天国まで持っていけるもの
志花は小説を書いている。あるいは、小説みたいなものを。
それは、高校時代からの話だ。僕が文芸部ではじめて出会ったときから、それは今でも続いている。彼女が意味を見いだせるのは、それだけだからだ。
大学を卒業して、いったんは就職して、でも結局、志花はそれを全部やめてしまう。もともと、そんなことは無理だったのだ。クジラが陸にあがらないのや、ペンギンが空を飛ばないのと、同じくらいに。
かといって、彼女が職業的小説家になれるかというと、その可能性はかぎりなく低かった。そこには輝かしい未来があるわけでも、捨てられない過去があるわけでもない。それは、どこにも行きつかない、あるいは、どこにも向かっていない、そんな道でしかなかった。
それでも、彼女の書く文章には時々、はっとするほど〝きれい〟なところがあった。波に洗われて丸くなったガラスや、光に透けて緑色になった木漏れ日みたいに。
どちらかというとそれは、僕を悲しい気持ちにさせたけれど――
(15/10/25~15/11/11)
それは、高校時代からの話だ。僕が文芸部ではじめて出会ったときから、それは今でも続いている。彼女が意味を見いだせるのは、それだけだからだ。
大学を卒業して、いったんは就職して、でも結局、志花はそれを全部やめてしまう。もともと、そんなことは無理だったのだ。クジラが陸にあがらないのや、ペンギンが空を飛ばないのと、同じくらいに。
かといって、彼女が職業的小説家になれるかというと、その可能性はかぎりなく低かった。そこには輝かしい未来があるわけでも、捨てられない過去があるわけでもない。それは、どこにも行きつかない、あるいは、どこにも向かっていない、そんな道でしかなかった。
それでも、彼女の書く文章には時々、はっとするほど〝きれい〟なところがあった。波に洗われて丸くなったガラスや、光に透けて緑色になった木漏れ日みたいに。
どちらかというとそれは、僕を悲しい気持ちにさせたけれど――
(15/10/25~15/11/11)
1(雨の降る絵)
2022/08/14 00:00
2(市役所とおばあさんと彼女の用事)
2022/08/15 00:00
3(血と鉄の散文的表現)
2022/08/16 00:00
4(終着駅では電車はもうどこにも行かない)
2022/08/17 00:00
5(残念ながら、それは現在進行形の話だった)
2022/08/18 00:00
6(r戦略者)
2022/08/19 00:00
7(世界をきれいなままにしておくということ)
2022/08/20 00:00
8(美術館は静かだった)
2022/08/21 00:00
9(太陽を磨く方法)
2022/08/22 00:00
10(世界の終わりと青信号)
2022/08/23 00:00
11(それは、彼女以外には誰も知らない光景)
2022/08/24 00:00
12(余白のなくなったメモ帳)
2022/08/25 00:00
13(彼女が涙を流した理由)
2022/08/26 00:00
あとがき
2022/08/26 00:00