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 今からここで試験の合否を発表される!


「といっても伝えることは一つしかない。合格者の名前たったそれだけだ」


 わたしがここに連れてこられた理由はこれか。

 昨日試験を受けていたから、その結果を伝えるためにここへ連れてきたのだ。

 みんなが合格、合格って言っていたのもそのためだ。

 剣術部の試験合格の条件は……

 黒髪少女が言っていたとおり、試験を最後まで生き残っていた人とアベリア先輩に認められた人だ。

 たしかにそれなら、最後まで残っていたわたしは無条件で合格となる。


「今年の試験合格者は……」


 しかし、わたしには他に目的がある。

 【戯画士の集い(ミミックレギオン)】に入らなければならない。

 学園のルールで所属できる部は一つまでと決められている。


 だから、当然断らなければならない。


「リーリア・ナ・ルレット、アリス・ディアノス・アルカディア。その二名だ。以上!」


 アベリア先輩はよく通る声でただそれだけいい放ち。目を閉じた。

 辺りが静まり返る。


 案の定、勝手に試験合格にされているし!

 ま、まあ、一応昨日試験を受けていたから仕方ないところはあるけど。

 とにかく、アベリア先輩に辞退すると伝えないと。

 わたしが剣術部に入るなんて冗談じゃない。


「あのっ。わたし、辞退を……」


 辞退を伝えようと、人を掻き分けて前へ出る。

 しかし、それは周囲の人たちによって阻まれた。


「嘘だろ……そりゃねえだろ」

「合格者がたったの2名って……何だよそれ……」


 結果を聞いて周りに動揺が広がる。

 その声は次第に大きくなっていった。


「毎年、20人は合格者を出していたわよ! おかしいわよ!」

「そうだ、そうだ!!」

「うわあ、ちょっとっ!」


 わたしは抗議に向かう他の受験者たちに押し退けられてしまった。


「まさかの私も不合格なんてどういうことっ。ありえないわ。どうなってるのかしら!」

「まわりの連中の言うとおり、どういうことなんだ。二人ってあまりにも少なすぎるだろ」


 この場にいるみんなが不満をもって、声をあらげる。

 それはスキンヘッドや黒髪少女たちも例外ではなかった。


「な、なんで……? 例年と同じなら20人くらいは合格なはずじゃ……」

「ラナ……?」

「私たち最後まで残っていたのに! それに倒した人の数だってみんなよりは多いはずっ」

「メーロルちゃん……」


 ラナとメーロルも目を丸くしている。

 そうか。みんなも納得が言ってないんだ。

 この試験結果に……


「なんだ、貴様ら。試験官であるこの私が決めた結果に文句でもあるのか?」


しかし、アベリア先輩はそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。

クズを見るような冷酷な目つきをわたしたちに向ける。


「静かにしろ。文句があるやつは前へ出ろ」


喧騒がピタリとやむ。

うう、相変わらず横暴な人だ。

そんな強面で睨み付けられた状態で、前へ出られる人なんていない。

この人は曲がりなりにも剣士だ。

前へ出たらどんな制裁を受けるかわからない。

怒りを買えば、ボコボコにされることだって……


しかし、予想に反してみんなは動いた。


ラナが前へ進む。それにつられて、メーロルやスキンヘッド、黒髪の少女、その他大勢の人がぞろぞろと歩き出し、前へ出た。

みんなはアベリア先輩と対峙するように並ぶ。

ラナが見上げるように睨み付ける。


「教えてください。何故ぼくたちは不合格なんですか? せめてそれを知る権利がぼくたちにはあると思います」

「ふ、そんなことが知りたいのか? だったら教えてやる。それは貴様らがどうしようもない雑魚だからだ」

「雑魚って……前にもそんなこと言って! 今回ぼくたちは仮にも最後まで残って……! 強さを証明したじゃん!」

「最後まで残った? 強さを証明? ふん、笑わせるな。最後まで残っていても雑魚は雑魚だ。それに本当に最後まで残っていたのは、そこのリーリアだ」


アベリア先輩の視線がこっちに向く。

相変わらず、とんでもなく威圧的な目だ。

背筋がビクっとなる。


「おかしいです! 毎年20人は合格者を出しているって聞きます! 今年は2人だけなんて少なすぎます」

「毎年、何人のやつが合格しているとかは関係ない。今年は私がルールだ。私が不合格といえば不合格なのだ」


ラナの声にそうだ!そうだ!と賛同のやじが飛ぶ。

スキンヘッドも黒髪少女も全員が例外なく先輩を睨んでいた。

しかし、一貫して聞く耳を持とうとしない。


「いいか。剣士の世界では強さこそが絶対だ。強いやつのいうことが絶対なのだ」


それどころか、今日びジャ○アンでも言わなさそうなことを平気で言ってくる。

こいつ、パワハラの化身みたいなやつだな

そんな理屈じゃ誰も納得なんてしないよ。


「なら、もしわたしたちが、あなたと戦って勝ったら追加で18人合格にしてくれますか?」


そんな先輩の態度に痺れをきらしたのか、今度はメーロルが前に出てそう言った。

えっ、それって……

とっさの発言に息をのむ。

何を唐突に言い出すんだメーロルちゃん……!?


「ほう、面白いことを言うな貴様」


メーロルの発言にみんなが次々と木剣や木刀を構える。全員やる気のつもりのようだ。

ちょ、ちょっと待って!

先輩と戦うつもり!? それは絶対にやめたほうがっ!


「ラナ! メーロルちゃん! 待って! そんなことしたって……!」

「リリィちゃんは黙ってて!! これはわたしたちの戦いだからッ!!」


二人やみんなを静止しようと身を乗り出す。

しかし、言いきる前に、逆にメーロルに静止されてしまった。


「いいだろう。この模造刀で相手してやる。もしわたしに勝てたら追加で18人合格にしてやってもいい。合計で312人……同時にかかってきても全然いいぞ」


アベリア先輩が腰の模造刀に手をかける。


やばいっ、このままじゃ!


わたしにはわかっていた。

300人で寄ってたかって、アベリア先輩を攻撃しても返り討ちに会うだけだって。

それどころか、全員大怪我じゃすまない。

それだけみんなと先輩には実力の差があるんだ。


いや、というかみんなにもわかっているはずだ。

実際に試験の時、アリスたった一人にボコボコにされたのだから。

先輩がアリスよりはるかに強いことくらい、いくらバカでもわかるはずだ。


じゃあ、なんで……


とにかく、とめなきゃ!

そう思った時にはもう遅かった。


「ふんっ!」

「……あがッ!」

「……うぎッ!」

「うああああッ!!」


300人余りの体が一斉に乱れ飛び、血飛沫が霧雨のように舞う。

先輩の模造刀が陽炎のように揺らめいて、空を裂いた。


「えっ……何がおこって……」


模造刀には炎のようなオーラがまとわりついていた。一体何だ?……あの技は……?


そして、次の瞬間にはアベリア先輩は模造刀を鞘に戻していた。

みんなの体が放り投げられた重い荷物のように落下し地面に打ち捨てられる。

一瞬のうちにみんなやられてしまった。


「ら、ラナ! メーロル……! みんなも!」

「大丈夫だ。貴様は勘違いしているが、手加減ぐらいしている。加減もろくに出来ないあのバカ弟子のアリスと一緒にするな」

「え……?」


アベリア先輩がこっちを見ていた。

そんなこと言われても、この人の言うことなんて信用できない。


「そんなこと言ったって……!」

「あれを見ろ」


アベリア先輩は目配せして、わたしの視線を誘導する。

よく見るとみんなうごめいている。

肩で息をしたり、咳こんでいる人もいる。

意識はあるようだ。


じゃあ、ラナやメーロルは無事なのか……?


「そう言うことだ。下らないものを見せてしまったな。おい、貴様たちこの雑魚どもを保険室まで運んでやれ」

「了解しました。アベリア師匠……」


アベリア先輩が取り巻きたちに、みんなをこの場からどかすように指示する。


下らないなんてそんな……

今の戦闘をまるで作業か何かのように……

みんなの抗議をまるで羽虫の羽音のようにっ……!


「というわけでリーリア、貴様は今日から剣術部の一員だ。おめでとうと言っておこう。貴様には後日改めて見習い剣士の称号とそれに準じた勲章が与えられる。貴様の場合は……あの方が直接やってきて手渡されるのだろう」


何を言っているんだ。

この暴君は……

わたしがこんなクソみたいな部に入るわけないじゃないか。

情けないことに先輩が怖くて、言い出せなかったが。


「明日またこの場所に来てもらうことになるだろう。詳細は追って連絡する。今日のところはもう帰っていい。グラウンドがこんな有り様だからな」

「ちょ、ちょっと待ってください……」

「なんだ? 質問か?」


声を振り絞ってそう切り出す。


「わ、わたし剣術部に入るのを辞退したいんですけど」


先輩は目を細めて、固まった。

まさかわたしが入部しないなんて思いもよらなかったのだろう。

しかし、すぐ普段の表情に戻ってわたしを威圧してきた。


「それはできない。剣術部の試験を受け合格した時点で剣術部の一員だ。剣術部に所属するものに退部は許されていない」

「わたし、本当は剣術部に入るつもりなんてなくて。前にも言ったと思うけど、騙されて試験を受けてしまっただけなんです。だから、入りたくないです……」

「ではなにか? 貴様も私と剣を交えるとでも言うのか?」

「え……?」


先輩はもう一度、腰から剣を抜く。

刀身がぎらりと光る。


「ふっ、貴様ならいいぞ。全力で相手をしてやっても」


うう……この状況、昨日の試験の時と全く同じだ。

昨日も同じように剣を向けられて、怖じ気づいて。


「い、いえ! た、戦うなんてそんなつもりはなくてっ……!!」


 今度こそ、意見を聞いてもらわないとわたしは目的を達することができなくなってしまう。

だが、わたしには戦うなんて、そんな度胸はない。

この人はアリスなんかと比べ物にならないくらい強い。

それにもう、剣を使って戦うのは……


「そうか。じゃあ、帰るんだな」

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんだ。まだ何かあるのか?」

「……い、いえ、なにも……」

「ふん、では失礼する」

アベリア先輩は一言そう言って背を向け、建物のある方へ歩きだした。


「ラナ……メーロルちゃん……くっ」


地面に這いつくばったみんなを見る。

鮮血でグラウンドは赤く染まっていた。

みんなはアベリア先輩の取り巻きたちに担がれ、保健室へ連行されていく。

わたしは居てもたってもいられなくなってその場から、逃げ出した。


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