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プロローグ

 わたしには夢があった。

 それは漫画家になることだ。


 幼いころから両親は多忙であり、仕事のために家を空けることがおおかった。

 二人が実際にどんな仕事をしているのかなんて想像もつかなかったが、とにかく忙しそうにしていたことだけは覚えている。

 両親ともども海外にいることも日常茶飯事で、家事については家政婦の人にまかせっきりだった。

 わたしにとって両親といた時間よりも家政婦の人といた時間の方が多かったくらいだ。


 学校でもわたしはずっと一人だった。

 小中高ともに名門のお嬢様学校に通っており、成績もずば抜けて優秀だった。

 自分でいうのも何だが、才色兼備だったわたしは周りから憧れを抱かれることが多かった。

 しかし、憧憬の眼差しを向けられることはあっても、わたしの周りに人が集まってくることはなかった。


 声をかけようとしても、みんな遠慮してどこかに行ってしまう。

 憧れの存在であったわたしは、みんなにとって高嶺の花であるがゆえ対等な立場……友達としては見られていなかったのだ。


 つまり、わたしはぼっちだったのだ……


 だからだろう、わたしが漫画を好きになったのは……

 ずっとひとりきりだったわたしはその寂しさを埋めるように、漫画やアニメなどのフィクションの世界にのめり込んでいった。


 きっかけはニチアサの女児向けアニメだったと思う。

 小学生のわたしはTVに食いつくように、夢中になってアニメを見ていた。

 じきに家政婦の一人がたまたま読んでいた少女漫画を貸してくれた。

 純粋無垢なわたしはすぐに感化され、これにもはまった。


 そこからわたしのサブカル好きの人生が始まった。

 中学校に上がるころにはジ○ンプ、マ○ジン、サ○デーなどの少年誌は絶えず購読していたし、深夜アニメはすべて録画、気になった漫画やラノベはすべて大人買い。

 気づけば、オトメゲーやギャルゲーを買い込んでおり、もはや手がつけられない状態であった。

 最終的には家の2部屋を占拠し、専用の書庫を作り上げ一万三千冊に及ぶバイブル(漫画や小説など)を貯蔵していたくらいだ。

 金持ち系オタク少女の誕生である。


 そうなると自分でも物語を紡いでみたいと思うのが世の常だろうか……


 そんな折にとある漫画と出会った。


「異世界と幸せを呼ぶ剣」。通称“異世剣”

 ギュラスという名の少年が、伝説の剣に触れたことで、一月ごとに別世界に飛ばされる体質になる。別世界で冒険し、知力と勇気を持ってその世界の問題を解決していくというストーリーの漫画だ。

 マイナーな雑誌の漫画で、巷では大して人気はなかったが、わたしはとにかくこの漫画が好きだった。


 この漫画のセリフ……「夢は必ずかなう!」

 その言葉に影響されたわたしは漫画家になることを決意した。


 正直、月並みというか、臭いセリフというか、どこにでもありそうな、100回使った出涸らしの茶葉のような、河川敷に敷き詰められた丸石の一つのようなありきたりの言葉だ。


 しかし、妙にこのセリフの場面と主人公達の描写がわたしの頭に張り付き、勇気をくれるのだ。


 最初は軽い気持ちだった。

 親から貰ったクレカを使い、ア○ゾンで目に付く画材を片っ端から取り寄せては、何の知識もないまま制作に取り掛かった。

 プロットも考えずに物語をつくり、狂いまくったデッサンでネームのまま作品を応募した。


 結果は当然のように大惨敗。

 みごとに撃沈した。


 しかし、わたしはそこであきらめなかった。


 「戦わなければ夢は叶わない。剣を置いたらそこで終わりだ!」

またしても「異世界と幸せを呼ぶ剣」のセリフだ。


 とにかく、小遣いだけは大量にもらっていた(サラリーマンの初任給ぐらいの額を月にもらっていた)わたしは、高校を卒業し20歳になっても、なお親のすねにかぶりつき、

実家で暮らしながら、漫画を描いては雑誌に応募するというのを繰り返した。


 そしてついに先日、出版社の編集部より連絡があったのだ。


 残念ながら賞には落選しましたが、お話があります。


 うひょおおーーー!! まじかよ! キタコレ! ついにわたしの時代なのか!!?


 お話しがあるっていうことはつまりそういうことだ。

 賞に落選したのに呼び出されるなんて聞いたことないが、わざわざ出版社から呼び出されるということはそれ相応の話があるということだろう。

 漫画誌にいきなり連載なんてことも?!


 わたしは喜びのあまり舞い上がり、奇声を発しながら部屋の中で盆踊りを踊った。

 浮かれまくって、慣れない酒を浴びるように飲んでは、頭痛でリバースした__。



 と……それが昨日までの話だ。

 そういうわけでわたしは、夢がかなうかもしれないという人生最大のチャンスの最中なのだ。


 鼻歌を歌いながら、ビル街の路地を歩いていた。

 ビルのガラスに写る自分の姿を見て、背筋を伸ばす。

 いまだに腑抜けたまぬけな笑顔がおさまらない。

 今朝からずっとこうだ。


「ふんふん、ふんふーん」


 路地を出て、人や車の行き来する大きな通りを歩く。

 平日の昼間だというのにかなりの人の量だ。

 さすがは我が国日本の中枢都市といったところか。

 とりあえず、タクシーが止まれそうな場所まで移動しようと思い、すぐ近くの駅まで歩くことにした。


 六車線ある車道には植木で作られた中央分離帯があり、スクランブル交差点の横断歩道には車道と同じくらいの幅の区画線が引かれている。

 駅まで行こう思うと、向こう側まで渡らなければならない。


 ステップを踏みながら上機嫌で、歩道を渡ろうとする。

 信号は青。順風満帆。進路はオールグリーンだ。


 ……………。


 そのときわたしは迫りくる何かに対して、何の警戒心も持っていなかった。

 この後に及んで浮わついた気分でいたから、まわりの微妙な空気の変化に気づかなかったのだ。


「お、おい。あの車やばくね。右にいったり左にいったり……」

「ちょっと、なんだか様子が変……。どんどん加速していっているような……っ!!」


 何の因果か偶然か、ちょうど信号が歩行者用に切り替わったタイミングで、信号を待っている車はいなかった。

 当然、わたしと車道の間に遮るものは何もないわけで。


「おいっ!! お前!!! 何やってるんだ!!! はやくにげっ……!」


 誰かが大声で叫ぶ。

 その声でようやく自分が置かれた状況を理解する。


「ふえ……?」


 しかし、すべてはもう遅かった。

 振り向けば、ダンプなのかトラックなのか、

 とにかく大型車両が目と鼻の先まで来ていて……!!


「……っ!!」


 気が付けばわたしの体は宙を舞っていた。

 感じたこともないような衝撃が頭を強く揺らした。

 意識が明滅する。

 視界が大きくブレる。

 

 痛みを感じる間もなくわたしの意識は途切れた。


____そして、わたしの人生は踏み出した瞬間に終わったのだった。


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