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「メーロルちゃん大丈夫!? しっかりして!」


 話しかけても返事はない。

 着ている服には無数に切られた後があり、血が滲んでいる。

 剣も折れており、意識がない。

 メガネが粉砕されている。

 どうなったんだ一体……?


 もしかしてやられたのか…………あの金髪に……!


「どうしたのメーロルちゃん! 誰にやられたの?! 返事して」


 たしかにメーロルは苦戦していた。

 だけど、ラナもメーロルも村ではもっとも強かったはずだ。

 絶対に剣術部に入ってやるという意気込みもあった。

 あんなモブキャラみたいなやつにやられるなんてありえないんだけど……

 しかも、さっきの一瞬でこんなにボロボロになるまでやられるほど実力差があったようにも思えない!


「そ、そうだ。ラナは……」


 もし、メーロルが負けちゃったなら、ラナは今戦っているはずだ。

 顔をあげると、すぐに声が聞こえてきた。


「リリィ逃げて……」

「えっ……ラナちゃん!?」

「アイツ……強すぎる……まったく、歯がたたなかった……」

「ひ、ひどいケガ! ……何があったの?」

「く、くやしいよ……本気で戦ったら勝つことはできなくても……一矢報いることぐらいできると思ってたのに……」


 ラナはどうやら意識はあるようだ。

 しかし、ラナもメーロルと同じようにかなり手酷くやられていた。

 腕のあたりから出血しており、木の剣もバラバラにされている。目のあたりも青く腫れている。


 あの二人そんなに強かったの?


 その疑問はすぐに解消することになる。


 すぐ横を見ると、金髪のモブ男と緑髪の気弱な少女もラナたちと同様の状態で転がっていた。

 サ〇バイマンに爆殺されたヤ〇チャのような格好で……

 ラナとメーロルをやったのは二人じゃない。

 だったら一体だれが?


「まさか戦いにすらならないなんて思わなかったッ……! あんなの……化け物だよ……ぼくたちがかなう相手じゃなかったんだ……!」


 その瞬間、背後に大きなプレッシャーを感じる。

 この気配ただ者ではない!


「あんたの取り巻きほんと弱いわね……弱すぎて危うく殺しちゃうところだったわよ!」


 立ち上がって振り向くとそこには銀髪の少女が仁王立ちしていた。

 長い髪を片方だけ結ったサイドテール。

 大きな藍色の瞳。

 腕組みをしてこちらを睨んでいる。


「アリスちゃん……!?」


 間違いない。

 この少女は汽車の中でラナとメーロルの木剣を破壊したアリスだ!


「な、なんでこんなところに!?」


 アリスはこの場にはいなかったはず。

 ラナとメーロルはそれぞれ、緑髪女と金髪男と戦っていた……

 たしかに剣術部の試験に出ることはラナたちの反応で何となくわかっていたが、アリスはこの広い戦場のどこで別の誰かと戦っているものだと思っていた。


 一体いつの間に!?


「もしかして、ラナたちはあなたがやったんですか?」

「そうよ、まとめて相手してあげたわ」

「よ、4人まとめて?! そんな……4人とも結構強かったはずなのにっ……」

「これが強い……? ふふっ、面白い冗談いうのね。笑わせないでくれるっ? こんな雑魚、あたしたちの足元にも及ばないわよ。本物の剣士様からみたらゴミ同然の実力だわっ」


 わたしは周囲に違和感を覚える。

 そういえば、さっきから周りが妙に静かだ。

 わたしが戦う前に聞こえていた、剣を打ち合う音や、ウォークライが全く聞こえない。


「他のやつらは全員さっさと倒したわよ……こんな雑魚連中いてもいなくても変わらないし、どうせ剣士としてやっていけないでしょうから」


 周りを見渡せば、今まで打ち合ってたすべての人が一人残らず地面にうずくまっていた。比較的軽症なもの、ボコボコにやられて気絶しているもの……様々だ。

 辺り一面、倒れた人でうめつくされている。


「うそ……でしょ……これを一人でやったの? 剣術部志望の人って300人くらいいたはず……」


 いくらなんでも嘘でしょ……

 この短時間でこの人数の人をたった一人で……?

 まだ試験開始から10分くらいしかたってない。

 300人の人間を10分で倒そうと思ったら、1人を2秒で倒さないといけなくなる。


 この広いグラウンド内に散らばった1人1人をわずか2秒で続けざまにやっつける……

 そんな……ありえないよ……


「何をそんなに驚いているの? あんたもそれくらいできるでしょ? それだけ魔力を放出して周りを挑発してるくらいだから」


 は? そんなことできるわけねえだろ……

 わたしは人間だ……化け物じゃない


 何なんだこの人は……

 まさかこの世界の剣士ってみんなそうなんか……?!

 縮地みたいなこと全員ができるんか……?


「もしかして、熟練の剣士ってみんなこんなことできるの……?」

「はあ、何いってんの? あんた? 剣士の称号を持った本物の剣士様だったら、ここにいる雑魚なんてまとめて1秒で吹っ飛ばすわよ。あたしみたいな見習い剣士ですらない、したっぱとは次元が違うの……そうね、本当に熟練の剣士様だったら、このグラウンドに地割れを起こし、剣の一振でここにいる雑魚を全部吹っ飛ばし、その上であのレンガの建物を一撃で倒壊させるでしょうね」

「ふえ……?」


 は……? 何意味わからんこといってるの……?

 そんなことできるわけないでしょ……

 米軍の開発した新型爆撃機か何かかよ……


 嘘だと思いたかった。

 しかし、目の前に広がる光景がそれを否定する。

 アリスの言ってることはおそらく本当だ……

 少なくとも、剣士が恐ろしく強い存在であることは間違いない。


「挑発? いったい何のことですか? み、みに覚えがま、まったくないんですけど……」


 恐怖で震え上がり、一歩二歩後退りする。

 じょ、冗談じゃない……

 こ、こんな化け物相手にしたら命がいくつあっても足りない!


「はあ!? あんた忘れたとは言わせないわよ!! 汽車の中でガン見しながら、あれだけ魔力を放って威圧してたじゃない! そして今も!!」

「え? ま、まりょく、いあつ? 一体なんのことですか?」

「な! ありえない! しらばっくれるつもり! これだけ非常識に挑発しておいて!」


 さっきの黒髪の少女も同じ事を言ってた。

 魔力がどうこう、挑発がどうのこうのって……

 もしかして、知らない内に魔力で周りを威圧していたりする?

 しかし、魔力なんて感じることができない。

 そもそも、魔力があるのかどうかも本当のことかわからないし。


「あの時は、アベリア様が見ておられたから、大人しくしてたけど今回は許さないんだから」

「今もアベリア先輩見てるんじゃ……」

「いいのよ! 今は試験中なんだからっ!」


 横目で見たら、アベリア先輩は目を閉じて寝ていた。

 いや、見ていなかったわ……

 つーかなんで寝てんの……

 起きろよ……貴様試験官でしょ……

 何職務放棄してんの、何かあった時、止めるのが貴様の役目でしょ……!


「あ、あの……! すいませんでした! ほんとうにごめんなさい! あのときは、別に挑発するつもりとかなかったんです! ただなりゆきでそうなっただけで……意図してやったわけじゃないんです。信じてください! あのところでアリス様はパン派ですか?! ごはん派ですか?! それとも麺派?! よかったらわたし昼ごはんの時に買いに行きますけど! あっ、あの、もちろんお代は結構です! なのでどうか許してください! お願いします! どうか命と右手だけは見逃してください!!」

「そんなことしてほしくもないわよ! 謝ったって許さないわ! あたしね、売られたケンカは絶対に買う主義なの。パンでも米でも麺でも売られたものは全部買って食べる……この意味わかるよね?」


 アリス様わからないです……!


「それにね。あたし、あんたと戦ってみたかったのよね……強いやつが二人いる……だったら、どっちが強いか白黒つけたくなる……常識じゃない?」


 その時わたしは悟った。

 剣士に言葉は通じないと……


 この人たちは言葉ではなく剣で語り合うのだ。

 例えば、一つのパイを二人で分け合う時

 あるいは、法廷で討論する時、もしくは議会で何かを決める時、剣士は剣を持って答えを出す。

 正しいかどうかではない。強いかどうかなのだ。

 だから言葉なんて意味をなさない。


 森の中で熊さんと鉢合わせてしまった時、許して下さいお願いしますって謝ったら逃してくれるだろうか?

 暴力なんて倫理に反する。牙と爪をしまいたまえって言ったら、見逃してくれるだろうか?

 多分答えは否だ。

 だって熊は人間より自分の方が強いって分かってるから。

 強さこそがジャスティスだって知ってるから。

 強さが全て!

 片手で捻って、勝てる相手に慈悲なんて必要ない!

 

「っ……!」


 背を向けて一気に駆け出した。

 こ、ころされてたまるか。

 この学園にやることがあってきたんだ。

 ラナもメーロルもやられてしまって、他に誰も残っていない以上、もはや戦う理由なんてない。

 てか、最初からこうすればよかったんだ。

 アベリア先輩のおどしになんて屈せずに逃げるべきだった。


「あ、ちょっと待ちなさいっ!」

「待てって言われて待つやつがどこにいるかって話だよ! 待ったら最後、ぼこぼこにやるんでしょ!」

「待ちなさいって言ってるでしょ!」

「なっ!」


 しかし、逃げ切れるはずなどなかった。

 振り向くと飛んでもないスピードで地面を蹴って、迫ってくるアリスがいた。

 あいつ本当に人間かよ?!

 アリスの剣閃がわたしの横腹を狙う。

 その攻撃を察知し、剣先を下にして軌道上を防御する。

 ズギャギャという、とても木の剣同士がぶつかったとは思えない音がなり、わたしは反対側に吹っ飛んだ。


「うわあああッ!!」


 な、なんていう威力なの!?

 やっぱりただの人間じゃねえ!

 ゴロゴロ転がりながら、息を吐く。

 手に伝わる衝撃も半端ない。


「つぅッ! このおっ!!」


 立ち上がりざま、砂をつかんでアリスの目をめがけて、投げつける。

 そしてそのまま逃亡を再開した。


「聞くわけないでしょこんな攻撃! はあっ!」


 だが、やっぱり無駄だったようだ。剣の一閃で砂をすべて消し飛ばし、アリスはわたしの背中に一撃を振り下ろしてきた。


「くうっ!」

「なッ!」


 今度は剣を両手で持って防ぐ。

 ものすごい衝撃が肩から腰にかけて伝わる。

 なんとか、それを防ぎきり、剣を弾いて体勢を立て直した。


「はああ!」

「うっく!」

「このッ!」

「うっ……!」


 剣の応酬が繰り広げる。

 防戦一方だ。

 くそお……もう逃げるのは無理だ。

 じゃあ、どうする? 戦って勝つ? この化け物に……?

 正直言って、戦って勝てるような相手ではない。

 さっき少しばかりなら戦えるってわかったけど、アリスは文字通り次元が違う。

 剣を交えてわかった。

 おかっぱの少女の攻撃は貧弱で、止まっているように見えた。威力も全然なく、適当にやっても勝てたくらいだ。

 アリスは違う。一撃が重く素早く、見切るのでやっとだ。

 300人を一瞬の内に倒した実力。

 人間をやめた戦闘モンスターに素人のわたしがどうやって勝てっていうのか……


「はぁあっ!」

「くっ!」


 剣を防ぎながら助かる手立てを考える。

 するとふと、頭の中に普段なら思い付かないような疑問が浮かんだ。

 もし、この状況……わたしの大好きな漫画「異世界と幸せを呼ぶ剣」の主人公”ギュラス”だったらどうするだろうか?

 わたしの好きな少年漫画にも似たようなピンチな状況はたくさんあったはずだ。

 圧倒的な強さの敵を目の前にしてやられそうになる。

 その時、主人公はどうやってピンチを乗り越えていただろうか。


「新たな力に目覚めるとか……?」


 いや、ないない……さすがに漫画の見すぎだって

 そんな都合のいい展開なんて……


 あれ……でもそう言えば、防戦一方とはいえ、何でわたし戦えているんだろう?

 人外レベルの強さを持つアリスが相手なのに……

 それにおかっぱの少女……

 彼女との戦いも考えてみればやっぱりおかしい。

 剣の初心者がいきなり戦って勝つなんて。

 しかも相手はまがりなりにも熟練者なのに、剣が止まって見えるなんて……

 そんなこと普通はありえない。

 だったら、そこには必ず原因があったはずで。


「たしか、挑発がどうとかって……もしかして、それが原因? だったら、一体どこにそれが……」


 そういえば、”ギュラス”は丹田に人の力は集中するものって言ってたっけ?

 丹田ってどこ? おなか?

 瞳を閉じて、身体の奥へと神経を集中させる。

 その時、おへその辺りに渦巻く膨大な何かを感じた。

 それが体から沸き上がって、手足の隅々まで循環するのを実感する。

 底知れぬパワーによって、身体が羽のように軽くなる。

 もしかしてこれが……


「なっ! あんた、いったいその力どこから……!?」


 さっきからずっと言われて、気になってたことがあった。


「ねえアリスちゃん……一つ聞いてもいいかな……? 剣士の強さってさ……魔力の量に比例するの?」

「あ、あたり前よ、そんなこと常識じゃないの!」


 やっぱりそうなのか。

 それで戦えていたわけか。

 だったら、この力の根元は……


 魔力!!

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