ドS王子と侍女と弟と妹
ドS王子と侍女と弟と妹
カリカリカリ
執務室でなぜか安そうな事務机に向かい書類を書き続ける第一王子。
どうして安そうな事務机なのかは前作で出していたのだが筆者が伏線を書くのを完全に忘れていましたごめんなさい。そのうち書くかな。
教会の汚職事件の後始末も片付く目処がつき王子もなんとなく機嫌が良さそうに書類を片付けていく。
目の前に主張が激しい光源物体が存在しているがそんなものは無視してだ。
王子はのどが渇いたので扉の前に待機している侍女を呼ぶ。
すぐに反応して入室する侍女だが入った瞬間、一瞬だけ硬直した。その後はいつも通りに動き始め王子の要望聞き小休憩の為の用意をしに出て行った。
王子は次に侍女が来るまでの間にもう一枚書類を片付けようと取り掛かる。
カリカリカリパァァァシュンカリカリカリパァァァシュンカリカリカリ
常人なら気が狂っている光景が執務室内で起きているのだが、残念なことに突っ込む存在はいなかった。
「お待たせしました」
しばらくすると先ほどの侍女が数名を連れて入室してきた。その数名も入室の際に動きが止まるが動揺は顔に出さずに再び動き始めた。
テーブルには紅茶に軽くつまめる軽食を置いていく。侍女達は王子が座る場所と反対にも同じものを並べていく。
王子も書類を片付けソファーに座る。
「アーリャ、ミコス、トシナいつも用意してくれてありがとう。君たちのおかげでゆっくり休めるよ」
笑顔でねぎらいの言葉をかける王子に侍女達は顔を真っ赤にしながら部屋から出て行った。
「なんですか神の前でいちゃつきますか。たらし、たらしですか、たらしなのですね。このたらし王子が!」
「いつの間にか人の執務室に侵入してソファーに横になってペカペカ光っていて最初の発言が人に最低なあだ名付けですか女神様」
女神様は王子の対面にあるソファーに横になりながら呪詛を呟くのに王子はそんな呪い効かねえよとの態度で応える。
女神様、一時間ほど前から執務室に降臨なされそのまま無言でソファーに横になられていたのである。いかにもかまってほしいの神のオーラをペカペカ光らせて。
それをウザいので全無視で執務していた王子は異常です。だって何度かやって来た文官と女神様をいないものとして会話してましたから。文官さん達がいたたまれなくて女神様のことを話そうとすると話題を変えてくる。最後には文官さん達は力になれず申し訳ございませんとの意思表示に女神様に頭を下げて出て行った。
「だいたい目の前でペカペカと光って迷惑だと思わないのですか。人間は長時間ペカペカと光るものを見ると体調を崩すのですよ。私だってペカペカペカペカと光られたおかげで休憩を取ることになってしまったではないですか」
「嘘です!もう少し長めに光ってくれると書類を読むのに便利とか言って全然仕事の効率落ちなかったじゃないですか。あと神のオーラをペカペカ言わないっ!」
女神様の感情に左右されるのか神のオーラがペカーッと出てくる。
「夜間の事務仕事に便利そうですね。どうです週休二日制で夜間のみの勤務で」
「神のオーラを明かり代わりにしない!それに夜間のみってほぼ半日光っていないといけないじゃないですか!あと私は創造主ですよ女神様ですよ神様を明かり代わりに雇おうとするな!」
「いやいや立っている者は親でも使えというじゃないですか」
「かーみ!私は女神です!」
女神様は両腕を振り回しながら抗議する。ついでに神のオーラもペカペカ光る。それも五色に。
この出来事は王子の部屋の窓からが五色に光りがレーザービームの様に出ているのを見た王都の民がとうとう王子に天罰が落ちたと勘違いして大騒ぎになり、王子と聖女様が一緒に王都の民の前に出て女神様が教会を正しい道に戻した功績に王子を祝福したとでっち上げることになった。
女神様はネチネチと王子の説教を半日受け私のせいじゃないのにぃ~とグスグス泣いていた。
聖女様は王子様と一緒にいられて幸せだったようだ。
「それで今日はどのようなご用件で降臨なされたのですか」
女神様が落ち着いたところで王子は話を切り出す。
「ええようやく世界中の聖女の保護が完了したのでそのご報告に」
この世界には女神様に祈る聖女様がいるが、一人ではなく常に数名が時代時代に現れ出身国にある教会に保護される。国の道具とし扱われないための超法規的措置といったところか。
だが第一王子の国の教会が汚職まみれが発覚して罪が裁かれることになった。しかも聖女を虐待していたことで女神様からの天罰のダブルパンチ。あやうく勘違いで王子が天罰を受けかけるアクシデントはあったが。
女神様は世界中の聖女達の元を見回った。聖女を大切に扱っている所もあったが多くが女神様の威光を笠に腐敗していたのである。
「聖女をないがしろにしていた者たちには相応の天罰を下しました」
女神様が胸を張る。普通より薄いかな?
「女神様がちゃんと管理していれば教会もまともに機能していたんですがね」
「うっ」
女神様にクリティカルヒット。
「というより女神様が中途半端に干渉していたせいで教会は調子に乗ったようですが、嫌ですよねたまにやって来て口出しするトップとその権力を笠にかけるトップの親戚共」
「ううっ」
更に女神様に追加のダメージ。
「ようやく親戚共を黙らしたら組織の内情を何も知らないのにトップが正した者を罰しようする。おや、最近どこかで同じようなことがありましたね」
「・・・」
女神様はただの屍のようだ。
「権威だけなら何もせず大人しくトップに座っているのが賢明です。権力も持つなら正しく使い、集まってくる者を導かなければ・・・」
まだまだ続く王子のネチネチに女神様はただただケーキをフォークで突き刺す機械と化した。
「全く私は世界の創造主である女神ですよ。もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか」
小一時間ネチネチと嫌味を言われた女神様はふてくされた。
嫌味を言った王子は満足したのか仕事に戻るからと女神様を執務室から追い出される。女神様にする対応なのだろうか?
今は案内役の侍女アーリャに誘導されて移動している。
神の謎パワーでフヨフヨと浮きながらではあるが。歩けよ女神様。
「信仰に値する対象と思われれば優しくされるのはないでしょうか」
「現在信仰されてないってことですか!」
「ご自分の行動を思い出してください。思い出されましたか?その行動を知ってなお信仰の対象にしたいと思われますか」
さすが第一王子に仕える侍女である。的確に女神様の精神をえぐってきた。
「なお第一王子様に仕える者達の大勢が女神様を信仰の対象と思ってはおりません」
「追い打ち!」
絶望のポーズになる女神様。そのまま浮いてアーリャについていっているからまだまだ余裕があるのかもしれない。
「ところで私たちはどこに向かっているのですか」
「女神様が邪魔・・・ではなく暇そうにしているからどこかに連れて行けとの御指示でしたので」
「もう少し隠してっ」
「女神様は第一王子様の邪魔なので聖女様の今の暮らしを見ていただこうと考えております」
「はっきり言った!え、聖女?」
「女神様のせいで酷い目にあっていた聖女様は日常の常識も怪しいので、城内で教会の実情を知り教師として教えて下さる二人のお方と勉強しておられます」
「説明しながら私の事をけなしていませんか」
「本音がよく漏れてしまうのです。ご容赦ください」
本音か冗談かわからないがこれ以上アーリャと会話すると心のダメージが酷くなりそうなので沈黙する女神様。多分本音です。
「こちらでございます」
案内されたのは王宮の庭園。そこにテーブルが用意されおり三人の男女が座っていた。
「女神様!」
その一人、聖女様が女神様の来訪に気付いて駆け寄ってくる。
助け出された時の痩せ細っていたのとは違い体格にあった健康さを取り戻していた。
聖女様は女神様の前までくるとそのまま跪いて祈り始める。
「私は今幸せです。美味しい物を食べれるし、ふかふかのベッドでぐっすり眠れます。全て女神様のおかげです」
純粋無垢な祈りが至近距離で女神様に届く。
皮肉毒舌よりも純粋な好意を向けられる方が痛いということを女神様は知った。
「私のおかげだけではありませんよ。あなたのたゆまぬ祈りが幸せを呼んだのです」
「不幸だったのは女神様のせいで、幸福なのは第一王子様のおかげなのですが」
取り繕っても背後に控えていた侍女が聖女に聞こえないようにボソリととどめを刺してきた。
「お立ちなさい聖女。あなたがどう幸せなのか聞かせて・・・」
「申し訳ございません。先ほど第一王子様から聖女様にお茶のお誘いを言伝するように申し付けられておりました」
女神様が唯一の味方の聖女様を傍に置いておこうするのを阻止する侍女アーリャ。
裏切り者がっ、とばかりに女神様は目を見開いてアーリャに視線を送るが残念ながらアーリャは味方ではありませんむしろ敵です。
「お、王子様からのお茶のお誘いですか」
頬を桃色に染める聖女様。
「っ、それは仕方ないですね。また今度お話ししましょうね」
「はい!」
外見十歳の中身十四歳の恋する乙女の邪魔をするほど野暮ではなかった女神様。内心はあの第一王子、ついさっき私とお茶飲んだじゃないか!と荒れ狂っていたが。
いつからいたのか侍女のミコスとトシナが聖女様を誘導していく。
聖女様は幸せな雰囲気をポワポワ出しながら移動していった。
「私の癒しが・・・」
去っていく聖女様に手を伸ばす女神様。聖女様とは反対に不幸の黒いオーラが滲み出ていた。
「さて聖女様が勉強しているのを見ていただきたかったのですが、あいにくと聖女様には用事ができたので教師役のお二人に会っていただきたいと思います」
「いーやーでーすー。あそこに座っている無駄に美男子だけど苦労性に見えるのと異常なくらい色気振りまいている美少女でしょう」
「よくわかりましたね。第二王子と第一王女です。第一王子様のご兄弟の中ではマシな部類のお方たちです」
アーリャの言葉に女神様の顔が強張る。
どう考えてもあの第一王子の弟妹がまともなはずがない。
「大丈夫ですよ。兄に頼まれて普通という皮を被って聖女様に授業出来るくらいの頭はお持ちの方たちです」
「それって聖女限定でしょう。絶対に酷いことするに決まってます」
「ではお帰りになられますか」
「え?」
「世界の創造主である女神様がたった二人の人を恐れて逃げ帰りますか?」
的確に女神様のプライドを刺激してくるアーリャ。
「そ、そんなことはありません。私は創造主です、自ら創った存在をどうして恐れることがありましょうか」
「さすが女神様です。あのお二人は普段はお優しいだけですが兄である第一王子様に害を及ぼすものに対しては容赦がないと侍女一同の好感が持てる点がある方達です。では参りましょうか」
「後出しでそんな大事な情報を卑怯です・・・」
獲物を仕留めた勇者の様に歩いていくアーリャの後ろを獲物であった女神様は浮く気力も無いのかとぼとぼと歩いて付いていく。
テーブルに近づくにつれて威厳を保たねばと思い直し女神様は胸を張ろうとした。
「はい!こちらが世界の創造主である女神様です!拍手でお迎えしてください女神様がお喜びになりますよ!」
「何を言っているんですかーっ!」
アーリャの言葉に素直に二人が拍手するので哀れでならなかった。
疲れ切った女神様はアーリャに促されて聖女様が座っていたイスに着席する。その姿は微妙に煤けていた。
「ご紹介いたします。こちらが優秀ですが周囲の問題事に才能を消費される第二王子です」
「なんて紹介ですかっ」
紹介された金髪碧眼の美男子が苦笑している。
「どうも最近兄弟姉妹どころか侍女も個性が強すぎて無難に相談するならこの人だなと思われている第二王子です」
「自己紹介も酷い・・・」
やはりあの第一王子の弟だと呻く女神様。
「そして実の兄である第一王子様に興奮する以外はまともな第一王女様です」
「・・・は?」
何か聞こえてはいけないことが聞こえた女神様。
「それは間違っていますわよアーリャ」
残ったもう一人が甘く蕩けるような声で否定した。
第一王女は第二王子と同じ金髪碧眼であり顔も整っている上に非常にスタイルがよかった。
自分と見比べて静かに落ち込む女神様は見ないでほしい。すでにアーリャが第一王子に報告しようと脳内メモに書き込んでいる。
「私はお兄様に性的に興奮しているのです。ただ興奮していると思われるのは心外です」
「もっと酷かった!」
大きな胸を張って宣言する第一王女に驚愕と胸に嫉妬を覚える女神様。
「第二王子と第一王女とのご歓談をお楽しみください。私はご用意するものがありますので失礼いたします」
そう言って退出していくアーリャ。
苦労性と特殊変態の間に残された女神様は恐怖でプルプル震えていた。
一応世界を創れるほどの力を持っているのだが人(神?)生経験が皆無に近かったのと第一王子の長時間説教とアーリャの裏切りのせいで軽い対人恐怖症になっている女神様。
「そう緊張なさらないでください。教会の件は残念な出来事でしたが僕は女神様を信仰していますから」
「あら酷いですわ。私も女神様を信仰してますのよ」
「あなたたち・・・」
二人の言葉に喜ぶ女神様。ペカペカ光り出す神のオーラ。
チョロいチョロすぎる女神様。
「では改めて僕達二人が兄さんに任されて聖女様に教えています」
「現在は兄が基礎知識を私が一般常識と分けて教えておりますわ」
女神様は二人の言葉に頷きかけて慌てて第一王女を見た。
一般常識、実の兄に性的興奮を持つ女性が一般常識を教えていることに驚愕する。
「安心してください。兄さんに性的興奮して夜這いを毎晩して侍女に拘束されるだけで後は至って普通の妹ですから」
「全然安心出来ない!」
第二王子が落ち着かせようとするが全くの逆効果であった。
「兄よ常識的に言って私の行動はおかしいのよ。普通の妹は兄さんに夜這いなんてしないわ」
「・・・そうだったね。誰も止めないからお前の夜這いは当たり前のことだと思っていた」
二人で納得したのか笑いあう。
「おかしい・・・非常識なことをしている本人が常識をのたまっている」
頭をかかえる女神様。
このままだと話が続かないと考える第一王女。その姿に男ならその悩みをどんなことをしても解決しようとするだろう。
「こうお考えください。他の兄弟たちは普段から非常識な者たちなので一点だけ除けば常識を知る私がまともだったと」
「だったら一番まともそうな第二王子だけでよかったのではないですか」
首を傾げる女神様。
それに対して第一王女は無表情になり目を背けてそうですわねこたえた。
「僕もそれなりに仕事を持っていますからね。妹に受け持ってもらって助かります」
さわやかに第二王子がフォローした。
その後は聖女の話になり有耶無耶になった。聞いておけばよかったと女神様はすぐに後悔することになる。
「ああ聖女は今を楽しんでいるのですね」
「そうですね、ある程度の学力がついたなら学園に入学してもらうことになります」
「私達だけでは教えるのに限界がありますものね」
二人も聖女の事を大事に思っているようだ。
満足した女神様はそろそろ帰ろうと席を立とうとした。
「おや、お帰りになられるのですか」
後方から悪魔の声が聞こえる。
女神様がギギギときしむように首を回すとそこには魔王(第一王子)の配下である悪魔(侍女アーリャ)が立っていた。
「ピッ」
思わず変な声が出る女神様。トラウマはそう簡単には治らないようだ。
「え、ええそろそろ聖女も戻ってくるころでしょうし、私がいても邪魔でしょう」
「聖女様でしたらお疲れのようで第一王子様とご歓談中にお眠りになられましたのでそのまま寝室にお運びしました」
「そ、そうですかあの子も頑張っていますものね。会ってから帰ろうと思っていたのですが残念です」
「ですので変更して女神様に授業を受けてもらうようになりました」
「なんでっ!」
「女神様には一般常識が微妙な部分がありトップとしての管理責任能力欠如しているので二人から短時間でもいいので授業をうけたほがいいと第一王子様からご指示を受けました」
女神様は少し悩む。聖女の件でこのままじゃいけないかなと思っていたのだ。
「いえお二人ともお忙しいところでしょうから・・・」
「もし断るのなら聖女様以外の者が唱える聖句を第二王子の書いている兄弟愛賛歌か第一王女の夜這い日記に変更するとおっしゃられました」
「罰が酷いっ!てか一体何なんですか兄弟愛賛歌とか夜這い日記とか悪魔崇拝でももっとましですよ!」
「兄弟愛賛歌は僕が毎晩書いているどれだけ兄弟を愛しているのかを詩にしたものですね。聖句になればみんなが唱えることになる・・・いいですね」
「まともだと思っていたら変態だった」
うっとりする第二王子にドン引きの女神様。
「兄は優秀に見えますが私達兄弟に対しての愛が重いのです。兄弟が関わる部分での常識がぶっ飛んでいるので一般常識は私が教えることになったのですわ」
第一王女がため息をつく。
城内だけならいいですが流石に民全員は恥ずかしいですわと呟いている。本当に常識はあるようだ。
「どうなさいますか。授業を受けるか聖句を兄弟愛賛歌と夜這い日記に変更するか」
「授業を受けるでお願いします・・・」
女神様に出来ることは屈することしか出来なかった。
「僕の兄弟愛について語るでもいいですよ」
「絶対にお断りします!」
このあとみっちり授業を受けた女神様はしばらくは来ませんと言い残して消えた。
もう女神様をイジるのが楽しくて楽しくてたまりません。