば先輩を出し抜けるんじゃないか”という根拠のない自信が。
「アリスの時のようにごり押しによる解決は期待できない。なら一か八か……」
結局わたしも一か八かのギャンブルに頼ることになるのかよ。
けど、案外極限状態って言うのは運に頼るしかないものなのかもしれない。
しかし、わたしにはわかる。
この技を使えば、確実に先輩をあっと言わせることができると。
「だが、それもここまでだ! 勝負あったな」
「ちくしょー……あぐっ……っ!」
先輩の一撃によりついに木剣が折れてしまった。
これではもう戦えない。
しかし、逆にいうとこれはチャンスだ。
先輩は今、勝ちを確信し慢心している。
先輩に大怪我をさせず、周りにも被害を出さず、安全に相手を無力化する方法。
地球出身のわたしはそれを知っている。
多くの軍隊がそんな武器を開発していたと思う。
漫画やアニメ、ラノベでよく見た力。
先輩の土俵である剣以外の方法。
あるじゃないかだってここは……
__異世界だ!!
「いまだッ!!」
先輩の剣が振り抜かれ、わたしの剣の先端がうしろに吹っ飛ぶ刹那。
目をつぶって、アベリア先輩の目の前に左手をかざした。
魔力が電場と地場を形成し、振り子のように揺れ動く。
七色の波が、重なりあって加法混色し、純白の煌めきを作り出した。
次の瞬間、辺りがまばゆい閃光に包まれた。
手の平から放たれた白が何もかもを染め上げる。
「な、にッ!!」
先輩はただただ動揺していた。
……と思う。
わかんない。
だってわたしは目をつぶっているから。
「な、魔術だと!? そんなバカなありえん!」
閃光弾!
光の魔術!
わたしが放ったのは光そのものだ。
この世界でも多分魔術と呼ばれるものだ。
わたしは何故だか魔術を使えることを直感で知っていた。
もしかしたら使えるんじゃないかと。
まったく一度もやったことがないのに。
やり方なんて一度も教えられたことがないのに。
ふと、さっき魔術を練習している人たちを見て、あのくらいの簡単な魔術なら使えるんじゃないかと考えた。
「くっ、貴様!? なぜ魔術を!?」
よくある目眩まし攻撃!
非常に古典的な方法。
しかし、だからこそよく効く。
人は外界からの情報の八割を視覚に依存している。
それに哺乳類をはじめ大型生物のほとんどは、いきなりのハプニングに弱い。
不意をつかれると一瞬、固まってしまうのだ。
それはいかに強い先輩だって同じはず……
「けどまだ……まだだよ!」
しかし、油断はならない。
だって相手は化け物みたいな先輩だ。
この世界の剣士というものが、どれほどのものか身をもってよおく知っている。
光で目をつぶされ、それで戦闘終了なんてことにはならない。
これだけではすぐに体勢を立て直されてしまう。
それもわかっていることだ。
なので次の一手が必要となる。
わたしは目を開き、手にもった剣の柄を放り投げて、力強く一歩踏み込んだ。
やっぱり先輩は目を眩まされ、口を歪ませていた。
最初からこうするつもりであった。
剣なんて必要なかった。
わたしは女だ!
女なら女らしくこいつで語るべきだぜ!
「男は暴力、女も暴力だああ!!! 喰らええええええ!!!! うおおおおおおおお!!! 」
「なっ、にぃっ!! ぐううッ!!」
手の平をグーにし、さらに強く一歩踏み込む。
前へ体重を移動させ、思いっきり拳を前へ付き出す。
体を流れる魔力のおかげで驚くほどスムーズに力強く動けた。
人生で一度もケンカをしたことがない。
家族とも親戚ともクラスメイトとも、口論すらしたことがない。
不良やヤクザや軍人やボクサーが拳と拳で、やりあっているところを見たことがある。
しかし、それは全部画面の向こうの出来事で……
そんな生粋のお嬢様のわたしが、はじめて人を
殴ッるッ!!!
「ぐはぁッ!!!」
先輩の頬にわたしの拳がめり込んでいく。
グニャリと頬の肉が揺らぐ。
加速化した動体視力が、スローモーションでそれを見せる。
そのまま思いっきり振り抜いた。
先輩の体が宙を舞う。
顎の先端を狙って殴った。
たしか漫画で言っていた。
あごの下から30度の角度で拳を打ち込めば、脳へより大きな衝撃を与えられると。
いや、横からだっけか……?
どっちでもいいか、今そんなことは……
「……うおりゃあああああああっ!!」
「あがッ……!!」
わたしの拳をもろに受けた先輩は10mくらいの高さまでふっ飛んだ。
弾道曲線を描いたのち、きりもみしながら落下する。
ズッ、ザッ、ザァと3秒間くらい地面の上をバウンドしながら転がって止まった。
遅れて、ザキンと先輩の剣が地面に刺さる。
辺りは沈黙に包まれた。
き、決まってしまった。
わたし渾身の右アッパーカットが……
まさか、ケンカど素人のパンチがこんなに綺麗に決まるなんて……
「…………」
だが、くさっても魔力を伴ったパンチだ。
ド素人のパンチでもかなりの威力だ。
先輩は地面に横たわったまま動かなくなった。
「や、やった……?」
わたしは脱力してその場に座り込んだ。
極限まで高まった緊張から解放される。
先輩はピクリとも動かない。
完全に気絶しているようだった。
「やった。わたし勝ったんだ……」
先輩はのびちゃってるんだから、もう戦闘は不可能だ。
つまり、わたしの勝ちってことでいいのか……?
震えている手の平を見る。
人に暴力を振るってしまった。
ひ、人を殴るってこんな感触なのね……
非常にいやな感覚だ。
ていうか、傷害罪とかで訴えられたりしないよね?
この世界の法律がどんなものかわからないけど、そんな法律があったら大変だ……
先輩思いっきり、頬ケガしちゃってると思うし……
いや、というかただのケガですんでいるのか?
「まあでも……せんぱい丈夫そうだから……剣で斬りかかるよりかは……」
いずれにせよ、ケンカなんだから双方多少のケガは覚悟の上だった。
むしろ、このくらいですんだのだからかなり
剣や木剣で殴っていれば、即死だっただろうし……
「ふふ、やったよ……これでわたしも……」
しかし、次の瞬間、背後から誰かの影が伸びるのを見た。
その存在は無慈悲にも声を発した。
「何を勘違いしている……」
「え……?」
背筋が氷ついた。
首の横からぬっと真剣が姿を見せる。
えっ……ま、まさか……!
とっさに顔を上げると倒れていたはずの場所には先輩の姿はなかった。
横に刺さっていたはずの先輩の剣もない!
「そっ、そんな!?」
振り向くとそこにはアベリア先輩が突っ立っていた。
「覚悟はできているな?」
「ちょっと、ま……!?」
剣の峰が目のすぐ前まで迫る。
ものすごい衝撃を頭に受けて、わたしの気はそこでとぎれた。




